帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第7章 ハヤトの資源探査

7.6 ハヤト無双

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 ハヤトの共産国等との話、野党との話は全て公開で行っていたため、たちまち世界に広まった。結局は、中国・K国には条件も何もなしに探査はやらないと言っており、ロシアは北方領土を返せば考えると言っている。中国・ロシアは、荒事も平気でやる国であり、その機関も持っているので油断はできない。

 ハヤト自身としては、どんな仕掛けをされても跳ね返す自信はあるが、家族あるいは会社の社員に危害が及ぶことは恐れている。ハヤトは日本版NSC、国家安全保障室長の田島清吾を訪ねた。彼は、50年配の精悍・長身で引き締まった体の人物で、室長国家安全保障室が管轄してハヤトの家族のガードを行っており、その縁からハヤトは田島を知っているのだ。

「いらっしゃい、ハヤトさん。久しぶりです。最近は随分派手に露出されていますね」
 田島の挨拶に、ハヤトは頭を掻いて返す。
「ええ、成り行きでね。しかし、こういう風に自分をさらけ出すのもそれなりに面白いですよ」

「ハヤトさんは、軍事面は別にしても、突然国会議員になったかと思うと、今度は何と資源探査ですか。私は、あなたは自分を隠していきたいのかと思っていました。でも、そうではなく今後は自分を世に問おうということですね?」
 田島の言葉にハヤトは頷いて言う。

「そうです。国会議員の選挙も面白かったし、その結果、議員になったら若い仲間に随分刺激されました。みな、日本というより世界を良くしようという善意と、その中で自分も成り上がろうという野心にあふれています。だから、私もせっかく持っている能力を生かして、その一員になろうとしているのです。その際に、嫌いなものは嫌いと、思い切りわがままになろうと思っています」

 田島はそれを聞いて、頬を緩めて応じる。
「わがまま、いいのじゃないかな。でもそう言えるのは、あなたは本当はわがままではないからです。あなたが代表をしている、日本新世紀会の政策提言は、日本でも無論ですが、世界的に大いに注目されていますよ。
 すでに、資源探査については成果がでていますし、もう一つの目玉の新技術開発プロジェクトでも、新型の原子励起反応炉の建設が進んでいますよね。あれが成功すると、世の中ががらりと変わりますよ。さらに、アフリカの食料生産自治区ですか。よくぞあれだけの提言ができる人材が集まりましたね」

 田島は、だんだん真剣な顔になって話を終える。ハヤトはそれに大きく頷いて言う。
「そうです、私自身も、今現在が過去5年の中でも、最も濃縮された時間の中に生きているような気がして、やりがいは感じている所です。ところで」

 ハヤトは田島の顔を正面から見て言う。
「今日伺った理由ですが、先の会合で間違いなく中国とロシアのご機嫌は損ねたわけです。詳細調査も終わって、おそらく世界が驚く結果が出て、明らかに資源探査が有用なものであることは知れ渡りました。そこにおいて、資源探査の対象国からオミットされた形になった、中国とロシアがなにか仕掛けてくる可能性があります」

 ハヤトが言葉を切ると田島は頷く。
「ええ、先の会合では、K国も相当根に持っていると思いますが、実際に何かを仕掛ける能力を持つのは、今言われた2国ですね」
「それで、私の家族についてはガードをして頂いていますが、私が懸念するのは、家族に加えニノミヤ・カンパニーの社員、さらに日本新世紀会の会員などの人々が被害を受けることです」

 ハヤトは、尚も田島を正面から見ながら言い、さらに続ける。
「それで、K国も含めた方がいいかな?それらの国の、まあ荒事をしそうな機関に警告を出してほしいのです」
「警告?」田島が怪訝な顔で聞くのに、ハヤトが続けて言う。

「もし、私への嫌がらせ、または脅迫のために私に関係のある人が傷つけられたら、私がその国に乗り込んで、軍事施設を最優先に、あらゆるインフラをガタガタにしてやるとね。これは、5年以上前になりますが、中国の機関が私の母を攫った時、もし母に恒久的に障害が残るようであった場合、実際にそうするつもりでした」

「うーん、ハヤトさんなら実際にできるな。しかし、自分への攻撃は許すということですか?」
 田島が少し顔色を改めて聞く。
「ええ、他の人に危害が及ばないのであれば、問題ないというより歓迎です。なにせ、私は異世界の勇者でしたからね。あまりに何もないと、体と闘争への感覚が鈍ってしまいます」

 ハヤトの答えに、田島は少々呆れたように返す。
「うーん、しかし、万が一のことがあっても困りますよ。まあ、例えば、遠距離からの狙撃なんかはどうですか?」「大丈夫です。魔族は様々な遠距離攻撃の手段を持っていましたし、私は彼らの本拠地に乗り込んで長く戦っていたのですよ」

 ハヤトが平然と答えるのに、田島は考えた結果、ハヤトの要望に応じる。
「わかりました、お望みの警告はしておきますので、間違いなくそれぞれの国トップまで届きます」

 ハヤトは、千葉市のニノミヤ・カンパニーに向かって、一人で駅から歩いている。幅5mほどもある広い歩道であるが、正面から10人ほどの若い男女のグループが、ほぼ道幅一杯に談笑しながら歩いてくる。ハヤトと、そのグループがすれ違おうとしたとき、突然男の怒声と女の悲鳴があがり、女の一人がハヤトに向かって倒れかかり彼に抱きつこうとする。

 しかし、ハヤトは素早く身を引き、女は空振りになって倒れる。そうすると、男女は一斉にハヤトに向かって怒った顔で口々に非難する。
「なにをするのよ。突き飛ばして!」
「なんだ、お前は!」
 それと共に、ハヤトの横の死角の位置の男の一人が、素早くハヤトに向けて飛びこみ、ハヤトの横顔をめがけてフックを打ちかかる。

「なかなかいい攻撃だ!」
 ハヤトはにやりと笑って、こぶしから顔を躱し、飛び込んできた男のあごに綺麗にクロスカウンターを決める。
 崩れ落ちる男を無視して、別の男がハヤトの顔に回し蹴りを見舞うがハヤトは余裕を持ってしゃがみ、タイル舗装に手を付いて男の足を払うとともに、足を払われて、倒れ込む男の襟をつかんで引き落とす。

 後頭部から、歩道のタイルにたたきつけられる男を無視して、ハヤトの横に居た女が、スラックスの足を一歩踏み込んで、低くなったハヤトの頭を蹴り上げようとする。しかし、ハヤトは一瞬早く、歩道上に両手を突いて足を蹴り上げて、逆立ち状態で女のあごを蹴り上げると供に、足を丸めて中腰状態で素早く着地する。

 そのハヤトに向けて、男2人・女1人が短刀を構えて殺到する。ハヤトは、後ろの1人は躱し、横の1人の短刀は手刀で打ち落とし、もう1人は手首を捕まえる。次いで、左足、右足の2動作の早い回し蹴りで、3人ともにあごまたは首を蹴り倒す。こうして、殆ど2呼吸ほどで、6人が倒れ、残りの4人がハヤトを囲むがハヤトが平静に言う。

「まだ、身体強化もしていないよ。ほら今身体強化をかけたぞ」
 ハヤトの、ラフなブレザーにパンツの体の筋肉が、身体強化に伴ってもこもこと動き、オーラのようなものを感じる。中国人で身体強化ができるものはごくまれである。

「面倒だから、こいつらを連れて帰れ」
 ハヤトは、ビビッてしまった彼らに、つまらなさそうにそう言って、4人を置き去りに歩き始める。すでに、その周囲には、10人ほどの人だかりができ始めている。残った4人は、顔を見合わせて、周囲の人だかりから、スマホで映写されているのを見て、慌てて仲間を助け起こそうとする。

 そこに、パトカーの警報音が聞こえてきて、10人の男女は、尚更慌てて仲間を助け起こし、まだふらふらしている2人には肩を貸して逃げ出す。そのリーダーの陳は、ハヤトが身体強化すらせずにあの強さであり、一瞬で身体強化をしてみせたことから、結局遊ばれていたことが悟った。『あんな化け物に敵う訳はない』と、このミッションを命じた上司の顔を、恨みがましく思い出すのだった。

 次の日に、ハヤトは車から降りて自民党会館に入ろうとしたとき、白人の若く美しい女性が歩み寄って声をかける。
「ハヤトさん、ちょっとよろしいでしょうか」
 少し訛りのある流ちょうな日本語だが、殺気はないものの悪意は隠しきれていない。ハヤトは、あえて立ち止まり、女を待ちながら横目で辺りを見回したが、周辺に人はいない。

「ハヤトさん。お待ちしていました。お話ししたいことがあります」
 女は手を広げて、何も持っていないことを強調する。たしかに女は小さなハンドバックを持っているだけである。
「ハヤトさん、私はエリーナという名前です。お会いしたかった」
 女が、右手を差し出し握手しようとする。

 しかし、ハヤトはとっさにその手を掴み、持ち上げて言う。
「お嬢さん、手袋をして握手はないよね。その手袋には何がついているのかな?」
 ハヤトは、数年前にロシアのスパイだった男とその娘が、神経性の薬品で殺された事件があったことを思い出していた。

「なによ、失礼な。誰か!誰か!痴漢よ」
 女は顔をゆがめて、叫び始める。その声に、自民党会館から女性が出てくる。
「あ!二宮先生、どうしたのですか?」
「ああ、乗山さん。すみませんが、国家安全保障室の田島室長に連絡をして、誰か物騒な薬品に詳しい人を寄こすように言ってください。どうも、この女性の手袋には、物騒な薬品が塗ってあるようなので」

 ハヤトは、会館の職員に連絡を依頼すると共に、女を引きずって会館のロビーに入って相手に言う。
「君も、外でこの恰好を人に見られるのは嬉しくないだろう?」
 しかし、エリーナは激しく叫ぶ。
「なによ、レディにこんな真似をして、ただで済むと思わないことね」
 20分後にやってきた、国家安全保障室の職員、皆川の手で、自称エリーナの手袋は外された。その手袋は、ちょっと見たところでは手袋に見えない樹脂製で、やはり何やら薬品が塗りつけられている。

「二宮先生、この女は預かっていきます。薬品の分析結果がでたら、お知らせしますのでお待ちください」
 皆川は、出身の自衛隊員らしく敬礼をして帰っていく。分析結果は、3時間後に室長の田島から知らせがあった。

「ハヤトさん、あれは強力な催眠剤で、触っていれば10分もせずに眠ることになっていたでしょう。しかし、殺すことを狙っていたとは言えません。また、あの女ですが、名はエリカ・サブコフで25歳のロシア系ウズベキ人で、表向きの職業はクラブのホステスのようですね。
 ロシア経由で日本に来ていますが、はっきりしたロシアとの関係は不明です」

 ハヤトは、その知らせを聞いてスマホに応じる。
「へーえ、毒ではなかったのか。こりゃあ、北方領土は帰って来るかも知れないですね」
 スマホの田島は少し笑って話す。
「ええ、私もそう思います。実は、昨日外務省に、ロシア政府からワレノフ大統領が訪日したいと打診があったそうです」

「なんと、瓢箪から駒だね。言ってはみるもんですね」
 ハヤトは頭を振りながら応じるが、田島が改まって言う。
「まあ、今回の騒ぎは、本格的に敵対する気とはないが、こちらが挑発する形になったので、応じましたということですね。しかし、80年越しの念願の北方領土の返還ということになったら、ハヤトさんの大手柄ですね」

 ハヤトも真面目に応じる。
「うーん、そこまでは考えていませんでしたが。でも、まあ実現するといいですね。ちなみに彼女はどういう扱いになるのですか?」
「そうですね。もうだいぶ稼いだようなので、追放という形で国に帰すということですね」

 田島の答えにハヤトが言う。
「まあ、できるだけ優しくしてやってください。私は、女性とりわけ美人が好きなのでね。出来れば、もう少しいい雰囲気で会いたかったですよ」
 田島は「ハハハ!わかりました。出来るだけ優しくしますよ」と言って通信を切る。

 数日後、ハヤトは会社の玄関を出た時、殺気を感じとっさに身構えてすぐに殺気をたどった。しかし、その殺気は彼が追っている間にも、すぐに一瞬の苦しみの感覚と共に消え去った。しかし、殺気をキャッチした段階で、マップ機能にその位置は印されていた。

 そこは、ハヤトの会社から200mほど離れた貸しビルの屋上で、頭を打ち抜かれて血を流す男とそれを見ている拳銃を持っている男がいた。血を流している男は、屋上の端で倒れており、そばにはライフル銃が落ちている。さらに、数秒後、ハヤトは別の死の苦しみを感じ、それも追ってみると、別のビルの9階の屋内だ。

 いずれも、銃であればニノミヤ・カンパニーの玄関を狙える位置だ。やはり、マップ機能で見ると、転がったライフルの横で、胸を撃たれて倒れ、胸から血を大量に流している男と、それを足で転がしている拳銃を持った男だ。屋上で死んでいる男は、東洋人の顔つきで、それを撃ったらしい男は黒人だ。

 また、9階の部屋で死んでいる男はやはり東洋人で、撃った男は白人である。状況からすると、ハヤトを2か所から同時に狙撃しようとしたが、いずれも別の男に後ろから射殺されたようだ。
「ふーん、田島さん、どうもいろいろ手配したようだな」
 ハヤトが、不完全燃焼を少し不満げにつぶやく。

 ハヤトは、すぐに田島に連絡して状況を説明したが、いずれにせよ後始末は安全保障室でやるとのことで、状況がわかったら知らせるとのことで一旦連絡は切れた。夕刻、田島から着信があった。

「ハヤトさん。状況がわかりました。まず、あなたから言われて、私が警告したのは中国、ロシアそれと念のためにK国です。特に中国には、お前の国の機関が、以前にハヤト氏の母親を誘拐した時は、危うく国全体がぼろぼろになるところだったぞと警告しました。
 それと、資源探査に関しては利害関係者であり、それなりに強力な諜報機関を持っている、アメリカとイギリスに、ハヤト氏の要望で3か国にこれこれの警告を送ったと連絡をしておきました」

「わかりました、ありがとうございます。どうやら、アメリカかイギリスが動いてくれたようですね」
 ハヤトが応じると田島は続けて言う。
「はい、結局今日の狙撃犯は実は3人だったそうで、1人については、ハヤトさんに気がつかれない段階で狙撃手を始末したそうです。動いたのはアメリカ・イギリス両方です。狙撃手は中国が2人、多分K国が雇ったものが1人で、ロシアはその気はなかったようです。
 ただ、アメリカとイギリスの者が言うには、例の3か国に送って警告は、却って今回の狙撃の引き金になったのじゃないかということです。確かに、多分ロシアからの例の女性はそのためでしたね」

 ハヤトはその言葉に返して言う。
「私の場合は、前も言いましたが、対処できるからいいのです。それより、思わないところで、家族や社員が巻き込まれる方が怖かったのですから、結局は良かったと思います」

「まあ、もう同じことはないと思いますよ。彼ら、中国とK国は、アメリカとイギリスに、ハヤトさんを暗殺しようとしたことがばれたわけであり、これは世界中に諜報機関に知らせるとのことです。世界の国はハヤトさんの探査を心待ちにしています。もし、ハヤトさんにもしものことがあって、後であの2国が犯人と知れたら、両国とも只では済まなかったでしょう」
 田島が言って通話は切れた。
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