帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第7章 ハヤトの資源探査

7.2 ハヤトの資源探査2

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 ハヤトと水島が、国会の総理控室に呼ばれて入室したのは、週が明けた月曜日のことであった。首相秘書官に案内されて、開けられた部屋には篠山首相、大泉官房長官、西野経産大臣、松井外務大臣、遠藤防衛大臣がソファに座っている。またソファの前の机には、今回の概査の結果である、A1版の日本列島に資源の鉱脈の位置を示したマップが置いてある。

 入ってきた2人を見て、大泉が立ち上がり、ハヤトと水島に空いているソファを示して座るように促す。
「今日は急にお呼びだてしてすみませんでした。そちらに座ってください」

 2人が座ったところで、西野経産大臣がハヤトに向かって頭を下げて言う。
「ハヤト君、JOGMECへの協力ありがとう。おかげで僅か1週間の調査で、JOGMECの創立以来の成果をはるかに上回る結果を出して頂いたそうですね。監督する立場の私からもお礼を言わせて頂きます。ありがとうございました」

 続いて、篠山首相が言う。
「政府を預かる私たちからもお礼を言わせてもらうよ。ハヤト君の調査については以前にお願いはしたが、これほどのものが見つかるとは思っていなかったよ。ハヤト君には調査の協力、そして、水田君には、日本新世紀会というグループを結成して、その中でハヤト君にそういう調査のお願いをしてもらったという点で感謝しています。ありがとう」

 首相に合わせて、大泉官房長官及び各大臣も頭を下げる。
「いえ、出来るから協力したまでです。それにしても、量はまだわかりませんが、あれだけの資源があるとは嬉しい驚きでした」
 ハヤトはそれに対して応じる。

「それで、ハヤト君は来週から詳細調査をしていただくことになるようですね。そこで、調査の概要の発表の件と、最も大きい資源があると思われる、北端と南端の石油層の調査についてお話をしておきたいと思って、今日は来てもらいました」
 大泉官房長官は、ハヤトが頷くのを見ながら言い、さらに続ける。

「この調査の件のマスコミへの発表は、大変いい話なので出来るだけ早期に行いたいと思っています。しかし、どこまで発表するかで少し調整したいのです」
「つまり、ハヤト君が今回の調査の実際を担っていることを発表すれば、すでに噂になっている、ハヤト=まもる君の確証を与えるようなものということです」
 そう遠藤防衛大臣が言う。

「それは、もうしょうがないでしょう。私の近親者は、すでに守って頂いていますし、ミサイル防衛システムが完成した今だったら、私自身に前ほどの重要性はないでしょう。しかし、まもる君はダミーということは、取り立てて発表する必要はないのじゃないですか?」

「まもる君の件は、私どももそう思っています。しかし、新技術の開発で、今回の資源探査ができたというのは、いかにも嘘くさいのでハヤト君のことは公表せざるを得ないと思っています」
 大泉が言うが、松井外務大臣が続けて言う。

「本件は、特に中国の関係で、緊張が増す恐れがありますが、それ以上に、我が国でハヤト君による調査で、こうした資源が見つかったという点で世界的な大騒ぎになると思っています。それで……、ここは西野経産大臣にお願いしましょうか」

 松井が見ると、西野は頷いて話を引き取る。
「現状のところ、エネルギー源としての石油・石炭は、我が国の核融合技術の世界への波及によって徐々に意味が小さくなると考えていますが、化学工業の材料としての重要性はむしろ増します。さらに、金属資源はどんどん枯渇に向かって進んでいますので、いまリサイクルということで、取り組みが大々的に始まっているわけです。
 しかし、リサイクルそのものは必要な技術ですが、コスト的には鉱石から取り出す方が大幅に低いのです。さらに、世界中で資源探査は行われていますが、基本的には地表に鉱脈が出ていない場合は、地層等から判断して見当をつけるしかありません。
 つまり、鉱脈が地表に出ていない場合、あるいは水中に潜っている場合には、発見できていない場合の方が多いのです。それを、地中・水中の資源を探査できるハヤト君という存在があればこそ、わが日本ですら、これだけの商業ベースにのる可能性が高い鉱脈が発見されたのです」

 西野は机の上においた地図を指さしたところで、今度は松井が続ける。
「世界においてはどうでしょうか?。例えば、殆ど調査が進んでいないと言えるシベリアでは?ロシア・中国とも、日本が今回発見された資源が、彼らの排他的経済水域に達していれば、戦争も辞さない態度で権利を主張するでしょう。しかし、彼らの国の探査を実施してあげる。その結果、これは間違いないと思いますが、有用な資源が大量に見つかった場合には全く違うでしょう」

 その言葉に、再度西野経産大臣が続ける。
「資源のひっ迫は、間違いなく世界の緊張を高めています。とりわけ、現状で最大の問題になっているエネルギーについては、10年の20年のレベルでは我が国発の核融合発電技術で解消に向かいます。また、枯渇に向かっているその他の金属資源も、ハヤト君が世界中で探査を行って頂ければ、これまた今後の100年オーダーで不足することはないと思っています」

 西野が言葉を切ると、部屋の中の皆の視線がハヤトに集まる。
 ハヤトはその視線を受けて、肩をすくめて水田を見ると、意を受けて水田が口を開く。

「ええ、わが会ではその辺の問題は、すでに先週末に幹部会で話しあっています。我々の議論としては、ほかに資源として不足するのは何と言っても水で、これと表裏一体ですが同時に食料です。水については、なんと言っても地球の表面の70%は海水なので、エネルギーの問題が核融合の技術で解決すれば、それなりのインフラがあれば解決できます。
 食料については、我が国の場合、我々の提案した、アフリカでの日本自治区の話は、現地でも積極的な受け入れの議論になっているようですね。ですから、この実現の可能性は大いに高まったと考えています。世界的にも、水の問題が解決できれば、灌漑に問題がなくなりますので解消の方向に向かうでしょう。
 さらに、我が国でほぼ確立したセルロースの変換の技術がありますので、エネルギーに困らない状態では、これも補助手段として使えます。まあ、人口急増を止めることは考える必要はありますが。今回のハヤト代表の探査のパフォーマンスは、早晩世界に広まり、探査依頼が殺到することは我々も予想しています」

 水田はそう言い終わってハヤトを見る。
「ええ、さっきも言ったように、私どもの会では、私が最終的には世界中の資源探査を行わざるを得ないだろうということは予想していました。今回の対象は、日本とその近海ということで約70万k㎡すが、世界の陸地とその周辺だけで多分2億k㎡程度で約30倍の面積でしょう。
 今回の調査は多分1.5ヵ月です。ですから、同じ割合の期間とすると合計の調査期間は45カ月ですから、気が遠くなるほどではないですね。しかし、率直に言って、そうやって資源を見つけても、自分たちに欲を満たすだけの指導者のいる国の調査はしたくありません。
 いずれにせよ、国益を考えて頂きたいのですが、暫くの間は、私自身が拒否権を持たせて頂きます」
 ハヤトは淡々と言う。

「拒否権か。まあ、君にしかできないわけだから、そう言われるとどうしようもないな」
 大泉官房長官は弱った顔をして言うが、当事者になる松井外務大臣が聞く。
「ハヤト君は拒否権と言うが、概ねどういう基準で考えているのかな?」

「一つには、私の拒否のためと言った方が断りやすいでしょう?まあ、私としては、共産国家あるいはその体質を持った国については、お断りしたいと思っています。共産主義というのは強権的で、人々を体制に縛りつけますから、ばれなければ何をやってもいいと思っている節があって、言っていることが全く信用なりません。
 それから、アフリカや中米の何をやっているかわからない国です。ジンバブエなんかは少し前まではそうだったですね。むろん、大統領が変わって、また国を挙げて反日活動を始めたK国もお断りです。それと、独善的な白人の住むヨーロッパは最後にしたいところですが、そうもいかないのでしょうね?」

 ハヤトは淡々と答えるが、松井は顔をしかめて言う。
「そ、それは、すこし極端のような。そのままマスコミに話がでると大騒ぎになりそうだ」
「別に発表する必要はないでしょう。勝手に想像すればいいのです。当面はKT国、台湾にジンバブエとモザンビークですね。尖閣列島周辺は台湾と共同開発でいいのではないですか?」

 ハヤトが返すと今度は遠藤防衛大臣が言う。
「しかし、尖閣は、まだ中国が核心的利益の場と言っているから、戦争になるな。建造途中だった新造空母2隻を完成したのもあって、5年前に失われた海上戦力と航空戦力を相当回復して意気軒高だからね」

「いいじゃないですか。元来、尖閣列島は確かに地理的には台湾にごく近く、中国本土からも近いうえ、その本土の大陸棚の上にあります。しかし、歴史的には彼らの領土だったことはありません。それを、石油が出る可能性があるとわかった途端に、自分の領土と言い出し始めたわけです。
 しかも、日本に戦争を吹きかける種に使ってきましたよね。すでに、4年前に日本が駐在所を作りましたが、さすがにその時は口では抗議しましたが、実際は何もできなかったのです。ですから、尖閣諸島からの排他的経済水域内で、日本が何をしようとこちらの自由ですよ。軍事的に攻めてくるなら、5年前と同じ結果です」

 ハヤトは冷ややかに言って皆を見回し、話を続ける。
「私どもの会の分析によると、中国は今すでに本当にギリギリです。5年前の尖閣沖の大敗北は、かろうじて主席にすべての責任を押し付けて国内の秩序は保てましたが、今度は負ければ無理でしょう。共産党政権が、民主的な政権に代われば資源探査することに私はやぶさかではないですよ」

「ううん、ハヤト君の意見はまっとうなものだが、政府を預かる立場としては是とはいえない。私は、この実施調査は、内外に発表した方がいいと思う。その調査及びデータを発表した時の、ロシア、中国・台湾等の出方を見てどう対応するか判断したい。それから、北海道北方沖の調査と、尖閣付近の調査には、自衛隊機を使って万が一の事がないようにしてほしい」

 篠山首相が最後の言葉は防衛相を見て言い、防衛大臣遠藤が答える。
「はい、そのようにします。また、調査全体に自衛隊ヘリを使ってもらおうと思っています。何といっても、民間に比べると性能が違いますし、何かあっても生存性が全く違いますから、さらに日本近海でも不測の事態が起きないとも限りません。さらに、北海道北方沖及び尖閣周辺には護衛艦を出動させておきます」

「ご配慮、ありがとうございます。ただ、あらかじめ発表しておくと、ロシア、中国とも軍用機で脅してくる可能性がありますが、10㎞以内に近づける気はありませんよ。それ以上近づけると、落としても破片で被害を受ける可能性があります。こちらもEEZの外に出る気はありませんから、正当性はあります。
 ただ、中国は自分の領土と言っているわけですから、きな臭い話になりそうですが」

 ハヤトが応じると遠藤が考え込んだ顔で聞く。
「うーん、君の近づけないというのは破壊するということか?」
「いや、操縦系の配線を何本かまとめて切ってやります。少し、そのあたりのおさらいをしておきますよ。あまりドンパチやるのもね」ハヤトが答える。

「よろしい。自衛隊にも強力な警告を出しておくように言っておく」
 遠藤がそれに対して答え、首相が続いて言う。
「まあ、ハヤト君の身の安全はなによりの優先事項だ。無理はせず、安全と思う行動をとってください。理不尽な行動を甘受することはない」
 その言葉を最後にハヤトと水田が部屋を出ていく。

 それを見送って、大泉が首相に言う。
「首相、中国は調査のヘリに攻撃を仕掛けてきかねませんよ。そうなったら、ハヤト君のことだから反撃するでしょう。戦争になりますよ」

「うん、そうなるかもしれないね。しかし、今回も世界最強の人間兵器とも呼べるハヤト君が当事者だ。それに、自衛隊の白井2佐も護衛艦で出動するだろう。すでに、我が国は尖閣が日本領であることは世界に根拠付きで最大限のアピールをしてきた。これは、竹島と北方4島もそうだけどね。
 調査によると、少なくとの尖閣は日本のものという点は世界の了解事項になっている。従って、そこを資源探査しようという、我が国の調査隊に軍用機が近づいたら撃墜しても何ら問題はない。日本のお花畑の連中を除いてね。近づいてくる編隊を撃墜したら彼らも引っ込むさ。
 そうでない場合は、5年前の再現だな。それほど愚かではないだろうさ。しかし、その場合にも備えてくれ。防衛大臣、それと外務大臣、いいかな?」

 その言葉に、2人の大臣が「はい承知しました」というのを聞いて首相は、今度は外務大臣と西野経産大臣を向いて言う。
「松井さん、西野さん、ハヤト君も言ったけれど台湾の件だ。台湾は尖閣にごく近いのと、彼らは今石油の価格の上昇と、中国の技術的なキャッチアップの問題で経済的に追い詰められている。台湾と共同開発というのはいいと思うがね。我が国にとっては燃料としての石油の重要性は薄れつつあることもあるから。どうだろうね?」
 両大臣が賛成してその会議は終わり、松井大臣は、早速3年前に正式に国交を開いた台湾政府と交渉を始めた。
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