帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第4章 近隣国との軋轢

4.5 開戦前夜1

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 閣議の席で、官房長官の篠山が開会の挨拶の後、西村に話を振る。
「今日は、西村防衛大臣から重大な報告があります。では西村さん」

「はい、昨日の角田統合参謀長の報告で、現在中国の東海艦隊の根拠地に北海艦隊と南海艦隊の艦船が集まってきています。空母遼寧も加わって、全部で46隻に及ぶ大艦隊です。それに、加えて600機の攻撃機と戦闘機から成る作戦機が準備中です。目標は明らかに尖閣諸島ですね。今日の状況も先ほど報告がありましたが、より先ほどの予測が正しいことを示す内容ばかりです」

 西村の話に、篠山が今度は外務大臣に話を振る。
「加藤外務大臣、この場合の中国の狙いを外務省としてはどのように考えているかご報告ください」

「はい、昨日その話を受けて、それまでの報告と、さらに情報を集めた結果ですが、先日の日本での彼らの大使館の事件の結果を受けて、一通り現状での中国の置かれている状況を説明しておきます。結局、彼らは欧米やロシアに対しては大使館の査察を許したわけですが、アジア諸国や小国には頑として拒んでいます。
 これについて我々は、アジア諸国については、実際に武器弾薬を秘匿しているためだろうと思っていますし、小国に対しては単に舐めているからだと思われます。だから、とりわけアジア諸国の大使館の中は絶対に見せられず、査察は受け入れられないのです。

 しかし、各国も自分の国だけでないこともあって強硬ですし、中国になかば牛耳られている国であっても、軍事クーデターを起こされてはかなわんという思いでしょう、強硬に査察を求めています。従って、彼ら中南海の連中の考えたのは、アジアでも大国の日本を軍事的に屈服させられれば、他の国は彼らの脅しに従うしかないということでしょう。
 まあ、実際に自衛隊員に千人を超えるような死者が出たら、この内閣は保たないでしょうが、彼らは1万人死んでも国内は押さえ込めるでしょう」 
 加藤のあけすけな言葉を受けて、今度は首相が西村に聞く。

「それで用兵側は、戦闘になった場合の見込みはどう言っていますか?ちなみに、米軍の助けを借りたいところですが、ご存知のように無人島である尖閣を巡っての通常戦には米軍は介入しないと釘を刺されていますので」

「はい、米軍の件は、結局スペード大統領が中国の周主席と取引したのでしょうね。しかし、我が国には“まもる君”すなわちH(ハヤト)氏が居りますし、さらにH氏ほどではないですが、魔力が非常に高く、実際にミサイルでも撃墜できるタレントを自衛隊内で確保できました。
 要は、彼らは爆薬や炸薬を積んでいる艦船、飛行機を遠方から爆破、撃墜できるのです。当然、中国海軍の艦船、戦闘機・爆撃機等の航空機は大量にそうしたものを積んでいます。彼らは、どうやってやられたか解らない内に、彼らの乗る艦や航空機が破壊されていくのです。さらに、砲弾は連発できるので少し難しいようですが、ミサイルに対しては確実な防御ができます。これは相当に有利だと思いませんか?」

 西村の答えに出席者は驚いた顔しているが、科学に強い文部科学大臣の木川が反問する。
「実際にそうしたことが出来るのはいいのですが、公表している“まもる君”の守備範囲を大幅に超えているのと、防御というにはやや微妙かなと思いますが」

「うん、そうだね。だから、ことが終わった後に、沖縄に“まもる君”を移したと発表するのだよ。H氏にも沖縄に移動してもらうのだろう?それと、日本領土に攻めてくる相手に対してだから、防御でいいのさ」
 財務大臣の早山が持ち前のだみ声で言い、それが結論になって、中国艦隊に対して武力を使って防御すること、さらにH氏すなわちハヤトに沖縄に移動するように依頼することとなった。

 その後閣議では、その戦闘の後の中国への対処の話が外務大臣からあった。
「この戦いで、わが方の思惑通りに推移した場合、中国はすでに脅威でなくなった核ミサイルに加えて、量としては半分ですが、最良の部分の海上戦力と、これも量としては1/4ですが航空戦力の良質な大部分を失うわけです。かれらは、とりわけフィリピンなど周辺諸国などをこれらの武力により脅かしてきましたが、これのてこを失うわけです、ですから……」

 しかし、加藤の言葉を早山が遮る。
「ちょっと待って欲しい。戦が始まる前に、勝ったらどうするという皮算用をするのは禁物だよ。もっともやってはいかんことだ。わが方に決定的な有利な要素が転がり込んできたから、気を緩めるのは解かるが、その要素がなければ、多くの犠牲者を出して実質に敗れていたのは我が国の方だったのだ。
 あと、戦いまで数日のことだ。気を緩めず、全力で勝つべく知恵を絞り、全力で努力する。こうでなくてはいかんと思うがね」

 加藤はその言葉に申しわけなさそうに頭を垂れる。
「そう、おっしゃる通りです。取らぬ狸の皮算用になってはいかんですな」

「早川さん、ありがとうございます。おっしゃる通りです。見込みだとあと2日ですか。我々も防衛省、外務省も最大限の緊張を持って戦に備えましょう」
 阿山首相が緊張した顔で言う。

 防衛省は、中国軍の艦船のニンポーへの集結、及び航空機のあわただしい動きを公表し、外務省はこの動きに対して中国政府に危機を煽っているとして厳重に抗議した。抗議したのは官房長官篠山も同様であり、日例の記者会見でこうした、防衛省の発表の中身を改めて説明し、中国への抗議を政府として行ったことを公表した。

 その上で、改めて中国軍の行動を非難した。
「こうした中国軍の動きは、明らかに世界各国において問題になっている、各国からの中国大使館への査察の要求を躱そうとしてのことであると、わが政府が判断しております。自身の武器弾薬を大使館に大量に備蓄するという近代の国として信じられない暴挙に対し、一切の謝罪・反省もなく、このように軍事行動を起こそうという体質がかの中国と言う国であるわけです。
 わが日本政府は、こうした行動に強く抗議をするとともに、こうしたまさに強盗のやり方で、我が国の領土を犯そうとする行為には断固として反撃することを通告します」

 この日本政府とは思えない発言に、記者会見の場は大きくざわめいた。
「実際に、中国が例えば尖閣諸島に攻めてくるとして、政府はどのように領土を守るつもりですか?」
 マスコミ間で誰が質問するかけん制しあってざわざわしたあと、Y新聞の記者が質問の口火を聞き、篠山は用意していた答えを言う。

「この場合は、歴然と艦隊と航空機の動員という行動を起こしているわけですから、国境線を越えた時点で攻撃します。あるいは、わが方に向かって何らかの攻撃行動を起こした場合もただちに反撃します」

 その答えにA新聞の記者が攻撃する。
「それは、憲法に照らしてどうでしょうかね。国境を越えてから一方的に攻撃では、憲法に反すると思いますし、相手が仮に攻撃の行動を起こしたとしても、本当にこちらを撃っているかどうかわからないではないですか?」

 これに対して篠山もすぐさま反撃する。
「では、あなたは護衛艦が先に攻撃されて自衛隊員が殺されてからでないと、反撃が許されないということを言っているのですか。憲法はそれを求めていると?」
「そ、そうは、言っておりません。しかし、憲法が……」

 さすがにA新聞記者は、実戦に関しては思考放棄しているので、その事態は考えていないので答えられない。
 篠山は記者たちを見渡して決然と言う。
「今回の件は、どういう倫理・法に照らしても、大使館の件、軍の動員と、かの国のやり口は強盗国家そのものです。我が国は、それに対して断固として勝手なやり口は許さないと決心しており、そのぎりぎりの線が先ほどの条件です」

 さらに彼は、テレビカメラに向かって言う。
「これは、国民の皆さんに申し上げたい。皆さんもご存知のように、わが政府は憲法改正を今年行うべく準備しておりますが、それは、まさにこうした事態に備えてであります。今の憲法を厳密に適用すると、自衛隊はまさに武力ですから持てないのです。しかし、人や国も含む組織は基本的な権利として自らを自衛することができます。
 そうした理屈から、我が国は自衛隊を保持しているわけですが、現状において自衛隊が不要と思う方はいないでしょう。また、そうして自衛隊を持っても、今までの考えでは撃たれて始めて反撃できるというものです。しかし、それでは相手は、近づいても撃たれることなく安全ですから近くに寄って来て、例えばミサイルを護衛艦に向けて撃つでしょう。
 その場合は、確実に狙われた自衛隊の艦は破壊され多数の隊員が死ぬでしょう。先ほどの質問というより意見は、そういうことを要求しているのです。我が国の政府は先ほどの方針の通りで必要なら攻撃・反撃をします」

 その篠山の声に会場は更にざわめくが、今度はS新聞記者から質問があった。
「どう見ても、中国の戦力が自衛隊に対して大幅に大きいのですが、米軍の参戦はないのですか?米軍の参戦なしに戦った場合には、損害がひどいことになりそうですが」
 これに対して篠山は淡々とこたえる。

「戦域が無人島の尖閣に限られた場合には、米軍は参戦しません。しかし、有人の島を犯そうとする場合には参戦するとの協定になっています。それから、確かに量的には自衛隊は劣っておりますが、質は勝っておりますので、必ずや勝利してくれると考えています」
 また会場はざわめいたが、今度は週刊Fから質問があった。

「官房長官がそう言われるということは、仮に中国との戦端が開かれた場合には、お互いの損害はどうあれ、戦場は尖閣諸島周辺に限られるわけですね?」
「ええ、我々はそう考えていますが、彼らが実際にどうするかは保障の限りではありません」
 篠山がそれに答え、記者はさらに聞く。

「では、もし中国軍が海戦に敗れた場合に、彼らの核ミサイルで脅してきても“まもる君”により、それに対しては安全と言うことですね?」
 それに対して、篠山はあっさり答える。

「その通りです。核搭載であっても、ミサイルに対して我が国が安全なのはすでに国民の皆さんにご案内の通りです」
 さらに、中国の参加する艦隊及び航空機については先に発表があったが、記者から日本の動員の規模を聞かれた篠山は、防衛機密であり答えられないと回答を断っている。

 結局、自衛隊の損害が大きいかもしれない、また戦いとしては負けるかもしれないということがマスコミにより語られたが、自分たちは安全と考えた国民に大きな動揺はなかった。
 しかし、野党からは、政府に非難声明が出された。

「尖閣列島が、日本固有の領土であることを否定するものではないが、その争奪のために、多くの自衛隊員の皆さんの命を危険にさらしてまで戦争を起こすことには反対する。こうした、政府の硬直的な態度は、永く平和を享受してきた我が国の平穏を乱すものとして強く非難する」

 その直後、中国政府からの声明があった。
「日本政府が、卑怯にも我が大使館を破壊することで多くの職員を殺戮し、しかも、その上に武器を大使館に秘匿していたとの冤罪を我が国にかけてきた。これらの冤罪および、大使館の破壊行為は、我が国が到底許容できるものではない。その報復として、我が国の固有の領土でありながら、日本に不当に占拠されている釣魚島を奪還することを宣言するものである」

 この宣言を受けて、日本政府は中国国内に居住する日本人に帰国命令を出した。これらの日本人は、日本における大使館事件があって、中国政府が国際的に追い詰められてきたことから、日本政府の帰国の勧告によって20万人から5万人に大幅に減少している。

 これらの中で帰るつもりのあるものは、すでに準備は出来ておりその後の2日で4万人が帰国した。しかし、ほとんどが中国人の配偶者のいるものであったが、残りの1万人は帰らないということで自主的に残った。
 一方、日本国内に100万人いた中国人であるが、大使館事件があり、実際に従うかどうかは怪しいものの『国防動員法』が、中国人を縛っていることが広く知られた結果、多くの中国人が働き口を失い故国に帰っていった。

 この結果、中国政府の実質的な宣戦布告の日にはすでに半分が帰国しており、残り半分も日本人の配偶者がいるもの以外は日本政府が拘禁して監視対象にすることを発表した途端、ほぼ全員が帰国しようとして、実際に日本と中国の間に戦端が開かれた時には20万人を残すのみであった。
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