帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第3章 注目を浴びる『処方』

3.4 K半島戦争2

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 最前線で指揮をとる崔中将は『余計なお世話』だと思った。会議の席で油断するなどとくどくど言われ彼は気分を害していたが、本人としては油断なく警備を整えていた。現地は起伏が多く、樹木の多い丘陵地形ではあるが、谷の底は平たんで戦車の機動にも問題ない状態である。

 野営地の周辺には赤外線カメラ、聴音器を備えて近づくものをキャッチする。無論、音及び映像のキャッチの後の兵員の配置はしており、彼はこれで完ぺきという自信があった。宣戦布告の日の夜、K国第2師団と第3師団の前衛、同じくK国第8師団の中衛、アメリカ駐留軍の後衛それぞれの野営地は緊張に包まれていた。

 前衛の陣は、どちらかと言うと機器に頼って歩哨は特に増やしていなかった。中衛の軍は聴音器を設置していたが、カメラは設置せず歩哨を大幅に増やしていた。後衛のアメリカ軍については、聴音器は無論、固定式カメラに加えロボットによる歩哨を配置し、さらには人間の歩哨も普段の倍に増やしていた。

 全て、KT国軍に特殊部隊が多数配置されていることを考慮してのことである。大方の予想の通り、KT国軍は夜襲を計画していたが、全体の兵2万2千人の内7割が第10師団つまり特殊部隊と言う編成になれば当然である。KT国の特殊部隊は、人間離れした訓練を強要されて残ったものばかりであり、体力・格闘技のレベルは自衛隊をしのぎ、かって指導に訪れた旧ソ連のスペツナズの教官の舌を巻かせたと言われている。

 その上に、1割ほどは近代的な機器の取り扱いの訓練も受けている。今回、“未来師団”と名付けられたKT国の軍に参加している者達は、文将軍の話を聞きほぼ半生の訓練を考え、それを発揮することなく市井に埋もれることに耐えられなかった猛者ばかりであり、平均年齢は34歳である。

 夜襲部隊は、特殊部隊の戦闘兵200名、運搬兵400名であるが、彼らの出発に先立って30名の偵察部隊が午後9時に出発した。当然彼らは、聴音器とカメラは予想しており、聴音器については探知機により位置を調べ射程が10mほどもある電磁銃によって壊し、カメラについてはこれまた電子探知機でその位置を知って避けて行った。

 カメラの場合は破壊すると、監視しているものにすぐわかってしまうが、聴音器は全部が壊されない限りは判らないのだ。偵察の結果、前衛が聴音器と固定カメラに基本的に頼っているということで組みしやすいことが判った。その報告に基づいて、夜襲は前衛部隊について行うことになった。

 さて、KT国は戦争技術、それも費用のかからない電子関係の部品に関しては国の最優秀なものにより開発を進めさせており、先ほどの聴音器等の探知機、低出力電磁銃等について開発を済ませている。一方で、情報機関が使うような民需からくる情報機器の技術にはついては、やはり情報が限られている影響は大きく世界水準を下回っている。

 しかし、少し改修した地図機能タブレットなどは夜襲部隊には2人に1人の割で持たせている。夜襲部隊は、このタブレット上に偵察部隊によって侵入ルートは示されていたのだ。夜中の0時に出発した、戦闘兵及び運搬兵はどちらも約30kgの荷物(爆薬、弾薬類)を運んで、指定された場所に運び集積した。戦闘部隊はその場からさらに敵に近付いた位置にそれらの荷を運んで潜み、残り運搬兵は部隊に戻っている。

 つまり、戦闘兵は一人90kgの武器・弾薬を使えるのだ。午前2時、戦闘兵の攻撃が始まった。野営地はテントが林立し、それぞれ6人が寝ているが、歩哨はテント10張りについて一人ついていた。彼ら歩哨は、油断しきってはいなかったが、特に緊張もしていなかった。

 本来、歩哨はその担当時間を常時歩き回っていなくてはならないが、受け持ち時間4時間の彼らは、1時間ごとの巡回はするが、それ以外は組み立て椅子に座って見張ることを上官に要求し、上官はそれを許したのだ。襲撃する方からすれば、見張りはいてもその視線が殆ど動かなければ、それを避けることは容易である。

 かくして、夜襲部隊はそれぞれの予定位置について焼夷ハンドガンを持って発砲を待った。これは、最大射程約100mを径40mmの焼夷弾を撃てるもので、こうしたテントの襲撃にはピッタリである。各員は、焼夷弾は10発持っており、2秒で一発撃てるように訓練されている。やがて指揮官が、合図の意味も込めて焼夷弾を打ち出す。

 一応、テントは当然難燃性であるが、焼夷弾が着弾してその弾そのものが燃えるのに耐えられず、燃え上がりがしないが鈍く燃える。流石にK国の軍需品であり難燃性能は十分でないようだ。配置されている歩哨は驚いて、立ち上がり銃を取り構えるが、突然の発火に目がくらみ狙いがつけられない。

 その間に、身を隠した襲撃隊は焼夷弾10発全弾を撃ちこむ。野営場は2000発の焼夷弾の明かりで明々と照らされて、歩哨はうろたえてめくらめっぽうに銃を撃ち放つ。戦闘服のまテントの中で寝ていた隊員は、流石に飛び起きたが、状況が全く判断できず、歩哨の撃ち放つ弾が飛び交う中、テントから持ち出した銃をこれも狙いがつけられないまま、あるものはフルオートで、あるものは単発で撃ち放つ。

 これに対し、北の襲撃隊はうろたえて銃を撃っているものは放っておいて、混乱を治めようとしているものを狙撃していき、あるいは手榴弾を投げ込む。野営地は地獄のような混乱に投げ込まれたが、その中で、多数が悲鳴をあげてまっしぐらに中衛の方に向かって逃げていった。

 K国軍の伝統に沿って武器を放り捨ててである。第1軍の司令官の崔司令官は混乱の中で、テントを飛び出すときには焼夷弾で頬にやけどを負ったが、その野営地の中の目も当てられない混乱の中に、数舜茫然とたたずみ『やはり油断だった!』と深い後悔にさいなまされた。

 しかし、副官の金大尉から「閣下、敵襲です。指示を!」と言う声に、はっと我に返った。ただちに大尉の差し出す指揮官用の無線機を操作して、連絡の着く幹部将校23人に怒鳴る。
「みな、兵を落ち着かせろ!敵は少数だ、焼夷弾でもテントは燃え上がりはしない」

 その声に、連絡を受けた者も気を取り直し、さらにその部下に呼びかける。その中で、K国軍は徐々に秩序を取り戻し、確かに襲撃者が多数でないことに気づいて、やがて秩序だった反撃が行われるようになった。この中で、襲撃隊は暫くは一方的に攻撃な攻撃が許されたが、K国軍の秩序が回復する中で、遂には彼らも発見され、それを撃つように指示するものもおり、一人一人と撃たれていく。

 しかし、彼らは考えられる限りの防弾チョッキを着こみ、少々の弾が当たっても簡単に倒されはしなかった。その中で、撃ち返し、携行ロケット弾を発射し、手榴弾を投げつける。右腕が撃たれたら、左腕で、足が撃たれても腕は健全と言わんばかりで、顔等を撃たれて即死しない限り、攻撃の手を緩めなかった。
 こうして、200名の襲撃隊が完全にその動きを止めたのは、1時間以上も戦ったあとであり、襲撃兵は重傷を負って気を失って捕虜にされた12名以外は全滅した。

 結局、この襲撃による混乱が収まって秩序が回復され、損害の集計が終わったのは翌朝の8時過ぎであった。死者は4222人、戦闘に耐えられない負傷者は2255人であり、結局この200名の北特殊部隊による夜襲によってK国軍は約6500人の損害を与えられたわけだ。

 しかも、約半数の兵は武器も捨てて逃げ出して、中陣の第8師団に捕捉されており、極めて大きな恥さらしをしている。幸い、マスコミ関係者は夜襲の可能性があるということで、米軍と共に行動しており、夜襲には気が付かれても、この半数の逃亡の事実は知られなかった。

 この件は、金臨時大統領の指示もあって固く漏らすことを禁じられたが、そのため崔司令官の解任等の処分もできないことになった。金臨時大統領としては、クーデターで権力を得た軍部が、そのような恥さらしをした事実を国民に知られるわけにはいかなかったのだ。

 それらの情報がまとまった段階で、急きょ国連軍(実際は米韓合同軍)の会議が開かれた。K国軍は、単独で会議をしたかったのであるが、流石にこれだけの大損害を受けて、アメリカ軍を除いた会議をするわけにはいかず、キンドル中将以下の出席も仰いでの会議である。

 それに先立って、K国軍の3人の師団長は、全軍の司令官である金臨時大統領の指示の元に、あわただしく協議したが、その結果、全K国軍が結集することになり、第1軍の参謀長として朴パンクツ少将が役を担うことになった。
 さらに、4000名の損害を出した第3師団の残存兵7000名の内、2500名の損害を受けた2師団に3000名補充とし、金臨時大統領が信頼する第8師団に4000名を配置して補強として、第8師団はその第2連隊長の鄭ソンミン少将が指揮を執ることになった。

 この間、KT側の攻勢が懸念されたが、特に動きはなく当面KT側の攻勢は無いであろうと想定されている。
 国連軍の会議では、これらの軍の再編成を急ぎ、出来るだけ早く攻勢に移るということが決議された。
「どうやら、KT側は我々に今度はお前らの番だと言いたいようだな」
 キンドル司令官の見解である。

「ええ、そういうことでしょう。また、多分こちらから攻めさせるには、それなりの仕掛けがあると思います。それが、何か調べたいのですが、特殊部隊の練度ではどうもかなり劣るわが方から、強行偵察は無理ですからある程度はそれを甘受するしかありません。しかし、こっちの再編成は少なくとも、今日と明日一日要しますので、そういう意味では幸いです」

 朴少将は、キンドルの意見に同意した後に言い続ける。
「さて、参謀本部からの指示で、攻勢に先立って、F15K 30機による航空攻撃を行い相手の戦力をそぐことになりました。これが、明後日の早朝7時に行われ、わが方はK2戦車50両、K1戦車100両を先頭にして、それに歩兵が続く形で進軍しますが、攻撃ヘリ30機は上空にあって支援にあたります。
 KT側の布陣は2つの幅の広い谷にまたがって約2㎞の幅ですので、わが方はおおむねその幅で進むことになります。戦車はそれぞれ幅500mほどの浅い谷を進みますが、歩兵は両側の灌木の森も含めて進みます。米軍には後詰めの形で続いてください」

 キンドル司令官はそれを聞いて、自分が指揮をとってもそういう作戦になるであろうと、満足して承認した。
 K国軍は第2師団と増強第8師団の再配置と、簡易的な訓練を行って攻勢時の方針の周知、通信方法等のすり合わせを急いで行った。問題になったのは武器を捨てて逃げるという兵にあるまじき行為をした者達の処遇であった。
 だが、彼らはベテランで戦意の高い者の部隊に混ぜて使う形にすることと、次は無いという強い警告で使うしか方法は無かった。

 戦いの朝が明けた。けたたましい爆音が低空で近づいて来ていた灰色の巨大な鳥の群れが、K国軍の上空をアッと言う間に通り過ぎ、数秒後には多数の爆発音が聞こえる。直後、巨鳥は上空に舞い上がるが、「あ!ミサイルが追っている」K国兵が叫ぶようにミサイルが上昇しようとする戦闘爆撃機の群れを追っている。

 追うミサイルは巨鳥の数を倍ほどの上回っており、その加速は戦闘機をしのいでいる。ミサイルは、機体に迫っていきいくつか機がミサイルを食らって爆発し、いくつかはフレアーを放って逃げ出している。結局、30機のF15Kの内で12機が撃墜され、残りはフレアーを放つか、機動でかわして逃げることができた。

 しかし、機に吊るした8発の対地ミサイルは1次攻撃で4発は放ったが、これだけの犠牲が出るようであれば断念するしかないと、報告を聞いた航空本部からの命令で残りのF15Kは帰還した。
「よし、一応敵を叩いた、後は戦車で踏みつぶすぞ。戦車連隊は進め!」
 上空の偵察ヘリの映像で、国境近くの北の戦車の1/3ほどが破壊されたのを見ながら、司令官の崔中将が、無線機に命令する。朴少将が小声で同意するのを聞いての上である。国境の鉄条網から数百mの位置にいた、戦車部隊は、エンジン音も高く進撃を始める。

 ところが、全部で150両の戦車が国境を越えたまもなく、戦車のうちで半分ほどのエンジンが突然止まり、がくんとつんのめる。突然のことで、後ろから追っていた10台ほどがその止まった戦車に追突し、半分ほどは砲を激しく前の戦車に激突させるが、そうでないものの車体に大きな損傷が見られ、あるいはキャタピラーが外れている。

 戦車が止まったのは、北の襲撃兵が昨晩、近づけた半数ほどの戦車に取り付けた磁石付きのユニットを起動した結果である。これは、K国製の戦車がお得意のICを多用した操作系であることに付け込んで、強力な電磁パルスを発して中のICを破壊するものである。
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