帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第2章 防衛への係わり

2.11 K半島の混迷3

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 金ユッケ臨時大統領は、カメラの先にいる国民に向けて再度語り始めた。
「ここでは、現在極めて重要な問題になりつつある、我が国の安全保障状況に対してご報告しておきます。
 皆さんご存知の通り、米軍は一旦朝鮮半島における軍事統制権をまもなく我が国に返還すると発表し、かつ3カ月以内に我が国から撤退すると発表しました。
 本件に対して、先の白政権は、それがKTに対する我が国の安全保障を大幅に切り下げることを意味するにも関わらず、むしろ喜んで受け入れようとする態度を示していました。しかし、我々は米軍の撤退は、核を実用化したKTの前にはあってはならないと考え、それが我々の武力を用いた政権転覆の行為に繋がって行ったわけです。

 これについては、昨日発表したように我々が米政府と交渉した結果、撤回することが約束されました。さらに、日本とも、彼らの新たに持つことになったミサイル防衛システムの網を、我が国まで広げるか否かが問題になったわけです。
 彼らは、彼らの同盟軍でもある米軍については、いずれにせよ防衛する意図はありましたが、米軍撤退後については、事実上我が国を防衛するために、2015年のいわゆる慰安婦合意の順守を条件としてきたものです。安全保障の問題と、慰安婦ごときの話を交換とすることはあってはならないことでありますが、KTの策謀に乗ってそれを国家の重大事として打ち出してきたのが、我が国自身であったのです。

 また、この面でも先の我が国の政権では、日本の合意が得られる行動を起こす見込みはありませんでした。また、先ほど言ったように、この問題のKTの策謀の結果の象徴があの像であります。従って、我々が権力を握って最初に実施したことの一つが、ソウルの日本大使館及びプサンの総領事館前に設置された像の破壊であります。
 いずれにせよ、あの2つの像は明確に国際条約に違反するものであり、それを設置するということは国際的に我が国が嘲笑の的になることを意味するのです。その結果、自動的に我が国は日本の要求を満たしたことになりますので、彼らは当然のように米軍を去った後も、我が国にミサイルの防衛網を広げることを内諾しております。

 しかし、彼らが言うには、核を積めるテポドンについては防衛可能であるが、スカッド、ノドン等の通常弾頭のミサイルについてはその数が多いため請け合えないとしています。さて、KTとの戦力の比較でありますが、KTの現状の経済状況から見て、通常戦力において、徴兵制をひいている我が国と兵力そのものは互角ではありますが、その装備、燃料、弾薬等の資材の保有量は我が国が大幅に上回っております。
 しかしながら、我が国には決定的な弱みがあります。それは自ら人質になるがごとき、国境に近いソウルの住宅地を含む市街地でありまして、すでに臨戦状態にあるKTの長距離砲、ロケット砲の完全な射程内にあり、これかれ市街地を半分でも防衛することは実質的に不可能であります。

 それがゆえに、その市街地をいわゆる人質としてKTは核開発を続けて来られたわけでありますし、依然としてこれらは、KTにとっては人質になっているわけです。また、加えてKTにはスカッドとノドンの数百発のミサイルシステムがありますが、わが国はこの防衛システムを十分に整えてきませんでした。
 この2点は我が国政府の恐るべき怠慢でありますが、これもKTの謀略の効果の一つでしょう。一方で、その人質をいわば殺す、つまり攻撃した時今の状態ではKTにとっては間違いなく滅びの時となります。しかし、その攻撃を受ける地区からの人々の避難ができなければ、我が国の市民に数十万の犠牲が生じるものと考えています。

 結局、古くて新しい問題は残ったままになっております。従ってKTの核ミサイルという決定的な武器は封じることが可能になったものの、市民に大きな損害を受けることを覚悟する以外に、我々がKTに攻勢をかけることはできないということです。
 しかし、KTは国力の全てを傾けて核兵器の開発を行ってきた結果、農業、工業、商業も世界の標準から極めて遅れており、さらに加えて世界から経済封鎖をかけられて世界の最貧国に数えられます。この状態でも、今の指導者である金正成体制にある限り、実質的にもう無用の長物と化している核兵器を手ばなすことはないでしょう。

 ですから、世界からの経済封鎖は続き、KTはさらに疲弊します。そのうちに、我慢できなくなった軍部か、または人民が蜂起して金正成は除かれるでしょうし、案外、今現在にもそういうことが進んでいるかもしれません。つまり、時間は我々の味方なのです。しかし、願わくば本当にどうしようも無くなって手を挙げないことを強く願っております。その場合、彼らの面倒を主として見るのは我々になるのですから。
 安全保障については、あけすけに申しましたがこれはKTも十分知っている事実であります。
最後にもう一度申します。これは、知っていながら、事態を見過ごしてきた私自身の自戒も含めて申します。国民の皆さん、とりわけマスコミに携わる皆さん簡単にKTに騙されてきた自らを反省してください。そして、物事を必ず自分の頭で考えてください」

 金ユッケ、臨時大統領の話が終わった。後で、この話の全文を翻訳して知った日本人は、K国人はさぞかし、この話に激高したのではないかと思った。しかし、実際はそうしたものも居たが精々1割程度で、彼らは周囲にたしなめられていたということを聞いて意外の念を持ったものだ。

 さて、独裁者を処刑した後のKT国の当事者の7人の将軍である。独裁者の処刑の後、将軍達7人は、再度彼を連れ出した会議室に帰り会議を再開した。なお、独裁者の随員だった朴は将軍達と一緒に部屋に戻り、書記役を務めている。彼は、早くから安将軍と繋がっており、将軍に様々な貴重な情報を提供して今回の政変に重要な役割を果たしている。
「では、まずは私から話をさせて頂く」
 立ち上がった安将軍は口を開き、皆が同意のしるしに頷くのを見て続ける。

「私は、今後の我が国の統治については、当分実戦部隊を指揮する我々が力を背景に行うしかないと考えている。従って、その場合はこの中では最も先任であり、力を持つ文チョン大将を指導者として推薦する。よろしいか」
 彼は皆を見渡すとそれぞれに頷き「賛成だ」と口々に言う。

「では、指導者である、文大将、続けさせて頂きたいがよろしいですか?」
 更に安は言い、文に了解を求める。文は頷き、安を手で押さえて立ち上がり口を開く。
「安君、君が続けることは良いのだが、折角皆が私を指導者に選んでもらったので、今回の件について私の考えを少し述べておきたい」

 その言葉に安が頷いて席に座ると、それを見た文は続ける。
「皆も知っているように今回の火星8号の打ち上げは、私はアメリカの攻撃を招くものと考えていた。そして、それに応じて米国の攻撃に残った兵器でK国を攻撃することはできる。だが、それは我が国の更なる大破壊を招くのみで、そのように多くのK国の民間人を殺害した我が国の生き残ったものは犯罪者の一味となる訳である。
 だから援助などは持っての他であり、大きな苦しみに見舞われるであろうと考えていた。つまり、あのミサイル試射は我が国の滅亡を招くもので、それも、結局金正成と言う独裁者の存続を図るためのみのものだ。私は、どちらかと言うと金の後見を任じてきた。

 しかし、この半年ほどはすでに彼には愛想が尽きていた。そういう意味では、安将軍の私への働きかけは有難いものであった。残り少ない人生は、でき得れば、これまでいじめつけられていたわが国民が、少しでも安楽な生活をおくれるように努力したい。
 きれいごとに聞こえるかも知れんが、老い先短い私としては真実そう思っている。人の事、人民のことなど全く考えない、あの若い金を見ていたから余計そう思うのかもしれない。以上だ。安将軍、では続けてお願いする」

 安は、その声に立ち上がり、文に一礼して話し始める。
「はい、文将軍。私は正直に言うと、人民より自分のことが第一でありまして、まず自分と家族の安全のことが優先なのですが、出来るだけ国民が苦労しない道を選びたいと思ってはいます」

 安は少し微笑んで一旦言葉を切り、さらに続ける。
「さて、我々の選択肢は多くはありません。すでにまともにぶつかり合う武力と言う意味では、米軍は言うに及ばずK国にも大きく劣っております。また、核ミサイルは皆も自覚している通り、もはや無用の長物です。しかし、ソウルを狙った長距離砲、ロケット砲、またスカッドやノドン等のミサイルはK国と駐在する米軍に大きな出血を強要できるものです。
 しかし、それを使えば、わが国民は激しい反撃を受けるでしょうし、生き残ったものは、その後極めて厳しい状況に置かれることになるでしょう。これは文大将の言われた通りです。これらの兵器は、つまりいわば自爆用の武器なのであり、自殺しようとする人間しか使ってはいけないのです」

 安将軍が一旦言葉を切り皆を見渡すと、うつむいて考え込んでいるものが多い。やがて、若手の斎ジュンヨ少将が口を開く。
「たしかに、使えばそれを命じた者は、少なくとも生きてはいかないだろうし、実行したものも同じ扱いを受け、関係しなかった者も同じ国民だったというだけで迫害を受けるだろう。増して、世界の犯罪国家として過ごしてきた我が国であれば尚更だ。言う通り、使ってはいけないものですね」

 安は話した斎に頷き言う。
「その通りです。結局、我々はもはや無用の長物と化した核の放棄と、降伏そして武装放棄を宣言するしかないように見えます」

 安は言葉を切り、皆を見渡して一息置いて続ける。
「しかし、その場合我々の軍人としても誇り、我が国の国としての誇りはどうなるのでしょう。今後の歴史の中で、わがTK人民共和国の兵、及び国民はいままで世界に虚勢を張っていたが、結局は援助を求めて這いつくばってきたと刻まれるのです。私はそれに耐えられません」

「では、安君どうしようと言うのかね」
 文大将が静かに聞く。
「戦います。有志を募って1万人程度の部隊を作ってピョングガン付近で国境を越えます。そして、それはK国及び米軍に通知の上で行いますので、我々は当然迎えうたれるでしょうし、絶対に降伏はしませんので全滅するでしょう。文大将はその全滅をもって国連軍に国として降伏してください。
 その際には、K国に吸収されことは絶対に避けるようにしてください。もっともK国もそれを望むとは思えませんが。私の今までに集めた情報によると、今までのK国に入った脱北者や朝鮮族はK国では2級市民として小さくなって暮らしています。これを見れば、併合されたらどういう扱いになるか想像がつきます。
 経済的な困難はあっても、自らの国で助け合って暮らす方がずっとましだと思います」

 決然と言う安将軍に文大将が沈痛な声ではじめ、やがて決然と言う。
「うむ、なるほど良く判る。我々は貧しいが、それだけに誇りを失ってはならない。我々軍人の血をもって誇りを保つ、それは良い。しかし、その役は君がやることは許さん。おいぼれの私の役割りだ。そういうことであれば、君が指導者にならなくてはならん。今後の我が国の将来のためには、君のその頭脳が必要だ」

「そうです。指導者は、安将軍でなくてはならない理由があります」
 突然独裁者の随員であった朴が口をはさむ。
「そうでなくてはならない理由とは?」
 文将軍が怪訝そうに口をはさむ。

「安将軍の御父上は、安ジュウシュ将軍でしたが、お母上はチャウシャ様と呼ばれていましたが、日本人マサダヨシコ様です。今後、我が国は様々な国と国交を結びますが、日本は極めて重要な相手であり、K国などに比べれば、はるかに気前のいい国です。
 また、かのNK基本条約によって、K国が我が国のものを含んで、日本から莫大な植民地化の賠償金と言うか見舞金を受け取り、それはK国が使ってしまっております。すなわち、我々は日本に対しても、K国に対しても同等の事を要求する権利があります。しかしながら、我が国は日本に対して拉致問題という、大きな瑕疵があります。

 これは、基本的に淡白な日本人が執拗に我が国に調査を要求してきておりますが、我が国は一旦帰国させたものが返されなかったことから、一切話に応じておりません。しかし、幸いにこれらの人々の半数以上は生存しており、それなりの待遇をしています。
 これらに難しい交渉に際して、我が国の指導者に半分日本人の血が入っている、それも日本の言う、拉致された女性と彼女を娶った我が国の将軍の間の若き将軍が我が国の新しい指導者というのは大きなアドバンテージです」

 朴の熱弁に将軍たちは大きく心を動かした。安将軍は強く抵抗したが、結局、全員の強い意向に押しきられ、彼が指導者として新たに組織する政府の首班に収まることになった。
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