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第2章 防衛への係わり
2.10 K半島の混迷2
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金正成は、扉の前で息を大きく吸って、傍らの随員に目で合図をすると、朴はドアを引き開け叫ぶ。
「総書記閣下のご入室です」
その声に、立ち上がった7人の将軍たちの目が彼に注目するが、彼らの目と態度に彼は違和感を覚えざるを得なかった。まず、いままでは、彼らの目は彼を畏怖してのものであったが、今日はそれは感じずに冷ややさと、かすかに怒りも混じっているように感じる。
しかし、彼は浩然と顔を上げ、自分の席まで歩き、朴が引く椅子を後ろに立ったまま力強く(彼の思いとしては)言う。
「今日は、先日の日本の無礼な挑発と、それに合わせたわがミサイルの破壊、さらにK国における正当な政府を武力で転覆させた暴挙に係るものである。私はこれに抗するに、日本に対しては我が細胞による攻撃、さらにK国に対してはスカッド、ノドンミサイルの軍事拠点の攻撃に合わせ、K国にある我が細胞によるインフラ拠点の破壊と現政府に対するカウンタークーデターを命令する」
しばらく沈黙が降り、やがてすこし白髪が出はじめた細身で締まった体つきの情報副本部長である安ショジン准将が応じる。
「指導者殿、それは不可能です。まず、日本における総連の武力部隊はすでに日本の警察と自衛隊の共同捜査を受けて、すべて武器は回収されて要員もすでに逮捕済です。これは、我が国が日本本土にミサイルを撃ったことを受けての強硬措置ですが、要は日本側が疑わしきは武力を持って調べると言う態度にでたものです。
さらに、K国においてですが、現在の臨時政府はいままでの優柔不断な文民政府と違って、やることが極めて果断で素早く、我が細胞は大部分が対処する間もなく一掃されるか、または身一つで逃げざるを得なかったようです。いずれも、我が細胞の情報はすでにほぼ完全に掴まれていたようです。
また、K国の今回のクーデターは米軍との連携のもとに行われたと考えられています。つまり、米軍がK国から引くというのは、そういう宣言でK国民を不安に陥らせ、クーデターを支持させるためです。つまり、我が国の悪辣な民政の評価が、我が国の支配下に入ることに対してK国民を恐れさせたのです」
「だまれ!日本、K国の細胞が失われたとすれば、それはその責任者たるお前の責任だ。それを、わが民政のせいにするとは、お前は見下げ果てた男だ。直ちに、お前の階級をはく奪し、矯正収容所に入れる!」
独裁者はふくらんだ頬を震わせて怒鳴るが、安准将は冷静に言い返す。
「残念ながら、我が国は世界中から実質的に技術封鎖を受けており、とりわけ情報機器については大きく日本やK国に劣っております。さらに、我々にとって都合の良い政権であった白の政府がクーデターにより覆されたのに対して、現在ではむしろK国では歓迎ムードがあります。
これは、多くの国民が飢え、かつ実質奴隷の存在である、我が国の実態が知れ渡っており、その奴隷の奴隷になることをK国民が恐怖した結果であり、まさに自業自得であります。無論、これは、あなただけの責任ではありませんが、あなたは全てを賭けて核ミサイルの開発に狂奔したが、その賭けに敗れたのです。
たしかに、多分アメリカにも届く核ミサイルを開発しましたが、それはいまや日本に阻まれて使えません。さらに、日本の今回の措置がなくとも、私はあの火星8号が成功していたら、アメリカは我が国を攻撃したと思います。
その場合、あなたはその攻撃に、残った長距離砲、ロケット砲、ミサイルで反撃を指示したでしょうし、その結果殆んどK国人ですが、数十万のものが死んだでしょう。しかし、我が国もK国のその報復としての憎しみのこもった攻撃、さらに米軍の圧倒的な攻撃を受けて少なくとも軍人は全て殺されるでしょうし、国民も数百万のオーダーで殺されます。
とりわけ、あなたは仮に逃げても必ず見つけ出されて殺されます。要するに、あなたが身の程知らずにアメリカを脅迫したことですでに滅びの道を歩んでいたのです」
「だまれ!くそ!」
独裁者は叫び、机の下に隠されたボタンを押す。
「お前はただちに銃殺だ」
彼は尚も叫び、まもなく入ってきた自動小銃を構えた制服の5人の警備兵に命ずる。
「この安を直ちに銃殺しろ」
その間、安も含んだ7人の将軍たちは動揺した様子もなく座ったままだ。しかし、警備兵は動かず、銃を下げた状態で安准将を見ている。やがて、安が彼らを見て命じる。
「この元総書記である金正成を逮捕し、玄関先の庭まで連行しろ。生かしておくと面倒なので玄関先で直ちに銃殺する」
それから同僚将軍達に向いて静かに言う。
「同士将軍閣下の皆さん。せっかくだから、今から行う処刑にお立合い願いますか」
すでに、話が出来ている他の6人の将軍は動揺した風も無く頷く。
安ショジン将軍は、情報部門を実質的に統括する立場として、K国に軍によるクーデターが起きた段階で密かに独裁者の直卒ということになっている突撃隊の副指揮官に会っている。突撃隊の指揮官は家柄だけが自慢の無能で、そのため突撃隊は副指揮官の朴ジョンユ大佐が部隊を統括しないと実質的に機能しない状態になっている。
無論、独裁者は指揮官の無能さは気が付いており、隊には彼直属の数人のスパイ役が配置されており、万が一裏切り行為を行った場合直ちに独裁者自身が対処に当たることを考えていた。しかし朴ジョンユは、すでにその存在は掴んでおり、必要ならすぐに処分できるように段取りができていた。また、彼はKT国の軍人には珍しく自分の頭で考えられる人物であるため、安将軍が自分に会いに来た段階でその目的を察していた。
「将軍閣下、私に裏切りを勧めに来られたのですね?」挨拶の後、朴大佐は聞いた。
「そうだ。あの豚の戦略は完全に崩壊した。すべてを賭けて開発に走って来た核ミサイルは、日本とアメリカに関してはすでに無用の長物と化した。K国も、あの白の馬鹿が大統領でいるうちは、核で脅して統一と言う見込みはあったが、アメリカの息がかかっているだろう軍のクーデターが起きた以上はもう無理だ。
一方で食料すら兵に供給できない我が軍は、実質的に態を成していない。すなわち戦えないとなると、残念ながら外に援助をすがるしか、わが民族の生きるすべはない。当然、それは核を放棄するという選択になる。こうなるとあの豚とその一族は邪魔なだけだ」
言い終わった後、安は朴の顔を見つめる。しばらくの沈黙の後、朴は答える。
「私は、火星8号の打ち上げにより、アメリカが攻撃してくると思っていました。その結果、あの豚は反撃を命令するでしょうが、私はその前にあいつを殺すつもりでした。
反撃すれば確かに腹いせにはなるでしょうが、同時に多くの同胞も死に完全は我が国の消滅に繋がります。日本の撃墜が成功してよかったのです。安将軍、あなたの言う通りです。あの豚は死ななくてはなりません。突撃隊とこの館の警備兵は任せてください」
さらに安将軍は、独裁者に知られていない通信機を使って、軍の実戦部隊を指揮している文チョン大将に連絡をとり、密かに会った。文大将も、火星8号の発射はアメリカの攻撃を招くと考えており、それを免れたことはむしろ幸いと考えていた。また、彼はどちらかというと、独裁者の保護役であった。
だが、国の指導層が全てを賭けて努力してきた核という手段が、無用の長物となったという今回の事態をうけて、すでに独裁者は笑いものになっているとして、退場はやむをえないという判断であった。文チョン大将は、国を動かしている将軍達のなかでは人望もあり、ほとんどの者を掌握していた。
だから、文の説得もあって、安は人によっては突撃隊のメンバーを伴って威圧して、独裁者を除くことに全員の合意を得ることができたのだ。醜く騒ぐ独裁者を、警備兵が引きずり、館に働く者が遠目めにこわごわ見る中、将軍たちが見守る中で彼を玄関先に立たせ、安が合図してあっさり銃殺した。
はちきれんばかりの腹に銃弾が食い込み、血を噴き出して倒れるその姿に、世界を騒がせた独裁者の最後というような重みは一切ないな、と言うのが安将軍の印象だった。
ー*-*-*-*-*-*-*-
K国の臨時大統領である、金ユッケが午後7時にテレビに登場した。クーデターから1週間、初めて国民の前にその言葉で語りかけることにしたのだ。すでに、彼はアメリカ軍の統制権返還と半島からの撤退の延期を勝ち取っており、さらに日本政府からも北の核ミサイルに対する防衛の暫定的な約束を取り付けていた。
未だKTへの協力者の摘発は続き、中でも北の息がかかっている武装集団の摘発が相次いだ中で、その武器の押収が行われる映像に、K国民はショックを隠せなかった。とりわけ多くの武装集団がおり、それが今まで摘発されないということは、政府等の関係機関にそれをもみ消す者が多数入り込んでいる証明でもあったからだ。
KTに統合されるという恐怖から、パニックに陥っていたK国民もようやく落ち着きを取り戻し、さまざまな議論が交わされるようになった。なかでも、愛国臨時政府がK国人の中でも客観的な研究を続けていた少数の学者を、連日テレビに出演させて神格化さえされつつある慰安婦について、歴史的に真実である姿を語っている。
実際のところ多くのK国人にとっても、しょっちゅうその証言が変わるような、被害者と自ら言っている元慰安婦の言葉には信用が置けないと思う者も多かったが、もはや宗教になりつつある状況では到底口に出せなかったのだ。
とりわけ、20万人と言うその数、及び日本軍が強制連行したという伝説に関しては、それが事実であったとすれば、当時の朝鮮人は黙ってそれを見ていたことになる、という大きな矛盾がある。
また、日本のミサイル防衛システムの傘に入るか否かの選択において、そのような怪しげな慰安婦の問題との交換にはなりえない、ということに多くの者が気づいたのだ。その中で、『あんな薄汚い、元慰安婦と言う連中』と言う言葉が、特に年配のものから出てくることになる。刷り込みがよく行き渡っている若者は、まだ半信半疑であり、どう考えていいかわからないという状態だった。
「K国国民の皆さん、私は愛国臨時政府の指導者で臨時大統領の席にある、金ユッケです。私の今の立場及び、わが臨時政府には法的な根拠はありません。単に私及び私の同僚の軍人が指揮するK国軍の武力の裏付けがあるのみであるのみです。しかし、その武力はこの国においては、内政に一切関与しないと宣言している米軍を除けば唯一のものであり、我が国の安寧のためには私たち政府は行使をためらいません。
まずここに置いて、わが政府の目的を申しておきます。それは、我々の私腹を肥やすことでもなく、皆さんに自らの思想を押し付けることでもありません。危うく、KT国に核で脅されて統合され、その財産を取り上げられ、国民全員が奴隷になるような道を選ぼうとしていた政体を持っていた国が、自主・自尊の道をとってその多くが豊かな生活を送れるようにすることです。
そのためには、国民の皆さんには大いに反省してもらいたいと思っています。この国は、実質的に長い間KTの策謀に躍らされてきました。彼らの策謀は、まず反日・反米を煽ることでしたが、その大きな手段が、教育界に根を張って明らかに偏った今の教科書と偏った教員による、KT礼賛及びアメリカと日本の卑下です。
その彼らの思想が、非常に良く判る教科書の現在の偏向は目に余るもので、素直にその教育で育ったものが社会に反感を持ち、強い反日思想を持ち、潜在的な反米思想を持つに至っています。教育については、わが臨時政府が政権の座にあるうちに、徹底的にKTシンパあるいは、KTの要員そのものを追い出します。
我が国において、反日思想がこの国の国是になるまでになったこと、またKTの脅威、それは核も含みますが、それに見事なまで鈍感になって背景にはこの教育の成果があります。しかし、反米はさすがに自らの生存に直接かかりますから、反日ほど簡単にはいかなかったようですが。あなたたち国民は、真剣に反省しなくてはなりません。
あやうく、KTを受け入れて自ら奴隷になる道を選ぼうとしたことを。そうなったら、未来永劫、自業自得として我がK国人は世界からあざ笑われたでしょう。そうした、反日に係る策謀について、典型的なものは慰安婦問題です。いま、多くの人が信じているかもしれない慰安婦の話は大部分嘘であり、いま日本軍慰安婦と名乗り、そのように遇されている3分の1は、日本軍に対する慰安婦ではありません。
また、日本軍の慰安婦20万人とは全くの嘘で、実際には1万人足らずで、多くは親や親族に売られた者、また自らなった者達で、日本軍あるいは官憲による強制はありません。すべては、日本のある新聞の意図的と思える誤報をうまく使ったKTの策謀から広がったものです。
また、旭日旗、東海・日本海の問題また強制労働は、全てKTの策謀に乗ったマスコミがはやし立て、それにあなた方が乗って騒いできたものです。その結果何が得られましたか?単に日本人を困らせてやったという、偏狭かつ卑しいあなた方の小さい自我を満足させるのみです。
その結果、一般の日本人は、すでに半ば敵となり、日本政府がK国に利のある決定を行うことすら困難にしました。実際に、例えば・漁業・経済問題、さらに今回において代表される安全保障に対して実際的な危機に瀕するに至っております。まさに、KTの思うつぼであり、マスコミ関係者も、あなた方国民も簡単にそれに乗せられてきたことを恥じるべきです」
金はカメラの先に居る国民を厳しい目で見つめ一旦言葉を切った。
「総書記閣下のご入室です」
その声に、立ち上がった7人の将軍たちの目が彼に注目するが、彼らの目と態度に彼は違和感を覚えざるを得なかった。まず、いままでは、彼らの目は彼を畏怖してのものであったが、今日はそれは感じずに冷ややさと、かすかに怒りも混じっているように感じる。
しかし、彼は浩然と顔を上げ、自分の席まで歩き、朴が引く椅子を後ろに立ったまま力強く(彼の思いとしては)言う。
「今日は、先日の日本の無礼な挑発と、それに合わせたわがミサイルの破壊、さらにK国における正当な政府を武力で転覆させた暴挙に係るものである。私はこれに抗するに、日本に対しては我が細胞による攻撃、さらにK国に対してはスカッド、ノドンミサイルの軍事拠点の攻撃に合わせ、K国にある我が細胞によるインフラ拠点の破壊と現政府に対するカウンタークーデターを命令する」
しばらく沈黙が降り、やがてすこし白髪が出はじめた細身で締まった体つきの情報副本部長である安ショジン准将が応じる。
「指導者殿、それは不可能です。まず、日本における総連の武力部隊はすでに日本の警察と自衛隊の共同捜査を受けて、すべて武器は回収されて要員もすでに逮捕済です。これは、我が国が日本本土にミサイルを撃ったことを受けての強硬措置ですが、要は日本側が疑わしきは武力を持って調べると言う態度にでたものです。
さらに、K国においてですが、現在の臨時政府はいままでの優柔不断な文民政府と違って、やることが極めて果断で素早く、我が細胞は大部分が対処する間もなく一掃されるか、または身一つで逃げざるを得なかったようです。いずれも、我が細胞の情報はすでにほぼ完全に掴まれていたようです。
また、K国の今回のクーデターは米軍との連携のもとに行われたと考えられています。つまり、米軍がK国から引くというのは、そういう宣言でK国民を不安に陥らせ、クーデターを支持させるためです。つまり、我が国の悪辣な民政の評価が、我が国の支配下に入ることに対してK国民を恐れさせたのです」
「だまれ!日本、K国の細胞が失われたとすれば、それはその責任者たるお前の責任だ。それを、わが民政のせいにするとは、お前は見下げ果てた男だ。直ちに、お前の階級をはく奪し、矯正収容所に入れる!」
独裁者はふくらんだ頬を震わせて怒鳴るが、安准将は冷静に言い返す。
「残念ながら、我が国は世界中から実質的に技術封鎖を受けており、とりわけ情報機器については大きく日本やK国に劣っております。さらに、我々にとって都合の良い政権であった白の政府がクーデターにより覆されたのに対して、現在ではむしろK国では歓迎ムードがあります。
これは、多くの国民が飢え、かつ実質奴隷の存在である、我が国の実態が知れ渡っており、その奴隷の奴隷になることをK国民が恐怖した結果であり、まさに自業自得であります。無論、これは、あなただけの責任ではありませんが、あなたは全てを賭けて核ミサイルの開発に狂奔したが、その賭けに敗れたのです。
たしかに、多分アメリカにも届く核ミサイルを開発しましたが、それはいまや日本に阻まれて使えません。さらに、日本の今回の措置がなくとも、私はあの火星8号が成功していたら、アメリカは我が国を攻撃したと思います。
その場合、あなたはその攻撃に、残った長距離砲、ロケット砲、ミサイルで反撃を指示したでしょうし、その結果殆んどK国人ですが、数十万のものが死んだでしょう。しかし、我が国もK国のその報復としての憎しみのこもった攻撃、さらに米軍の圧倒的な攻撃を受けて少なくとも軍人は全て殺されるでしょうし、国民も数百万のオーダーで殺されます。
とりわけ、あなたは仮に逃げても必ず見つけ出されて殺されます。要するに、あなたが身の程知らずにアメリカを脅迫したことですでに滅びの道を歩んでいたのです」
「だまれ!くそ!」
独裁者は叫び、机の下に隠されたボタンを押す。
「お前はただちに銃殺だ」
彼は尚も叫び、まもなく入ってきた自動小銃を構えた制服の5人の警備兵に命ずる。
「この安を直ちに銃殺しろ」
その間、安も含んだ7人の将軍たちは動揺した様子もなく座ったままだ。しかし、警備兵は動かず、銃を下げた状態で安准将を見ている。やがて、安が彼らを見て命じる。
「この元総書記である金正成を逮捕し、玄関先の庭まで連行しろ。生かしておくと面倒なので玄関先で直ちに銃殺する」
それから同僚将軍達に向いて静かに言う。
「同士将軍閣下の皆さん。せっかくだから、今から行う処刑にお立合い願いますか」
すでに、話が出来ている他の6人の将軍は動揺した風も無く頷く。
安ショジン将軍は、情報部門を実質的に統括する立場として、K国に軍によるクーデターが起きた段階で密かに独裁者の直卒ということになっている突撃隊の副指揮官に会っている。突撃隊の指揮官は家柄だけが自慢の無能で、そのため突撃隊は副指揮官の朴ジョンユ大佐が部隊を統括しないと実質的に機能しない状態になっている。
無論、独裁者は指揮官の無能さは気が付いており、隊には彼直属の数人のスパイ役が配置されており、万が一裏切り行為を行った場合直ちに独裁者自身が対処に当たることを考えていた。しかし朴ジョンユは、すでにその存在は掴んでおり、必要ならすぐに処分できるように段取りができていた。また、彼はKT国の軍人には珍しく自分の頭で考えられる人物であるため、安将軍が自分に会いに来た段階でその目的を察していた。
「将軍閣下、私に裏切りを勧めに来られたのですね?」挨拶の後、朴大佐は聞いた。
「そうだ。あの豚の戦略は完全に崩壊した。すべてを賭けて開発に走って来た核ミサイルは、日本とアメリカに関してはすでに無用の長物と化した。K国も、あの白の馬鹿が大統領でいるうちは、核で脅して統一と言う見込みはあったが、アメリカの息がかかっているだろう軍のクーデターが起きた以上はもう無理だ。
一方で食料すら兵に供給できない我が軍は、実質的に態を成していない。すなわち戦えないとなると、残念ながら外に援助をすがるしか、わが民族の生きるすべはない。当然、それは核を放棄するという選択になる。こうなるとあの豚とその一族は邪魔なだけだ」
言い終わった後、安は朴の顔を見つめる。しばらくの沈黙の後、朴は答える。
「私は、火星8号の打ち上げにより、アメリカが攻撃してくると思っていました。その結果、あの豚は反撃を命令するでしょうが、私はその前にあいつを殺すつもりでした。
反撃すれば確かに腹いせにはなるでしょうが、同時に多くの同胞も死に完全は我が国の消滅に繋がります。日本の撃墜が成功してよかったのです。安将軍、あなたの言う通りです。あの豚は死ななくてはなりません。突撃隊とこの館の警備兵は任せてください」
さらに安将軍は、独裁者に知られていない通信機を使って、軍の実戦部隊を指揮している文チョン大将に連絡をとり、密かに会った。文大将も、火星8号の発射はアメリカの攻撃を招くと考えており、それを免れたことはむしろ幸いと考えていた。また、彼はどちらかというと、独裁者の保護役であった。
だが、国の指導層が全てを賭けて努力してきた核という手段が、無用の長物となったという今回の事態をうけて、すでに独裁者は笑いものになっているとして、退場はやむをえないという判断であった。文チョン大将は、国を動かしている将軍達のなかでは人望もあり、ほとんどの者を掌握していた。
だから、文の説得もあって、安は人によっては突撃隊のメンバーを伴って威圧して、独裁者を除くことに全員の合意を得ることができたのだ。醜く騒ぐ独裁者を、警備兵が引きずり、館に働く者が遠目めにこわごわ見る中、将軍たちが見守る中で彼を玄関先に立たせ、安が合図してあっさり銃殺した。
はちきれんばかりの腹に銃弾が食い込み、血を噴き出して倒れるその姿に、世界を騒がせた独裁者の最後というような重みは一切ないな、と言うのが安将軍の印象だった。
ー*-*-*-*-*-*-*-
K国の臨時大統領である、金ユッケが午後7時にテレビに登場した。クーデターから1週間、初めて国民の前にその言葉で語りかけることにしたのだ。すでに、彼はアメリカ軍の統制権返還と半島からの撤退の延期を勝ち取っており、さらに日本政府からも北の核ミサイルに対する防衛の暫定的な約束を取り付けていた。
未だKTへの協力者の摘発は続き、中でも北の息がかかっている武装集団の摘発が相次いだ中で、その武器の押収が行われる映像に、K国民はショックを隠せなかった。とりわけ多くの武装集団がおり、それが今まで摘発されないということは、政府等の関係機関にそれをもみ消す者が多数入り込んでいる証明でもあったからだ。
KTに統合されるという恐怖から、パニックに陥っていたK国民もようやく落ち着きを取り戻し、さまざまな議論が交わされるようになった。なかでも、愛国臨時政府がK国人の中でも客観的な研究を続けていた少数の学者を、連日テレビに出演させて神格化さえされつつある慰安婦について、歴史的に真実である姿を語っている。
実際のところ多くのK国人にとっても、しょっちゅうその証言が変わるような、被害者と自ら言っている元慰安婦の言葉には信用が置けないと思う者も多かったが、もはや宗教になりつつある状況では到底口に出せなかったのだ。
とりわけ、20万人と言うその数、及び日本軍が強制連行したという伝説に関しては、それが事実であったとすれば、当時の朝鮮人は黙ってそれを見ていたことになる、という大きな矛盾がある。
また、日本のミサイル防衛システムの傘に入るか否かの選択において、そのような怪しげな慰安婦の問題との交換にはなりえない、ということに多くの者が気づいたのだ。その中で、『あんな薄汚い、元慰安婦と言う連中』と言う言葉が、特に年配のものから出てくることになる。刷り込みがよく行き渡っている若者は、まだ半信半疑であり、どう考えていいかわからないという状態だった。
「K国国民の皆さん、私は愛国臨時政府の指導者で臨時大統領の席にある、金ユッケです。私の今の立場及び、わが臨時政府には法的な根拠はありません。単に私及び私の同僚の軍人が指揮するK国軍の武力の裏付けがあるのみであるのみです。しかし、その武力はこの国においては、内政に一切関与しないと宣言している米軍を除けば唯一のものであり、我が国の安寧のためには私たち政府は行使をためらいません。
まずここに置いて、わが政府の目的を申しておきます。それは、我々の私腹を肥やすことでもなく、皆さんに自らの思想を押し付けることでもありません。危うく、KT国に核で脅されて統合され、その財産を取り上げられ、国民全員が奴隷になるような道を選ぼうとしていた政体を持っていた国が、自主・自尊の道をとってその多くが豊かな生活を送れるようにすることです。
そのためには、国民の皆さんには大いに反省してもらいたいと思っています。この国は、実質的に長い間KTの策謀に躍らされてきました。彼らの策謀は、まず反日・反米を煽ることでしたが、その大きな手段が、教育界に根を張って明らかに偏った今の教科書と偏った教員による、KT礼賛及びアメリカと日本の卑下です。
その彼らの思想が、非常に良く判る教科書の現在の偏向は目に余るもので、素直にその教育で育ったものが社会に反感を持ち、強い反日思想を持ち、潜在的な反米思想を持つに至っています。教育については、わが臨時政府が政権の座にあるうちに、徹底的にKTシンパあるいは、KTの要員そのものを追い出します。
我が国において、反日思想がこの国の国是になるまでになったこと、またKTの脅威、それは核も含みますが、それに見事なまで鈍感になって背景にはこの教育の成果があります。しかし、反米はさすがに自らの生存に直接かかりますから、反日ほど簡単にはいかなかったようですが。あなたたち国民は、真剣に反省しなくてはなりません。
あやうく、KTを受け入れて自ら奴隷になる道を選ぼうとしたことを。そうなったら、未来永劫、自業自得として我がK国人は世界からあざ笑われたでしょう。そうした、反日に係る策謀について、典型的なものは慰安婦問題です。いま、多くの人が信じているかもしれない慰安婦の話は大部分嘘であり、いま日本軍慰安婦と名乗り、そのように遇されている3分の1は、日本軍に対する慰安婦ではありません。
また、日本軍の慰安婦20万人とは全くの嘘で、実際には1万人足らずで、多くは親や親族に売られた者、また自らなった者達で、日本軍あるいは官憲による強制はありません。すべては、日本のある新聞の意図的と思える誤報をうまく使ったKTの策謀から広がったものです。
また、旭日旗、東海・日本海の問題また強制労働は、全てKTの策謀に乗ったマスコミがはやし立て、それにあなた方が乗って騒いできたものです。その結果何が得られましたか?単に日本人を困らせてやったという、偏狭かつ卑しいあなた方の小さい自我を満足させるのみです。
その結果、一般の日本人は、すでに半ば敵となり、日本政府がK国に利のある決定を行うことすら困難にしました。実際に、例えば・漁業・経済問題、さらに今回において代表される安全保障に対して実際的な危機に瀕するに至っております。まさに、KTの思うつぼであり、マスコミ関係者も、あなた方国民も簡単にそれに乗せられてきたことを恥じるべきです」
金はカメラの先に居る国民を厳しい目で見つめ一旦言葉を切った。
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彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
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異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
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俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
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例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
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