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第1章 異世界からの帰還、現代への再適応
1.1 ハヤト帰還す
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二宮隼人(ハヤト)は、緑に囲まれた広場の空中約3mに出現した。
だが、鍛え上げた反射神経でとっさに膝を曲げアスファルト舗装の上に柔らかく着地した。そこは、自宅の近くの市民公園の駐車場であり、脇を走る市道に面しているが、公園側は築山と、樹木に遮られている。
ハヤトは、膝を伸ばし辺りを伺ったが、視界に入る限りでは人影はなく、車も走っていない。帰還の時期は11月ごろと聞いており、すこし薄暗く、さらに薄くもやがかかる状況からすれば早朝であろう。
とりあえず、出現を見られなかったことにほっとしたハヤトは、召喚され、その後7年にして再度出現した場所を感慨深く見つめた。その駐車場自体のレイアウトは変わっていないが、明らかに樹木は大きく成長し、真新しかった駐車場にひかれた白線やコンクリート製の縁石も古ぼけている。
感慨にふけっているうちに、公園側から犬を引いた中肉中背で青のジャージに白のスニーカーの太り気味の中年の男性が現れた。彼は、ハヤトを怪訝そうに見るが、ハヤトは自分でも自らの服装と荷物を持った姿は変わったスタイルだろうなとは思う。
ハヤトは、身長は180cmで体重は75kg、肩幅は広く腰は締まったスポーツマン体形である。さらに、勇者として過ごした厳しい生活の中で厳しい目つきに合う締まった顔つきになっている。服装は、出来るだけ日本で違和感のないように、グレイの綿のズボンとボタン留めのシャツとやはりグレイのポンチョタイプのコートに大きなリュックを背負っている。
さらに、どうしても手放すことの出来なかった愛剣を布に包んで肩に下げている。茶色の深めの靴はワイバーンの皮製であり、寸前まで居た世界、ラーナラでは高級品であるが見たところでは判らないだろう。ハヤトは、怪しまれないようにその人が向かってくる方向に歩き始め、「おはようございます!」と声をかける。
相手の「あ!おはよう」という返事を聞いてすれ違い、振り返らず家に向かって速足で歩く。
そこから、家には約1㎞、商店が混じった住宅道路を通る道である。ハヤトは、歩く中でいつものように地図・探査機能を発して、目的地までを俯瞰してその中で自宅を感知する。「あった!」彼は思わずほっとして小さく叫んだ。実のところ、彼は7年の間自宅がそのままあるか心配であったのだ。
エンジニアである父は、所属する会社の主要工場のある街に住んでいるので、他の街に転居はしないだろうとは思っていた。だが、家が手狭であるということで、家を建て替えるか転居するかという話はハヤトがいる頃からあったのだ。探知した家を無意識にズーミングするとその中にはっきり人の気配もして、それも親しみのある3人、父誠司、母涼子と、4歳離れた妹さつきだ。
ハヤトは皆が出かけない内に会おうと足を速め、目立たない程度に小走りで進みながら地図機能を伸ばしていく。「うん?」やはり違和感は正しかった。異世界ラーナラに比べ、ここ日本において空中に漂うマナの濃度が極めて低いのは感じていたが、反面地図機能により目の前に浮かぶマップが極めてクリヤーであるのだ。
しかも抵抗が非常に少ない感じで展開が極めて早いため、現在展開を進めている地図が急速に伸びていき、すでにここ千葉県の利根市から日本海側まで伸びている。
しかし、ハヤトは角を曲がって自宅の玄関が見えたことから地図機能を終了して、一旦この件は頭から追い出した。2階建ての自宅の小さな門を入り、アルミサッシの引き戸に手をかけ一気に引き開け中に踏み込んで叫ぶ。
「父さん、母さん、さつき。みんな!ハヤトです。帰ってきました!」
一瞬、静まりかえった後、ガタンという音が聞こえ、玄関から正面のキッチンのドアがバタンと激しく開いて、父の顔がのぞいた。さらに2階からもドタン、バタンという音とどたどたと階段を駆け下りる音がしてセーラー服の女性、女の子が顔をのぞかせる。
父が叫ぶ「ハヤト!」妹のさつきが叫ぶ。「ハヤト兄ちゃん!」父の横をすり抜けた母が飛びついて来て叫ぶ。「ハヤト!」ハヤトは慌てて母を抱きとめる。「母さん!」やはり母だ。涙があふれる。
混乱の数分の後、玄関のフローリングに立った両親とさつきに向かって、下のタイルの土間に立ったハヤトは深々と頭を下げる。
「皆、ごめん。ご心配をおかけしました。出て行って7年かな。ようやく帰ってこれました」
「うん、うん、まあ上がって話を聞かせてくれ」
涙ぐんでそういった父が、応接間と兼用になっているキッチンに続く居間のテーブルに導く。
居間にかかっている時計は7時15分を示しており、ハヤトはそれを見て、父と妹に聞く。
「父さんとさつきは出かけなくていいのかな?」
母は7年前も専業主婦だったから今は働いていないだろうと思うし、外出するような服装ではない。
「今日は特に約束もないので休むよ。7年行方不明だった息子が帰って来たのだから」
「私も、休むわ。7年間どこに行ったか判らなかった薄情な兄貴が帰って来たんだから」
父と妹が口々に言う。部長である父は部下に、高校生であるさつきは始業の少し前に担任教諭に兄ハヤトが突然帰って来たのでその日は休むと伝えている。
テーブルについたハヤトは、柔らかく自分を見つめる父、まだ涙を拭いている母、自分を少しにらんで口を尖らせている妹に改めて頭を下げた。
「皆、改めてごめん!信じられないかもしれないが、7年前に僕は異世界に召喚、つまり攫われて、今までその世界の人々を救うための活動をしていたんだ。その間まったく連絡を取る方法もなくて、ようやく問題を解決して送り返すように交渉して帰って来たのが今日だよ」
その言葉に、父と母はどう反応していいかわからない顔をしているが、さつきは呆れた顔をして言う。
「ちょっと、お兄ちゃんそれはないでしょう。異世界、召喚はラノベではありふれているけど、いくらなんでもそういう言い訳はないわよ」
それに対して、ハヤトはリュックを探って、あらかじめ分かりやすいように仕舞っていた布の塊を開いた。
「じゃ、これを見てもらおうか。これは、さつきにお土産だ。これは、母さん。これは父さん」
さつきのお土産は、緑がかった直径1cmもある宝石の周りにいくつかの小さめの宝石をちりばめた銀色の金属の鎖に吊るされたネックレスだ。母のものは少し大きめの中心の宝石が赤みを帯びているもので、似た形のやはりネックレスだ。父のものは、柄に様々な色の宝石をちりばめた銀色の刃渡り10cmほどの小さなナイフだ。
さつきはしげしげとそれを見ていたが、顔を上げてハヤトに聞く。
「お兄ちゃん、この鎖はプラチナね。そうすると、この宝石は本物?」
「そう。全部本物だよ。金属部分は全てプラチナで、宝石は天然物で少なくともガラス玉ではない。多分ダイアモンドだけど、どの程度の値打ちかはわからない。母さんのものも一緒だし、父さんのものの金属はやはりプラチナだ。それとこれ」
ハヤトは剣を包んでいた布を外すと、銀色の鞘に収まった刃渡り90㎝ほどもある剣を引き抜く。それは、少し日本刀のように少し反った片刃の美しい刃物であり、よく手入れされているが長い間激戦に使ってきた結果、多くの傷が見られ柄も年季が入っている。
「これは俺の愛剣だよ。多分銃剣法違反だからちょっと表に出せないけど、これは俺が5年以上も使って、俺の命を守ってくれたものだから手放せない」
ハヤトはさらに、リュックから多量の布に包まれた合計5kg余りになる宝石に加え、大体合計20㎏程度になる金の延べ棒を取り出す。肉親へのお土産と剣の他は、ハヤトが、日本で換金するために、召喚されたリーラスル王国に交渉して、彼の活動の報酬として与えられたものである。
母は、独身の頃にはデパートの宝飾品売り場に勤めていたため、ある程度貴金属の目利きができるが、これらをじっくり見て言う。
「金は本物ね。プラチナも本物だと思うわ。宝石は光りかたからすると本物だと思うけど、こんな色のものは見たことがないわ。少なくともガラスではないわね。全部でどのくらいの値打ちが見当もつかないわ」
それを聞いていたさつきが聞き、母が躊躇いつつ答える。
「ねえ、お母さん、私がもらったこのネックレスはダイヤがもし本物だとするとどのくらいの値打ちかな?」
「うーん、無色透明のダイアモンドとして多分3億円くらい。でもこのように綺麗に色がついたものだとその2倍くらいしてもおかしくないわね。でも、これほどのものだと簡単に売れないわ」
「ええ!3億円!」
ハヤトを交えた皆が驚く。
その後、話を信じざるを得なくなった家族に、ハヤトは思い出しながら7年間の活動の話をする。それは、中学3年生だったハヤトがリーラスル王国に召喚されて後、3年間のつらく苦しい訓練のあと、召喚による能力底上げの効果もあって文字通り人類最強の戦士、勇者になって、魔族への戦いをいぞんだ5か国のそれぞれの国の最強の戦士とともに魔族の国に入り込んで、ついに魔王を倒すまでの4年間弱の戦いの話であった。
「うーん、こういう物的証拠があっても、なかなか信じがたい話だね」
父はテーブルに広げた数々の宝を見やって言い、さつきはそれどころではなく食いつく。
「魔法!兄ちゃんは魔法をつかえるの?」
これに対して、ハヤトは苦笑しながら答える。
「異世界のレーナラと違って、この地球にはマナがごく薄いので、どれだけ使えるか怪しいよ。しかし、少なくとも身体強化と地図・探査機能は使えることは判ったよ。この30kg以上あるリュックを持って走っても平気だったし、5kgある俺の剣も軽々扱えるしね。探知・地図機能に至ってはかえって地球のほうが良く見えるようだな」
さつきは、さらに食いついてくる。
「ね、ねえ、魔法を何か見せてよ。ファイヤーボールは?」
「わかったけど、ファイヤ―ボールは危ない。だからライティングだな。昼間なので見栄えはしないけどね。いいか、ライト!」
ハヤトの指先にはっきり黄みがかった光が現れるが、ハヤトは不満そうに言う。
「やはり、弱いな。まあこれでも暗ければ明かりにはなるけど、ファイヤーボールを使っても戦闘には使えないな」
などとのやり取りで久しぶりに揃った一家はその日の時間を過ごすのであった。
ハヤトが、姿を消したのは中学生活の終わりもあと1ケ月に迫った冬の日、毎朝のジョッキングで出かけてそのままになっている。無論、家族は失踪の動機はまったく心当たりはなく、友人も含めて大騒ぎで探したが、警察に届けても手掛かりはなくどうしようもなく、家族も友人も1年2年とたつうちにあきらめていった。
しかし、母の涼子は息子のハヤトがどこかに元気に生きているという確信があった。だから、ハヤトの失踪から3年過ぎたのち夫の誠司からハヤトの失踪届を出そうと相談があったが、かたくなに拒んでいる。また、中学の卒業証明を必要な出席日数は満たしているということで取り付けている。
ハヤトは、この母の愛情に改めて涙せずにはいられなかった。しかし、異世界ラーナラでは英雄であったハヤトの現在の個人的な状況は、22歳中卒の無職である。
「うーん、この宝石や金で相当な財産は出来るだろうが、今後のことを考えたら大学位は出ていた方がいいな。そうすると大検を受けて受験資格をとってということになるが、時期は?と」
そう言う父はスマートフォンをいじって、検索して結果を見ながら続ける。
「4月に申し込みで8月受験だからそれに合格すると再来年大学受験が可能だ。だから、さつきが来年受験だからさつきの1年後になるな」
「うん、大検は受けるつもりだけど、大学は今更いかない。召喚の時に体力のみならず、知力を含めた全般的な能力が向上しているんだ。だから、基礎的な常識と言う意味で、大検は勉強して取ろうと思うけれど、大学については時間の無駄だと思う。
必要な知識は父さんが今検索したように、コンピュータの検索機能が充実したようだから、それで系統的に積んでいくよ。でも母さんが中学卒業の資格を取ってもらったので助かるよ」
ハヤトが応じ、母がニコニコして口をはさむ。
「ええ、よかったわ。ハヤトの担任だった田郷先生が全面的に協力してくれたおかげよ。ハヤトも先生にお礼を言いに行った方がいいわよ」
「うん、それは行くし、学校で友達だった安井と清水、田川には会いたいな」
ハヤトが言うと、母が答える。
「田郷先生は、今は狭山第2中学校に居られるわ。お友達は、学校の連絡網が残っているので家に電話をかければ連絡できるはずよ」
ハヤトは応じて続ける。
「わかった、近く連絡を取って会うよ。ちなみに、どうせ今後知った人に会うし、警察の捜査願いを取り下げる必要があるだろう?失踪の説明をしなくてならないけれど、俺は真実そのままを言った方がいいと思うのだよね。ただ、よほど信用できる人以外には持って帰った宝物の話はしないで。
どんな説明をしても怪しげな話になるし、異世界の存在がないこと、召喚ができないことは誰も証明できないから、俺が真実と言い張る限り、法的には何ともならないよね。どうせ、大部分の人は嘘やほらと思うだろうけれど、それはそれで構わないよ。
こうすれば、この財宝の存在ももらったということで説明は出来るわけで、持っていることに対して課税はできないはずだし、売るときに税金をきちんと払えば、税法上の問題はないはずだよ。どうだろうか?」
語りかけられた父と母だが、困りながらも応える。
「うーん、それがかえっていいかもな。だって真実なのだから。マスコミに知れても余りに途方もない話なので、大きい話にはならないだろう」
父が考えながら応じ、母も言う。
「そうね。あなたの失踪の時に結構騒ぎになったから、突然現れて騒ぎになっても、あなたが帰ってきたという何よりいい話なのだから母さんは平気よ。それと、この財宝については、良かったら母さんがデパートに勤めていた時代の上司が大手の宝飾チェーンの御曹司でね。一度持って行って相談したいのだけど。あなたも今後、生活をするうえでお金はあったほうがいいわよね」
だが、鍛え上げた反射神経でとっさに膝を曲げアスファルト舗装の上に柔らかく着地した。そこは、自宅の近くの市民公園の駐車場であり、脇を走る市道に面しているが、公園側は築山と、樹木に遮られている。
ハヤトは、膝を伸ばし辺りを伺ったが、視界に入る限りでは人影はなく、車も走っていない。帰還の時期は11月ごろと聞いており、すこし薄暗く、さらに薄くもやがかかる状況からすれば早朝であろう。
とりあえず、出現を見られなかったことにほっとしたハヤトは、召喚され、その後7年にして再度出現した場所を感慨深く見つめた。その駐車場自体のレイアウトは変わっていないが、明らかに樹木は大きく成長し、真新しかった駐車場にひかれた白線やコンクリート製の縁石も古ぼけている。
感慨にふけっているうちに、公園側から犬を引いた中肉中背で青のジャージに白のスニーカーの太り気味の中年の男性が現れた。彼は、ハヤトを怪訝そうに見るが、ハヤトは自分でも自らの服装と荷物を持った姿は変わったスタイルだろうなとは思う。
ハヤトは、身長は180cmで体重は75kg、肩幅は広く腰は締まったスポーツマン体形である。さらに、勇者として過ごした厳しい生活の中で厳しい目つきに合う締まった顔つきになっている。服装は、出来るだけ日本で違和感のないように、グレイの綿のズボンとボタン留めのシャツとやはりグレイのポンチョタイプのコートに大きなリュックを背負っている。
さらに、どうしても手放すことの出来なかった愛剣を布に包んで肩に下げている。茶色の深めの靴はワイバーンの皮製であり、寸前まで居た世界、ラーナラでは高級品であるが見たところでは判らないだろう。ハヤトは、怪しまれないようにその人が向かってくる方向に歩き始め、「おはようございます!」と声をかける。
相手の「あ!おはよう」という返事を聞いてすれ違い、振り返らず家に向かって速足で歩く。
そこから、家には約1㎞、商店が混じった住宅道路を通る道である。ハヤトは、歩く中でいつものように地図・探査機能を発して、目的地までを俯瞰してその中で自宅を感知する。「あった!」彼は思わずほっとして小さく叫んだ。実のところ、彼は7年の間自宅がそのままあるか心配であったのだ。
エンジニアである父は、所属する会社の主要工場のある街に住んでいるので、他の街に転居はしないだろうとは思っていた。だが、家が手狭であるということで、家を建て替えるか転居するかという話はハヤトがいる頃からあったのだ。探知した家を無意識にズーミングするとその中にはっきり人の気配もして、それも親しみのある3人、父誠司、母涼子と、4歳離れた妹さつきだ。
ハヤトは皆が出かけない内に会おうと足を速め、目立たない程度に小走りで進みながら地図機能を伸ばしていく。「うん?」やはり違和感は正しかった。異世界ラーナラに比べ、ここ日本において空中に漂うマナの濃度が極めて低いのは感じていたが、反面地図機能により目の前に浮かぶマップが極めてクリヤーであるのだ。
しかも抵抗が非常に少ない感じで展開が極めて早いため、現在展開を進めている地図が急速に伸びていき、すでにここ千葉県の利根市から日本海側まで伸びている。
しかし、ハヤトは角を曲がって自宅の玄関が見えたことから地図機能を終了して、一旦この件は頭から追い出した。2階建ての自宅の小さな門を入り、アルミサッシの引き戸に手をかけ一気に引き開け中に踏み込んで叫ぶ。
「父さん、母さん、さつき。みんな!ハヤトです。帰ってきました!」
一瞬、静まりかえった後、ガタンという音が聞こえ、玄関から正面のキッチンのドアがバタンと激しく開いて、父の顔がのぞいた。さらに2階からもドタン、バタンという音とどたどたと階段を駆け下りる音がしてセーラー服の女性、女の子が顔をのぞかせる。
父が叫ぶ「ハヤト!」妹のさつきが叫ぶ。「ハヤト兄ちゃん!」父の横をすり抜けた母が飛びついて来て叫ぶ。「ハヤト!」ハヤトは慌てて母を抱きとめる。「母さん!」やはり母だ。涙があふれる。
混乱の数分の後、玄関のフローリングに立った両親とさつきに向かって、下のタイルの土間に立ったハヤトは深々と頭を下げる。
「皆、ごめん。ご心配をおかけしました。出て行って7年かな。ようやく帰ってこれました」
「うん、うん、まあ上がって話を聞かせてくれ」
涙ぐんでそういった父が、応接間と兼用になっているキッチンに続く居間のテーブルに導く。
居間にかかっている時計は7時15分を示しており、ハヤトはそれを見て、父と妹に聞く。
「父さんとさつきは出かけなくていいのかな?」
母は7年前も専業主婦だったから今は働いていないだろうと思うし、外出するような服装ではない。
「今日は特に約束もないので休むよ。7年行方不明だった息子が帰って来たのだから」
「私も、休むわ。7年間どこに行ったか判らなかった薄情な兄貴が帰って来たんだから」
父と妹が口々に言う。部長である父は部下に、高校生であるさつきは始業の少し前に担任教諭に兄ハヤトが突然帰って来たのでその日は休むと伝えている。
テーブルについたハヤトは、柔らかく自分を見つめる父、まだ涙を拭いている母、自分を少しにらんで口を尖らせている妹に改めて頭を下げた。
「皆、改めてごめん!信じられないかもしれないが、7年前に僕は異世界に召喚、つまり攫われて、今までその世界の人々を救うための活動をしていたんだ。その間まったく連絡を取る方法もなくて、ようやく問題を解決して送り返すように交渉して帰って来たのが今日だよ」
その言葉に、父と母はどう反応していいかわからない顔をしているが、さつきは呆れた顔をして言う。
「ちょっと、お兄ちゃんそれはないでしょう。異世界、召喚はラノベではありふれているけど、いくらなんでもそういう言い訳はないわよ」
それに対して、ハヤトはリュックを探って、あらかじめ分かりやすいように仕舞っていた布の塊を開いた。
「じゃ、これを見てもらおうか。これは、さつきにお土産だ。これは、母さん。これは父さん」
さつきのお土産は、緑がかった直径1cmもある宝石の周りにいくつかの小さめの宝石をちりばめた銀色の金属の鎖に吊るされたネックレスだ。母のものは少し大きめの中心の宝石が赤みを帯びているもので、似た形のやはりネックレスだ。父のものは、柄に様々な色の宝石をちりばめた銀色の刃渡り10cmほどの小さなナイフだ。
さつきはしげしげとそれを見ていたが、顔を上げてハヤトに聞く。
「お兄ちゃん、この鎖はプラチナね。そうすると、この宝石は本物?」
「そう。全部本物だよ。金属部分は全てプラチナで、宝石は天然物で少なくともガラス玉ではない。多分ダイアモンドだけど、どの程度の値打ちかはわからない。母さんのものも一緒だし、父さんのものの金属はやはりプラチナだ。それとこれ」
ハヤトは剣を包んでいた布を外すと、銀色の鞘に収まった刃渡り90㎝ほどもある剣を引き抜く。それは、少し日本刀のように少し反った片刃の美しい刃物であり、よく手入れされているが長い間激戦に使ってきた結果、多くの傷が見られ柄も年季が入っている。
「これは俺の愛剣だよ。多分銃剣法違反だからちょっと表に出せないけど、これは俺が5年以上も使って、俺の命を守ってくれたものだから手放せない」
ハヤトはさらに、リュックから多量の布に包まれた合計5kg余りになる宝石に加え、大体合計20㎏程度になる金の延べ棒を取り出す。肉親へのお土産と剣の他は、ハヤトが、日本で換金するために、召喚されたリーラスル王国に交渉して、彼の活動の報酬として与えられたものである。
母は、独身の頃にはデパートの宝飾品売り場に勤めていたため、ある程度貴金属の目利きができるが、これらをじっくり見て言う。
「金は本物ね。プラチナも本物だと思うわ。宝石は光りかたからすると本物だと思うけど、こんな色のものは見たことがないわ。少なくともガラスではないわね。全部でどのくらいの値打ちが見当もつかないわ」
それを聞いていたさつきが聞き、母が躊躇いつつ答える。
「ねえ、お母さん、私がもらったこのネックレスはダイヤがもし本物だとするとどのくらいの値打ちかな?」
「うーん、無色透明のダイアモンドとして多分3億円くらい。でもこのように綺麗に色がついたものだとその2倍くらいしてもおかしくないわね。でも、これほどのものだと簡単に売れないわ」
「ええ!3億円!」
ハヤトを交えた皆が驚く。
その後、話を信じざるを得なくなった家族に、ハヤトは思い出しながら7年間の活動の話をする。それは、中学3年生だったハヤトがリーラスル王国に召喚されて後、3年間のつらく苦しい訓練のあと、召喚による能力底上げの効果もあって文字通り人類最強の戦士、勇者になって、魔族への戦いをいぞんだ5か国のそれぞれの国の最強の戦士とともに魔族の国に入り込んで、ついに魔王を倒すまでの4年間弱の戦いの話であった。
「うーん、こういう物的証拠があっても、なかなか信じがたい話だね」
父はテーブルに広げた数々の宝を見やって言い、さつきはそれどころではなく食いつく。
「魔法!兄ちゃんは魔法をつかえるの?」
これに対して、ハヤトは苦笑しながら答える。
「異世界のレーナラと違って、この地球にはマナがごく薄いので、どれだけ使えるか怪しいよ。しかし、少なくとも身体強化と地図・探査機能は使えることは判ったよ。この30kg以上あるリュックを持って走っても平気だったし、5kgある俺の剣も軽々扱えるしね。探知・地図機能に至ってはかえって地球のほうが良く見えるようだな」
さつきは、さらに食いついてくる。
「ね、ねえ、魔法を何か見せてよ。ファイヤーボールは?」
「わかったけど、ファイヤ―ボールは危ない。だからライティングだな。昼間なので見栄えはしないけどね。いいか、ライト!」
ハヤトの指先にはっきり黄みがかった光が現れるが、ハヤトは不満そうに言う。
「やはり、弱いな。まあこれでも暗ければ明かりにはなるけど、ファイヤーボールを使っても戦闘には使えないな」
などとのやり取りで久しぶりに揃った一家はその日の時間を過ごすのであった。
ハヤトが、姿を消したのは中学生活の終わりもあと1ケ月に迫った冬の日、毎朝のジョッキングで出かけてそのままになっている。無論、家族は失踪の動機はまったく心当たりはなく、友人も含めて大騒ぎで探したが、警察に届けても手掛かりはなくどうしようもなく、家族も友人も1年2年とたつうちにあきらめていった。
しかし、母の涼子は息子のハヤトがどこかに元気に生きているという確信があった。だから、ハヤトの失踪から3年過ぎたのち夫の誠司からハヤトの失踪届を出そうと相談があったが、かたくなに拒んでいる。また、中学の卒業証明を必要な出席日数は満たしているということで取り付けている。
ハヤトは、この母の愛情に改めて涙せずにはいられなかった。しかし、異世界ラーナラでは英雄であったハヤトの現在の個人的な状況は、22歳中卒の無職である。
「うーん、この宝石や金で相当な財産は出来るだろうが、今後のことを考えたら大学位は出ていた方がいいな。そうすると大検を受けて受験資格をとってということになるが、時期は?と」
そう言う父はスマートフォンをいじって、検索して結果を見ながら続ける。
「4月に申し込みで8月受験だからそれに合格すると再来年大学受験が可能だ。だから、さつきが来年受験だからさつきの1年後になるな」
「うん、大検は受けるつもりだけど、大学は今更いかない。召喚の時に体力のみならず、知力を含めた全般的な能力が向上しているんだ。だから、基礎的な常識と言う意味で、大検は勉強して取ろうと思うけれど、大学については時間の無駄だと思う。
必要な知識は父さんが今検索したように、コンピュータの検索機能が充実したようだから、それで系統的に積んでいくよ。でも母さんが中学卒業の資格を取ってもらったので助かるよ」
ハヤトが応じ、母がニコニコして口をはさむ。
「ええ、よかったわ。ハヤトの担任だった田郷先生が全面的に協力してくれたおかげよ。ハヤトも先生にお礼を言いに行った方がいいわよ」
「うん、それは行くし、学校で友達だった安井と清水、田川には会いたいな」
ハヤトが言うと、母が答える。
「田郷先生は、今は狭山第2中学校に居られるわ。お友達は、学校の連絡網が残っているので家に電話をかければ連絡できるはずよ」
ハヤトは応じて続ける。
「わかった、近く連絡を取って会うよ。ちなみに、どうせ今後知った人に会うし、警察の捜査願いを取り下げる必要があるだろう?失踪の説明をしなくてならないけれど、俺は真実そのままを言った方がいいと思うのだよね。ただ、よほど信用できる人以外には持って帰った宝物の話はしないで。
どんな説明をしても怪しげな話になるし、異世界の存在がないこと、召喚ができないことは誰も証明できないから、俺が真実と言い張る限り、法的には何ともならないよね。どうせ、大部分の人は嘘やほらと思うだろうけれど、それはそれで構わないよ。
こうすれば、この財宝の存在ももらったということで説明は出来るわけで、持っていることに対して課税はできないはずだし、売るときに税金をきちんと払えば、税法上の問題はないはずだよ。どうだろうか?」
語りかけられた父と母だが、困りながらも応える。
「うーん、それがかえっていいかもな。だって真実なのだから。マスコミに知れても余りに途方もない話なので、大きい話にはならないだろう」
父が考えながら応じ、母も言う。
「そうね。あなたの失踪の時に結構騒ぎになったから、突然現れて騒ぎになっても、あなたが帰ってきたという何よりいい話なのだから母さんは平気よ。それと、この財宝については、良かったら母さんがデパートに勤めていた時代の上司が大手の宝飾チェーンの御曹司でね。一度持って行って相談したいのだけど。あなたも今後、生活をするうえでお金はあったほうがいいわよね」
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彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編

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