Dreamin'

３０．栞

栞

容貌のよく似た外観が軒を連ねる建物の奥の一角に件のアパートは在った。
当然ながらそこも他と同じ顔をしている。


「いつまでも空けたままにしておけんのですがね。」

立入禁止と書かれたテープが威圧的に張り巡らされた玄関ドアの前で、アパートの大家は困惑顔で言いながら部屋のマスターキーを栞の掌に預けた。

「はぁ・・・帰ったら担当の者に伝えておきます。」
栞は曖昧にはぐらかした。

「本当にお願いしますよ。直ぐにもクリーニングして次の人を入れないと、他の住人まで気味悪がって出て行っちまうよ。」 

「はい、しっかり伝えておきますね」
いくら執拗に言われた所で、栞にはそう返すしかなかった。

「終わったら鍵をかけて、お返しに上がりますから。」
人の話を聴いているのかいないのか、いつまでもぶつぶつと文句を繰り返す大家を後にして、こりゃたまらないと逃げ込む様に部屋の中へと滑り込んだ。