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28.未生
未生
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「沙織さん・・・これまで本当にごめんなさい。・・・お詫びにアイスバケツチャレンジに挑戦します。次は未生さんを指名します。」
震える涙声を振り絞っていた。いつだって毅然としていた彼女らしくない。
しかし、莉那は一体何を言っているのだろう?
未生は当惑を隠せなかった。
するとおもむろに今にも泣き出しそうな表情の莉那が、真下に隠し置いてあったバケツを手に掲げ上げると、中に入っていた液体を頭からザバーッと被った。
「ちょっと莉那!?・・・私絶対ヤらないからね!!」
スマホ画面に向かって思わず未生は叫んでしまった。
だが中の莉那はお構いなしで、気にも留めていない。
既に録画済みの投稿動画なのだから致し方あるまい。
バケツを置いたびしょ濡れの彼女の白いブラウスが、ピンク色に染まっていた。
静かだった未生の心の泉に、不安のさざ波が打ち寄せる。
興奮状態で感極まっている莉那が、小刻みに振るえる手で握り締めていた小箱の中から、何かを摘み出した。
どうやらマッチ棒である。
此処に来てようやく未生は、不安に感じていた理由を漠然と理解した。
しばし躊躇していた莉那だったが、やがて意を決したのか、マッチをこすった。
濡れているせいか、マッチ棒は折れて下に落ちた。
はーっ。二人の小さな溜め息が同時に漏れる。
ああよかった。
未生がほっと安堵したのも束の間、直ぐさま莉那が次のマッチに火をつけると、炎はたちまちの内に彼女自身を焼き尽くさんと、黒煙を上げて燃え拡がった。
「アイスじゃないじゃん・・・」
呆然と見つめるしかない未生をよそに、スマートフォンのスピーカーからは、炎上する莉那の断末魔の叫びがいつまでもいつまでも響いていた。
震える涙声を振り絞っていた。いつだって毅然としていた彼女らしくない。
しかし、莉那は一体何を言っているのだろう?
未生は当惑を隠せなかった。
するとおもむろに今にも泣き出しそうな表情の莉那が、真下に隠し置いてあったバケツを手に掲げ上げると、中に入っていた液体を頭からザバーッと被った。
「ちょっと莉那!?・・・私絶対ヤらないからね!!」
スマホ画面に向かって思わず未生は叫んでしまった。
だが中の莉那はお構いなしで、気にも留めていない。
既に録画済みの投稿動画なのだから致し方あるまい。
バケツを置いたびしょ濡れの彼女の白いブラウスが、ピンク色に染まっていた。
静かだった未生の心の泉に、不安のさざ波が打ち寄せる。
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どうやらマッチ棒である。
此処に来てようやく未生は、不安に感じていた理由を漠然と理解した。
しばし躊躇していた莉那だったが、やがて意を決したのか、マッチをこすった。
濡れているせいか、マッチ棒は折れて下に落ちた。
はーっ。二人の小さな溜め息が同時に漏れる。
ああよかった。
未生がほっと安堵したのも束の間、直ぐさま莉那が次のマッチに火をつけると、炎はたちまちの内に彼女自身を焼き尽くさんと、黒煙を上げて燃え拡がった。
「アイスじゃないじゃん・・・」
呆然と見つめるしかない未生をよそに、スマートフォンのスピーカーからは、炎上する莉那の断末魔の叫びがいつまでもいつまでも響いていた。
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