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48 侵入者の罪
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おかしい。ワラビは途中まで上機嫌だった。なのにどうしてこんなに怒っているのだろう。いや、理由は分かる。分かるのだが納得がいかない。この間は一蓮托生だ的なことを言っていたではないか。
「ワラビ、いっしょ、言う。うそつき」
「何が嘘つきですか。一緒に散歩に行こうというから私とデートをする気になってくれたのかと思えば、連れて来られたのは王家の森で。いえ、それはいいのです。ハルとのデートがどこだろうと文句は言いません。ですが、ですが、これはどういうことなのですか! ここは王の執務室じゃないですか。分かっているのですか」
「シーッ。ワラビ、うるさい」
慌ててワラビの口を手でふさぐ。
「うるさいって」
言いながらもハルはトーンを落とした。おい、お前最後に私の手の平舐めただろう。手の平についた唾液を、ワラビの服で拭うと、ワラビの服のすそを引いて例の場所まで連れて行った。
「前言った、絵?なに?」
「前って。あなたアスタの部屋にあったといって描いて見せてくれた図のことですか?」
あの後、記憶をたどって再現したものをワラビに見せた。だが、私の絵心のなさか、記憶力の脆弱さか、ともかくワラビにも何であるかが分からなかった。
「ちょくせつ、見る、分かる言う」
「それは言いましたけど、あなた王の執務室に侵入したなんて言わなかったじゃないですか」
「ダイジョブ、私調べる、した」
最初にこの部屋に来た時から五日。直接見ればわかるといったワラビのために、毎日この部屋の様子をうかがい、警備のタイミングも図ったのだ。仮とはいえご主人様だし、そうでなくても協力者を危険にさらすなど社会人としてしてはいけないと配慮したのだ。あと三十分くらいは大丈夫のはずだ。多分。ワラビの声に誰も気づいていなければ。
「これなに?」
だからさっさと進めて退散しなければならないのだ。ワラビに図面らしき紙を差し出した。ワラビはきれいな顔をしかめた。
「ハルの絵が下手なのかと思いましたが、これはどうやらこれ一枚では何かわからないように作られていますね」
「なに?」
一文が長すぎて意味が分からない。ワラビは私に話す意識があるときは私の方を見てゆっくりはっきり喋ってくれるがそうでないと、何を言っているかわからない。恐らくもともとは誰かに何かを伝えようという意思が希薄なのだろう。
「ですから」
私を見たワラビが固まった。
「なに?」
ワラビの視線を追って、振り返る。
「それでお前たちはここで何をしているのだ?」
オーさんがいた。入り口に立ちふさがり腕を組んでいる。その後ろでミヨナさんが困ったように目をそらした。
「あ、いえ」
なるほどワラビは突発的事態に弱いのだな。ならば、私がなんとかしなければならない。
不法侵入である自覚はある。ただそれを何というのか分からない。だが私には万能の言葉がある。
「さんぽ」
「ほう」
あれ、なんか雰囲気が違う。しまったと思ったときには、オーさんに胸倉をつかまれていた。
「もう一度言ってみろ」
これが日本語ならば、そこで繰り返すことがどれだけ阿呆な致命傷なのか分かっている。もちろん私の脳みそは理解していた。だが、二言語を解す高度な情報処理をした結果、私の口から飛び出したのは例の言葉だった。
「さんぽ」
「ハル、いい加減その一言でなんとかしようとするのは止めた方がいいと思うのです」
分かっている、分かっている。意味が分からなくても分かっている。だが、口から飛び出してしまったのだ仕方ないではないか。ため息をついたワラビを振り返ると、ワラビはもう一度ダメ押しのため息をついて大きく首を横に振った。
「ミヨナ、賊の処分はどうするのが妥当だった?」
「そうですね。王の執務室に押し入った賊ですから、この場でお手打ちになさっても問題ないのでは?宰相も、将軍も文句は言えないでしょう」
「だな」
なんだか色っぽい雰囲気だ。場違いにいちゃいちゃし始めて、付き合い立てかなと思っていると、オーさんがいきなり剣を抜いた。
「へ?」
気づいたら目の先に剣があった。
「ワラビ、いっしょ、言う。うそつき」
「何が嘘つきですか。一緒に散歩に行こうというから私とデートをする気になってくれたのかと思えば、連れて来られたのは王家の森で。いえ、それはいいのです。ハルとのデートがどこだろうと文句は言いません。ですが、ですが、これはどういうことなのですか! ここは王の執務室じゃないですか。分かっているのですか」
「シーッ。ワラビ、うるさい」
慌ててワラビの口を手でふさぐ。
「うるさいって」
言いながらもハルはトーンを落とした。おい、お前最後に私の手の平舐めただろう。手の平についた唾液を、ワラビの服で拭うと、ワラビの服のすそを引いて例の場所まで連れて行った。
「前言った、絵?なに?」
「前って。あなたアスタの部屋にあったといって描いて見せてくれた図のことですか?」
あの後、記憶をたどって再現したものをワラビに見せた。だが、私の絵心のなさか、記憶力の脆弱さか、ともかくワラビにも何であるかが分からなかった。
「ちょくせつ、見る、分かる言う」
「それは言いましたけど、あなた王の執務室に侵入したなんて言わなかったじゃないですか」
「ダイジョブ、私調べる、した」
最初にこの部屋に来た時から五日。直接見ればわかるといったワラビのために、毎日この部屋の様子をうかがい、警備のタイミングも図ったのだ。仮とはいえご主人様だし、そうでなくても協力者を危険にさらすなど社会人としてしてはいけないと配慮したのだ。あと三十分くらいは大丈夫のはずだ。多分。ワラビの声に誰も気づいていなければ。
「これなに?」
だからさっさと進めて退散しなければならないのだ。ワラビに図面らしき紙を差し出した。ワラビはきれいな顔をしかめた。
「ハルの絵が下手なのかと思いましたが、これはどうやらこれ一枚では何かわからないように作られていますね」
「なに?」
一文が長すぎて意味が分からない。ワラビは私に話す意識があるときは私の方を見てゆっくりはっきり喋ってくれるがそうでないと、何を言っているかわからない。恐らくもともとは誰かに何かを伝えようという意思が希薄なのだろう。
「ですから」
私を見たワラビが固まった。
「なに?」
ワラビの視線を追って、振り返る。
「それでお前たちはここで何をしているのだ?」
オーさんがいた。入り口に立ちふさがり腕を組んでいる。その後ろでミヨナさんが困ったように目をそらした。
「あ、いえ」
なるほどワラビは突発的事態に弱いのだな。ならば、私がなんとかしなければならない。
不法侵入である自覚はある。ただそれを何というのか分からない。だが私には万能の言葉がある。
「さんぽ」
「ほう」
あれ、なんか雰囲気が違う。しまったと思ったときには、オーさんに胸倉をつかまれていた。
「もう一度言ってみろ」
これが日本語ならば、そこで繰り返すことがどれだけ阿呆な致命傷なのか分かっている。もちろん私の脳みそは理解していた。だが、二言語を解す高度な情報処理をした結果、私の口から飛び出したのは例の言葉だった。
「さんぽ」
「ハル、いい加減その一言でなんとかしようとするのは止めた方がいいと思うのです」
分かっている、分かっている。意味が分からなくても分かっている。だが、口から飛び出してしまったのだ仕方ないではないか。ため息をついたワラビを振り返ると、ワラビはもう一度ダメ押しのため息をついて大きく首を横に振った。
「ミヨナ、賊の処分はどうするのが妥当だった?」
「そうですね。王の執務室に押し入った賊ですから、この場でお手打ちになさっても問題ないのでは?宰相も、将軍も文句は言えないでしょう」
「だな」
なんだか色っぽい雰囲気だ。場違いにいちゃいちゃし始めて、付き合い立てかなと思っていると、オーさんがいきなり剣を抜いた。
「へ?」
気づいたら目の先に剣があった。
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