12 / 73
12 1か月後
しおりを挟む
想像できうるすべてのことは現実になる。
確かにそうだ、だけど精神衛生上よろしくない現実も確かに存在する。
確か昨日の風呂でワラビは女だった。それが、なぜ、どうして男になっているのだ?
ベッドの上、目の前に広がる肌色革命に気をやりかけた。少女の時代はとうに過ぎ、見事な社会人だ。一晩寝たら股間が、パンの発酵のように膨らんでいるという案件には出会ったことがない。
「神様にお祈りをしたのです!同性もいいとはいえ、やはり伴侶として」
ワラビがむにょむにょむにょと恥じらった。仕草はまだ女性だ。あいにく何を言っているかはさっぱりだ。目の前にあるのは、昨日一緒にお風呂に入った女性が、男性になっているという現実である。
悟りがひらけそうだ。
そんな世界なのだろうか。世の中とは不思議に満ちている。
※ ※ ※
初めて緑の人に出会った日から一か月。私はまだ、遭難中である。
色々あった。本当に色々あった。語るも涙、語らぬも涙。とにかく面倒くさいので、割愛させていただきたい。
とりあえず、生きている。言葉もそれなりに分かるようになった。長ったらしい名前は面倒なので割愛しているが、まあ、問題はない。この国の人たちも、私の名前を言えないので、ハル・ヨッカーで通している。佐藤や鈴木と同じくらいありふれた苗字らしい。ヨッカ―さんが多すぎて失敗したかもしれないとは思う。ハル・ヨッカーは典型的な偽名らしい。名乗るたびに胡散臭そうな顔をされる。今更どうしようもない。
緑の人の名前がワリュランス・ビュナウゼルというのだが、ワラビと呼んでいる。べつに私の発音が悪いとか、長い名前が覚えられないとかいうわけではない。愛称である。そう、親しみの証だ。そういうことにしておいてほしい。
ワラビはセドと呼ばれるこの国の競売にかけられており、競り落とした商人から、私が千円で買ったことになっていたというのは最近になって知った話だ。人を売るというのはめったにないことらしいが、ワラビはサイタリ族と呼ばれる珍しい種族で、高値がついていたらしい。それをこの国では見たことのないホログラム入りの千円札で買ったのが私だった。
とはいえ、行き場のないワラビを、遭難中の迷子が買ってしまい、当初は大変だった。どういう理由で自分を売りに出していたのかは語学力のなさでまだ訊けていない。
ただ、無一文で生きていけるわけもなく、身に着けていたもの徐々にセドにかけて売り払っていった。二人で生きていくためには必要だった。
後悔はない。ただ、ときどき無性に寂しくなることがあるだけだ。
「ハル、何をしているのですか?」
「私は、字を書きます」
夜の手習いももう慣れた。ミミズがのたうちまわって死にそうな文字しか書けないが、どこが文の切れ目かというのは分かるようになってきた。曲線と直線の長さと曲がり具合で文字が変わるなんて文字と呼んではいけないと思うが、主張する言葉を知らないので、ひたすら書いている。
小さな子供のめちゃくちゃな文字と大差なさ過ぎて進歩しているのかどうかすら分からない。
「だいぶ上手になりましたね」
私に激甘と思われるワラビの言葉は基本あてにならないが、こと教育に関してはスパルタなので信じてもいいと思っている。
「私、練習した。たくさん」
「しました、です。ていねいに話しましょうね」
私だって使い分けのできる子である。近所の悪ガキはゆるされて私は許されないという理屈は納得できない。でも、反論はしない。ワラビのお説教は長いのだ。そして最後に謎の言葉で泣きだしてしまう。
「しました。私、行ってきます」
「行くって一体どこにですか。もう暗くなりますよ」
「じょーほーしゅーしゅー」
「情報収集って、そう言って酒場に入り浸るのはよしてください。仮にも女性なのですから」
別に私も好きで言っているわけではない。ワラビの作る怪しい色の食事がこの世界の通常なのかと思っていたがそうではないと知っただけだ。知れば普通のご飯を食べたくなるというものである。傷つけずに伝えるすべを持たないので直接言ったら泣かせてしまった。
「明日、セドある。じょーほー大事。負けられない。ワラビはリドゥナ書く」
「それはそうですけど」
定期収入は家計の要。大銭を得るために撒き餌は大事だ。
私も行きますというワラビをおいて、おいしいご飯を食べにでかける。
確かにそうだ、だけど精神衛生上よろしくない現実も確かに存在する。
確か昨日の風呂でワラビは女だった。それが、なぜ、どうして男になっているのだ?
ベッドの上、目の前に広がる肌色革命に気をやりかけた。少女の時代はとうに過ぎ、見事な社会人だ。一晩寝たら股間が、パンの発酵のように膨らんでいるという案件には出会ったことがない。
「神様にお祈りをしたのです!同性もいいとはいえ、やはり伴侶として」
ワラビがむにょむにょむにょと恥じらった。仕草はまだ女性だ。あいにく何を言っているかはさっぱりだ。目の前にあるのは、昨日一緒にお風呂に入った女性が、男性になっているという現実である。
悟りがひらけそうだ。
そんな世界なのだろうか。世の中とは不思議に満ちている。
※ ※ ※
初めて緑の人に出会った日から一か月。私はまだ、遭難中である。
色々あった。本当に色々あった。語るも涙、語らぬも涙。とにかく面倒くさいので、割愛させていただきたい。
とりあえず、生きている。言葉もそれなりに分かるようになった。長ったらしい名前は面倒なので割愛しているが、まあ、問題はない。この国の人たちも、私の名前を言えないので、ハル・ヨッカーで通している。佐藤や鈴木と同じくらいありふれた苗字らしい。ヨッカ―さんが多すぎて失敗したかもしれないとは思う。ハル・ヨッカーは典型的な偽名らしい。名乗るたびに胡散臭そうな顔をされる。今更どうしようもない。
緑の人の名前がワリュランス・ビュナウゼルというのだが、ワラビと呼んでいる。べつに私の発音が悪いとか、長い名前が覚えられないとかいうわけではない。愛称である。そう、親しみの証だ。そういうことにしておいてほしい。
ワラビはセドと呼ばれるこの国の競売にかけられており、競り落とした商人から、私が千円で買ったことになっていたというのは最近になって知った話だ。人を売るというのはめったにないことらしいが、ワラビはサイタリ族と呼ばれる珍しい種族で、高値がついていたらしい。それをこの国では見たことのないホログラム入りの千円札で買ったのが私だった。
とはいえ、行き場のないワラビを、遭難中の迷子が買ってしまい、当初は大変だった。どういう理由で自分を売りに出していたのかは語学力のなさでまだ訊けていない。
ただ、無一文で生きていけるわけもなく、身に着けていたもの徐々にセドにかけて売り払っていった。二人で生きていくためには必要だった。
後悔はない。ただ、ときどき無性に寂しくなることがあるだけだ。
「ハル、何をしているのですか?」
「私は、字を書きます」
夜の手習いももう慣れた。ミミズがのたうちまわって死にそうな文字しか書けないが、どこが文の切れ目かというのは分かるようになってきた。曲線と直線の長さと曲がり具合で文字が変わるなんて文字と呼んではいけないと思うが、主張する言葉を知らないので、ひたすら書いている。
小さな子供のめちゃくちゃな文字と大差なさ過ぎて進歩しているのかどうかすら分からない。
「だいぶ上手になりましたね」
私に激甘と思われるワラビの言葉は基本あてにならないが、こと教育に関してはスパルタなので信じてもいいと思っている。
「私、練習した。たくさん」
「しました、です。ていねいに話しましょうね」
私だって使い分けのできる子である。近所の悪ガキはゆるされて私は許されないという理屈は納得できない。でも、反論はしない。ワラビのお説教は長いのだ。そして最後に謎の言葉で泣きだしてしまう。
「しました。私、行ってきます」
「行くって一体どこにですか。もう暗くなりますよ」
「じょーほーしゅーしゅー」
「情報収集って、そう言って酒場に入り浸るのはよしてください。仮にも女性なのですから」
別に私も好きで言っているわけではない。ワラビの作る怪しい色の食事がこの世界の通常なのかと思っていたがそうではないと知っただけだ。知れば普通のご飯を食べたくなるというものである。傷つけずに伝えるすべを持たないので直接言ったら泣かせてしまった。
「明日、セドある。じょーほー大事。負けられない。ワラビはリドゥナ書く」
「それはそうですけど」
定期収入は家計の要。大銭を得るために撒き餌は大事だ。
私も行きますというワラビをおいて、おいしいご飯を食べにでかける。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる