7 / 73
7 その名はワラビ
しおりを挟む
好きなおかずの日に限ってお腹を壊したし、修学旅行では浮かれて財布を忘れた。メインのテーマパークに行けずに財布を探したのは苦い思い出だ。
つまりである。肝心なときを逃すのはもう、折り込み済みだ。予定調和だ。
私という存在がある以上規定路線である。
そう、思おう。
翌朝、起きたらベッドに緑の人がいた。……まあ、いい。
テーブルの上の怪しい色のご飯を飲み込んだ。食べれない、こともない。
『ウーオ?』
「うーお?まあうおおおって叫びだしたいほどまずくはないよ。ずっと食べたいほど優しい味でもないけど」
緑の人は笑顔でぱんと手をたたいた。何かいいことがあったのだろうか。心なしか雰囲気が華やかになった気がする。
「とりあえず、ずっと緑の人ってのもあれだし、名前教えてよ。私は楠小春」
自分を指差しゆっくりと言う。
「くすのき、こはる」
緑の人はさらに笑顔になって抱きついてきた。
「いや、いらないから。ほら、言ってみて」
「クシューノゥクィハル」
なんだ、その言語は。
「もう一回」
「クシューノゥキハル」
「くすのき」
「クシューノゥクィ」
「こはる」
「クォーハル」
どうして伸ばす。なぜ長くする。うなだれられると落ち着かない。
「はる」
「ハル!」
若干発音が貼るっぽいがもういい。頷くととても嬉しそうだ。何回も唱えている。そのうち、某シップが飛び出しそうな勢いだ。
「それで、あなたの名前は?」
緑の人は私の前に来ると片膝をついた。
「いや、いらないから。膝つくとか。買ったってことになってるみたいだけど、あれは成り行きってもんで、助けるなんてつもりはこれっぽっちもなかったっていうか」
緑の人は恭しく私の手を取った。
『我、古き名の約定にのっとり、ハルを伴侶とする。我が名を捧げ証とす。ワリュランス・ビュナウゼル』
「えっ、長っ。もう一回言って名前」
ハルと言って自分をさし、相手をさせば、緑の人は頷きゆっくりと口を開いた。
『ワリュランス・ビュナウゼル』
「ワリラビナ」
分かっている、違うってのは分かっているだから、そんな捨てられた犬みたいな目で見ないでほしい。
『ワリュランス』
「ワリユラシ」
そんな残念な子を見るような目で見ないほしい。
『ビュナウゼル』
「ビナゼール」
それから何度も何度も緑の人は自分の名を繰り返した。二分で妥協した私に、緑の人はもう三十分である。鬼だ。もう無理である。何度繰り返しても私にはその発音は無理である。こっちが妥協したのだ。いい加減、緑の人も妥協すべきだが、その気配は一向にない。
大体、恐らく、私が主人らしい。ならば、ここは日本ではないのだ。もっと尊大にいってもいいのではないか。まだ何度も自分の名前を繰り返す緑の人を見つめる。緑の人が頬を染めた。どこに照れる要素があったのか。謎だ。
ともかく、新しい人間関係の構築は、最初が肝心だ。
そう、デビューだ。いけ、自分。
どん、と足を鳴らし、大げさに手を振り上げた。
「ああ、もう無理。ワラビ、ワラビ、ワラビ」
『どうしてですか、私が伴侶となるのにふさわしくないからそんな意地悪をするのですか。あなたが名を先にくださったのに』
勝手な名付けに何やら抗議をしてくるが無視である。これ以上呼べないものに時間をかけても仕方ない。
びしっと指差す。
「ワラビ!」
決定だ、とばかりにキメ顔をしてみる。
緑の人―ワラビ―がこっちをぽかんと見ていた。
この路線でいけるかもしれない。
つまりである。肝心なときを逃すのはもう、折り込み済みだ。予定調和だ。
私という存在がある以上規定路線である。
そう、思おう。
翌朝、起きたらベッドに緑の人がいた。……まあ、いい。
テーブルの上の怪しい色のご飯を飲み込んだ。食べれない、こともない。
『ウーオ?』
「うーお?まあうおおおって叫びだしたいほどまずくはないよ。ずっと食べたいほど優しい味でもないけど」
緑の人は笑顔でぱんと手をたたいた。何かいいことがあったのだろうか。心なしか雰囲気が華やかになった気がする。
「とりあえず、ずっと緑の人ってのもあれだし、名前教えてよ。私は楠小春」
自分を指差しゆっくりと言う。
「くすのき、こはる」
緑の人はさらに笑顔になって抱きついてきた。
「いや、いらないから。ほら、言ってみて」
「クシューノゥクィハル」
なんだ、その言語は。
「もう一回」
「クシューノゥキハル」
「くすのき」
「クシューノゥクィ」
「こはる」
「クォーハル」
どうして伸ばす。なぜ長くする。うなだれられると落ち着かない。
「はる」
「ハル!」
若干発音が貼るっぽいがもういい。頷くととても嬉しそうだ。何回も唱えている。そのうち、某シップが飛び出しそうな勢いだ。
「それで、あなたの名前は?」
緑の人は私の前に来ると片膝をついた。
「いや、いらないから。膝つくとか。買ったってことになってるみたいだけど、あれは成り行きってもんで、助けるなんてつもりはこれっぽっちもなかったっていうか」
緑の人は恭しく私の手を取った。
『我、古き名の約定にのっとり、ハルを伴侶とする。我が名を捧げ証とす。ワリュランス・ビュナウゼル』
「えっ、長っ。もう一回言って名前」
ハルと言って自分をさし、相手をさせば、緑の人は頷きゆっくりと口を開いた。
『ワリュランス・ビュナウゼル』
「ワリラビナ」
分かっている、違うってのは分かっているだから、そんな捨てられた犬みたいな目で見ないでほしい。
『ワリュランス』
「ワリユラシ」
そんな残念な子を見るような目で見ないほしい。
『ビュナウゼル』
「ビナゼール」
それから何度も何度も緑の人は自分の名を繰り返した。二分で妥協した私に、緑の人はもう三十分である。鬼だ。もう無理である。何度繰り返しても私にはその発音は無理である。こっちが妥協したのだ。いい加減、緑の人も妥協すべきだが、その気配は一向にない。
大体、恐らく、私が主人らしい。ならば、ここは日本ではないのだ。もっと尊大にいってもいいのではないか。まだ何度も自分の名前を繰り返す緑の人を見つめる。緑の人が頬を染めた。どこに照れる要素があったのか。謎だ。
ともかく、新しい人間関係の構築は、最初が肝心だ。
そう、デビューだ。いけ、自分。
どん、と足を鳴らし、大げさに手を振り上げた。
「ああ、もう無理。ワラビ、ワラビ、ワラビ」
『どうしてですか、私が伴侶となるのにふさわしくないからそんな意地悪をするのですか。あなたが名を先にくださったのに』
勝手な名付けに何やら抗議をしてくるが無視である。これ以上呼べないものに時間をかけても仕方ない。
びしっと指差す。
「ワラビ!」
決定だ、とばかりにキメ顔をしてみる。
緑の人―ワラビ―がこっちをぽかんと見ていた。
この路線でいけるかもしれない。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる