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2.女商人、少女を買う(二)
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彼は腕を組んで白蘭を見下ろしていた。切れ長の黒い瞳に鋭い目つき。良く通った鼻筋とやや削げた頬。細身でしなやかながら筋肉質な身体とあいまって、精悍な風貌の美男子だ。とはいえ本人にはそのような浮ついた評価を拒むようないかめしさがある。
「私は養女でございます」
冬籟と名乗った武官は苛立たしげに息をはく。
「胡散臭いな。あんたが戴家の者だとどう証明する気だ? そうだ、ならば俺から問おう。陛下が戴家に注文した品は何か答えてみろ」
この商談は皇帝と戴家との間で内密に交わされたものだった。なるほど。その問いに答えられるのは戴家の当主に荷を任せてもらった者だけだ。
「双輝石でございます」
ここで「西妃の護符についていたはずの」という言葉は控えておいた。隣で聞いていた少女が「ソウキセキって何ですか?」と不思議そうに首をかしげる。聞いたことがない名前が気になるようだ。わりと好奇心旺盛な子なのかもしれない。
冬籟が「そんな話はここではできない」と顔をしかめて少女を諭した。そりゃそうだ。「西妃の護符が消えたかもしれない」などとうてい表沙汰にできるまい。
冬籟は「あんたが戴家の者だとは分かった」と一息つくと、腰に下げていた佩玉の一つを外そうとする。
「俺がこの玉でこの子を買おう」
なんだって? この男、少女を買う趣味があるのか?
「そんな顔をするな。変な意味じゃない。元に戻してやるだけだ。あんたは義侠心にかられて、店の売り物の高価な玉を勝手に手放した。きっと養父に怒られてしまうだろう。だから俺が代わりの品をやる。それに、養父が信じてくれないと困るだろうから、俺もあんたと一緒に部屋に戻って養父に経緯を話してやろう」
白蘭は「結構です」と断った。
「養父は董に来ておりません。私が戴家当主から全権を委任され、一人で隊商を率いてきたのです」
冬籟は「は?」と面喰った顔を隠さない。
「さらに申せば、私は戴家の勘定とは別に独自の資産を持っております。そこからまかないますのでご心配なく」
「独自の資産?」
これには説明が必要だろう。
「実は私は琥王国の王族の一人なんです」
もっと端的な表現もあろうが、この説明でも嘘ではない。
「それが事実だとして、なぜ戴家の養女になって商売の真似事をしているのだ?」
真似事なんかじゃない。こっちには切実な理由もあるし、商売の実力だってある。
「父が若い女に入れあげて母を捨ててしまったのです。母は思い悩んだ末に病死しました。幼い私は母の実家に引き取られたものの、その家も落ちぶれてしまいまして。父も私を顧みないので自力で飯を食っていかねばならなくなったのです。それで自邸にあった金目のものを売り払って元手を作り、それを人に貸しつけることで財を大きくして参りました。その上で琥王宮に出入りする戴家の主に『養女を取らないか』と自分を売り込んだのです」
冬籟は呆れ顔だ。
「琥の内部がごたついているのは把握しているが。王族の血を引く娘が金貸しに手を染めるとはな。……いや王族と言っても傍系ともなるとそんなことも起きるのかもしれん。まだ小娘だというのに商人に身を落とすとは気の毒なことだ」
「私は男の寵愛にすがりつくだけだった母のようには生きたくなくて、あえて商人になることを選びました。私は商人であることに誇りを持っております」
白蘭は重々しい口調を作る。
「先ほど『義侠心にかられて』とおっしゃいましたが、私にはこの董の事情に詳しい侍女が必要なんです。私は私の判断で必要な人材を私の資産で手に入れただけのこと」
ウソだ。「侍女を探している」と言ったのは、少女を助けるためにとっさに口をついた出まかせだ。だが冬籟にそれがバレると「青臭い正義感で損失を出すとは、しょせん子どもだ」となめられてしまうだろう。
それに、こうなってみれば、身の回りの世話をしながら都の噂話などを教えてくれる女の子を雇うのは悪くない。この少女を助けて自分の利益も満たす。我ながら商人としてよい判断だと言えるだろう。
それにひきかえ「商人に身を落とす」などと商人を見下す禁軍将軍は何にも役に立っていないではないか。財は時に剣よりも強い力を持つものなのに。
白蘭は手の甲を口元に当て、ホホホと高笑いをひびかせた。
「私の財力が将軍様にも救えぬ少女を救いました。商人の面目躍如でございます」
白蘭の挑発も露骨だったが、冬籟だって不快な表情を隠さない。
「あんた、俺がこの子を救えなかったと言いたいか」
険悪な空気を察した少女が白蘭の袖をひっぱり「お嬢様、あまり偉い人を怒らせないほうがよろしゅうございますよぅ」と囁く。
冬籟が表情をゆるめた。
「俺は大人だから子ども相手に本気で怒るつもりはない。ただ、言っておくが、俺は民が安全に暮らしているかどうか見回っていて、さっきだって人買いからこの子を取り戻すつもりだった。今晩は無理でも、あの男がこの都の商売人なら市司に届け出ているはずだし、明日にでも俺から正式な通達を出して何とかするつもりだった」
「は!」と白蘭は、少女に押さえられていない方の手を振り上げた。
「女が金で買われればその日のうちに夜伽をさせられてしまいます。そんな悠長なことをやってる間にこの子の心身にとんでもない傷が刻まれたらどうするんですか!」
この将軍にはそんなことも分からないのか。
冬籟は「小娘のくせにませたことを言う」と鼻を鳴らしたものの、自分が予想してなかった事態を白蘭が回避してくれたことには素直に感謝することにしたようだった。あるいは、子ども相手にムキになるまいと思っているのかもしれない。
彼は再び腰の玉を外し始める。
「あんたの働きでこの子の身柄を迅速に保護できた。その褒賞としてこの玉を与えよう」
「いえ……」
「小娘だというのに家業の『おつかい』も大変だったろうからな。そのお駄賃でもある」
おつかい、だと? 白蘭はあからさまな子ども扱いにまたカチンときた。ぐっと胸を反らせて冬籟をにらみ上げる。
「先も申しましたが、私は戴家を代表するひとかどの商人です。年齢も性別も関係ございません。このたびの双輝石のご注文についてお話があり、私が最適な使者として董に来ることになったのです。子どものおつかいなどと侮られるいわれはありません」
「双輝石についての話?」
「ええ、そうです」
冬籟は少し考え込んだ。
「そういう話は大人の当主としたいものだが……。まあ、当主があんたでもいいと判断したんだろう。明日、陛下と私的に会えるように取り計らおう」
「皇帝陛下に会えるんですね」
冬籟はそれに答えず、やはり佩玉を取り外そうとする。
「陛下もこの一件を聞けばあんたに褒美を与えようとするだろう。だから受け取れ」
白蘭が相変わらずの子ども扱いにうんざりしながら「ですけどね……」と言いかける横で、今度は少女本人が声を上げた。
「と、冬籟様にそのようなことをしていただいても、私にはご恩を返す当てがありません……」
ほう。人買いから取り戻す対価を白蘭と冬籟のどちらが負担するかが話題となっている中、当の少女は一方的に助けられるのに甘えるつもりはないらしい。いい心意気だと白蘭は少女に好感を抱く。
「冬籟様にお返ししようにも私にはそのすべがありません。私がもう少し色香のある女性でしたら妾の一人にくらいなれたかもしれませんが……」
冬籟が慌てて片手を上げてその先を制した。
「ち、違う。俺はそんな見返りなど求めていない。勘違いするな」
白蘭は、他人に頼ることを潔しとしない少女の気概に応えてあげたいと思う。
「ねえ、貴女は奉公先を探していたのよね? 私は董の事情をよく知る侍女が欲しいの。お給金だって払うわ、どう?」
少女はきょとんとしたが飲み込みは早い。
「お給金をいただければ、その中からお嬢様に今日のご恩をお返しできます……ね」
「そうよ」
「わ、私、できるならそうしたいです。でも……私は文字の読み書きができませんから、お嬢様の侍女が務まるかどうか……」
「読み書きくらい教えてあげる。読み書きができるようになれば変な奴に騙されなくて済むし、人生の幅が広がるわ」
「そ、それは願ってもないこと……」
白蘭は「それじゃあ決まりね」と少女に頷き、次に勝ち誇った笑みを冬籟に向けた。
「商いには情報が不可欠なのに、今の私は砂漠の果てから出てきて右も左も分かりません。私はこの子から董の事情を聞きたい。その分、主人として使用人のこの子をきちんと守ります」
西妃の護符の双輝石を皇帝が内密に発注したからには、後宮で何か起こったのだ。戴家の養父も白蘭もそう判断している。それなのに皇帝からの密使は何も事情を明かさない。
白蘭は戴家の当主に自分を董の都に行かせて欲しいと頼み込んだ。
──私が皇帝の懐に飛び込み、護符にまつわる問題を解決して鼻を明かすことができれば、皇帝も私を粗略に扱えなくなる。そのためにはまずは情報収集だ。
冬籟が息を吐いた。
「小娘。この子を守るとあんたは言うが、あんた自身がまだ誰かの庇護が必要な子どもだろうに。無理に背伸びすることはない。子どもでいられる間は子どもでいた方が幸せだ」
白蘭は即座に言い返す。
「子どもは大人になりたいと願いながら生きるものです。そうでなければ日々の甲斐もありません。どうせ大人になるのなら、私はきちんとした大人になりたい」
「いつまでも子どもではいられない……か」
冬籟の視線がどこか遠くに向けられる。いかめしさが薄れた顔はこれまで思っていたよりも年若く見えた。
何か個人的に思うところがあったようだが、彼はすぐに表情を引きしめ自分の立場に戻る。
「あんたが董で大人としてふるまうつもりなら、陛下の側近として命令する。陛下を傷つけるな。陛下もその周囲も、だ。分かったか?」
──私のすることで、皇帝やその周囲が傷つくことにはならないはず……。
白蘭はただ無言で頷いた。
「私は養女でございます」
冬籟と名乗った武官は苛立たしげに息をはく。
「胡散臭いな。あんたが戴家の者だとどう証明する気だ? そうだ、ならば俺から問おう。陛下が戴家に注文した品は何か答えてみろ」
この商談は皇帝と戴家との間で内密に交わされたものだった。なるほど。その問いに答えられるのは戴家の当主に荷を任せてもらった者だけだ。
「双輝石でございます」
ここで「西妃の護符についていたはずの」という言葉は控えておいた。隣で聞いていた少女が「ソウキセキって何ですか?」と不思議そうに首をかしげる。聞いたことがない名前が気になるようだ。わりと好奇心旺盛な子なのかもしれない。
冬籟が「そんな話はここではできない」と顔をしかめて少女を諭した。そりゃそうだ。「西妃の護符が消えたかもしれない」などとうてい表沙汰にできるまい。
冬籟は「あんたが戴家の者だとは分かった」と一息つくと、腰に下げていた佩玉の一つを外そうとする。
「俺がこの玉でこの子を買おう」
なんだって? この男、少女を買う趣味があるのか?
「そんな顔をするな。変な意味じゃない。元に戻してやるだけだ。あんたは義侠心にかられて、店の売り物の高価な玉を勝手に手放した。きっと養父に怒られてしまうだろう。だから俺が代わりの品をやる。それに、養父が信じてくれないと困るだろうから、俺もあんたと一緒に部屋に戻って養父に経緯を話してやろう」
白蘭は「結構です」と断った。
「養父は董に来ておりません。私が戴家当主から全権を委任され、一人で隊商を率いてきたのです」
冬籟は「は?」と面喰った顔を隠さない。
「さらに申せば、私は戴家の勘定とは別に独自の資産を持っております。そこからまかないますのでご心配なく」
「独自の資産?」
これには説明が必要だろう。
「実は私は琥王国の王族の一人なんです」
もっと端的な表現もあろうが、この説明でも嘘ではない。
「それが事実だとして、なぜ戴家の養女になって商売の真似事をしているのだ?」
真似事なんかじゃない。こっちには切実な理由もあるし、商売の実力だってある。
「父が若い女に入れあげて母を捨ててしまったのです。母は思い悩んだ末に病死しました。幼い私は母の実家に引き取られたものの、その家も落ちぶれてしまいまして。父も私を顧みないので自力で飯を食っていかねばならなくなったのです。それで自邸にあった金目のものを売り払って元手を作り、それを人に貸しつけることで財を大きくして参りました。その上で琥王宮に出入りする戴家の主に『養女を取らないか』と自分を売り込んだのです」
冬籟は呆れ顔だ。
「琥の内部がごたついているのは把握しているが。王族の血を引く娘が金貸しに手を染めるとはな。……いや王族と言っても傍系ともなるとそんなことも起きるのかもしれん。まだ小娘だというのに商人に身を落とすとは気の毒なことだ」
「私は男の寵愛にすがりつくだけだった母のようには生きたくなくて、あえて商人になることを選びました。私は商人であることに誇りを持っております」
白蘭は重々しい口調を作る。
「先ほど『義侠心にかられて』とおっしゃいましたが、私にはこの董の事情に詳しい侍女が必要なんです。私は私の判断で必要な人材を私の資産で手に入れただけのこと」
ウソだ。「侍女を探している」と言ったのは、少女を助けるためにとっさに口をついた出まかせだ。だが冬籟にそれがバレると「青臭い正義感で損失を出すとは、しょせん子どもだ」となめられてしまうだろう。
それに、こうなってみれば、身の回りの世話をしながら都の噂話などを教えてくれる女の子を雇うのは悪くない。この少女を助けて自分の利益も満たす。我ながら商人としてよい判断だと言えるだろう。
それにひきかえ「商人に身を落とす」などと商人を見下す禁軍将軍は何にも役に立っていないではないか。財は時に剣よりも強い力を持つものなのに。
白蘭は手の甲を口元に当て、ホホホと高笑いをひびかせた。
「私の財力が将軍様にも救えぬ少女を救いました。商人の面目躍如でございます」
白蘭の挑発も露骨だったが、冬籟だって不快な表情を隠さない。
「あんた、俺がこの子を救えなかったと言いたいか」
険悪な空気を察した少女が白蘭の袖をひっぱり「お嬢様、あまり偉い人を怒らせないほうがよろしゅうございますよぅ」と囁く。
冬籟が表情をゆるめた。
「俺は大人だから子ども相手に本気で怒るつもりはない。ただ、言っておくが、俺は民が安全に暮らしているかどうか見回っていて、さっきだって人買いからこの子を取り戻すつもりだった。今晩は無理でも、あの男がこの都の商売人なら市司に届け出ているはずだし、明日にでも俺から正式な通達を出して何とかするつもりだった」
「は!」と白蘭は、少女に押さえられていない方の手を振り上げた。
「女が金で買われればその日のうちに夜伽をさせられてしまいます。そんな悠長なことをやってる間にこの子の心身にとんでもない傷が刻まれたらどうするんですか!」
この将軍にはそんなことも分からないのか。
冬籟は「小娘のくせにませたことを言う」と鼻を鳴らしたものの、自分が予想してなかった事態を白蘭が回避してくれたことには素直に感謝することにしたようだった。あるいは、子ども相手にムキになるまいと思っているのかもしれない。
彼は再び腰の玉を外し始める。
「あんたの働きでこの子の身柄を迅速に保護できた。その褒賞としてこの玉を与えよう」
「いえ……」
「小娘だというのに家業の『おつかい』も大変だったろうからな。そのお駄賃でもある」
おつかい、だと? 白蘭はあからさまな子ども扱いにまたカチンときた。ぐっと胸を反らせて冬籟をにらみ上げる。
「先も申しましたが、私は戴家を代表するひとかどの商人です。年齢も性別も関係ございません。このたびの双輝石のご注文についてお話があり、私が最適な使者として董に来ることになったのです。子どものおつかいなどと侮られるいわれはありません」
「双輝石についての話?」
「ええ、そうです」
冬籟は少し考え込んだ。
「そういう話は大人の当主としたいものだが……。まあ、当主があんたでもいいと判断したんだろう。明日、陛下と私的に会えるように取り計らおう」
「皇帝陛下に会えるんですね」
冬籟はそれに答えず、やはり佩玉を取り外そうとする。
「陛下もこの一件を聞けばあんたに褒美を与えようとするだろう。だから受け取れ」
白蘭が相変わらずの子ども扱いにうんざりしながら「ですけどね……」と言いかける横で、今度は少女本人が声を上げた。
「と、冬籟様にそのようなことをしていただいても、私にはご恩を返す当てがありません……」
ほう。人買いから取り戻す対価を白蘭と冬籟のどちらが負担するかが話題となっている中、当の少女は一方的に助けられるのに甘えるつもりはないらしい。いい心意気だと白蘭は少女に好感を抱く。
「冬籟様にお返ししようにも私にはそのすべがありません。私がもう少し色香のある女性でしたら妾の一人にくらいなれたかもしれませんが……」
冬籟が慌てて片手を上げてその先を制した。
「ち、違う。俺はそんな見返りなど求めていない。勘違いするな」
白蘭は、他人に頼ることを潔しとしない少女の気概に応えてあげたいと思う。
「ねえ、貴女は奉公先を探していたのよね? 私は董の事情をよく知る侍女が欲しいの。お給金だって払うわ、どう?」
少女はきょとんとしたが飲み込みは早い。
「お給金をいただければ、その中からお嬢様に今日のご恩をお返しできます……ね」
「そうよ」
「わ、私、できるならそうしたいです。でも……私は文字の読み書きができませんから、お嬢様の侍女が務まるかどうか……」
「読み書きくらい教えてあげる。読み書きができるようになれば変な奴に騙されなくて済むし、人生の幅が広がるわ」
「そ、それは願ってもないこと……」
白蘭は「それじゃあ決まりね」と少女に頷き、次に勝ち誇った笑みを冬籟に向けた。
「商いには情報が不可欠なのに、今の私は砂漠の果てから出てきて右も左も分かりません。私はこの子から董の事情を聞きたい。その分、主人として使用人のこの子をきちんと守ります」
西妃の護符の双輝石を皇帝が内密に発注したからには、後宮で何か起こったのだ。戴家の養父も白蘭もそう判断している。それなのに皇帝からの密使は何も事情を明かさない。
白蘭は戴家の当主に自分を董の都に行かせて欲しいと頼み込んだ。
──私が皇帝の懐に飛び込み、護符にまつわる問題を解決して鼻を明かすことができれば、皇帝も私を粗略に扱えなくなる。そのためにはまずは情報収集だ。
冬籟が息を吐いた。
「小娘。この子を守るとあんたは言うが、あんた自身がまだ誰かの庇護が必要な子どもだろうに。無理に背伸びすることはない。子どもでいられる間は子どもでいた方が幸せだ」
白蘭は即座に言い返す。
「子どもは大人になりたいと願いながら生きるものです。そうでなければ日々の甲斐もありません。どうせ大人になるのなら、私はきちんとした大人になりたい」
「いつまでも子どもではいられない……か」
冬籟の視線がどこか遠くに向けられる。いかめしさが薄れた顔はこれまで思っていたよりも年若く見えた。
何か個人的に思うところがあったようだが、彼はすぐに表情を引きしめ自分の立場に戻る。
「あんたが董で大人としてふるまうつもりなら、陛下の側近として命令する。陛下を傷つけるな。陛下もその周囲も、だ。分かったか?」
──私のすることで、皇帝やその周囲が傷つくことにはならないはず……。
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