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第14話 おせち料理
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クリスマスが終われば正月だ。
俺は実家でダラダラと過ごしている。夕食はもちろん、百貨店に発注したおせち料理だ。
親父は自分の部屋で、年賀状を送ってくれた親戚と電話で話し込んでいる。母が一足先に台所からお重をを持ってくると食卓に広げた。
「時代は良くなったわよねえ。私が子供の時は、おせち調理を、おばあちゃんが年末に台所にこもりっきりで一から手作りしてたのよ~。昭和は遠くになりにけり、よねえ」
確かに俺のような世代にとっては、おせち料理はプロの料理人が作ったものを購入するのが当たり前だ。
「おばあちゃん、料理上手だったの?」
「ううん、全然」
そうか。俺の母親のメシマズは、その上の世代から引き継がれてきたのか。
親父の話はまだ終わりそうにない。俺は見るともなしにおせちを眺めた。数の子の黄金色がやけに目に眩しい。
「おせちってさ……。子孫繁栄の縁起かつぎが多いよね」
母は取り皿を並べながら何の気なしに「そうねえ」と応じる。
「母さん」
「な、何? 改まって……」
そのぎょっとした母の顔からすると、俺の口調はずいぶん重々しかったのかもしれない。
「母さんって、やっぱり孫が欲しいと思う?」
「は?」
しばしの無言の後、母は俺に駆け寄ると俺の両肩を掴んで力任せにブンブンと揺さぶった。
「あんた! ひょっとしてどこかのお嬢さんを妊娠させたの⁈」
「はああっ?」
「そりゃ産んでもらいなさい!」
「いや、違う、全く違う! 完全に誤解だ!」
やけに低い声で「本当?」と聞かれたので、俺も「本当だとも」と真面目に返す。
ふうっと母が息を吐いた。
「まあ、あんた、女っけないからねえ。でも、いったい何を藪から棒に孫の話なんか……」
ここまで騒がれてしまった以上、今さら「何ともない」とは言えないよなあ……。
「いや。話は逆で。好きな女性が子供を生めない人だったんだ……」
「はあ……」
母はきょとんとしている。
「母さん、さっき、妊娠した女性がいたら産んでもらえって言ったよね。やっぱり孫って欲しいもの……?」
いやいやいやいやと母は首を激しく振った。
「あんたのせいで命を奪われる赤ちゃんがいたらだめだと思っただけで……」
思案気な顔でこう付け加える。
「生きて存在するものに対して大切にしなくちゃという気持ちは自然と湧いて出てくるけど……。今存在しているわけでもないものを欲しいかどうかって……あまり考えたことないわねえ」
目を宙に泳がせながら時間をかけて考え込んでいたが、やはり同じような結論になるらしい。
「うん、今いないものを想像してみて、いなければどう思うかって……わりと抽象的な質問だよ。実感がわかない」
「そう……そういうもの?」
「っていうか、あんたが赤ちゃんでオムツしてたのがつい昨日のように思えるけどねえ……」と母は俺の幼少期の話をしばらく続け、そして締めくくった。
「まあ、赤ちゃんの世話はあんたで十分だし。言っとくけど、年寄りのみんながみんな孫を望んでるわけじゃないわよ? こないだ、あんたの小学校の友達の田中君のお母さんにスーパーで会ったけど、孫の面倒を見るのが体力的に辛いって言ってた」
「孫に恵まれた自分を謙遜してとか、ぼやいてみせて実は幸せ自慢とかじゃなくて?」
女同士のマウンティングとか色々あるんじゃないだろうか。
「それもあるかもしれないけど……。今は子供夫婦もみんな共働きだからさ。祖父母が孫の育児に駆り出されるでしょ? あれ、百パーセント歓迎している人ばかりじゃないと思うよ。たまに顔を見せに来るくらいなら、小さい子どもが好きかどうかにかかわらずいい顔できるけど。せっかく育児が終わったのにまた赤ちゃんの面倒見なきゃいけないの? って思っている人も多いと思う。昔みたいに子育てだけが人生だと思ってないしね、私たちの世代は」
一般論はともかく、貴女はどうなんですか?
「別にどっちでもいいよ。あんた、もう社会人で経済的に自立してる上に、独り暮らしで自炊もしてる。しっかり自立した一人の人間の人生、他人が口を挟むこっちゃない」
特に料理はねえ……と母が言いかけた時、電話を終えた父がリビングに入ってきた。
「料理がなんだ?」
「この子がやたら料理が得意な子に育ったって話。すっかり巣立っちゃってもう……」
今初めて会話に加わった父がひょいと言う。
「そうだ、お前、料理が上手いんだから、そこを女性にアピールできるんじゃないのか?」
ああ、父子で似たようなことを思いつくもんだな。
「やってみた……」
俺は千石さんを誘ったあたりから話し始めた。父は黙って聞いているが、母はいちいち口に入れたおせちに「あら、おいしい」「珍しい味」とコメントをつけて話の腰を折る。じゃあ俺の話を聞いていないのかと思いきや、話し終えると早々に身もふたもないほど正鵠を得た感想で締めくくった。
「その千石って人、いけすかないわねえ」
「……」
「その人、きっと田村さんが『かわいそう』だから友達でいたんだろうねえ」
「えーと」
「少なくとも、あんたの家に一緒に行く相手に選んだのは、田村さんが『かわいそう』で男の人とつきあえないと千石さんが思っているから。自分に気がある男性の所に自分より魅力的な女性を連れて行かないよ。安全牌だとナメてたんだね」
「なるほど」
女性同士の付き合いを長らく務めて来たベテランらしい洞察だ。
「ナメてた田村さんが、自分をフッたあんたに好かれてるのが千石さんには不愉快だったのよ。それで、『友達』のデリケートな身体の事情をばらしたんでしょ」
「そう、だね……。無神経なことをするなあと思ったけど、千石さんにはそういう悪意があったわけだ……」
母は栗きんとんを用意していたスプーンですくい取る。
「『かわいそう』と思った相手に、親切に『してあげる』という形でしか関われない人だよ。自分より何かが勝っている人とは付き合えない。あんたのことも『つきあってあげる』って上から目線だったんでしょ?」
「うん」
父親がもうお腹が一杯なのか箸をおいた。
「美人だからって、そんな性格ではな」
母が大声で言う。
「ねえ! 美人でなくても性格が明朗活発な女性が一番だよ、私みたいにさ!」
父は俺に目を向ける。
「いや、母さんはいい母さんだけど、料理がもう少し上手いとよかったなあ……」
「うん……」
母はめげない。
「私がメシマズだから、息子がこんなに料理好きに育ったんじゃない!」
それは誇らしげに言うことか?
「料理好きで、性格の良さそうな彼女ができそうで。私の育児の賜物よ」
冗談をおっしゃっていますが、それは俺が田村さんと付き合うということを認めてくれるということでよろしゅうござますかね?
そう問うと、「あんたねえ。さっきも言ったじゃん。経済的にも食生活的にも自立した人間のおつきあいなんか、もう親の関わることじゃないわよ」と皿を片付け始めてしまった。
翌朝、洗面所で髭をそっていたら、父親も入ってきた。
「今いいか?」
俺は洗面所を使いたいのかと思って、鏡の前で隣の空間をあけた。父はそこに立ちはしたが、別に蛇口に用はなかったようだ。
「孫の話……夕べ母さんと話し合ったんだが」
ああ……やっぱり、夫婦で相談するようなことなのか。
「まあ、一生孫を持てないと考えると確かに重い話という面があるが……。だが、母さんが言うように『現在存在しているものに愛情は感じても、今存在しているわけでもないものには具体的な感情は持ちづらい』ものだという話だという結論に達したよ」
「……」
「そうとしか思えないと父さんも思う。孫というのは、いたらいたで可愛いんだろうが……。いないから何か感じるかといえば……ピンとこない。世間には、血縁上の孫がいても全く顔を合わさないというケースもあるだろうし、子どもが結婚してから自分たちの子どもを持たないライフスタイルを選択することもあるだろうし……」
「……」
そんなことよりも、と父の声が重くなる。
「話したことがあると思うが、父さんの親友が災害で亡くなっている」
俺は鏡の中の父の顔を見た。その話は何度か聞いている。父が独身の頃、つまり俺とほとんど同じ年代の頃の話だ。友人は少し離れた土地で大震災のがれきに埋もれて命を落とした。父は有給休暇を目一杯使って、何度も何度もその地を訪れたのだという。
「人間は、いつどうなるか分からない。悔いのないように生きるべきだと思う。お前にとって好きな女性がいるなら……今、お前の目の前にいる女性ときちんと向き合った方がいいんじゃないか」
「……」
父は鏡越しではなく、俺の実像に体を向ける。俺もだから父を見た。俺は父より背は高くなったが、こんな重々しい威厳はない。
「今を大切に生きろ。孫を子供に産んで欲しいかなんて二次的な問題だ。まずは子どもが幸せであって欲しい。それが親の願いと言うものだ」
「……ありがとう」
幼い頃は両親を「パパ」「ママ」と呼んでいた。父さん母さんと呼ぶようになっても、重大事を決める意思決定にはなんだかんだで相談して関わってもらった。今、台所を別にした俺は、もうそうじゃない。
俺が話をした相手は、もう「パパ」「ママ」ではなく、それぞれが人生の先輩だ。
父は照れたのが口調を変えた。
「ああ、これから父さんたちはお正月に海外旅行を楽しむことにしたぞ。お前はいちいち実家に帰ってこなくていいからな」
「……うん」
海外に行けば、おせち料理を食べずに済むだろう。子孫繁栄の縁起物とは距離を取って過ごせる。
そういえば田村さんが「少額だけど親に仕送りしてる」って言ってたっけ。俺も少し渡そう。両親は受け取ってくれないかもしれないが、それなら「これで俺の分のお土産買ってきて」と頼もう。
いや、お金のことだけじゃないな。親が老いていく時間を楽しめるように、俺に出来ることをやっていこう。田村さんもきっと一緒に考えてくれるに違いない。
俺は実家でダラダラと過ごしている。夕食はもちろん、百貨店に発注したおせち料理だ。
親父は自分の部屋で、年賀状を送ってくれた親戚と電話で話し込んでいる。母が一足先に台所からお重をを持ってくると食卓に広げた。
「時代は良くなったわよねえ。私が子供の時は、おせち調理を、おばあちゃんが年末に台所にこもりっきりで一から手作りしてたのよ~。昭和は遠くになりにけり、よねえ」
確かに俺のような世代にとっては、おせち料理はプロの料理人が作ったものを購入するのが当たり前だ。
「おばあちゃん、料理上手だったの?」
「ううん、全然」
そうか。俺の母親のメシマズは、その上の世代から引き継がれてきたのか。
親父の話はまだ終わりそうにない。俺は見るともなしにおせちを眺めた。数の子の黄金色がやけに目に眩しい。
「おせちってさ……。子孫繁栄の縁起かつぎが多いよね」
母は取り皿を並べながら何の気なしに「そうねえ」と応じる。
「母さん」
「な、何? 改まって……」
そのぎょっとした母の顔からすると、俺の口調はずいぶん重々しかったのかもしれない。
「母さんって、やっぱり孫が欲しいと思う?」
「は?」
しばしの無言の後、母は俺に駆け寄ると俺の両肩を掴んで力任せにブンブンと揺さぶった。
「あんた! ひょっとしてどこかのお嬢さんを妊娠させたの⁈」
「はああっ?」
「そりゃ産んでもらいなさい!」
「いや、違う、全く違う! 完全に誤解だ!」
やけに低い声で「本当?」と聞かれたので、俺も「本当だとも」と真面目に返す。
ふうっと母が息を吐いた。
「まあ、あんた、女っけないからねえ。でも、いったい何を藪から棒に孫の話なんか……」
ここまで騒がれてしまった以上、今さら「何ともない」とは言えないよなあ……。
「いや。話は逆で。好きな女性が子供を生めない人だったんだ……」
「はあ……」
母はきょとんとしている。
「母さん、さっき、妊娠した女性がいたら産んでもらえって言ったよね。やっぱり孫って欲しいもの……?」
いやいやいやいやと母は首を激しく振った。
「あんたのせいで命を奪われる赤ちゃんがいたらだめだと思っただけで……」
思案気な顔でこう付け加える。
「生きて存在するものに対して大切にしなくちゃという気持ちは自然と湧いて出てくるけど……。今存在しているわけでもないものを欲しいかどうかって……あまり考えたことないわねえ」
目を宙に泳がせながら時間をかけて考え込んでいたが、やはり同じような結論になるらしい。
「うん、今いないものを想像してみて、いなければどう思うかって……わりと抽象的な質問だよ。実感がわかない」
「そう……そういうもの?」
「っていうか、あんたが赤ちゃんでオムツしてたのがつい昨日のように思えるけどねえ……」と母は俺の幼少期の話をしばらく続け、そして締めくくった。
「まあ、赤ちゃんの世話はあんたで十分だし。言っとくけど、年寄りのみんながみんな孫を望んでるわけじゃないわよ? こないだ、あんたの小学校の友達の田中君のお母さんにスーパーで会ったけど、孫の面倒を見るのが体力的に辛いって言ってた」
「孫に恵まれた自分を謙遜してとか、ぼやいてみせて実は幸せ自慢とかじゃなくて?」
女同士のマウンティングとか色々あるんじゃないだろうか。
「それもあるかもしれないけど……。今は子供夫婦もみんな共働きだからさ。祖父母が孫の育児に駆り出されるでしょ? あれ、百パーセント歓迎している人ばかりじゃないと思うよ。たまに顔を見せに来るくらいなら、小さい子どもが好きかどうかにかかわらずいい顔できるけど。せっかく育児が終わったのにまた赤ちゃんの面倒見なきゃいけないの? って思っている人も多いと思う。昔みたいに子育てだけが人生だと思ってないしね、私たちの世代は」
一般論はともかく、貴女はどうなんですか?
「別にどっちでもいいよ。あんた、もう社会人で経済的に自立してる上に、独り暮らしで自炊もしてる。しっかり自立した一人の人間の人生、他人が口を挟むこっちゃない」
特に料理はねえ……と母が言いかけた時、電話を終えた父がリビングに入ってきた。
「料理がなんだ?」
「この子がやたら料理が得意な子に育ったって話。すっかり巣立っちゃってもう……」
今初めて会話に加わった父がひょいと言う。
「そうだ、お前、料理が上手いんだから、そこを女性にアピールできるんじゃないのか?」
ああ、父子で似たようなことを思いつくもんだな。
「やってみた……」
俺は千石さんを誘ったあたりから話し始めた。父は黙って聞いているが、母はいちいち口に入れたおせちに「あら、おいしい」「珍しい味」とコメントをつけて話の腰を折る。じゃあ俺の話を聞いていないのかと思いきや、話し終えると早々に身もふたもないほど正鵠を得た感想で締めくくった。
「その千石って人、いけすかないわねえ」
「……」
「その人、きっと田村さんが『かわいそう』だから友達でいたんだろうねえ」
「えーと」
「少なくとも、あんたの家に一緒に行く相手に選んだのは、田村さんが『かわいそう』で男の人とつきあえないと千石さんが思っているから。自分に気がある男性の所に自分より魅力的な女性を連れて行かないよ。安全牌だとナメてたんだね」
「なるほど」
女性同士の付き合いを長らく務めて来たベテランらしい洞察だ。
「ナメてた田村さんが、自分をフッたあんたに好かれてるのが千石さんには不愉快だったのよ。それで、『友達』のデリケートな身体の事情をばらしたんでしょ」
「そう、だね……。無神経なことをするなあと思ったけど、千石さんにはそういう悪意があったわけだ……」
母は栗きんとんを用意していたスプーンですくい取る。
「『かわいそう』と思った相手に、親切に『してあげる』という形でしか関われない人だよ。自分より何かが勝っている人とは付き合えない。あんたのことも『つきあってあげる』って上から目線だったんでしょ?」
「うん」
父親がもうお腹が一杯なのか箸をおいた。
「美人だからって、そんな性格ではな」
母が大声で言う。
「ねえ! 美人でなくても性格が明朗活発な女性が一番だよ、私みたいにさ!」
父は俺に目を向ける。
「いや、母さんはいい母さんだけど、料理がもう少し上手いとよかったなあ……」
「うん……」
母はめげない。
「私がメシマズだから、息子がこんなに料理好きに育ったんじゃない!」
それは誇らしげに言うことか?
「料理好きで、性格の良さそうな彼女ができそうで。私の育児の賜物よ」
冗談をおっしゃっていますが、それは俺が田村さんと付き合うということを認めてくれるということでよろしゅうござますかね?
そう問うと、「あんたねえ。さっきも言ったじゃん。経済的にも食生活的にも自立した人間のおつきあいなんか、もう親の関わることじゃないわよ」と皿を片付け始めてしまった。
翌朝、洗面所で髭をそっていたら、父親も入ってきた。
「今いいか?」
俺は洗面所を使いたいのかと思って、鏡の前で隣の空間をあけた。父はそこに立ちはしたが、別に蛇口に用はなかったようだ。
「孫の話……夕べ母さんと話し合ったんだが」
ああ……やっぱり、夫婦で相談するようなことなのか。
「まあ、一生孫を持てないと考えると確かに重い話という面があるが……。だが、母さんが言うように『現在存在しているものに愛情は感じても、今存在しているわけでもないものには具体的な感情は持ちづらい』ものだという話だという結論に達したよ」
「……」
「そうとしか思えないと父さんも思う。孫というのは、いたらいたで可愛いんだろうが……。いないから何か感じるかといえば……ピンとこない。世間には、血縁上の孫がいても全く顔を合わさないというケースもあるだろうし、子どもが結婚してから自分たちの子どもを持たないライフスタイルを選択することもあるだろうし……」
「……」
そんなことよりも、と父の声が重くなる。
「話したことがあると思うが、父さんの親友が災害で亡くなっている」
俺は鏡の中の父の顔を見た。その話は何度か聞いている。父が独身の頃、つまり俺とほとんど同じ年代の頃の話だ。友人は少し離れた土地で大震災のがれきに埋もれて命を落とした。父は有給休暇を目一杯使って、何度も何度もその地を訪れたのだという。
「人間は、いつどうなるか分からない。悔いのないように生きるべきだと思う。お前にとって好きな女性がいるなら……今、お前の目の前にいる女性ときちんと向き合った方がいいんじゃないか」
「……」
父は鏡越しではなく、俺の実像に体を向ける。俺もだから父を見た。俺は父より背は高くなったが、こんな重々しい威厳はない。
「今を大切に生きろ。孫を子供に産んで欲しいかなんて二次的な問題だ。まずは子どもが幸せであって欲しい。それが親の願いと言うものだ」
「……ありがとう」
幼い頃は両親を「パパ」「ママ」と呼んでいた。父さん母さんと呼ぶようになっても、重大事を決める意思決定にはなんだかんだで相談して関わってもらった。今、台所を別にした俺は、もうそうじゃない。
俺が話をした相手は、もう「パパ」「ママ」ではなく、それぞれが人生の先輩だ。
父は照れたのが口調を変えた。
「ああ、これから父さんたちはお正月に海外旅行を楽しむことにしたぞ。お前はいちいち実家に帰ってこなくていいからな」
「……うん」
海外に行けば、おせち料理を食べずに済むだろう。子孫繁栄の縁起物とは距離を取って過ごせる。
そういえば田村さんが「少額だけど親に仕送りしてる」って言ってたっけ。俺も少し渡そう。両親は受け取ってくれないかもしれないが、それなら「これで俺の分のお土産買ってきて」と頼もう。
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