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第10話 根幹の世界観の参考になるかも?『天下と天朝の中国史』

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図書館でタイトルに惹かれて借りてくるものの、他の本を読むので時間を取られてついつい読まないまま返却してしまう……。これを2,3回繰り返したでしょうか。

そんな私がとうとう購入に踏み切り、そして読了。
「これ! もっと早くに読んでおいたら良かったやつや!」と感じているのが今回ご紹介する本です。

檀上寛さんの『天下と天朝の中国史』です( 2016 岩波新書 https://www.iwanami.co.jp/search/?search_menu=keyword&tab=3&search_word=%E5%A4%A9%E4%B8%8B%E3%81%A8%E5%A4%A9%E6%9C%9D%E3%81%AE%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%8F%B2 )。

正確さを犠牲にして、すっごくざっくり言うと「中国の世界観では、徳を備えた者が天から統治を任される。その天子が収める天下とは、狭義には皇帝の直轄地であり、広義にはそれに周辺の夷が加わる。歴代王朝が前王朝と自分たちの王朝をどう正当化し、華夷を秩序付けてきたのか」について述べられた書です。

天から有徳の受命者が玉座を得る……は、小野不由美さんの『十二国記』の世界観でおなじみですね!
中華思想にのっとり夷を軽んじるのは、喜咲冬子さんの『流転の貴妃 或いは塞外の女王』の後半に出てきました。私はここらあたりが面白かったです!

では、話をこの『天下と天朝の中国史』に戻しまして。
まず、ざっと目次を上げていきます。

第一章 溥天の下、黄土に非ざる莫し ─ 春秋・戦国時代
第二章 天朝体制の仕組み ─ 秦・漢
第三章 北の天下、南の天下 ─ 漢・魏晋南北朝①
第四章 天下と天下秩序 ─ 漢・魏晋南北朝②
第五章 中国の大天下と倭国の小天下 ─ 南朝・隋・唐
第六章 東アジアの天下システム ─ 唐
第七章 天朝の行方 ─ 五代十国・宋・遼・金
第八章 天下一家の完成 ─ 元
第九章 天下一家から華夷一家へ ─ 明
第十章 華夷変態と中外一家 ─ 清
第十一章 中華民族の大家庭 ─ 近・現代 

第一章は春秋戦国時代。
中華の「華」という漢字。実在を裏付ける史資料はないものの古代に存在したとされる「夏《か》」王朝から来ているそうですね。「夏」の後「殷」「周」になっても、人々は「自分たちの音を夏と称していたらしい」のだそうです(6頁)。

夷については「当初、華の側は夷に対して民族的な違いを認めながらも、差別感などはあまりなかったらしい」です。ところが、儒家思想の中で「華夷の別」「華夷の辯」などとして、差別的な傾向が顕著になっていきます。

第二章は秦漢時代で、「郊祀と宗廟祀」について一節が割かれています。
私の書く予定の中華ファンタジーでは皇帝家の宗廟が舞台の一つとなるので、興味をもって読みました。

第三章は漢魏晋南北朝です。
華夷の別は民族や地域で分けられていたのですが、ここらあたりで礼義などの文化があるかどうかも加味されるようになります。
五胡十六国時代、「民族的には漢でなくても、中華文化、いわゆる『礼・義』を体得すれば華になれるとする見方」も加わっていくのです(44頁)。

もっとも、漢族こそが中華であるという意識は残ります。
「西晋滅亡後、華北の漢族にとっては衰えたりといえども江南の東晋が正統王朝であり、中華文化を共有した漢族としての矜持と優越感が彼らの心の支えであった」とあります(49頁)。
私も、私の作品世界で南の方に「我こそは伝統の承継者」と考えている守旧派勢力を登場させる予定です。

第四章も漢・魏晋南北朝です。ここでは「夷狄の首長への王爵の授与」=「冊封」について述べられます。
「冊封されると中国皇帝(天子)の臣下となり、冊封時にその身分を表す印章を授かり、定期的な朝貢が義務付けられる。朝貢は、夷狄が天子の徳を慕って(これを募化という)中華に出向く行為として解釈」されました(74頁)。

日本の「漢委奴国王」の金印ですね! もちろんこの本にも登場しますとも。
私も九州に旅行に行った時に実物見ましたよ。

「王爵と印綬」という項目で、印の材質やつまみ(紐)の形態、印を下げるための紐(綬)についても触れられています。

第五章は南朝・隋・唐です。
倭の五王は南朝の宋に使者を送り、その記録(『宋書』倭国伝)を読むと、この時代に日本の王は王で、自分達が治める範囲を「天下」と認識していたことが分かります。
同じ現象は朝鮮にも見られ、この時期は中国の大天下と周辺国の小天下とが存在していた時期でした。
ここらあたり私はもともと日本史畑なので面白かったです。

第六章は唐です。
絢爛たる世界帝国ですね。朝貢してくる国もぐっと増え「天朝の盛時」を迎えます。
この唐代に元旦の「元会儀礼」が定まります。「元会儀礼とは、唐の都長安の太極宮太極殿とその殿庭で行われる皇帝への新年の拝賀儀礼」です。参列者、儀仗兵、楽団員合わせて一万人以上にのぼるのだとか。
「元会儀礼」の項目では、皇帝の身に着けるもの(袞冕・通天冠・絳紗袍など)や、参列者の所作(俛伏・興・跪)などについて触れられています。この辺、ファンタジーに使えるかもしれません。

私は自分の作品をだいたい唐をモデルにして書こうかと思っているので、これ以降の章の紹介は割愛させていただきますが、もちろん最後まで読みましたし、面白かったですよ!

この本の冒頭のプロローグは、この21世紀に中国が大国化し周辺諸国にとって軍事的脅威となっている事実の指摘から始まります(日本の防衛白書の文章も引用されていますよ)。
単純に結び付けられないものの、現代の中国の高圧的な態度を知るには「中華帝国の行動原理の追求が必要」だと著者はおっしゃいます。

宋、元、明、清、中華民国と時代が下っていくにつ入れ、この本の現代史に繋がる意義もより明らかになるので読んでてワクワクします。
中華ファンタジーを書く上での参考資料としてだけでなく、中国史を振り返る良書の一つだと思います!

また、皆さんが描こうとされるファンタジーには十中八九「皇帝」「王」が登場すると思いますが、その支配者層が民衆を支配するその正当性がどうなっているのか、世界観の根本を考えるのに、本書はとても有意義だと思います。

あと。
昨今の歴史学では社会史、生活史が盛んだなあと感じます。
それは、一昔前の歴史学が政治史に偏りがちだったからなんですが。
最近の面白い本はこういった方面に詳しいものの、政治史に焦点をあてたものが少なめになっているような気もします。
本書は特に政治史と銘打っているわけではありませんが、王朝の変遷をざっくり把握するのに適しているのではないでしょうか。
この点、大学受験で世界史を選択している高校生などにもオススメかもしれませんね。

2016年の出版ですから、今でももちろん定価で入手できます。
”天下の”岩波新書なのでたいていの図書館にも所蔵されていると思います。
手に取りやすいと思うので、よろしければ、皆さまもぜひお読みになってみてくださいね!

【追記】

通史を書かれていますが、この檀上寛さんはWikipediaによれば「明代」がご専門のようです。
明を意識したファンタジーを書くなら、檀上寛さんの著作を追いかけてみられてもいいかもしれません。

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