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 午後になると、イアン様がアシュクロフト家に到着し、グローリアさんとのお茶会が始まった。
 応接室でお茶の用意をしながら、イアン様のことを盗み見る。イアン様は今の私と同い年の15歳、まだ少年といっても言いような容姿だけど、品のある振る舞いは流石公爵の子息だ。

「グローリア、今日はなんだか雰囲気がいつもと違うね」
「ええ、少し変えてみたの……変かしら?」

 イアン様の言葉に私は肩を揺らしてしまった。もし、これでイアン様が変だと言ったら私のクビもありうるのではないだろうか。

「ううん、いつもの華やかなグローリアもいいと思うけど、僕はこっちの方がいいと思うよ。グローリアらしい」
「ありがとう」

 ところが、イアン様はグローリアさんのことを褒めると、優しく微笑んだのだった。グローリアさんも嬉しそうに笑う。
 そして、私はとんでもないことに気がついてしまった。イアン様と話している時のグローリアさんは、いつも以上に可愛らしくて、どう見ても恋する乙女なのだ。それに今日、彼女は言っていたではないか、『可愛いって、殿方に言われるようにして欲しいの』と。
 イアン様は、グローリアさんが言葉が足りなかったり、キツイのも知っているようで、気にするそぶりがないし、グローリアさんの気持ちが満更でもないようで、楽しそうに話している。その表情はグローリアさんほど分かりやすくはないけど、恋しているように見えた。
 前世で様々な夜会を通して、恋する男女を見てきた私が言うのだから、間違いないと思う。

 今までで1番可愛らしいグローリアさんを見つめながら、私はどうしようかと考えることになった。
 ジェームズと結婚し、王妃となっても不幸せではないだろうが、イアン様と結婚するのがグローリアさんにとって1番幸せなことのように思えた。
 私がこうして、人生をやり直しているのは彼女を幸せにするためだ。最初は償いの気持ちからだったけど、アシュクロフト家に仕えて、前世より間近でグローリアさんを見ることで、私の心境の変化もあった。どうせなら、彼女にとって1番幸せな形を取ってもらいたい。

「ヘレナ? どうしたの?」

 すっかり考え込んでいた私に、少し眉を寄せたグローリアさんが顔を寄せた。彼女は私を見上げるようにして、心配そうにこちらを見ている。

「いえ、すみませんでした」

「具合とか悪くないのならいいけど、とにかくイアンお兄様、このヘレナが今日のメイクをしてくれて、ドレスも選んでくれたのよ」
「それはよかったね。ヘレナ、僕からもお礼を言わせてくれ、ありがとう」
「もったいないお言葉です」

 グローリアさんに向けるものとは違うけど、優しく微笑んだイアン様はそのままグローリアさんに向かい、話し続ける。

「ヘレナが気に入ったのなら、おばさまに言って侍女にしてもらってはどうだろう。グローリアももう13だし、自分の身の回りの使用人に気を配ってもいい頃合いだよ」

 イアン様の言葉に、私は心の中で大きく縦に首を振りながらも、顔には出さないように気を引き締める。

「そう、ねえヘレナ、侍女になってと言ったら迷惑かしら?」

 そう言って私を見つめるグローリアさんはとても可愛い、ああ、うちのお嬢様、可愛すぎます!
 これがきっかけで、グローリアさんに気にしてもらえたらと思っていたけど、まさかここまでの結果を生むとは思わなかった。前世の記憶と、家事を手伝わせてくれた母に、心の中でお礼を言いながら、なるべく冷静にグローリアさんに答える。

「そんなこと! とても、嬉しいです!」

 あまり、落ち着いているようには見えなかったけど。

 イアン様とグローリアさんに笑われながら、再び、どうしたらお2人をくっつけることができるか、考え始める。
 グローリアさんは今の時点で、ジェームズから婚約の話がきていて、正式にではないけど、婚約者候補として既に扱われている。前世に聞いたジェームズの話によると、2人はこの後、グローリアさんの夜会デビューで出会い、特に問題がないということで正式に婚約をするはずだ。
 正式に婚約をしていないからといって、イアン様は自分の気持ちをグローリアさんに伝えることも、ましてや婚約を申し込むこともないだろう。
 公爵の長男で、家柄的にも問題なく、グローリアさんが思いを寄せていると知ったら、アシュクロフト侯爵は、ジェームズからの婚約を正式に受けるのを止めて、イアン様との婚約を進めるのではないだろうか。それだけ、アシュクロフト侯爵はグローリアさんを大切にしている。
 しかし、ジェームズとの婚約が正式に決まれば、アシュクロフト侯爵側から、それを破棄することは流石にできない。
 つまり、もしグローリアさんを本当に幸せにするのなら、タイムリミットはあとおよそ1年、グローリアさんの夜会デビューの後、ジェームズからの正式な婚約話が来るまでだ。それまでに、イアン様にグローリアさんへの求婚をしてもらう、その必要がある。
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