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私、子爵家をクビになったと思ったのに、結婚することになりました ※ルーシー視点
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まだお客様はいらっしゃるでしょうが、はやる気持ちが抑えきれず、私は応接室に向かいます。
お客様が帰られたら、ライオネル様に話そう、そう思いながら、階段を降りているとそのお客様がちょうど帰られるところです。しかし、そのご様子はいらっしゃた時の優雅な感じはなく、どこかピリピリしているように感じられます。
不思議に思いながらも、早めに階段から降り、お見送りをしようとしていると、ご令嬢の瞳が私を捉えました。
「貴女! 身分はわきまえなさい!」
大きな声で急に言われ驚きますが、ひとまず頭を下げます。こちらのお屋敷のご家族は皆さん優しい方ですが、中には使用人に理由なく怒る貴族の方もいらっしゃいます。そのような時は、とにかく謝るように、といろいろなお屋敷を渡り歩いたベテランメイドから聞いていました。
身分をわきまえろという言葉をなぜ言われたのか分かりませんでしたが、先ほどまでの私なら、いろいろと考えてショックを受けていたかもしれません。しかし、今の私は違います。ライオネル様の気持ちを信じようと決めたのですから。
バタンと、玄関扉が閉まる音を聞いてから顔を上げようとすると、ライオネル様がこちらに走ってくるのが分かります。ライオネル様がお屋敷の中で走るのを見たのは、数年ぶりのことでした。
「ライオネル様」
「すまなかった、まさか鉢合わせると思わなかった」
焦ったように言うライオネル様に私は首を振ります。
「キャシーのいうことは気にしなくて、」
「ライオネル様、大丈夫です。私、気にしておりません」
ライオネル様の瞳を見つめてそう言うと、ライオネル様は私の顔をじっと見つめ返してくださいます。その瞳には、少し不安の色が浮かんでいます。
「ライオネル様に看病していただいた時、以前看病していただいたことを思い出した、と言いましたよね? その時一緒に、当時の気持ちも思い出したんです。私は幼い時、ライオネル様に憧れていました、お慕いしておりました」
ライオネル様が息を呑むのが分かりました。驚いたように私の顔を見ています。
「でも、身分の差があると、その気持ちを押し殺したのです。そのままそんな淡い気持ちも、押し殺したことも忘れていました。それをライオネル様が思い出させてくれました。身分の差など気にしない、と努力する姿を、私へのまっすぐな気持ちを見せてくださいました。私は、自分の気持ちを押し殺し、逃げようとした自分に恥じました」
一息つくと、ライオネル様が続きを促すように私の手をそっともち上げ、握ります。風邪をひいた時とは違い、温かいライオネル様の手に安心し、勇気づけられるような気がして、その手を握り返しました。
「今日、華やかでお綺麗なお客様がいらして、」
「待て、最後までルーシーの話を聞こうと思っていたが、これだけは訂正させてくれ。僕はキャシーを綺麗だとか華やかだなんて思ったことはないし、あれは勝手に抱き着いてきただけだ。父上同士が仲が良いんだ、迷惑な話だよ」
ライオネル様が顔をしかめるのが分かりました。最後はぼやくようにご令嬢、キャシー様への文句を言うと、またこちらに向き直り、続きを話すよう促します。
ライオネル様が言い訳のように言うのが面白く、思わず笑ってしまうと、張りつめていた空気が緩み、私の緊張していた気持ちまで緩んだ気がしました。
「私は華やかでお綺麗と思いましたので……、そのキャシー様がいらして、呼び方もそうですし、ライオネル様と仲睦まじい様子を拝見し、ショックを受け、その場から逃げてしまいました。でも、もう逃げてはダメだと、ハロルドにも勇気づけられて、戻って参りました」
「ごめん、ちょっと待て。ルーシーが退出した後、ハロルドと一緒だったのか?」
「はい、その、ショックのあまりめまいがしましたので、部屋まで送ってもらいました」
「ショックを受けてくれたのは嬉しいが、いや、その具合が悪くなったのが嬉しいってわけではなくて、その……ていうかまたアイツか」
ハロルドの名前を出してから挙動不審だったライオネル様はブツブツと何事か呟きながら俯いてしまったので、私はライオネル様の手を握ります。握った瞬間、ライオネル様はパッと顔を上げて、我に帰ると、また話を聞く姿勢に戻りました。
想いをお伝えしようと気持ちを奮い立たせてきたというのに、締まらない展開が続いて笑ってしまいます。
「ライオネル様がたくさん気持ちを伝えてくださったので、私も勇気を出せました。ライオネル様、私はあなたをお慕いしています。プロポーズをお受けします」
もっと緊張するかと思ったのに、ライオネル様のおかげであまり緊張せずに気持ちが伝えられました。
目の前のライオネル様も、嬉しそうに目を細めています。
「ルーシー、ありがとう」
「お待たせしてしまい、すみません」
「いいんだ、君のためならあともう8年は待てた」
ライオネル様の言葉にクスクスと笑うと、不意にライオネル様は真剣な顔になります。少しあった距離を詰められ、体が密着し、顎には指を添えられて、顔を上に向かされます。
鈍い私でも、この後どうなるか分かります。
「ライオネル様……」
「ライオネルではなく、レオンと」
目を閉じようとする私に、ライオネル様の低く甘い声が降ってきました。
「レオン様」
ライオネル様の愛称であるレオンは、お兄様であるレオナルド様のお名前の愛称でもあるので、ご両親である旦那様と奥様もお使いになりません。私だけの、特別な呼び方のように感じ、声が上ずります。
「様をつけずに」
「レオン」
恐れ多く小声になってしまったのに、ライオネル様……レオン様は本当に嬉しそうに微笑まれてから、私の唇に口づけします。
8年前、それからつい先日の風邪の時とは違う、甘く深い口づけに酔いながら、私はきっとこの方とこの先ずっと幸せに過ごせるのだと、そう思うことができました。
私、子爵家をクビになったと思ったのに、結婚することになりました。
お客様が帰られたら、ライオネル様に話そう、そう思いながら、階段を降りているとそのお客様がちょうど帰られるところです。しかし、そのご様子はいらっしゃた時の優雅な感じはなく、どこかピリピリしているように感じられます。
不思議に思いながらも、早めに階段から降り、お見送りをしようとしていると、ご令嬢の瞳が私を捉えました。
「貴女! 身分はわきまえなさい!」
大きな声で急に言われ驚きますが、ひとまず頭を下げます。こちらのお屋敷のご家族は皆さん優しい方ですが、中には使用人に理由なく怒る貴族の方もいらっしゃいます。そのような時は、とにかく謝るように、といろいろなお屋敷を渡り歩いたベテランメイドから聞いていました。
身分をわきまえろという言葉をなぜ言われたのか分かりませんでしたが、先ほどまでの私なら、いろいろと考えてショックを受けていたかもしれません。しかし、今の私は違います。ライオネル様の気持ちを信じようと決めたのですから。
バタンと、玄関扉が閉まる音を聞いてから顔を上げようとすると、ライオネル様がこちらに走ってくるのが分かります。ライオネル様がお屋敷の中で走るのを見たのは、数年ぶりのことでした。
「ライオネル様」
「すまなかった、まさか鉢合わせると思わなかった」
焦ったように言うライオネル様に私は首を振ります。
「キャシーのいうことは気にしなくて、」
「ライオネル様、大丈夫です。私、気にしておりません」
ライオネル様の瞳を見つめてそう言うと、ライオネル様は私の顔をじっと見つめ返してくださいます。その瞳には、少し不安の色が浮かんでいます。
「ライオネル様に看病していただいた時、以前看病していただいたことを思い出した、と言いましたよね? その時一緒に、当時の気持ちも思い出したんです。私は幼い時、ライオネル様に憧れていました、お慕いしておりました」
ライオネル様が息を呑むのが分かりました。驚いたように私の顔を見ています。
「でも、身分の差があると、その気持ちを押し殺したのです。そのままそんな淡い気持ちも、押し殺したことも忘れていました。それをライオネル様が思い出させてくれました。身分の差など気にしない、と努力する姿を、私へのまっすぐな気持ちを見せてくださいました。私は、自分の気持ちを押し殺し、逃げようとした自分に恥じました」
一息つくと、ライオネル様が続きを促すように私の手をそっともち上げ、握ります。風邪をひいた時とは違い、温かいライオネル様の手に安心し、勇気づけられるような気がして、その手を握り返しました。
「今日、華やかでお綺麗なお客様がいらして、」
「待て、最後までルーシーの話を聞こうと思っていたが、これだけは訂正させてくれ。僕はキャシーを綺麗だとか華やかだなんて思ったことはないし、あれは勝手に抱き着いてきただけだ。父上同士が仲が良いんだ、迷惑な話だよ」
ライオネル様が顔をしかめるのが分かりました。最後はぼやくようにご令嬢、キャシー様への文句を言うと、またこちらに向き直り、続きを話すよう促します。
ライオネル様が言い訳のように言うのが面白く、思わず笑ってしまうと、張りつめていた空気が緩み、私の緊張していた気持ちまで緩んだ気がしました。
「私は華やかでお綺麗と思いましたので……、そのキャシー様がいらして、呼び方もそうですし、ライオネル様と仲睦まじい様子を拝見し、ショックを受け、その場から逃げてしまいました。でも、もう逃げてはダメだと、ハロルドにも勇気づけられて、戻って参りました」
「ごめん、ちょっと待て。ルーシーが退出した後、ハロルドと一緒だったのか?」
「はい、その、ショックのあまりめまいがしましたので、部屋まで送ってもらいました」
「ショックを受けてくれたのは嬉しいが、いや、その具合が悪くなったのが嬉しいってわけではなくて、その……ていうかまたアイツか」
ハロルドの名前を出してから挙動不審だったライオネル様はブツブツと何事か呟きながら俯いてしまったので、私はライオネル様の手を握ります。握った瞬間、ライオネル様はパッと顔を上げて、我に帰ると、また話を聞く姿勢に戻りました。
想いをお伝えしようと気持ちを奮い立たせてきたというのに、締まらない展開が続いて笑ってしまいます。
「ライオネル様がたくさん気持ちを伝えてくださったので、私も勇気を出せました。ライオネル様、私はあなたをお慕いしています。プロポーズをお受けします」
もっと緊張するかと思ったのに、ライオネル様のおかげであまり緊張せずに気持ちが伝えられました。
目の前のライオネル様も、嬉しそうに目を細めています。
「ルーシー、ありがとう」
「お待たせしてしまい、すみません」
「いいんだ、君のためならあともう8年は待てた」
ライオネル様の言葉にクスクスと笑うと、不意にライオネル様は真剣な顔になります。少しあった距離を詰められ、体が密着し、顎には指を添えられて、顔を上に向かされます。
鈍い私でも、この後どうなるか分かります。
「ライオネル様……」
「ライオネルではなく、レオンと」
目を閉じようとする私に、ライオネル様の低く甘い声が降ってきました。
「レオン様」
ライオネル様の愛称であるレオンは、お兄様であるレオナルド様のお名前の愛称でもあるので、ご両親である旦那様と奥様もお使いになりません。私だけの、特別な呼び方のように感じ、声が上ずります。
「様をつけずに」
「レオン」
恐れ多く小声になってしまったのに、ライオネル様……レオン様は本当に嬉しそうに微笑まれてから、私の唇に口づけします。
8年前、それからつい先日の風邪の時とは違う、甘く深い口づけに酔いながら、私はきっとこの方とこの先ずっと幸せに過ごせるのだと、そう思うことができました。
私、子爵家をクビになったと思ったのに、結婚することになりました。
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