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一章
人魚、シーラに出会う①
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ー人間は私の家族を!仲間を!同胞を殺したのよ!許せるはずがない!特に、あいつなんか許せないー
薄暗い場所に、岩がゴツゴツしている。高く黒い天井から水滴の滴る音が響く。気温は低く寒い中、光を求めて膝まである水位の中をひたすら歩く者が2人いた。何やら声にならない声で話しをしていた。
1人は茶色の肌でところどころに尖っているものが皮膚の表面に生えている。遠くから見ればただの枯れ木のようであった。薄暗い場所ではその者の目は青く光り、屈強な心を持っていて幾多もの試練を乗り越えた戦士のようであった。
もう1人は、人間のようであり姿見は闇に紛れ込めそうな黒いマントを羽織っていた。無邪気そうに茶色の人と話している。それも声にならない声で。
「ウド、もう何時間も歩いてるよ。朝なのか夜なのかわかりやしないよ。」
「そうだな。神木も酷いことするぜ。初めての旅なのに、こんな訳の分からない世界に送るんだからよ。俺は植物なんだ。寒くて枯れてしまう。」
2人は歩きながら旅路を応援してくれた神木の悪口を言っていた。
それも仕方がない。神木のウロに入るといきなり水の中に落ちていく始末で、2人が身につけているものは全部びしょ濡れだ。リュックも着ている服も。ウドに関しては服はないがやはりリュックは濡れていて重たい。そして、膝まである水を掻き分けながら進むのは体温も体力も奪われていく。
あれから薄暗い中、何時間も歩いて足が棒のようになったときにようやく2人の目の前に小さな黄色の光が見えた。
「やっと日の下に出れる!この洞窟とおさらばできるぞ!」
「おお、そうか…」
シーラは弱って枯れかかっているウドの手を引っ張り、残りの体力を振り絞ってジャブジャブと前に進む。
「シーラ、ゆっくり歩いてくれ。体力が持たん。お前の体力も尽きてしまうぞ。」
そんなことにお構いなしにシーラは進んでいく。なんだか、大好きな匂いがある!と思いながら。
黄色の光の元に行くと人が1人通れる小さな穴があった。シーラはリュックを下ろして先に穴から出た。ウドにリュックだけ先に出してもらい、それからウドの手を引っ張って穴から出した。
穴から出た2人は目の前の明るい景色に目を細めていた。
シーラは喜んで言った。
「いい匂いだね!」
明るい青色をした空に白い雲。日が真上にある。目の前に300メートルほどの幅がある大きな川がゆっくりと流れていて、その奥に濃い緑が生い茂る森が広がっていた。足元には小さな小石や砂利があり草がまばらに生えている。低木がちらほらある。後ろをを見ると急な斜面をした山が聳え立っている。
「私たちはこんな山の中にある洞窟を歩いていたんだ。」
「もし、夜だったらこんな所には来れなかっただろうな。シーラ、勝手に探検してそばを離れるなよ。」
「わかってるよ!」
シーラは余計なお世話だ、と思ってムッとした。いつまでも自分を子供扱いするウドに少し腹が立ったのだ。
さて、しばらく寝転びながら日光に当たってひと息したところでシーラのお腹の虫が鳴った。
ウドは右にいるシーラの方を向いて言った。
「シーラ、食料を探すか。」
コクンとシーラは空を見上げながら頷いた。ウドは木の精霊だから日光を浴びると元気が出て水があれば体から小さく生えている枝に緑色の葉が出てくる。
しかし、シーラは元々は人間である。神木の元にいた時は何を食べなくても生きていけるが、今は神木と離れている。食べなければ死んでしまう。
ウドは川原に落ちている枯れ葉や枯れ木を集めて積み始めた。シーラは長い細い枝を拾って丈夫な蔓を探して取り付け釣竿を作る。そして土を掘り返したり草を蹴ったりして虫を捕まえて釣竿につける。
「シーラー!火をつけてくれ!」
遠くでウドが呼んでいる。
シーラはウドの方へ歩いていくと川の向こう岸に何かが浮いていた。
シーラはそれに気づかずにウドの元に行って、手から火の玉を作り出し薪に火を移した。ウドは感心しながら火を眺めていた。
「近すぎるとウドも燃えるよ。」
「俺は木の精霊だ。燃えないよ。」
ウドは、リュックの中身を取り出して乾かした。リュックの中身は少なく、シーラの薄い毛布にナイフ、水筒、小さな金の粒、最後に神木がくれた木のみ。木のみは食べるとどんな病気や怪我も治る。
シーラは魚を釣って枝に刺して焼いた。向こう岸に行けば森にきのこや小動物などあるが今は疲れたので行く気はない。
またしばらく経つと、川の水面に綺麗な夕焼け色が流れていた。ポン、ポン、ポンと石が川の上を跳ねる。シーラとウドが石を投げてどちらが遠くに飛ぶかを競い合っていた。
ウドはシーラの疲れ切った横顔を見て言った。
「明日から川を下っていこう。きっと人がいる。」
「そうだね。どんな人がいるんだろう。人に会うのは久しぶり。神木のもとにいると時間が経つのを感じれなかった。前に人に会ったのはいつだったっけ。」
「神木には時間がないからな。ただ存在するだけで、どこにでもあるんだよ。」
「本当に楽しみだ。」
日が沈んで静かな夜が訪れた。
ウドは砂利の上でそのまま眠り、シーラはウドが乾かしてくれていた少し湿っている毛布に包まって寝ている。焚き火がメラメラと2人を優しく温めて照らしている。
遠くで川の水面から何かが目を覗かせこちらにゆっくりと動いている。その赤い目は力が宿っており何もかも決して許さないという意思がこもっている。
シーラたちのいる川岸に近寄り砂利の上を這っていく。そして、灯りのある方にそっとよって人間の方を毛布ごと持ち上げて水の中に飛び込んだ。
その音にウドは目を覚ました。
そして、シーラは水の中で目を覚ました。
息ができない。グルグル回っている感覚がする。水の中にいると言うこと以外何もわからない。右も左も上も下もわからず、水の中で痛いながらも目を開けても暗闇が広がっていくだけ。
川の水はシーラを少しずつ運んでいく。川底で小さな岩がある感触を頼りに手を伸ばすが滑って掴むことができない。
(僕は川の底で死ぬんだ。………。いや、こんなとこで死なない。ウド!ウドは今頃探しているはずだ。)
シーラがそう決心して体勢を取り戻し水面の方に泳いでいく。
スーッと空気が鼻を通り肺の中に入っていく。
あー、息ができるのがこんなに嬉しいなんてと感動していた。
遠くでウドが自分の名前を読んでいた。
「ウド!ここだよ!助けて!」
シーラは声を振り絞って何度も叫ぶ。ウドが走ってきて、ウドは自分の手を蔓にしてシーラのところまで伸ばす。
シーラはそれを掴もうとする瞬間に何者かに首を両手で締められ水の中に入った。首にある両手は力を少しずつ込められる。シーラは懸命にその両手を引き剥がそうとするも水掻きでベッタリと首に張り付いている。そいつはシーラの背面にあるため腕を折ることはできない。
肺に入ったばかりの空気が口からあっけなく出て行く。意識が遠ざかる感覚がある。
シーラが気を失いかけているときに水掻きの両手が離された。
遠くで自分の名前を呼ぶ声がする。いつも聞く声だ。安心できる優しい低い声。
「…ラ。…ーラ。シーラ!」
シーラは頭や全身が何かに強く打ったかのうように痛かった。重い瞼を上げればウドの顔があった。そして、見たことのない天井で温かい毛布がかけられていた。
シーラはしかめっ面になると言った。
「なんか臭い。ここどこ。」
「ここは俺たちが寝ていた場所の反対の川岸にある森の中の家だよ。あの人が助けてくれたんだ。全く、お前が死ぬのかと思ったぜ。」
シーラにたくましい背中を向けていた青年が振り向いて優しく笑った。
「僕はナダル。村はずれに住む薬師さ。体調は大丈夫か?」
シーラはコクンと頷いた。それと同時に何かを思い出した。
「ウド!毛布は!もしかして流された…。」
シーラが大事にしている毛布は、シーラが小さい頃から使っている大事な毛布だった。それは母からもらった毛布だからだ。
悲しそうな顔をしていると扉がガラガラと開き、びしょ濡れになった茶色の服を着た女性が入ってきた。その手には濡れて重くなった見覚えのある毛布があった。
「ナング、ありがとう。えらいよ。」
ナダルはナングに着替えを渡して着替えてもらった。
4人で囲炉裏を囲む。シーラはまだ起きれそうにないから横になってナングを見つめた。
綺麗な乾いた着物に着替えた女性は青年よりも少し年下に見えて、長い青い髪は何で拭いたのかすぐに乾いていて後ろに1つに括っていた。
ナングは赤い目でシーラをジロリと睨んだ。
「こら、ナング。ダメだよ。」
ナダルにそう言われたナングは怒りの目を向けた。
「あれほど言ったではないか。人は殺すなと。殺したってお前の家族は帰ってこない。」
ナングは口を開き勢いよく話した。
「人間は私の家族を!仲間を!同胞を殺したのよ!許せるはずがない!特に、あいつなんか許せない。」
ナングばもうとっくに乾いたはずの涙が溢れたことを感じて外に出て行った。
ナダルはナングについて語り始めた。
ナングは人魚の種族だ。本来、人魚は大海原の海底に住むものであるが、好奇心が旺盛で海面や海岸に出て遊ぶこともある。だが、ここから川を下って海に近い村、グアンバンという村にある男が引っ越してきた。そいつは見せ物小屋と珍しい生き物を売る商人だったんだ。
その男が越してきてから海からたくさんの人魚が捕獲され、見せ物にされたものや売られたもの、価値のないものは殺された。特に価値があったのは赤い目をした人魚だ。
あの村では赤い目をした人魚に会うと幸福が訪れると昔から言われていた。
男はそこに目をつけて、人魚の赤い目だけあれば幸福は永遠に訪れるとその嘘を隣町や隣の村に言いふらした。
だけどグアンバンにいる村人はそれを信じようとせずに男を追い出そうとしたが男は海賊を雇って村人を圧迫し、人魚をどんどんと捕獲していったんだ。
赤い目をした人魚は、つまりナングの家族や仲間だった。赤い目の一族なんだ。
ナングは幼い頃に家族が目だけを穿り出されてから殺される姿を見た。
ナングも目だけを取られそうになったところをある青い目の人魚に助け出されてこの川に住んでいる。
「へー、そんなことがあるのか。人間ってよく深いな。」
「せっかく綺麗な目をしててもあの顔じゃ悲しいね。」
「驚いた。人魚と聞いても2人は驚かないんだね。」
ナダルの話を聞いてからシーラは眠った。
ウドはナダルに言った。
「俺たちだって、完璧に人ではないしな。特にシーラは何ものかも分別できない。」
ウドは優しくシーラの頭を撫でた。
薄暗い場所に、岩がゴツゴツしている。高く黒い天井から水滴の滴る音が響く。気温は低く寒い中、光を求めて膝まである水位の中をひたすら歩く者が2人いた。何やら声にならない声で話しをしていた。
1人は茶色の肌でところどころに尖っているものが皮膚の表面に生えている。遠くから見ればただの枯れ木のようであった。薄暗い場所ではその者の目は青く光り、屈強な心を持っていて幾多もの試練を乗り越えた戦士のようであった。
もう1人は、人間のようであり姿見は闇に紛れ込めそうな黒いマントを羽織っていた。無邪気そうに茶色の人と話している。それも声にならない声で。
「ウド、もう何時間も歩いてるよ。朝なのか夜なのかわかりやしないよ。」
「そうだな。神木も酷いことするぜ。初めての旅なのに、こんな訳の分からない世界に送るんだからよ。俺は植物なんだ。寒くて枯れてしまう。」
2人は歩きながら旅路を応援してくれた神木の悪口を言っていた。
それも仕方がない。神木のウロに入るといきなり水の中に落ちていく始末で、2人が身につけているものは全部びしょ濡れだ。リュックも着ている服も。ウドに関しては服はないがやはりリュックは濡れていて重たい。そして、膝まである水を掻き分けながら進むのは体温も体力も奪われていく。
あれから薄暗い中、何時間も歩いて足が棒のようになったときにようやく2人の目の前に小さな黄色の光が見えた。
「やっと日の下に出れる!この洞窟とおさらばできるぞ!」
「おお、そうか…」
シーラは弱って枯れかかっているウドの手を引っ張り、残りの体力を振り絞ってジャブジャブと前に進む。
「シーラ、ゆっくり歩いてくれ。体力が持たん。お前の体力も尽きてしまうぞ。」
そんなことにお構いなしにシーラは進んでいく。なんだか、大好きな匂いがある!と思いながら。
黄色の光の元に行くと人が1人通れる小さな穴があった。シーラはリュックを下ろして先に穴から出た。ウドにリュックだけ先に出してもらい、それからウドの手を引っ張って穴から出した。
穴から出た2人は目の前の明るい景色に目を細めていた。
シーラは喜んで言った。
「いい匂いだね!」
明るい青色をした空に白い雲。日が真上にある。目の前に300メートルほどの幅がある大きな川がゆっくりと流れていて、その奥に濃い緑が生い茂る森が広がっていた。足元には小さな小石や砂利があり草がまばらに生えている。低木がちらほらある。後ろをを見ると急な斜面をした山が聳え立っている。
「私たちはこんな山の中にある洞窟を歩いていたんだ。」
「もし、夜だったらこんな所には来れなかっただろうな。シーラ、勝手に探検してそばを離れるなよ。」
「わかってるよ!」
シーラは余計なお世話だ、と思ってムッとした。いつまでも自分を子供扱いするウドに少し腹が立ったのだ。
さて、しばらく寝転びながら日光に当たってひと息したところでシーラのお腹の虫が鳴った。
ウドは右にいるシーラの方を向いて言った。
「シーラ、食料を探すか。」
コクンとシーラは空を見上げながら頷いた。ウドは木の精霊だから日光を浴びると元気が出て水があれば体から小さく生えている枝に緑色の葉が出てくる。
しかし、シーラは元々は人間である。神木の元にいた時は何を食べなくても生きていけるが、今は神木と離れている。食べなければ死んでしまう。
ウドは川原に落ちている枯れ葉や枯れ木を集めて積み始めた。シーラは長い細い枝を拾って丈夫な蔓を探して取り付け釣竿を作る。そして土を掘り返したり草を蹴ったりして虫を捕まえて釣竿につける。
「シーラー!火をつけてくれ!」
遠くでウドが呼んでいる。
シーラはウドの方へ歩いていくと川の向こう岸に何かが浮いていた。
シーラはそれに気づかずにウドの元に行って、手から火の玉を作り出し薪に火を移した。ウドは感心しながら火を眺めていた。
「近すぎるとウドも燃えるよ。」
「俺は木の精霊だ。燃えないよ。」
ウドは、リュックの中身を取り出して乾かした。リュックの中身は少なく、シーラの薄い毛布にナイフ、水筒、小さな金の粒、最後に神木がくれた木のみ。木のみは食べるとどんな病気や怪我も治る。
シーラは魚を釣って枝に刺して焼いた。向こう岸に行けば森にきのこや小動物などあるが今は疲れたので行く気はない。
またしばらく経つと、川の水面に綺麗な夕焼け色が流れていた。ポン、ポン、ポンと石が川の上を跳ねる。シーラとウドが石を投げてどちらが遠くに飛ぶかを競い合っていた。
ウドはシーラの疲れ切った横顔を見て言った。
「明日から川を下っていこう。きっと人がいる。」
「そうだね。どんな人がいるんだろう。人に会うのは久しぶり。神木のもとにいると時間が経つのを感じれなかった。前に人に会ったのはいつだったっけ。」
「神木には時間がないからな。ただ存在するだけで、どこにでもあるんだよ。」
「本当に楽しみだ。」
日が沈んで静かな夜が訪れた。
ウドは砂利の上でそのまま眠り、シーラはウドが乾かしてくれていた少し湿っている毛布に包まって寝ている。焚き火がメラメラと2人を優しく温めて照らしている。
遠くで川の水面から何かが目を覗かせこちらにゆっくりと動いている。その赤い目は力が宿っており何もかも決して許さないという意思がこもっている。
シーラたちのいる川岸に近寄り砂利の上を這っていく。そして、灯りのある方にそっとよって人間の方を毛布ごと持ち上げて水の中に飛び込んだ。
その音にウドは目を覚ました。
そして、シーラは水の中で目を覚ました。
息ができない。グルグル回っている感覚がする。水の中にいると言うこと以外何もわからない。右も左も上も下もわからず、水の中で痛いながらも目を開けても暗闇が広がっていくだけ。
川の水はシーラを少しずつ運んでいく。川底で小さな岩がある感触を頼りに手を伸ばすが滑って掴むことができない。
(僕は川の底で死ぬんだ。………。いや、こんなとこで死なない。ウド!ウドは今頃探しているはずだ。)
シーラがそう決心して体勢を取り戻し水面の方に泳いでいく。
スーッと空気が鼻を通り肺の中に入っていく。
あー、息ができるのがこんなに嬉しいなんてと感動していた。
遠くでウドが自分の名前を読んでいた。
「ウド!ここだよ!助けて!」
シーラは声を振り絞って何度も叫ぶ。ウドが走ってきて、ウドは自分の手を蔓にしてシーラのところまで伸ばす。
シーラはそれを掴もうとする瞬間に何者かに首を両手で締められ水の中に入った。首にある両手は力を少しずつ込められる。シーラは懸命にその両手を引き剥がそうとするも水掻きでベッタリと首に張り付いている。そいつはシーラの背面にあるため腕を折ることはできない。
肺に入ったばかりの空気が口からあっけなく出て行く。意識が遠ざかる感覚がある。
シーラが気を失いかけているときに水掻きの両手が離された。
遠くで自分の名前を呼ぶ声がする。いつも聞く声だ。安心できる優しい低い声。
「…ラ。…ーラ。シーラ!」
シーラは頭や全身が何かに強く打ったかのうように痛かった。重い瞼を上げればウドの顔があった。そして、見たことのない天井で温かい毛布がかけられていた。
シーラはしかめっ面になると言った。
「なんか臭い。ここどこ。」
「ここは俺たちが寝ていた場所の反対の川岸にある森の中の家だよ。あの人が助けてくれたんだ。全く、お前が死ぬのかと思ったぜ。」
シーラにたくましい背中を向けていた青年が振り向いて優しく笑った。
「僕はナダル。村はずれに住む薬師さ。体調は大丈夫か?」
シーラはコクンと頷いた。それと同時に何かを思い出した。
「ウド!毛布は!もしかして流された…。」
シーラが大事にしている毛布は、シーラが小さい頃から使っている大事な毛布だった。それは母からもらった毛布だからだ。
悲しそうな顔をしていると扉がガラガラと開き、びしょ濡れになった茶色の服を着た女性が入ってきた。その手には濡れて重くなった見覚えのある毛布があった。
「ナング、ありがとう。えらいよ。」
ナダルはナングに着替えを渡して着替えてもらった。
4人で囲炉裏を囲む。シーラはまだ起きれそうにないから横になってナングを見つめた。
綺麗な乾いた着物に着替えた女性は青年よりも少し年下に見えて、長い青い髪は何で拭いたのかすぐに乾いていて後ろに1つに括っていた。
ナングは赤い目でシーラをジロリと睨んだ。
「こら、ナング。ダメだよ。」
ナダルにそう言われたナングは怒りの目を向けた。
「あれほど言ったではないか。人は殺すなと。殺したってお前の家族は帰ってこない。」
ナングは口を開き勢いよく話した。
「人間は私の家族を!仲間を!同胞を殺したのよ!許せるはずがない!特に、あいつなんか許せない。」
ナングばもうとっくに乾いたはずの涙が溢れたことを感じて外に出て行った。
ナダルはナングについて語り始めた。
ナングは人魚の種族だ。本来、人魚は大海原の海底に住むものであるが、好奇心が旺盛で海面や海岸に出て遊ぶこともある。だが、ここから川を下って海に近い村、グアンバンという村にある男が引っ越してきた。そいつは見せ物小屋と珍しい生き物を売る商人だったんだ。
その男が越してきてから海からたくさんの人魚が捕獲され、見せ物にされたものや売られたもの、価値のないものは殺された。特に価値があったのは赤い目をした人魚だ。
あの村では赤い目をした人魚に会うと幸福が訪れると昔から言われていた。
男はそこに目をつけて、人魚の赤い目だけあれば幸福は永遠に訪れるとその嘘を隣町や隣の村に言いふらした。
だけどグアンバンにいる村人はそれを信じようとせずに男を追い出そうとしたが男は海賊を雇って村人を圧迫し、人魚をどんどんと捕獲していったんだ。
赤い目をした人魚は、つまりナングの家族や仲間だった。赤い目の一族なんだ。
ナングは幼い頃に家族が目だけを穿り出されてから殺される姿を見た。
ナングも目だけを取られそうになったところをある青い目の人魚に助け出されてこの川に住んでいる。
「へー、そんなことがあるのか。人間ってよく深いな。」
「せっかく綺麗な目をしててもあの顔じゃ悲しいね。」
「驚いた。人魚と聞いても2人は驚かないんだね。」
ナダルの話を聞いてからシーラは眠った。
ウドはナダルに言った。
「俺たちだって、完璧に人ではないしな。特にシーラは何ものかも分別できない。」
ウドは優しくシーラの頭を撫でた。
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