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ドナ
60 パーティへ行こう
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「ドナ、大丈夫だったか?」
陛下との謁見を終え、私はスティーブ様とヴィンス様が待つ部屋に戻ってきた。すぐにヴィンス様が立ち上がり走ってドアまでやってきた。続いてスティーブ様も近づいてくる。
「何を心配していたんだ」
エリック様は少し呆れたような声を出した。2人の様子を見て、心配してくれていたのだと思うと嬉しかった。陛下との謁見はほんの数分だったのだろう。しかし私には何時間もかかったような気がした。スティーブ様とヴィンス様にずいぶん長い間会わなかったような気さえした。
「ドナが大人しいことをいい事に、好き勝手なことを提案するかもしれないじゃないですか」
ヴィンス様が私の頭を撫でている。手の温もりが心地よい。
「国王に提案されたら受け入れるしかないでしょう」
スティーブ様も私の肩に手を置いて、エリック様に向かっている。エリック様はため息をつきながら肩をすくめた。
「正直、陛下が何をおっしゃるか心配ではあったけど」
あんなに飄々とした様子だったのに心配していたのか、と私は感心した。おそらく私のためにそういった態度でいてくださったのかもしれない。そう思うとエリック様に感謝した。
陛下に言われたこと。それは私のことを全て分かったうえで、私はタセル国のドナであると認めてくださったのだ。それだけで私は十分だった。この後のパーティが終わればタセルに戻れる。あと少しだけ我慢すればいいのだ。やはりこの国には何の思い入れもない。私はタセルの人間なのだ。そう思うことで私の心の中にあった煩わしいものがなくなっていく気がした。
「何も心配はいらない。ドナはパーティを楽しみなさい」
エリック様はそう言って微笑んだ。
「つまり、おかしな提案はされなかったってことですね」
「王族と婚約とか、理由つけてタセルに戻さないような悪巧みはしてないってことだな」
マリア様の目がヴィンス様を睨んだ。気づいてヴィンス様は肩をすくめる。陛下相手に悪巧みなんて言葉を使ってはいけないことはわかっているが、私を思いやってくださっていることに安心した。
「2人ともエスコートをしっかりと。念のため、ドナは1人にならないように」
「まぁまぁ、過保護も過ぎますわね」
マリア様がお茶を用意しながら笑った。
「この国を信頼していないだけです」
私の横に立つスティーブ様の声がゾッとするほど冷たく聞こえて、私は驚いて見てしまった。するとヴィンス様も怒ったような顔をしている。エリック様も腕組みをして考え込んでいるし、マリア様はただひたすらお茶の用意を続けていた。
「少なくとも陛下はドナを悪いようにはしないと思う」
「そうですか」
納得した感じはなかったけど、スティーブ様はそのまま何も言わなかった。緊迫した空気の中、私はマリア様に入れてもらったお茶を飲む。温かいお茶が私のお腹の中に広がる。
大丈夫だ、陛下が私をタセル国のドナだと認めた。エリック様主催のパーティだし、ロゼルス家とは派閥が違う。だから知っている人はいないはずだ。
そもそも私のことを知っている人はいるのだろうか。外に出ることもなくずっと家の中だけで過ごしていたのだ。ブライアン様には会っていたが、おそらく今の私には気づかないだろう。私は変わった。綺麗な服を着ているし、髪型だってきちんと整えている。だから大丈夫なのだ。
私は何度も自分に言い聞かせる。そしてそれは確信に変わった。私を知っている人はこの国にはいない。姉は今はこの世にいないし、ブライアン様に会うこともないだろう。私はドナ・スタンとしてパーティに参加するのだ。
「パーティにはあまり参加したことがないので少し緊張しています」
私の言葉にエリック様が意外そうな顔をした。
「本を出版した時にパーティはしなかったのか?」
そういった話は出たが、教授は人前に出ることが苦手なので断っていた。翻訳本だから訳した私が出席しろと言ったが、私だって教授を差し置いてパーティに出るわけにいかない。そんなわけで大々的なパーティは開かれず、かろうじてお茶会程度のことがひっそりと行われただけだった。
「これを機会にパーティに参加するべきだね」
スティーブ様は優雅にお茶を飲みながらそんなことを言う。
「嫌ですよ、パーティって人がたくさんいるし」
「それがパーティってもんだろう?」
ヴィンス様は呆れた顔で私のおでこを指で弾いた。
「痛い、やめてください」
「そうだぞ、ヴィンス。ほら、ドナ、よく見せてごらん。・・・赤くなっているじゃないか」
スティーブ様の顔が目の前に会って、私は思わずドキッとしてしまった。赤くなっているのがおでこだけなのか、それとも顔全体なのかわからない。
「まぁ、大変。ヴィンスったら。馬鹿力なんだから気をつけなさい。ドナが怪我したらどうするつもり?」
マリア様が慌てて冷やしたタオルを用意してくれる。そんなに気を遣っていただかなくても大丈夫なのに、と思うけどマリア様にタオルを当ててもらって気持ちよさを堪能した。少し火照っていたのか、タオルの冷気で気持ちが落ち着くのがわかった。
「パーティなんて食事するためにあるんだ、そう思えば気楽だろ?」
「ヴィンス、お前少しは自重しろよ。ドナに恥をかかせるな」
「ハイハイ。でもドナ、美味しいケーキがあると思えば少しは楽しみだろ?」
「料理は期待してくれて構わないよ。ドナには我が家の美味しいものを全て味わってもらいたいからね」
エリック様が微笑んでいるし、スティーブ様の瞳は優しい。ヴィンス様も笑いながら、私に話しかけてくれている。この人たちのそばにいられてよかった。私は心からそう思うのだった。
陛下との謁見を終え、私はスティーブ様とヴィンス様が待つ部屋に戻ってきた。すぐにヴィンス様が立ち上がり走ってドアまでやってきた。続いてスティーブ様も近づいてくる。
「何を心配していたんだ」
エリック様は少し呆れたような声を出した。2人の様子を見て、心配してくれていたのだと思うと嬉しかった。陛下との謁見はほんの数分だったのだろう。しかし私には何時間もかかったような気がした。スティーブ様とヴィンス様にずいぶん長い間会わなかったような気さえした。
「ドナが大人しいことをいい事に、好き勝手なことを提案するかもしれないじゃないですか」
ヴィンス様が私の頭を撫でている。手の温もりが心地よい。
「国王に提案されたら受け入れるしかないでしょう」
スティーブ様も私の肩に手を置いて、エリック様に向かっている。エリック様はため息をつきながら肩をすくめた。
「正直、陛下が何をおっしゃるか心配ではあったけど」
あんなに飄々とした様子だったのに心配していたのか、と私は感心した。おそらく私のためにそういった態度でいてくださったのかもしれない。そう思うとエリック様に感謝した。
陛下に言われたこと。それは私のことを全て分かったうえで、私はタセル国のドナであると認めてくださったのだ。それだけで私は十分だった。この後のパーティが終わればタセルに戻れる。あと少しだけ我慢すればいいのだ。やはりこの国には何の思い入れもない。私はタセルの人間なのだ。そう思うことで私の心の中にあった煩わしいものがなくなっていく気がした。
「何も心配はいらない。ドナはパーティを楽しみなさい」
エリック様はそう言って微笑んだ。
「つまり、おかしな提案はされなかったってことですね」
「王族と婚約とか、理由つけてタセルに戻さないような悪巧みはしてないってことだな」
マリア様の目がヴィンス様を睨んだ。気づいてヴィンス様は肩をすくめる。陛下相手に悪巧みなんて言葉を使ってはいけないことはわかっているが、私を思いやってくださっていることに安心した。
「2人ともエスコートをしっかりと。念のため、ドナは1人にならないように」
「まぁまぁ、過保護も過ぎますわね」
マリア様がお茶を用意しながら笑った。
「この国を信頼していないだけです」
私の横に立つスティーブ様の声がゾッとするほど冷たく聞こえて、私は驚いて見てしまった。するとヴィンス様も怒ったような顔をしている。エリック様も腕組みをして考え込んでいるし、マリア様はただひたすらお茶の用意を続けていた。
「少なくとも陛下はドナを悪いようにはしないと思う」
「そうですか」
納得した感じはなかったけど、スティーブ様はそのまま何も言わなかった。緊迫した空気の中、私はマリア様に入れてもらったお茶を飲む。温かいお茶が私のお腹の中に広がる。
大丈夫だ、陛下が私をタセル国のドナだと認めた。エリック様主催のパーティだし、ロゼルス家とは派閥が違う。だから知っている人はいないはずだ。
そもそも私のことを知っている人はいるのだろうか。外に出ることもなくずっと家の中だけで過ごしていたのだ。ブライアン様には会っていたが、おそらく今の私には気づかないだろう。私は変わった。綺麗な服を着ているし、髪型だってきちんと整えている。だから大丈夫なのだ。
私は何度も自分に言い聞かせる。そしてそれは確信に変わった。私を知っている人はこの国にはいない。姉は今はこの世にいないし、ブライアン様に会うこともないだろう。私はドナ・スタンとしてパーティに参加するのだ。
「パーティにはあまり参加したことがないので少し緊張しています」
私の言葉にエリック様が意外そうな顔をした。
「本を出版した時にパーティはしなかったのか?」
そういった話は出たが、教授は人前に出ることが苦手なので断っていた。翻訳本だから訳した私が出席しろと言ったが、私だって教授を差し置いてパーティに出るわけにいかない。そんなわけで大々的なパーティは開かれず、かろうじてお茶会程度のことがひっそりと行われただけだった。
「これを機会にパーティに参加するべきだね」
スティーブ様は優雅にお茶を飲みながらそんなことを言う。
「嫌ですよ、パーティって人がたくさんいるし」
「それがパーティってもんだろう?」
ヴィンス様は呆れた顔で私のおでこを指で弾いた。
「痛い、やめてください」
「そうだぞ、ヴィンス。ほら、ドナ、よく見せてごらん。・・・赤くなっているじゃないか」
スティーブ様の顔が目の前に会って、私は思わずドキッとしてしまった。赤くなっているのがおでこだけなのか、それとも顔全体なのかわからない。
「まぁ、大変。ヴィンスったら。馬鹿力なんだから気をつけなさい。ドナが怪我したらどうするつもり?」
マリア様が慌てて冷やしたタオルを用意してくれる。そんなに気を遣っていただかなくても大丈夫なのに、と思うけどマリア様にタオルを当ててもらって気持ちよさを堪能した。少し火照っていたのか、タオルの冷気で気持ちが落ち着くのがわかった。
「パーティなんて食事するためにあるんだ、そう思えば気楽だろ?」
「ヴィンス、お前少しは自重しろよ。ドナに恥をかかせるな」
「ハイハイ。でもドナ、美味しいケーキがあると思えば少しは楽しみだろ?」
「料理は期待してくれて構わないよ。ドナには我が家の美味しいものを全て味わってもらいたいからね」
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