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ラガン家
27 転落
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「ヒューガット様が本を我が国に持ち込んだのだろう?」
「お母上がタセル国の出とのことで、いい本が手に入ったと王子に見せて喜ばれたそうだ」
「わざわざ翻訳した本を用意したと聞いたぞ。元々ヒューガット家と王族の付き合いは深いからな」
今や読書クラブだけではなく、どこへ行っても本についての噂を聞く。活字など読んだことがないだろう者たちまで話しているのだから驚きだ。聞く気がなくても耳に入ってくるのだ。
ヒューガット家は違う派閥だからあまりよく知らない。でもそういえば、前の時に何かのパーティでヒューガット氏に会った気がする。彼の母上はタセル国の令嬢だった。結婚してずっと我が国で生活をしていたが、夫を亡くしたためタセルに戻ったそうだ。そこでタセル国でいい本を見つけたとのことで、ヒューガット氏から本を渡された。
そうだ、思い出した。アリーと結婚してまもなく、俺は刺繍入りのハンカチを出会った者に配っていた。誰もがその精巧な作りに驚き、そして俺を見る目が特別なものに変わった。同じ派閥の気に入った者にしか渡さない特別なハンカチ。丁寧に施された家紋の刺繍はどれも見事で、渡された者はわかりやすいくらいに俺に忠誠心を見せてくれた。その眼差しに俺は酔った。
パーティには別の派閥の人間もいて、俺は少々居心地の悪さを感じていた。ヒューガット氏が近づいてきて、刺繍について褒めた。誰かに見せてもらったと言い、あんなに素晴らしい刺繍を刺せる人を見たことがない。そんな人を嫁にしたとは本当に運が良い。ヒューガット氏はそう言って俺に本を手渡してきたのだ。
刺繍が欲しいのだろう。そういう奴を見たことがあった。失敗作でも良いからと言った奴もいた。同じ派閥になれば貰えると思い込んだ奴もいて、俺は心の中で軽蔑していた。刺繍くらいで派閥を変える程度の忠誠心などあてにはできないだろう。
そんなこともあり、俺はアリーに簡単な図柄でいいからと言って何十枚も要求した。その要求にアリーは応えていた。病弱で寝てばかりだが、役に立つ。俺はそう思っていた。実際はアリーではなくアニーが要求に応えていたのだが、俺は何も知らなかった。多分知ったとしても何も思わなかっただろう。妻とは嫁いだ家に尽くすものだ。アリーだけではなく妹のアニーもラガン家のために尽くして当然だ。
ヒューガットから本を貰ったが刺繍は渡さなかった。本は図書室に放り込んだままだった。あのあとヒューガットはどうなったのだろうか。本を持ち込んだのは自分なのに誰にも気づいてもらえず、他人が称賛されて悔しくはなかったのだろうか。
でも今は違う。称賛されているのはヒューガットだ。あの時は刺繍を欲しがって俺に擦り寄る奴らは大勢いた。翻訳をしたおかげで陛下からも称賛された。だが、今は何もない。
「ブライアン、どうするつもりだ」
その日も母とマリーベルの愚痴を聞き、俺はゲンナリしていた。家にいると気分が滅入ってくる。どこかに逃げ出したかったが、行く場所もない。図書クラブにしか居場所はないように思えたが、本の噂を聞くのも面倒だった。
父に呼び止められ、俺はぎこちなく振り返った。父も今は会いたくない人だった。どうするというのは、子どものことだ。マリーベルとの子どもを父は認めていない。さすがに結婚したのに妻との間には子を成さずに、別の女と子を成すことには抵抗がある。
「あんな女の子ができてしまったら、ラガン家は破滅する。分かっているな」
父はそう言って俺を睨んだ。白目は濁り血走っていた。父はこんな目をしていただろうか。俺の知る父はいつも威厳があった。常に堂々として抜かりはなかった。だが今はどこか病的で表情も険しい。常に怒っているようで使用人を怒鳴りつけては、手近にあるものを投げつけたり蹴ったりしている。
「はい、重々承知しています」
逆らうと面倒なことになる。とりあえず俺は頭を下げ賛同した。
「よし」
俺を見て父は満足げにうなづいた。
「良い相手がいる」
父は笑った。久しぶりに見る笑顔だ。だがその顔は歪んでいて、目の焦点が合っていないように見える。ゾッとした。父は大丈夫なのか。
「ロゼルス家を知っているな」
いきなり何を言い出すのだろうか。知らないわけがない。
「ロゼルス家は伯爵家だ。姉のアリーに子を産んでもらおう」
「は?」
思わず大声を出した。父の後ろにいるジョンソンを見ると彼も父を凝視している。しかし父は続けて話し出した。
「確かに病弱らしいが子さえ産めばどうでもいい。伯爵家の血筋は絶やしてはならん。ラガン家は古くから王家に仕え王族を迎えたこともあった。お前ならこの意味はわかるだろう。ラガン家は王家に必要とされておるのだ」
父は朗々と話し続ける。ロゼルス家とは縁を切ったはずだ。何故アリーと子を成さねばならないのだ。
「金を払えばアリーは子を産むだろう。男でも女でも今はかまわん。女であれば容姿を磨かせればいいだけだ。どんな手を使ってもラガン家の血は絶やすな」
父はジョンソンに促されるまで話し続けていた。言っていることが支離滅裂だ。父の異常さに改めて気づいた。本当に父は大丈夫なのか。
数日後、医者に診断してもらい父の引退が決まった。両親は遠方にある別荘で余生を過ごすことになった。
「ブライアンを授かる前に実はもう一人子どもがいたのよ」
母の部屋を訪ねると、母は窓辺にある椅子に座り外を見ていた。俺の方を見もせずに母は話し出した。静かで落ち着いた声だった。
「女の子だった。女なんて産んでって言われて見てもくれなかったわ。可哀想にあの子は父親に抱き上げてもらえずに死んでしまったの」
そんなことは知らなかった。俺はどう声をかけていいか分からず呆然と母を見た。マリーベルへの愚痴を言っていた母は、活気があってイキイキとしていたように思える。しかし今ここで見ている母は小さくて今にも崩れ落ちそうな気がした。
「男の産めない女腹なんて言われて、男の子を産んでくれる人を探していたのよ」
母がどんな顔をしているか分からなかった。もしかしたら泣いているかもしれない。か細く小さな声なのに俺の耳にはハッキリ聞こえた。
「でもあなたを授かることができた。でもロゼルス家との話が出た時に言われたの。あの子が生きていれば、ロゼルス家との縁談もなかったのにって」
母はそう言うと俺の方に顔を向けた。青白く表情のない顔。母はすっかり老け込んでしまった。化粧もせず髪も適当に纏めたまま。病気の時でさえ身だしなみに余念がなかったはずなのに見る影もない。
「勝手なものよね」
俺は何も言えないまま母の顔を見ていた。もう会えなくなるかもしれないと気づいたのは、母の部屋を出てからだった。
「お母上がタセル国の出とのことで、いい本が手に入ったと王子に見せて喜ばれたそうだ」
「わざわざ翻訳した本を用意したと聞いたぞ。元々ヒューガット家と王族の付き合いは深いからな」
今や読書クラブだけではなく、どこへ行っても本についての噂を聞く。活字など読んだことがないだろう者たちまで話しているのだから驚きだ。聞く気がなくても耳に入ってくるのだ。
ヒューガット家は違う派閥だからあまりよく知らない。でもそういえば、前の時に何かのパーティでヒューガット氏に会った気がする。彼の母上はタセル国の令嬢だった。結婚してずっと我が国で生活をしていたが、夫を亡くしたためタセルに戻ったそうだ。そこでタセル国でいい本を見つけたとのことで、ヒューガット氏から本を渡された。
そうだ、思い出した。アリーと結婚してまもなく、俺は刺繍入りのハンカチを出会った者に配っていた。誰もがその精巧な作りに驚き、そして俺を見る目が特別なものに変わった。同じ派閥の気に入った者にしか渡さない特別なハンカチ。丁寧に施された家紋の刺繍はどれも見事で、渡された者はわかりやすいくらいに俺に忠誠心を見せてくれた。その眼差しに俺は酔った。
パーティには別の派閥の人間もいて、俺は少々居心地の悪さを感じていた。ヒューガット氏が近づいてきて、刺繍について褒めた。誰かに見せてもらったと言い、あんなに素晴らしい刺繍を刺せる人を見たことがない。そんな人を嫁にしたとは本当に運が良い。ヒューガット氏はそう言って俺に本を手渡してきたのだ。
刺繍が欲しいのだろう。そういう奴を見たことがあった。失敗作でも良いからと言った奴もいた。同じ派閥になれば貰えると思い込んだ奴もいて、俺は心の中で軽蔑していた。刺繍くらいで派閥を変える程度の忠誠心などあてにはできないだろう。
そんなこともあり、俺はアリーに簡単な図柄でいいからと言って何十枚も要求した。その要求にアリーは応えていた。病弱で寝てばかりだが、役に立つ。俺はそう思っていた。実際はアリーではなくアニーが要求に応えていたのだが、俺は何も知らなかった。多分知ったとしても何も思わなかっただろう。妻とは嫁いだ家に尽くすものだ。アリーだけではなく妹のアニーもラガン家のために尽くして当然だ。
ヒューガットから本を貰ったが刺繍は渡さなかった。本は図書室に放り込んだままだった。あのあとヒューガットはどうなったのだろうか。本を持ち込んだのは自分なのに誰にも気づいてもらえず、他人が称賛されて悔しくはなかったのだろうか。
でも今は違う。称賛されているのはヒューガットだ。あの時は刺繍を欲しがって俺に擦り寄る奴らは大勢いた。翻訳をしたおかげで陛下からも称賛された。だが、今は何もない。
「ブライアン、どうするつもりだ」
その日も母とマリーベルの愚痴を聞き、俺はゲンナリしていた。家にいると気分が滅入ってくる。どこかに逃げ出したかったが、行く場所もない。図書クラブにしか居場所はないように思えたが、本の噂を聞くのも面倒だった。
父に呼び止められ、俺はぎこちなく振り返った。父も今は会いたくない人だった。どうするというのは、子どものことだ。マリーベルとの子どもを父は認めていない。さすがに結婚したのに妻との間には子を成さずに、別の女と子を成すことには抵抗がある。
「あんな女の子ができてしまったら、ラガン家は破滅する。分かっているな」
父はそう言って俺を睨んだ。白目は濁り血走っていた。父はこんな目をしていただろうか。俺の知る父はいつも威厳があった。常に堂々として抜かりはなかった。だが今はどこか病的で表情も険しい。常に怒っているようで使用人を怒鳴りつけては、手近にあるものを投げつけたり蹴ったりしている。
「はい、重々承知しています」
逆らうと面倒なことになる。とりあえず俺は頭を下げ賛同した。
「よし」
俺を見て父は満足げにうなづいた。
「良い相手がいる」
父は笑った。久しぶりに見る笑顔だ。だがその顔は歪んでいて、目の焦点が合っていないように見える。ゾッとした。父は大丈夫なのか。
「ロゼルス家を知っているな」
いきなり何を言い出すのだろうか。知らないわけがない。
「ロゼルス家は伯爵家だ。姉のアリーに子を産んでもらおう」
「は?」
思わず大声を出した。父の後ろにいるジョンソンを見ると彼も父を凝視している。しかし父は続けて話し出した。
「確かに病弱らしいが子さえ産めばどうでもいい。伯爵家の血筋は絶やしてはならん。ラガン家は古くから王家に仕え王族を迎えたこともあった。お前ならこの意味はわかるだろう。ラガン家は王家に必要とされておるのだ」
父は朗々と話し続ける。ロゼルス家とは縁を切ったはずだ。何故アリーと子を成さねばならないのだ。
「金を払えばアリーは子を産むだろう。男でも女でも今はかまわん。女であれば容姿を磨かせればいいだけだ。どんな手を使ってもラガン家の血は絶やすな」
父はジョンソンに促されるまで話し続けていた。言っていることが支離滅裂だ。父の異常さに改めて気づいた。本当に父は大丈夫なのか。
数日後、医者に診断してもらい父の引退が決まった。両親は遠方にある別荘で余生を過ごすことになった。
「ブライアンを授かる前に実はもう一人子どもがいたのよ」
母の部屋を訪ねると、母は窓辺にある椅子に座り外を見ていた。俺の方を見もせずに母は話し出した。静かで落ち着いた声だった。
「女の子だった。女なんて産んでって言われて見てもくれなかったわ。可哀想にあの子は父親に抱き上げてもらえずに死んでしまったの」
そんなことは知らなかった。俺はどう声をかけていいか分からず呆然と母を見た。マリーベルへの愚痴を言っていた母は、活気があってイキイキとしていたように思える。しかし今ここで見ている母は小さくて今にも崩れ落ちそうな気がした。
「男の産めない女腹なんて言われて、男の子を産んでくれる人を探していたのよ」
母がどんな顔をしているか分からなかった。もしかしたら泣いているかもしれない。か細く小さな声なのに俺の耳にはハッキリ聞こえた。
「でもあなたを授かることができた。でもロゼルス家との話が出た時に言われたの。あの子が生きていれば、ロゼルス家との縁談もなかったのにって」
母はそう言うと俺の方に顔を向けた。青白く表情のない顔。母はすっかり老け込んでしまった。化粧もせず髪も適当に纏めたまま。病気の時でさえ身だしなみに余念がなかったはずなのに見る影もない。
「勝手なものよね」
俺は何も言えないまま母の顔を見ていた。もう会えなくなるかもしれないと気づいたのは、母の部屋を出てからだった。
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