61 / 62
61
しおりを挟む「俺のいないところで何をしている」
アジャール様の声は低く気持ちの悪いものでした。ゾワゾワとして鳥肌が立ちました。
「国王の俺を差し置いて、他国と交渉か。偉くなったものだな」
アマンダさんは震えているようです。でも黒い影になっているのでよくわかりません。
「お前などどうにでもできることを忘れたか!」
アジャール様が怒鳴ると、アマンダさんの影が小さくなって消えてしまいました。存在そのものが消されてしまったようで、私はゾッとしました。
『マズイ。あいつは力をつけている』
フルル様の声が聞こえました。
「今の俺はお前らより強い。お前らなど消し去ってやる」
アジャール様が右手を上げるとものすごい瘴気が集まってきました。そしてそのまま右手を振り下ろすと、瘴気の塊が飛んできました。とっさに浄化のエネルギーで幕を張り瘴気の塊はそれに当たって消えたのですが、空気が揺れるような衝撃を感じました。
「レートレースの連中は気に入らなかったんだ。隣だっていうのに、こっちが困っても助けやしなかったしな。
皇子2人も俺と歳が近いっていうのに、挨拶もろくに出来やしねえ。そのくせ自分達の方が上だって顔してやがる。
そういえば、マグヌスはレートレースに逃げてったんだよなぁ。あいつは負け犬だからな。自分じゃ何も出来ねぇ大馬鹿野郎だ。
アマンダは俺の女になったが、どうでもいい。あいつも口うるせいし、小言ばっかり言いやがる。
俺に指図するなんて、一千万年早いっつうんだ」
アジャール様はずっとブツブツ言っています。なんだか気味が悪いです。
『こいつは劣等感が強く、何もかも他人のせいにしてたようだな』
フルル様がため息をついています。
『まあ、だからこそ、瘴気が集まってボスになったみたいだな』
「つべこべ、うるさいんだよ!」
そこにエディ様が剣を振るいました。アジャール様の頭から脇の下まで切り裂いていきます。
「ぐっ」
アジャール様の顔が歪み、苦しそうな声を出しました。血の代わりに出てきたものは、真っ黒いもやもやとしたもの。それらが口々に何かを呟いています。
「あいつより俺の方がいい男だ」
「親の力でのし上がったくせに」
「金で全てを買えると思ってるのか」
「サボり方だけ上手くなりやがって」
色々な声が聞こえてきました。聞いていると気持ちが滅入ってきます。私はただひたすらに浄化のエネルギーを送りました。
「アリス・・・」
エディ様の声が聞こえました。気がつくとそこにはもうアジャール様の姿はありませんでした。
『アジャールは浄化した』
王妃様とアマンダ様はどうなったか聞こうと思いましたが、やめました。インディアルのあった国は魔獣の国として、関わらないことにしたのでした。
11
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説

【 完 結 】言祝ぎの聖女
しずもり
ファンタジー
聖女ミーシェは断罪された。
『言祝ぎの聖女』の座を聖女ラヴィーナから不当に奪ったとして、聖女の資格を剥奪され国外追放の罰を受けたのだ。
だが、隣国との国境へ向かう馬車は、同乗していた聖騎士ウィルと共に崖から落ちた。
誤字脱字があると思います。見つけ次第、修正を入れています。
恋愛要素は完結までほぼありませんが、ハッピーエンド予定です。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います
菜花
ファンタジー
ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる