上 下
37 / 62

37

しおりを挟む
『アリスの魔力、凄いよ。俺、気に入っちゃった。いい子にしてるから、また貰える?』

 ラビさんはすっかりご機嫌になって、私に擦り寄ってきました。お尻には長い尻尾が2本あって、その尻尾がグルングルンと揺れています。その度にエディ様とグレン様に当たりかけて、お二人はそれを避けるのに必死でした。

「これも運動になるな」
「そうですね、魔獣にはいろいろいますからね」

 何だか平和な感じになって、私はラビさんを撫でながらくつろいだ気分でいました。すると、遠くの方から何やらズドドドドド、という音が響いてきました。顔を上げると、大きなオオカミのような魔獣がこちらに走ってきます。

「緊急通報、緊急通報。ウルフ型魔獣が1頭脱出。全員持ち場に着け」

 何やら大変です。緊急通報が発令されました。脱出したオオカミ魔獣は真っ直ぐこちらに向かっていると思われます。

「アリス、あれはうちで1番ヤバい魔獣だ」

 エディ様が魔力を溜めているのがわかります。グレン様が剣を抜いて構えました。私は言われている通り、グレン様の側に行きます。

「ラビさん、あの魔獣さんは?」

 お仲間ならわかるだろうと私はラビさんに聞きました。ラビさんは気持ち良さそうにあくびをしています。

『フフル様だよ。フフル様はここで1番偉いんだ。人間なんか、鼻息で飛ばしちゃうよ』

 え?鼻息で飛ばす?それじゃ、勝てないのではないでしょうか。でもそれなら何故この練習場にいるのでしょうか。ラビさんとエディ様たちは話ができませんでした。話ができないのに何故契約して練習台になったのか、いろいろ疑問になってきます。

『フフル様もアリスの魔力を食べたいんだよ。だって美味しいもん』

 え?と思っているうちにそのフフル様が近づいてきました。エディ様とグレン様が私の前に立ち、私を守ってくださいます。しかし、フフル様はその前で止まると大人しくお座りのポーズを取りました。

「え?」
「お座り?」

 エディ様、グレン様がフフル様を前に呆然としています。他の騎士の方々も追いついたのですが、同じく呆然としたまま動けません。

『お主は誰だ?』

 フフル様に言われ、私はフフル様の前に立ちました。

「アリス、ダメだよ」
「危ないから、下がって」

 エディ様、グレン様に言われ、エディ様が私の手を握ります。

「大丈夫です。私bの名前はアリスです。フフル様ですね。ラビさんに聞いています。よろしくお願いします」

『ラビール。この者の魔力を浴びて成長したな』

 成長したのですか?大きくなったようには見えませんが。

『見た目は変わらないが、一段階上がったのだ』

 段階があるのですか?魔獣さんはよくわからないですね。

『わ~い、俺、成長しちゃった。フフル様も成長する?』
『我はもう成長しない。最終段階まで上がっているのだ』

 最終段階?余計にわからなくなりましたが、とりあえずフフル様にも魔力をお流ししましょう。

 私はエディ様の制止も振り切りフフル様にも魔力を流しました。

「ダメだよ、アリス」

 エディ様が咄嗟に私の手を取りました。片手はエディ様、もう片手はフフル様の背中に当てている状態です。その瞬間、エディ様、フフル様が同時に白く光りました。

『おぉ!』
「うわぁ!」

 何が起きたかよくわからないのですが、私にも何かが流れ込んでくる感じがします。こんな体験が初めてで、私はどうしたらいいかわからず、でも魔力は流れていくのでした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家族から虐げられていた私、実は世界で唯一精霊を操れる治癒精霊術師でした〜王都で癒しの聖女と呼ばれ、聖騎士団長様に溺愛されています〜

津ヶ谷
恋愛
「アリーセ、お前を男爵家から勘当する!」  理不尽に厳しい家系に生まれたアリーセは常に虐げられて来た。 身内からの暴力や暴言は絶えることが無かった。  そして16歳の誕生日にアリーセは男爵家を勘当された。 アリーセは思った。 「これでようやく好きな様に生きられる!」  アリーセには特別な力があった。 癒しの力が人より強かったのだ。  そして、聖騎士ダイス・エステールと出会い、なぜか溺愛されて行く。 ずっと勉強してきた医学の知識と治癒力で、世界の医療技術を革命的に進歩させる。  これは虐げられてきた令嬢が医学と治癒魔法で人々を救い、幸せになる物語。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

婚約破棄され、聖女を騙った罪で国外追放されました。家族も同罪だから家も取り潰すと言われたので、領民と一緒に国から出ていきます。

SHEILA
ファンタジー
ベイリンガル侯爵家唯一の姫として生まれたエレノア・ベイリンガルは、前世の記憶を持つ転生者で、侯爵領はエレノアの転生知識チートで、とんでもないことになっていた。 そんなエレノアには、本人も家族も嫌々ながら、国から強制的に婚約を結ばされた婚約者がいた。 国内で領地を持つすべての貴族が王城に集まる「豊穣の宴」の席で、エレノアは婚約者である第一王子のゲイルに、異世界から転移してきた聖女との真実の愛を見つけたからと、婚約破棄を言い渡される。 ゲイルはエレノアを聖女を騙る詐欺師だと糾弾し、エレノアには国外追放を、ベイリンガル侯爵家にはお家取り潰しを言い渡した。 お読みいただき、ありがとうございます。

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

【完結】聖女と結婚するのに婚約者の姉が邪魔!?姉は精霊の愛し子ですよ?

つくも茄子
ファンタジー
聖女と恋に落ちた王太子が姉を捨てた。 正式な婚約者である姉が邪魔になった模様。 姉を邪魔者扱いするのは王太子だけではない。 王家を始め、王国中が姉を排除し始めた。 ふざけんな!!!   姉は、ただの公爵令嬢じゃない! 「精霊の愛し子」だ! 国を繁栄させる存在だ! 怒り狂っているのは精霊達も同じ。 特に王太子! お前は姉と「約束」してるだろ! 何を勝手に反故してる! 「約束」という名の「契約」を破っておいてタダで済むとでも? 他サイトにも公開中

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

偽物の女神と陥れられ国を追われることになった聖女が、ざまぁのために虎視眈々と策略を練りながら、辺境の地でゆったり楽しく領地開拓ライフ!!

銀灰
ファンタジー
生まれたときからこの身に宿した聖女の力をもって、私はこの国を守り続けてきた。 人々は、私を女神の代理と呼ぶ。 だが――ふとした拍子に転落する様は、ただの人間と何も変わらないようだ。 ある日、私は悪女ルイーンの陰謀に陥れられ、偽物の女神という烙印を押されて国を追いやられることとなった。 ……まあ、いいんだがな。 私が困ることではないのだから。 しかしせっかくだ、辺境の地を切り開いて、のんびりゆったりとするか。 今まで、そういった機会もなかったしな。 ……だが、そうだな。 陥れられたこの借りは、返すことにするか。 女神などと呼ばれてはいるが、私も一人の人間だ。 企みの一つも、考えてみたりするさ。 さて、どうなるか――。

処理中です...