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「私にはデイジーという妹が1人いますが、彼女は妹ではありません」

 私は無表情に淡々と言った。

「お姉様、ひどぉい。私がよその子だからってぇ」

 ほらきた、ミアの嘘泣きタイム。あの子はこうやって嘘泣きをしばらくする。しばらくすると本当に涙を出してくる。10年以上やってるのでもはや芸と言える。

「本当によその子です」

 尚も私は淡々と言った。会場は私が何を言うか期待しているようである。

「私が養女だからって、そうやっていつも意地悪言うのね」

 そろそろミアが涙をこぼす頃である。ポロリ。ほらね。でも目は睨んでいるんだ。

「意地悪ではありません。養女は解消されました。あなたはすでにミア・モローではありません」

「な、何?」

「あなたは私の叔父、父の弟の子で叔父が死んだから我が家に養女としてやってきました。でも叔父は生きていたうえ、叔父の子ではないとわかりました」

 会場のざわつきが大きくなった。ミアは混乱したのか涙が止まっている。私の横から叔父が書類を出す。我が家にミアという子どもはいないという証明書類である。

「で、でもぉ。私そのとき5歳だったからぁ、そんなこと知らないしぃ」

 ミアが持ち直し、演技がスタートする。唇を軽く尖らせてしゃべる。これで騙される男がいるのだから不思議だ。

「5歳のあなたはうちに来てすぐ、1人部屋にしろ、3人部屋は嫌だと言いましたね。それから執事とメイドはいないのか。いないと言ったら、父に執事になれ、母と私にはメイドになれと言い、毎日のように妹のデイジーをいじめましたね。まだ3歳のデイジーを」

「それ、ミアに言ったんじゃないの?ミアにお前はメイドだって言って」

 会場から誰かの声がした。男の人だ。騙されたんですね、ご愁傷様ですと心の中でつぶやく。

「モロー家にはそう言って糾弾しにくる人が大勢いたのでいちいち説明して納得してもらったんですよ。こちらの書類はその証拠です」

 叔父はまたもや分厚い書類を頭上に掲げた。最初に来られた子爵の方がこういった書類を残した方が後々安心ですよと言われ、その後書類にするようになった。本当に使用することになるとは思わなかった。

「地元じゃ有名になりすぎたので、この学校に来たみたいだけど。ここでも同じことしたのね」

 何人もの生徒がため息をついた。みなさん、被害者なのかもしれない。

「殿下ぁ、ひどいですぅ。壇上に呼ぶのはこんな話のためじゃないですよね。この人たち、部外者なのにぃ」

「部外者ではないですよ」

 叔父さんは笑顔をミアに見せた。

「トーマス・モロー。ミアの亡くなった父親というのは私のことだ」

 ミアの目が大きく見開いた。会場からも声が聞こえる。

「まだ5歳だからツメが甘かったな。お前の母親のセリーヌも慌てたんだろう」

 「母親?」という会場からの声にミアが震え出した。

「私がミアに言いたいことがあるということを忘れていませんか」

 殿下がマイクを通じて言った。そうだ、殿下がミアに言いたいこと。それを聞かないと。

「本当の母親は我が国にいるから会いに行きたいと言っていたが、本当の話か?」

 ミアは何も言わなかった。ただ下を向き、ドレスのフリルを掴んでいた。





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