上 下
9 / 11

9

しおりを挟む
 私は今、馬車の中にいる。ミアのいる学校に向かっているのだ。今日は殿下の卒業式で、ミアはあと2年残っている。家族全員で最初は行くつもりだったが、結局私だけ行くことになった。デイジーはミアに会うのが怖いと拒否、母はデイジーを1人残せないと言い、父はミアの尻拭いはもうしたくないと言った。

 私もミアに会いたくない。だがこれは家族としてやらなくてはいけないことなのだ。ミアを増長させた責任が我々にあるかもしれない。だが、何をどうしたらよかったのかわからない。

 ミアは転生者なのだろうか。10年ずっと考えてきた。仮に転生者だったとしても私たちにしたことは許されることではない。ここが乙女ゲームの世界だったとしても、ミアがしたこと、ミアにされたことは現実だ。

 馬車が学校に着いた。叔父さんが待っていてくれる。2人で会場の中に入る。

「2年、スーザン・ベック。君に言いたいことがある!」

 壇上でマイクを持った男性が言うと、会場から誰かが出てきて壇上に登る。

「いつも優しく微笑んで僕に挨拶してくれた!ありがとう!」

 そう言って男性は女性に手を差し出す。女性は照れたような笑顔を見せながらその手を握る。わぁぁと歓声が上がる。

「卒業生が言いたいことをマイクで言うらしい。今のはプロポーズみたいだけどな」

 なるほど。ゲームだと攻略対象が婚約者を断罪するが、ミアはうまくいかなかったようだから断罪はないかと思っていた。でもこのパターンだとあるということか。

 次に壇上に登ったのはものすごいイケメンの男性だ。この人が王子らしい。

「ミア・モロー。君に言いたいことがある」

 やはり来た。言われて嬉しそうな顔で壇上に向かうその姿に私は吐き気がしそうになった。彼女のドレスはピンクのフリフリ。フリルから手足と顔が出ているみたいなドレスだった。

 数ヶ月前に「卒業式用に着るドレス代を送れ」と言ってきた。そんなお金は家にはなかった。お金を送るなら私とデイジーでドレスを作った方が安い。私もデイジーも裁縫をして家計を助けている。そう言ったら、例の「私がよその子だから」と言ってきた。そうだよ、正真正銘よその子だよ。今まで従姉妹だと思っていたから我慢してきた。でも違う。

「大丈夫だ」

 私のことに気がついたか叔父さんが言った。

 ミアは嬉しそうな顔をして壇上に登る。プロポーズされると思い込んでいるようだ。

「よし、行こう」

 叔父さんは私の手を取り壇上に向かった。会場はざわついている。部外者と思わしき人間が壇上に上がってきたからだ。

 ミアは一瞬何が起こったか分からないようだった。だが、すぐに私とわかると睨みつけた。

「ミア」

 王子が呼びかけると、すぐにミアは微笑んだ。

「この人は誰?」

「私のお姉様ですぅ」

 ゾワっと鳥肌が立った。お姉様なんて呼ばれたことはない。デイジーには強要したくせに私のことはマギーと呼んだ。愛称呼びを許可した覚えはない。しかもあの喋り方。甘ったるい鼻にかかった独特の声。

「ミアのお姉様ですか」

 王子が私に向かって言った。

「いいえ、赤の他人です」

 会場がざわめき出した。静かにして、断罪イベントが始まるのだから。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

【完結】化け物と言われ続けた令嬢は、追放された先で真実を知る

紫宛
ファンタジー
もぅ~無理~!!っと、書きなぐった作品なので、色々荒いです。見苦しく読みにくいかも?です。 魔力が高く、胸元に宝石を宿すティアナ 侯爵家の令嬢だったが、化け物だからという理由で婚約破棄を言い渡された。 何故ティアナが化け物と言われ始めたのか…… それは……高い魔力と胸の宝石、そして化け物に姿を変えるから。 家族にも疎まれたティアナは、追放され辿り着いた国で本当の家族と真実を知る。 ※素人作品、ご都合主義、ゆるふわ設定※

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

【完結】 元魔王な兄と勇者な妹 (多視点オムニバス短編)

津籠睦月
ファンタジー
<あらすじ> 世界を救った元勇者を父、元賢者を母として育った少年は、魔法のコントロールがド下手な「ちょっと残念な子」と見なされながらも、最愛の妹とともに平穏な日々を送っていた。 しかしある日、魔王の片腕を名乗るコウモリが現れ、真実を告げる。 勇者たちは魔王を倒してはおらず、禁断の魔法で赤ん坊に戻しただけなのだと。そして彼こそが、その魔王なのだと…。 <小説の仕様> ひとつのファンタジー世界を、1話ごとに、別々のキャラの視点で語る一人称オムニバスです(プロローグ(0.)のみ三人称)。 短編のため、大がかりな結末はありません。あるのは伏線回収のみ。 R15は、(直接表現や詳細な描写はありませんが)そういうシーンがあるため(←父母世代の話のみ)。 全体的に「ほのぼの(?)」ですが(ハードな展開はありません)、「誰の視点か」によりシリアス色が濃かったりコメディ色が濃かったり、雰囲気がだいぶ違います(父母世代は基本シリアス、子ども世代&猫はコメディ色強め)。 プロローグ含め全6話で完結です。 各話タイトルで誰の視点なのかを表しています。ラインナップは以下の通りです。 0.そして勇者は父になる(シリアス) 1.元魔王な兄(コメディ寄り) 2.元勇者な父(シリアス寄り) 3.元賢者な母(シリアス…?) 4.元魔王の片腕な飼い猫(コメディ寄り) 5.勇者な妹(兄への愛のみ)

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

処理中です...