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しおりを挟むミアがいなくなってくれてから、我が家は平和だった。笑顔も絶えず、いつも笑い声が聞こえる。
ミアがひどい嘘を言いまくるので我が家は誤解され、母は人間不審に陥っていた。デイジーもミアのひどい暴力のため、一時は精神的に不安定になっていた。私も常にミアを気にするあまり不眠症になり、父もいくつか取引先を失っていた。
このまま何事もなく済んで、いっそミアが帰ってこなければとみんなが思っていた。しかし前世の記憶のある私だけが安心できずにいた。
もしゲームどおりならミアはどうなるだろう。うまく攻略が成功したら高位貴族、下手したら王族と結婚してしまう。でもミアに務まるわけがない。そうすると何らかの責任問題がうちに発生するのではないか。攻略が失敗したら、うちに戻ってくる。そうするとあの地獄がまたやってくる。
今のうちに引っ越しでもしたほうがいいのでは?と私は密かに考えている。会社も人に渡して、新たに別の場所で新しい人生を。そんなことを考えていた時だった。
我が家にお客さんがやって来た。
それはいかにも大金持ちが乗る馬車だった。そんな馬車が我が家の前に止まる。前にもこういうことは何回かあった。ミアが学校でやらかすと必ず高そうな馬車に乗った貴族の方がいらっしゃるのだ。あるときはミアの態度による苦情、またあるときはミアの嘘をマトモに受け取った善意の人。前者の場合はうちの話を聞いて逆にうちに同情される。後者の場合もうちの話を聞いて同情される。どのみち我が家は同情されるのだ。
たまたま全員が家にいた。ため息をつきつつ、客人を出迎える。
「兄貴、久しぶりだな」
ドアの前に立っていたのは、父と同じくらいの歳の男性である。父よりも少し背が高い。
兄貴と呼ばれた父は一瞬戸惑ったが、すぐに目を見張って言った。
「トーマス、お前」
トーマス?それは死んだはずのミアの父ではないか?私たちは声も出ずただ呆然としてしまった。
「トーマス、お前死んだはずでは」
「生きてるよ」
トーマス叔父さんはそう言って歯を見せて笑った。
「いろいろ大変だったんだろう。説明するから」
笑うと父というより祖父に似ていると思った。父より豪快な感じがしたが、それは会社の金庫から大金を盗んだというエピソードのせいかもしれない。
叔父さんが生きてるとしたらミアを引き取ってもらおう。私はそれだけは言っておきたいと決意した。どこをどうやればあんな悪魔ができちゃうのだろう。当時5歳だったのに一丁前な口を聞いていた。ミアについての悪口をさあ、言うぞと頭の中で考えていた。
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