216 / 220
216
しおりを挟む
「ど、どういうことだ!」
「消えたぞ!」
「キュリロス殿!」
騎士たちが慌てている声が聞こえる。私は息を潜めて外にいる彼らの声を聞いていた。
「言ったでしょう?マリアンヌ嬢は女神の加護を受けていると」
大臣の声が聞こえる。
「裏切ったのか!」
「スパイというものは、常に裏切る危険があると知るべきですよ」
「ユティシア様がどうなっても知らないぞ!」
その後は何を言っているのかわからないが、怒鳴り声が聞こえた。そのうちにカキーン、という金属がぶつかるような音が聞こえてくる。剣を打ち合う音だ。
「まだまだ、若い者には負けませんよ」
「貴様、年寄りのくせに!」
「相手は1人だ」
「裏切り者は殺せ」
怒鳴り声に足音が入り乱れて聞こえる。何度も聞こえる金属がぶつかり合う音。そのうちにザシュっという違う音も聞こえた。何かが倒れる音やドタバタと動き回る音。
「ユティシア様は今頃こちらの軍がお救いしている」
そこに聞こえてきた大臣の声。相変わらず冷静で大声ではないのにはっきりと聞こえてしまう。
「な、なんだと?」?
カキーンという音が一瞬止んだ。
「飢える者が増えたというのは一部の貴族が買い占めていたからですよ。彼らはクーデターを起こすために食糧を独占していたのです。あなた方は気の毒にも騙されていただけです」
「う、嘘だ」
「そんなことあり得ない」
動揺している声が聞こえてくる。
「あり得ますよ」
それに反して大臣の声は冷静だ。おそらく剣でやり合っていたと思うが、息も切れていない様子だ。
「陛下が援助を断ったのもクーデターが起こると予測していたからです。ユティシア様方王族の皆様は幽閉されているようですが、我が国が差し向けた者が中に紛れて監視しておりますので安全ですよ」
「くそっ!」
「マリアンヌがいないなら、こいつと一緒に」
「やるしかないな」
一瞬の沈黙の後、ズガーンという爆発音が聞こえた。
まさか爆弾?どうしよう。その後は何の音も聞こえなくなった。
お城はどうなったのだろうか。
私は呆然としていた。リンゴンに行くつもりはなかったし、行きたいとも思っていない。私の料理を人を傷つける兵士を作るために利用しようとする国だ。何をするかわからない。
でもそのせいで大臣やリンゴンの騎士たちが傷ついたかもしれない。最悪、傷ついただけじゃないかもしれないし、他のもっとたくさんの人が傷ついたかもしれない。
私が素直に従っていれば?それでも誰かを傷つけることにはなるだろう。自分がどうすれば良かったのか分からず、途方にくれていた。
「う、うぅっ・・・」
ずっと何も聞こえなかったのに、しばらくして小さな唸り声が聞こえた。それと同時に。
「いた、ここだ!」
「キュリロス、しっかりしろ!」
ドミニク様の声だ。おそらくたくさんの騎士が来ているのか、足音や声が多数聞こえてきた。
声を出そうとして戸惑った。無事でいると知らせたいが、ここにいることをバラすわけにいかないだろう。王族の一員として、このことは他人に知らせてはいけないのだ。
突然冷静になった。どのタイミングで出ればいいかわからない。とりあえず声をかけられるまで待つしかないのか。室内にあるソファに座り、私はぼんやりしていた。外はざわついていたが、だんだん静かになっているようだ。
もしかしたら、このままかも。ここはトイレもお風呂もある。
「リィ、いる?」
しばらくして、殿下の声が聞こえた。よかった、助けに来てくれたんだ。
「います!」
私が返事をすると
「よかった・・・」
安心した声が聞こえた。
「もう大丈夫だよ」
壁が消え、そこに立っていたのは殿下だった。その姿を見たら涙が溢れてきた。足が震えて立っていられなくて座り込んでしまう。
「頑張ったね、もう大丈夫だよ」
殿下は何度も言って頭を撫でてくれた。殿下の温もりが伝わってきて、私はようやく安心したのだった。
「消えたぞ!」
「キュリロス殿!」
騎士たちが慌てている声が聞こえる。私は息を潜めて外にいる彼らの声を聞いていた。
「言ったでしょう?マリアンヌ嬢は女神の加護を受けていると」
大臣の声が聞こえる。
「裏切ったのか!」
「スパイというものは、常に裏切る危険があると知るべきですよ」
「ユティシア様がどうなっても知らないぞ!」
その後は何を言っているのかわからないが、怒鳴り声が聞こえた。そのうちにカキーン、という金属がぶつかるような音が聞こえてくる。剣を打ち合う音だ。
「まだまだ、若い者には負けませんよ」
「貴様、年寄りのくせに!」
「相手は1人だ」
「裏切り者は殺せ」
怒鳴り声に足音が入り乱れて聞こえる。何度も聞こえる金属がぶつかり合う音。そのうちにザシュっという違う音も聞こえた。何かが倒れる音やドタバタと動き回る音。
「ユティシア様は今頃こちらの軍がお救いしている」
そこに聞こえてきた大臣の声。相変わらず冷静で大声ではないのにはっきりと聞こえてしまう。
「な、なんだと?」?
カキーンという音が一瞬止んだ。
「飢える者が増えたというのは一部の貴族が買い占めていたからですよ。彼らはクーデターを起こすために食糧を独占していたのです。あなた方は気の毒にも騙されていただけです」
「う、嘘だ」
「そんなことあり得ない」
動揺している声が聞こえてくる。
「あり得ますよ」
それに反して大臣の声は冷静だ。おそらく剣でやり合っていたと思うが、息も切れていない様子だ。
「陛下が援助を断ったのもクーデターが起こると予測していたからです。ユティシア様方王族の皆様は幽閉されているようですが、我が国が差し向けた者が中に紛れて監視しておりますので安全ですよ」
「くそっ!」
「マリアンヌがいないなら、こいつと一緒に」
「やるしかないな」
一瞬の沈黙の後、ズガーンという爆発音が聞こえた。
まさか爆弾?どうしよう。その後は何の音も聞こえなくなった。
お城はどうなったのだろうか。
私は呆然としていた。リンゴンに行くつもりはなかったし、行きたいとも思っていない。私の料理を人を傷つける兵士を作るために利用しようとする国だ。何をするかわからない。
でもそのせいで大臣やリンゴンの騎士たちが傷ついたかもしれない。最悪、傷ついただけじゃないかもしれないし、他のもっとたくさんの人が傷ついたかもしれない。
私が素直に従っていれば?それでも誰かを傷つけることにはなるだろう。自分がどうすれば良かったのか分からず、途方にくれていた。
「う、うぅっ・・・」
ずっと何も聞こえなかったのに、しばらくして小さな唸り声が聞こえた。それと同時に。
「いた、ここだ!」
「キュリロス、しっかりしろ!」
ドミニク様の声だ。おそらくたくさんの騎士が来ているのか、足音や声が多数聞こえてきた。
声を出そうとして戸惑った。無事でいると知らせたいが、ここにいることをバラすわけにいかないだろう。王族の一員として、このことは他人に知らせてはいけないのだ。
突然冷静になった。どのタイミングで出ればいいかわからない。とりあえず声をかけられるまで待つしかないのか。室内にあるソファに座り、私はぼんやりしていた。外はざわついていたが、だんだん静かになっているようだ。
もしかしたら、このままかも。ここはトイレもお風呂もある。
「リィ、いる?」
しばらくして、殿下の声が聞こえた。よかった、助けに来てくれたんだ。
「います!」
私が返事をすると
「よかった・・・」
安心した声が聞こえた。
「もう大丈夫だよ」
壁が消え、そこに立っていたのは殿下だった。その姿を見たら涙が溢れてきた。足が震えて立っていられなくて座り込んでしまう。
「頑張ったね、もう大丈夫だよ」
殿下は何度も言って頭を撫でてくれた。殿下の温もりが伝わってきて、私はようやく安心したのだった。
84
お気に入りに追加
1,074
あなたにおすすめの小説

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる