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しおりを挟む「さて、それでは王族にしか知らされていないことがまだある」
ここでお茶とお菓子でも食べたいところであるが、そんな雰囲気でもない。普段ならねだられるはずがそんなこともない。ここは恐らく飲食禁止区域なのだろう。早く話を終わらせてもらって別室でくつろぎたい。そう考えたが、ここはお城。くつろげる場所はあるのだろうか。
「城の中では王族しか入れない部屋もあるし、王族しか入れないスペースもある」
スペース?どういうことだろう。
「この部屋の隅を見てごらん」
陛下に指を刺された場所を見る。部屋の隅?
「壁の色が違うところですか?」
他の壁が白いのにその部分だけが黄色く見えた。
「そうそう」
殿下が面白そうに笑っている。
「その部分を触ってみて」
立ち上がり黄色の壁を触ると、壁が消えて奥に入れるようになった。部屋があるのだ。
「わっ、部屋・・・ですね」
中に入ってみる。何の変哲もない部屋だ。ベッドがあってソファセットもある。洗面所やトイレ、バスルームも完備。振り返ると入ってきたところが壁になっている。ドアもない。閉じ込められた!
「えっ、どうしよう!助けてください!」
慌てて叫ぶと
「壁の色が違ってるだろう?そこを触って」
殿下の声が聞こえた。見るとやはり内側も壁の色が一部黄色くなっていた。そこを触ると壁が消えた。殿下の顔を見てホッとする。
「王族しか見えないし入れないんだ」
「どの部屋にも同じように壁の色が一部違って見えるはず。もしもの時はそうやって隠れなさい」
確かに一部分だけ色が違う壁なんておかしい。もしもの時がどんな時か聞くのは怖いので聞かなかった。
「今の陛下の時代になって使ったことはないのよ」
私を案じてか皇后様が笑顔でおっしゃった。
「前の代は色々あったからね」
言葉を濁して陛下がおっしゃった。先代の陛下の時代はクーデターまがいのことは何回かあったようだ。おそらく陛下とドミニク様はあのスペースに隠れることが日常的にあったのかもしれない。
その後、部屋を変えてようやくお茶を飲むことができた。王族専用のティールームらしい。だだっ広い部屋の中央にカーペットが敷かれ、その上にソファセットがある。使用人がお茶の準備をしてくれるが、準備が済んだらカーペットの中に入ることは許されないそうだ。
準備をしてもらいながら、部屋の隅を見たら確かに色の違う壁がある。いざというときはあそこか、と何故か身構えてしまう。立ち上がって走るとなるとドミニク様が邪魔になる。いや、この場合はドミニク様と一緒に向かう?騎士でもあるドミニク様は剣を取るだろうから、皇后様の手を取って・・・。あ、陛下と殿下はどうしたら・・・。
と、もしもの時を想像してしまった。おそらく難しい顔をしていたのだろう。
「ふふっ、リィ、部屋の隅ばかり見てる」
と、見ていた殿下に笑われる。殿下のことは二の次で自分と皇后様の身を守るためにシミュレーションしていたとは言えず、
「だって、不思議ですから」
と、ついそっけない言い方をしてしまった。しかしそれも面白く感じたのか殿下は嬉しそうに笑う。
「勉強が嫌で家庭教師が来る前に隠れたことがあったよ」
ドミニク様の発言に思わず目を剥いてしまった。
「え?ど、どうなったんですか?」
王族が1人行方不明になったのだ。一大事である。
「そりゃ、もうこっぴどく兄上に叱られたよ」
ハハハ、と笑うが笑い事ではなかっただろう。
「父上にバレたらとんでもないことになるのがわかったから、先に叱れば叱られないだろうと思って。あの時は侍従長が勘弁してあげてくれと泣いて縋ったよ」
侍従長が泣いて縋るくらいの叱りっぷり。ものすごく怒ったんだろうな。大変だっただろうけど、意外に普通の家庭のような気もする。
そんなたわいのない思い出話を聞くと、気持ちも和らいでくるのがわかる。
「今日はゆっくり休みなさい」
「そうよ、色々大変だから」
陛下と皇后様に優しく言われ、私はこの人たちの家族にもなれたのだと今さらながらに思ったのだった。
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