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大福を食べて少し復活した。お城で会ったキュリロス大臣のことを思い出す。苦手な人なのであまり会いたくないなと思うが、そういうわけにもいかないだろう。
元の世界にも苦手な上司がいたな。と、私は思い出していた。仕事に厳しく僅かなミスも許さない。重箱の隅をつつくような性格の持ち主。同僚との飲み会では必ず愚痴が出る人物であった。でも会社が倒産するかもと教えてくれた人でもあった。早いうちに有給取って再就職の準備をしろと言ってくれた。言う通りにしたけど再就職は叶わなかったわけだが。
どこの世界にも苦手な人物はいるものだ。諦めて何とかうまくやっていくしかない。
「マリ、学校に通うんだって?」
「そうなの、お妃教育もあるし、大変になるわね」
「まぁ、お嬢様のお身体が心配ですわ」
そうだ、それもあった。少し元気を取り戻したのだが、また心配の種を思い出してしまった。この世界の教育についていけるだろうか。
「学校で学ぶことはすでに身についているのに」
フランツ兄様は不満そうに呟いている。
「マリが優秀なのはわかっているはず」
「そうなんだけどね」
私が学校に通うことは勉強のためだけではない。そのことをお母様が説明する。
「そうか。そんな役目があるなら仕方ないか・・・」
納得はしてくれたもののまだ不満そうだ。
「大体、よその家の教育のためにマリを利用する必要はあるのでしょうか?マリの身体は一つしかないんですよ」
「そうよね・・・」
「マリ、くれぐれも身体には気をつけるんだよ」
と、フランツ兄様の膝の上に何故か座らされた。頭を撫でられる。
「マリは特別な子なんだ。だからと言って、国に好きに利用されることはない」
「そのことは何度も言ってるわ。陛下を信用するしかないわ」
言ってくれてるんだ。わかっていたけど、安心した。
「マリ、何かあったら必ず言うんだよ。絶対だからね」
「はい、わかっています」
と、私は笑顔を見せる。私には味方がいる。大丈夫だ。
「今日のお夕飯の準備をしますね」
疲れたし今日は作り置きで誤魔化そうと思っていたけど、料理をしたらスッキリするかもしれない。立ち上がってキッチンに向かう。
さて、今日は何をしようか。キッチンを見たら牛肉の塊を見つけた。そうだ、豪勢にステーキにしよう。元の世界では滅多に食べられなかったステーキだ。料理の仕方は知識にあるが、経験は少ない。今こそ、その知識を放出する時である。
ステーキならお母様のワインにも合うし、レオオール兄様の胃袋にも収まる。お父様は安定の大根おろしを添えよう。テンションが無駄に上がってしまう。
「朝から晩までお妃教育と学校ですか?」
夕飯の席。お父様から今後のスケジュールを聞いた。学校は好きな授業だけを取るとのことで、カルチャースクールのような感じだ。これも男性はきちんと必須科目もあり元の世界の学校と変わらないようだが、女性は全く同じというわけにいかないらしい。
「マリアンヌが通うようになれば生徒も増えるだろう」
「付き合う友人にも気をつけたほうがいいね」
「大丈夫よ、ちゃんと準備できてるわ」
公爵家の娘で次期王太子妃となれば、親しくなりたい人が大勢出てくる。いい人物ばかりとは限らないだろう。そういうことにも気を使わないといけないのか、と思うとゲンナリしてしまう。
「以前侍女候補として会った子たちを覚えてる?あの子たちも通うから」
そうだ、前にお城で会ったミシェル、エイミー、リリーだ。話しやすかったし、いい感じの子たちだった。彼女たちが一緒なら心強い。
「確かリリーはすでに通っているの。だから安心していいわよ」
元の世界での女友達を思い出した。バカな話で何時間も話していられた。悩みごとも相談できたし、喧嘩もしたけどそれもいい思い出。もう会うことはできないけど、この世界で新たに関係を築く相手がいるのだ。そう思うと、何だかワクワクしてくる。
「ふふっ、天使ちゃん、やっと笑ったわ」
え?お母様の顔を見ると、にっこりと笑ってくれた。
「お城から戻ってからずっと不安そうな顔してたから。よかったわ」
「何も心配はいらない。マリアンヌができることだけをすればいい。無理することはない」
お父様もそう言ってくれる。
「はい」
私は安心してステーキを頬張った。たぶんA5ランクと言われるような最上級の肉。上手に焼けたし美味しい。でもこれって、家族で食べるから美味しいんだよね。食事が美味しいのは幸せだ。私は幸せを噛み締めていた。
元の世界にも苦手な上司がいたな。と、私は思い出していた。仕事に厳しく僅かなミスも許さない。重箱の隅をつつくような性格の持ち主。同僚との飲み会では必ず愚痴が出る人物であった。でも会社が倒産するかもと教えてくれた人でもあった。早いうちに有給取って再就職の準備をしろと言ってくれた。言う通りにしたけど再就職は叶わなかったわけだが。
どこの世界にも苦手な人物はいるものだ。諦めて何とかうまくやっていくしかない。
「マリ、学校に通うんだって?」
「そうなの、お妃教育もあるし、大変になるわね」
「まぁ、お嬢様のお身体が心配ですわ」
そうだ、それもあった。少し元気を取り戻したのだが、また心配の種を思い出してしまった。この世界の教育についていけるだろうか。
「学校で学ぶことはすでに身についているのに」
フランツ兄様は不満そうに呟いている。
「マリが優秀なのはわかっているはず」
「そうなんだけどね」
私が学校に通うことは勉強のためだけではない。そのことをお母様が説明する。
「そうか。そんな役目があるなら仕方ないか・・・」
納得はしてくれたもののまだ不満そうだ。
「大体、よその家の教育のためにマリを利用する必要はあるのでしょうか?マリの身体は一つしかないんですよ」
「そうよね・・・」
「マリ、くれぐれも身体には気をつけるんだよ」
と、フランツ兄様の膝の上に何故か座らされた。頭を撫でられる。
「マリは特別な子なんだ。だからと言って、国に好きに利用されることはない」
「そのことは何度も言ってるわ。陛下を信用するしかないわ」
言ってくれてるんだ。わかっていたけど、安心した。
「マリ、何かあったら必ず言うんだよ。絶対だからね」
「はい、わかっています」
と、私は笑顔を見せる。私には味方がいる。大丈夫だ。
「今日のお夕飯の準備をしますね」
疲れたし今日は作り置きで誤魔化そうと思っていたけど、料理をしたらスッキリするかもしれない。立ち上がってキッチンに向かう。
さて、今日は何をしようか。キッチンを見たら牛肉の塊を見つけた。そうだ、豪勢にステーキにしよう。元の世界では滅多に食べられなかったステーキだ。料理の仕方は知識にあるが、経験は少ない。今こそ、その知識を放出する時である。
ステーキならお母様のワインにも合うし、レオオール兄様の胃袋にも収まる。お父様は安定の大根おろしを添えよう。テンションが無駄に上がってしまう。
「朝から晩までお妃教育と学校ですか?」
夕飯の席。お父様から今後のスケジュールを聞いた。学校は好きな授業だけを取るとのことで、カルチャースクールのような感じだ。これも男性はきちんと必須科目もあり元の世界の学校と変わらないようだが、女性は全く同じというわけにいかないらしい。
「マリアンヌが通うようになれば生徒も増えるだろう」
「付き合う友人にも気をつけたほうがいいね」
「大丈夫よ、ちゃんと準備できてるわ」
公爵家の娘で次期王太子妃となれば、親しくなりたい人が大勢出てくる。いい人物ばかりとは限らないだろう。そういうことにも気を使わないといけないのか、と思うとゲンナリしてしまう。
「以前侍女候補として会った子たちを覚えてる?あの子たちも通うから」
そうだ、前にお城で会ったミシェル、エイミー、リリーだ。話しやすかったし、いい感じの子たちだった。彼女たちが一緒なら心強い。
「確かリリーはすでに通っているの。だから安心していいわよ」
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「ふふっ、天使ちゃん、やっと笑ったわ」
え?お母様の顔を見ると、にっこりと笑ってくれた。
「お城から戻ってからずっと不安そうな顔してたから。よかったわ」
「何も心配はいらない。マリアンヌができることだけをすればいい。無理することはない」
お父様もそう言ってくれる。
「はい」
私は安心してステーキを頬張った。たぶんA5ランクと言われるような最上級の肉。上手に焼けたし美味しい。でもこれって、家族で食べるから美味しいんだよね。食事が美味しいのは幸せだ。私は幸せを噛み締めていた。
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