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「我が国の貴族女性の教養は一定していないことはわかっているわね。知識は財産よ」
皇后様は周囲を見渡した。ホンワカした人だと思っていたけど、今は厳しい印象だ。やはり人の上に立つだけあるなと、勝手に感心してしまう。
そもそもこの国では貴族の男子はほとんどが学校へいく。だが女性はそうではない。学校はあるにはあるが、貴族令嬢は家で家庭教師をつけるのが習わしだった。下手に学校に通うと、あの家は家庭教師を雇う金がないと噂されてしまうという。
女性は家のために結婚し、婚家のために役に立たないといけない。ほとんどが子を成すことを優先される。字を覚える必要もないとされ、必要であれば使用人が代読する。とことん男尊女卑の世界である。
そんな状況を打破しようとしているのが陛下と皇后様。先代の国王が崩御されると、すぐに教育改革に乗り出した。が、イマイチ成果が出ていない。それで私が学校に通って、全ての貴族女性に一定の教養を身につけさせようというのであった。
公爵家の長女で次期王太子妃の私が学校に通うのであれば、他の貴族も追従するに違いない。というのが目的らしい。
「それは、なかなか、素晴らしいお考えですな」
お腹が出た中年男性がつぶやく。しかしその言い方から、女に教養など必要ない、と思っていそうだ。
「マリアンヌちゃん、どうかしら?」
「は、はいっ」
突然呼ばれて驚いた。見ると、皇后様の目が力強く輝いて見える。
「新しく知識を得る機会を頂けて大変嬉しく思っております」
無難ではあるが、そう答えた。皇后様は満足げにうなづいている。
「そういたしますと」
声の主を見た。キュリロス大臣だ。人を見下すような冷たい目は相変わらずだ。陛下の前でも変わらないのは、あの目が素なのだろうか。
「いずれは、マリアンヌ様は他国へ留学されるのでしょうか?」
留学?なんでそこでそんな話が出ちゃうの?驚いてお父様を見た。お父様の表情は特に変わったようには見えないが、少し目が彷徨ったように見えた。
「留学?」
陛下は不思議そうな顔をした。
「留学する時間までは取れないだろう?」
「ですが・・・」
陛下の言葉に反対意見を出せるとはすごいな、と感心した。他の人も動揺しているようだ。
「リンゴン国とは友好関係を築いております。交換留学などされるのも今後役立つのではありませんか?」
「交換留学?」
陛下が明らかに不快な表情を浮かべる。
「知っての通り、我が国の学校教育はお粗末なものだ。他国へ知らしめるレベルではないであろう」
陛下の声は厳しかった。
「この話は以上である」
キュリロス大臣が黙礼し、室内は重苦しい雰囲気になっていた。
重苦しい雰囲気の中、妃教育の先生を紹介される。王族としてのマナーやしきたり、国内外の歴史、近隣国の言語など。聞いただけで降参したくなった。が、そんなこと言えるはずもない。なんとかやるしかないのだ。憂鬱ではあるけど。
「あと、護衛についてだが」
と、陛下の声がやや緊張した感じに聞こえた。
「キュリロス、間違いのない人選を」
「はっ」
キュリロス大臣は深々と頭を下げている。
「キュリロスは元々はユティシアの護衛だったし、経験は豊富にあるから心配しなくていいからね」
陛下が私に優しく言う。護衛のことなど考えていなかったのだが、そう言われて実感した。今さらながら護衛される身分になるということに。
「私がお守りいたしましょう」
と、大臣は相変わらず冷たい瞳で私を見るのだった。
家に戻ったとき、私は疲労困憊していた。なんでこんなに疲れているのかわからない。誰と会って何を話したか、全く記憶に残っていないのだ。
「天使ちゃんったら、どんな人にも完璧な挨拶に完璧な発言をしてたのよ。さすがだわぁ」
「だって、マリですよ。当たり前じゃないですか」
「どんな人にも笑顔なの。私もびっくりしたわ」
「お嬢様はいつだって完璧です」
だが、家に帰ったお母様は絶好調だ。そして私は完璧にこなしていたらしい。さっぱり記憶にないが。
「あれなら問題ないわね。天使ちゃん、今日はお疲れ様」
はい・・・、本当に疲れました。マーサのお茶が身体に染み込んでいく。美味しい。このままソファに溶けていきそう・・・。
疲れた時は甘いものだ。私は力を振り絞って作り置きの大福を取り出す。本来なら濃いめに入れた緑茶といきたいところだが、マーサの紅茶は美味しいので問題ない。
「マリ、これは美味しいね」
「本当、面白いわぁ。伸びるのね」
お母様はわざとお餅を伸ばしているようだ。楽しそうにフランツ兄様と食べている。私はしみじみと大福を口に入れ味わった。
皇后様は周囲を見渡した。ホンワカした人だと思っていたけど、今は厳しい印象だ。やはり人の上に立つだけあるなと、勝手に感心してしまう。
そもそもこの国では貴族の男子はほとんどが学校へいく。だが女性はそうではない。学校はあるにはあるが、貴族令嬢は家で家庭教師をつけるのが習わしだった。下手に学校に通うと、あの家は家庭教師を雇う金がないと噂されてしまうという。
女性は家のために結婚し、婚家のために役に立たないといけない。ほとんどが子を成すことを優先される。字を覚える必要もないとされ、必要であれば使用人が代読する。とことん男尊女卑の世界である。
そんな状況を打破しようとしているのが陛下と皇后様。先代の国王が崩御されると、すぐに教育改革に乗り出した。が、イマイチ成果が出ていない。それで私が学校に通って、全ての貴族女性に一定の教養を身につけさせようというのであった。
公爵家の長女で次期王太子妃の私が学校に通うのであれば、他の貴族も追従するに違いない。というのが目的らしい。
「それは、なかなか、素晴らしいお考えですな」
お腹が出た中年男性がつぶやく。しかしその言い方から、女に教養など必要ない、と思っていそうだ。
「マリアンヌちゃん、どうかしら?」
「は、はいっ」
突然呼ばれて驚いた。見ると、皇后様の目が力強く輝いて見える。
「新しく知識を得る機会を頂けて大変嬉しく思っております」
無難ではあるが、そう答えた。皇后様は満足げにうなづいている。
「そういたしますと」
声の主を見た。キュリロス大臣だ。人を見下すような冷たい目は相変わらずだ。陛下の前でも変わらないのは、あの目が素なのだろうか。
「いずれは、マリアンヌ様は他国へ留学されるのでしょうか?」
留学?なんでそこでそんな話が出ちゃうの?驚いてお父様を見た。お父様の表情は特に変わったようには見えないが、少し目が彷徨ったように見えた。
「留学?」
陛下は不思議そうな顔をした。
「留学する時間までは取れないだろう?」
「ですが・・・」
陛下の言葉に反対意見を出せるとはすごいな、と感心した。他の人も動揺しているようだ。
「リンゴン国とは友好関係を築いております。交換留学などされるのも今後役立つのではありませんか?」
「交換留学?」
陛下が明らかに不快な表情を浮かべる。
「知っての通り、我が国の学校教育はお粗末なものだ。他国へ知らしめるレベルではないであろう」
陛下の声は厳しかった。
「この話は以上である」
キュリロス大臣が黙礼し、室内は重苦しい雰囲気になっていた。
重苦しい雰囲気の中、妃教育の先生を紹介される。王族としてのマナーやしきたり、国内外の歴史、近隣国の言語など。聞いただけで降参したくなった。が、そんなこと言えるはずもない。なんとかやるしかないのだ。憂鬱ではあるけど。
「あと、護衛についてだが」
と、陛下の声がやや緊張した感じに聞こえた。
「キュリロス、間違いのない人選を」
「はっ」
キュリロス大臣は深々と頭を下げている。
「キュリロスは元々はユティシアの護衛だったし、経験は豊富にあるから心配しなくていいからね」
陛下が私に優しく言う。護衛のことなど考えていなかったのだが、そう言われて実感した。今さらながら護衛される身分になるということに。
「私がお守りいたしましょう」
と、大臣は相変わらず冷たい瞳で私を見るのだった。
家に戻ったとき、私は疲労困憊していた。なんでこんなに疲れているのかわからない。誰と会って何を話したか、全く記憶に残っていないのだ。
「天使ちゃんったら、どんな人にも完璧な挨拶に完璧な発言をしてたのよ。さすがだわぁ」
「だって、マリですよ。当たり前じゃないですか」
「どんな人にも笑顔なの。私もびっくりしたわ」
「お嬢様はいつだって完璧です」
だが、家に帰ったお母様は絶好調だ。そして私は完璧にこなしていたらしい。さっぱり記憶にないが。
「あれなら問題ないわね。天使ちゃん、今日はお疲れ様」
はい・・・、本当に疲れました。マーサのお茶が身体に染み込んでいく。美味しい。このままソファに溶けていきそう・・・。
疲れた時は甘いものだ。私は力を振り絞って作り置きの大福を取り出す。本来なら濃いめに入れた緑茶といきたいところだが、マーサの紅茶は美味しいので問題ない。
「マリ、これは美味しいね」
「本当、面白いわぁ。伸びるのね」
お母様はわざとお餅を伸ばしているようだ。楽しそうにフランツ兄様と食べている。私はしみじみと大福を口に入れ味わった。
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