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翌朝。登城するためにいつもよりも早く起きてドレスだの髪型だのでひとしきり揉めた。こう言う時は黙っておくしかない。なすがまま、なされるがまま。私は人形。
そして出来上がった私をお父様とレオポール兄様は目を見開いて凝視した。
「昨日のマリはこんなもんじゃなかったんですよ」
「そうよ、驚きすぎて時間が止まってしまったわ」
お母様とフランツ兄様の言葉を聞いて深くうなづくお父様。レオポール兄様はじっと私を見つめてくる。
「に、兄様、変ですか?」
「そんなわけないだろう!」
食い気味に言い返された。
「城に行くのはやめませんか?」
「そう・・・だな。あいつらに見せるわけにいかん」
あいつらって、王様と王子様のことだよね。だから、不敬な発言は控えてほしい。
「とにかくもう出発しましょう」
お父様とお母様と一緒に馬車に乗り込む。フランツ兄様はお留守番だ。
「いいかい、もし変なことされたらまず足を踏むんだよ。そのためにピンヒールを履いているんだからね」
王族の人が変なことをするわけないだろうけど、余計なことを言うと面倒なので素直にうなづく。その後ようやく馬車は動きだし、お城へと出発した。
「朝早くからごめんなさいね」
お城に着くとすぐに皇后様が来てくださった。
「マリアンヌちゃんに渡したいものがあるのよ」
何だろう?それって王家からってこと?
「これよ」
恭しくメイドがワゴンに乗せて持ってきたもの。心なしか周りは緊張した雰囲気。よくよく見たら宝石だった。艶めいた薄いピンク色の珠にダイヤモンドで縁取りされお花のようなデザインになった髪留め。お揃いのデザインのネックレスは豪華だが可憐なイメージ。
「可愛い」
思わず声が出た。ずっと見ていたい。ピンク色の珠は真珠だろうか。
「こ、これってもしかして・・・」
隣にいたお母様の様子がおかしい。明らかに動揺している。
「神々の饗宴。国宝よ」
は?なんでもないようにサラリと言ったけど国宝?それを何故私に?
「アルを産んだ時に陛下が下さったのよ。一度身につけたけど、私には可愛らしすぎるデザインだから、マリアンヌちゃんにピッタリと思うの」
ニコニコと笑いながら皇后様はおっしゃる。
「陛下も喜んでくださって、ぜひマリアンヌちゃんにって。むしろマリアンヌちゃんのためにあるようなものだっておっしゃるのよ。うふふ」
うふふじゃないと思う。国宝だよ、国宝。そんなものつけていいのだろうか。
「しまって置くだけじゃダメよね、宝石なんだもの」
国宝なんてみだりにつけるものではないと思う。しまっておくべきではないのかな?しかし皇后さまはニコニコ笑って「やっぱり宝石はつけてこそ価値があるのよ」などと言っている。
心臓に良くないので国宝はしまってもらう。騎士が何人も護衛についているのを見ると、私があれを身につけたときのことを想像して鳥肌が立った。
「ドレスは決まったの?」
場所を移され今はお茶が出されている。まだ心臓はざわめいているが、お茶を飲んで落ち着こう。皇后さまの質問にまた例の説明をする。お母さまのドレスと聞くと皇后さまの眉間に深い皺が出たが、説明を聞くととたんに満面の笑みになった。
「いいことを聞いたわ。それなら」
と、皇后さまはメイドたちに何か言っている。悪い予感がする。でもどうにもできなくておとなしくしておく。しばらくするとメイドが何かを抱えるように戻ってきた。
「陛下に初めて頂いた靴とバッグよ」
半透明な、まるでガラスでできているのかと思うくらいの靴。バッグもお揃いの素材でシンプルなクラッチバッグ。何でできているのだろうか。まさか本当にガラス?
「これ、もしかしてショウシ?」
お母様が息を飲んだ。
「ショウシはアマジョという魔物から取れる特殊な素材なの。今までまともに見たことがないわ。それを靴やバッグに仕立てるなんて・・・」
アマジョってどんな魔物なんだろう?と疑問に思ったが、そんなことを教えてもらえる雰囲気ではなかった。
「陛下と婚約後に初めての夜会用に頂いたの。これでファーストダンスを踊ったのよ」
皇后さまは思い出したのか目を閉じ、吐息を吐いた。
「是非履いてみて」
皇后さまに言われ恐る恐る足を入れた。ヒールの高さに少し不安を感じていたけど、驚くほど足に馴染んでいる。でも思い出のものを私が使っていいのだろうか。
「いいわぁ、私のものをマリアンヌちゃんが使ってくれる。私のものをすべて受け継いでくれるみたい」
皇后さまは手を叩いて喜んでいる。
「娘がいたら、きっと」
そう言うと急に黙ってしまった。お母様が肩を優しく擦る。
「うちの天使ちゃんがいるわ」
「ふふっ、そうよね」
何だか居たたまれない気持ちになって、私はただお茶を飲んでいた。
その後はとりとめのない雑談。当日までのスケジュールや当日の段取りなど。私は人形になって人に任せておけばいいと分かった。
とっとと済んでほしい。
そして出来上がった私をお父様とレオポール兄様は目を見開いて凝視した。
「昨日のマリはこんなもんじゃなかったんですよ」
「そうよ、驚きすぎて時間が止まってしまったわ」
お母様とフランツ兄様の言葉を聞いて深くうなづくお父様。レオポール兄様はじっと私を見つめてくる。
「に、兄様、変ですか?」
「そんなわけないだろう!」
食い気味に言い返された。
「城に行くのはやめませんか?」
「そう・・・だな。あいつらに見せるわけにいかん」
あいつらって、王様と王子様のことだよね。だから、不敬な発言は控えてほしい。
「とにかくもう出発しましょう」
お父様とお母様と一緒に馬車に乗り込む。フランツ兄様はお留守番だ。
「いいかい、もし変なことされたらまず足を踏むんだよ。そのためにピンヒールを履いているんだからね」
王族の人が変なことをするわけないだろうけど、余計なことを言うと面倒なので素直にうなづく。その後ようやく馬車は動きだし、お城へと出発した。
「朝早くからごめんなさいね」
お城に着くとすぐに皇后様が来てくださった。
「マリアンヌちゃんに渡したいものがあるのよ」
何だろう?それって王家からってこと?
「これよ」
恭しくメイドがワゴンに乗せて持ってきたもの。心なしか周りは緊張した雰囲気。よくよく見たら宝石だった。艶めいた薄いピンク色の珠にダイヤモンドで縁取りされお花のようなデザインになった髪留め。お揃いのデザインのネックレスは豪華だが可憐なイメージ。
「可愛い」
思わず声が出た。ずっと見ていたい。ピンク色の珠は真珠だろうか。
「こ、これってもしかして・・・」
隣にいたお母様の様子がおかしい。明らかに動揺している。
「神々の饗宴。国宝よ」
は?なんでもないようにサラリと言ったけど国宝?それを何故私に?
「アルを産んだ時に陛下が下さったのよ。一度身につけたけど、私には可愛らしすぎるデザインだから、マリアンヌちゃんにピッタリと思うの」
ニコニコと笑いながら皇后様はおっしゃる。
「陛下も喜んでくださって、ぜひマリアンヌちゃんにって。むしろマリアンヌちゃんのためにあるようなものだっておっしゃるのよ。うふふ」
うふふじゃないと思う。国宝だよ、国宝。そんなものつけていいのだろうか。
「しまって置くだけじゃダメよね、宝石なんだもの」
国宝なんてみだりにつけるものではないと思う。しまっておくべきではないのかな?しかし皇后さまはニコニコ笑って「やっぱり宝石はつけてこそ価値があるのよ」などと言っている。
心臓に良くないので国宝はしまってもらう。騎士が何人も護衛についているのを見ると、私があれを身につけたときのことを想像して鳥肌が立った。
「ドレスは決まったの?」
場所を移され今はお茶が出されている。まだ心臓はざわめいているが、お茶を飲んで落ち着こう。皇后さまの質問にまた例の説明をする。お母さまのドレスと聞くと皇后さまの眉間に深い皺が出たが、説明を聞くととたんに満面の笑みになった。
「いいことを聞いたわ。それなら」
と、皇后さまはメイドたちに何か言っている。悪い予感がする。でもどうにもできなくておとなしくしておく。しばらくするとメイドが何かを抱えるように戻ってきた。
「陛下に初めて頂いた靴とバッグよ」
半透明な、まるでガラスでできているのかと思うくらいの靴。バッグもお揃いの素材でシンプルなクラッチバッグ。何でできているのだろうか。まさか本当にガラス?
「これ、もしかしてショウシ?」
お母様が息を飲んだ。
「ショウシはアマジョという魔物から取れる特殊な素材なの。今までまともに見たことがないわ。それを靴やバッグに仕立てるなんて・・・」
アマジョってどんな魔物なんだろう?と疑問に思ったが、そんなことを教えてもらえる雰囲気ではなかった。
「陛下と婚約後に初めての夜会用に頂いたの。これでファーストダンスを踊ったのよ」
皇后さまは思い出したのか目を閉じ、吐息を吐いた。
「是非履いてみて」
皇后さまに言われ恐る恐る足を入れた。ヒールの高さに少し不安を感じていたけど、驚くほど足に馴染んでいる。でも思い出のものを私が使っていいのだろうか。
「いいわぁ、私のものをマリアンヌちゃんが使ってくれる。私のものをすべて受け継いでくれるみたい」
皇后さまは手を叩いて喜んでいる。
「娘がいたら、きっと」
そう言うと急に黙ってしまった。お母様が肩を優しく擦る。
「うちの天使ちゃんがいるわ」
「ふふっ、そうよね」
何だか居たたまれない気持ちになって、私はただお茶を飲んでいた。
その後はとりとめのない雑談。当日までのスケジュールや当日の段取りなど。私は人形になって人に任せておけばいいと分かった。
とっとと済んでほしい。
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