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しおりを挟むその日の夜、帰宅したお父様とレオポール兄様にドレスの話をした。
「とにかくね、天使ちゃんが本当の天使になるの」
「そうです、驚きのあまり目がとろけました」
「今まで数多の貴族御令嬢、ご婦人にお会いしましたが、あれほど美しさに衝撃を感じたことはございません」
「ドレスを召されたお嬢様は本当にこの世の人とは思えないくらいです」
「今もあれは本当のことか夢の中の出来事かわからないくらいですわ」
全員の意見がイタい。私のことを語っているわけだが、大袈裟すぎて若干ひく。
「と、ともかく昔のドレスを着ると言うことか」
お父様は少し考え込んでいる。
「新しいドレスは何着かあるのだろう。それではダメだったと言うことだな」
レオポール兄様が少し厳しい顔をしている。
「はい、一応最高と言われていたデザイナーのドレスを用意しておりましたが、全てデタラメとわかりました」
「デタラメ?」
「はい、最高と称賛されるものではございませんでした」
「予想はできたがな」
またフランツ兄様が壊れないか心配であるが、あのドレスに決まってくれたら言うことはない。私は昼間の話を再現した。お父様とお母様のような夫婦になりたい、その一言でお父様は陥落した。
「宝石についてはまた考えることにして、髪型については明日また協議しよう」
協議ですか。大袈裟だなと思うが、今までのことを考えたら仕方がない。
「旦那様、王宮から使いの方がいらっしゃいました」
使用人の誰かが声をかけ、お父様は大きなため息をついた。
「おそらく、明日マリアンヌを登城させろと言うのだろう」
「この忙しい時に何故」
ギリギリと音がしそうなくらいにフランツ兄様が奥歯を噛み締めている。
「忙しいからこそだろう。あいつらはいつだってリリンに会いたがる」
レオポール兄様の目が血走っている。
「誰のせいで忙しいのかしらね」
お母様の言葉にマーサとメアリも大きくうなづいている。
「とにかく明日、一緒に登城しよう。忙しいからさっさと用事を済ませておこう」
王宮からのお使いの人、聞いていないよね。聞かれてたら不敬罪が適用されてもおかしくない。一家全員捕縛されるなんて嫌だからね。賄賂でも渡しておこうか。
セバスチャンにいつものお菓子セットを渡すように言付ける。
「お嬢様・・・」
少し呆れたような目でセバスチャンに見られた。あっ、いつも同じものだから飽きられてるってことかな。お菓子セットは手頃だから重宝してるんだけど。ドーナツセットかチーズケーキセットの方がいいかな。いっそのこと、枝豆、唐揚げの飲兵衛セットとか?
「配りすぎです」
「へ?」
「我が家に来訪するともれなくリリンの料理を分けてもらえるからな。今や城では誰が行くか争奪戦になっているんだ」
「だからリンゴンにもバレたんじゃないかしら?天使ちゃんは優しいから誰にでも分けてあげちゃうし」
「そう言うわけだから、今回は無しにしよう」
無情にもそんなことを言い出されてしまった。
「で、でも急に貰えなかったらうちが貧乏になったとか、出し惜しみしたとかあらぬこと言われませんか?」
「言いたいやつは言わせておけ」
フランツ兄様は冷たく言い放つ。
「大体、職務を全うしてるだけの奴にマリの料理を食べさせる必要はないだろう」
「もう十分、食べるものは行き渡ってるんだから」
騎士団が牛丼、近衛が親子丼、魔法省にはその時々で色々。でも一般の人にはそれほど配っていない。お使いの人だってきっとそうだ。
「と、とにかく。今日のところはお菓子セットを渡します!」
そう宣言し、セバスチャンは嫌々ながらお使いの人にお菓子セットを渡した。
「あ、ありがとうございます!寮に戻ってみんなで食べます」
感激して涙するお使いの人。10代後半くらいの若い人だった。
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