美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

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「違う!」

 フランツ兄様は頭を左右に振ると、大きなため息をついた。

「何故だ?何故なんだ?」

 そして今度は部屋をうろつきだした。

「何故、マリが着るとどのドレスも色あせてしまうんだ?」

 今私はドレスの試着をさせられている。屋敷には私のためのドレスが大量に作られていたそうで、順番に着させられているのだ。鏡の中の私はお姫様のようだ。もうどのドレスでもいいんじゃないかと思うのだが、兄様もメアリもマーサも納得しない。

「あのデザイナー、偉そうに言ってましたけどポンコツですね」
「どこかの侯爵夫人が着て有名になったと売り込んできて付き合いで1着作らせましたが、お嬢様の可憐さを表現できないなんてヘボですわ」
「二度と大きな顔できないようにしよう」

 フランツ兄様、笑顔だけど冗談には聞こえない。聞こえていないふりをしよう。

「しかし、ドレスが決まらないんじゃどうすることもできない」

 フランツ兄様は腕組みをして難しい顔をしている。

「この国には優秀なドレスのデザイナーはいないのか!」

 フランツ兄様、すでに壊れかけている。どのドレスも素敵だったし十分なのだが誰も納得しないのだ。私にとってはそれが謎。みんなにはマリアンヌがどう見えているのだろうか。

「仕方がない、アクセサリーを先に考えよう」
「では、女神の晩餐は?」
「駄目ですよ、セバスチャン。それだとマリアンヌ様のお年では重たすぎます」
「そうですか、では明け方のオアシスでは」
「何言ってるんですか。そんなたそがれた宝石。お嬢様の魅力を吸い取ります」
「紅緋のロンドは?」
「母上がつけるだろう?」
「ツキクサの乙女は?」
「平凡すぎるし地味だ」
「萌樹のベール」
「あー、もう!」

    兄様は髪をぐちゃぐちゃとかきむしり出した。いつも冷静でカッコいいはずのフランツ兄様が別人のようだ。

「なりません!」

    セバスチャンがあわてて止める。

「公爵家ともあろう我が家には、ろくな宝石がないんだな」

    え?全部宝石の名前なの?ダイヤとかルビーとか言わないの?

「このままじゃ、マリが恥をかくだけだ」

    うなだれる兄様。セバスチャンは唇を噛みしめ、メアリが涙ぐんでいる。

「も、申し訳ありません!」

    マーサは土下座する勢いで頭を深く下げる。

「大奥様がお隠れになる前、再三言付かっておりました。宝石は常に用意せよと。必ず味方になるから殿方が何と言おうと確保せよと」
  「おばあ様の遺言を無視した結果がこれか」

    しんみりする室内。何だか居たたまれない。今着てる何とか侯爵夫人のオススメデザイナーのドレスだって、腰から下のラインがキレイでスタイルがよく見える。決しておかしなものではないのだ。

「ドレスは決まったぁ?」

    そこにお母様が入ってきた。お母様はエステを受けていたのだ。

「マーサ、お茶を入れてちょうだい」

    ソファーに座りながらお母様は私を見た。ドお母様ならこの姿を見て的確なことを言ってくれるだろう。きっと褒めてくれるだろうからドレス問題は解決するはず。期待を込めてお母様を見る。

「天使ちゃん、どうして寝巻き着てるの?」

    は?寝巻き?

「しかも品がないわぁ。ダメよ、そんな寝巻き。悪い夢見るわ」

    ガクッと心の中で何かが折れた気がする。そしてまた、フランツ兄様は頭をかきむしりながら部屋中をうろつき出し、セバスチャンはうなだれ、マーサは泣き出し、メアリは青白い顔で遠くを見ているのだった。
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