美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

文字の大きさ
上 下
198 / 220

198

しおりを挟む
「父上、あまりリリンを怖がらせないでください」
「そうですよ、かわいそうに、こんなに震えて」

 レオポール兄様に抱きしめられ、フランツ兄様に頭を撫でられた状態で私は今泣きじゃくっていた。留学なんて絶対にしたくない。家から遠く離れるなんて無理だ。

    そんなことを考えていたら、涙がこみ上げてきて止まらなくなってしまったのだ。

「わかっている、だが何も知らないよりは知っておいたほうが・・・」
「天使ちゃんを泣かせるなんて、あなたひどいわ」
「いや、しかし・・・」

 夫婦喧嘩が始まりそうになり、室内は険悪な状態になっている。

「お父様、わかっています。国のためには個人の意見が叶わないことは、承知しているつもりでした」

 話しながら涙がどんどん流れ落ちていく。私を見つめるお母様の目も赤くなっている。それを見ているとよけいに涙があふれ出てしまう。

「リリン、いいんだよ。そんなに背負い込まなくていいから」
「そうだよ、いざとなったら婚約なんて破棄できるんだし」
「こんなに嫌がるならさっさと解消しましょう」

 嫌なのは留学であって婚約ではないのだが、気がついていないのかわざとなのか婚約を辞退する方向で話が進みだした。

「最初から反対だったのよ、うちの天使ちゃんを何だとおもってるのかしら」
「こちらが妥協してやってることを理解できてないですよね。たかだか王子の分際で」
「これだから王族はダメなんですよ」
    
    3人が好き勝手に喚いているなか、

「みんな、まずは落ち着いて話をしよう」

 お父様が何度も言うのだが、みんなには届いていないのか聞く気もないのか無視して話し続けている。王族の悪口をこんなに大っぴらに言って大丈夫なのか。さりげなく周りを見渡すと、セバスチャン、メアリ、マーサは部屋の隅で無表情に立っている。

 しかしよく見るとセバスチャンのこめかみには青筋が見えているし、マーサの眉間の皺は深くなっているし、メアリの手は小刻みに震えている。全員怒りを抑えるのに必死の形相。

「とにかく!」

 何度かお父様が声を張り上げ、ようやく全員がお父様を見た。

「父上、婚約は今からでも辞退しましょう」
「そうです。国にいいように使われたらたまったものではありません」
「天使ちゃんはずっと家にいてくれて構わないわ」

 ズズッとお父様に詰め寄るお母様とお兄様たち。しかしお父様は怯むことなくこちらを見返す。キリッとした表情。目力が強まっている。目から何かが出ている気もする。

「婚約のことは別として、私もおそらく陛下もマリアンヌを留学させるつもりはない」

 キッパリ言い切ってくれた。

「そういった要望が出たとしても断るつもりだ」

 その言葉に安心した。私はお父様に駆け寄り抱きついた。

「お父様、我儘を言って申し訳ございません」
「何を言っているんだ、マリアンヌ。我儘ではないよ」

 お父様に強く優しく抱き締められる。

「そうよ、天使ちゃん。言いたいことを言ってくれてありがとう」
「リリン、いつでも俺たちはリリンの味方なんだから」
「マリはいつも我慢をしている。我慢なんてしなくていいんだ」

 気づけば、セバスチャンもマーサもメアリも目を潤ませている。しばらくそんな状態で家族全員が涙を流していたのだった。

 


    

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...