美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

文字の大きさ
上 下
194 / 220

194

しおりを挟む

「殿下」

 意を決して呼びかけた。瞬間彼の目が険しくなった。

 そうだ、彼から殿下とは呼ばないように言われている。確かに「殿下」と呼ぶのは「課長」と呼びかけるようなものだよね。それでは、と「ルー様」と呼んだ。すると彼はパァっと華やかな笑顔を見せてくれた。うん、やっぱりカッコイイ。それにかわいい。

 よし、このまま勢いで行く。当たって砕けろ。中途半端に砕けずに木っ端微塵に粉砕されろ。

 自分で自分を鼓舞し、私は何とかブレスレットを手にした。手が震えている。さあ、渡すのだ。

「これ・・・」

 殿下の顔が見られない。とにかく渡してしまおう。私は早口で一気に捲し立てた。

「いただいたものを勝手に細工してしまって申し訳ございません。でも、どうしても作りたかったんです。ブレスレット・・・といいますか、色違いのおそろいなんです」

 言った。言い切った。そのまま私は殿下の反応を待った。が、何の反応を感じない。恐る恐る顔を上げると・・・。


 殿下は目を見開いたまま立っていた。瞬きもせず、微動だにしない。完全にフリーズしている。

 どういうこと?

 一瞬、女神様とかクロが何かしたのかと思った。時間を止めることくらい、彼らには朝飯前のはずだ。でも違うとすぐに気づいた。風はそよそよと気持ちよく吹いているし、鳥がピィピィと鳴きながら飛んで行ったからである。

 時間は止まっていない。では何故・・・?何で動かないんだ?

「で、殿下?」

 もう一度声をかけた。すると。

「お、おそろい・・・」

 ようやくだが殿下の声が聞こえた。そしてすぐに

「手作り・・・」

 という声も聞こえてきた。

「リィとおそろい・・・」
「は、はい」

 圧倒されてとりあえず返事をした。途端ににぱぁ、と殿下が笑顔になった。その後何度も「おそろい、おそろい」と呟いている。その度に殿下の顔はニマニマしている。

 やや怖くなったが、ここで怯んではいけないと気を引き締めた。中途半端なまま終わらせてはいけない。そうだ、腕につけてあげよう。

「腕にこうやって・・・」

 私がつけてあげようと腕に触ると、殿下がビクッとした。

「ご、ごめんなさい」

 そうだ、高貴な方にみだりに触れてはいけないのである。

「い、いや、大丈・・・夫」

 殿下が顔を逸らした。気まずい。不敬罪にはならないと思うが、とにかくさっさと済ませてしまおう。

 つけてみた。思った以上の出来栄えに見える。素人がシャッシャッと作ったものには見えない、と思う。私もつけてみる。殿下のものより少し細め。それが余計におそろい感を醸し出している気がする。

「ど、どうでしょうか?邪魔になるようなら外してください」

 殿下の反応が不安だったが、スルーして言いたいことを言っておく。

「すごい!」

 殿下は何度も自分の腕を上げ下げしたりして、ブレスレットを見ている。その仕草はまるで腕時計を見ているようだ。

「これは宝物だ。外すなんてできない。いつ何時でもつけていよう」
「剣を振る時当たったりしませんか?」
「いや、大丈夫だ」

 殿下の目がキラキラしている。

「リィ、なんて素晴らしいものをプレゼントしてくれたんだ。2人がこれをつけている限り、未来永劫我々の仲も壊れることはない!」

 大袈裟だな、と思ったが殿下の喜びようはすごかった。悩まずにさっさと渡せばよかったかなと思った。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...