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しおりを挟む「殿下」
意を決して呼びかけた。瞬間彼の目が険しくなった。
そうだ、彼から殿下とは呼ばないように言われている。確かに「殿下」と呼ぶのは「課長」と呼びかけるようなものだよね。それでは、と「ルー様」と呼んだ。すると彼はパァっと華やかな笑顔を見せてくれた。うん、やっぱりカッコイイ。それにかわいい。
よし、このまま勢いで行く。当たって砕けろ。中途半端に砕けずに木っ端微塵に粉砕されろ。
自分で自分を鼓舞し、私は何とかブレスレットを手にした。手が震えている。さあ、渡すのだ。
「これ・・・」
殿下の顔が見られない。とにかく渡してしまおう。私は早口で一気に捲し立てた。
「いただいたものを勝手に細工してしまって申し訳ございません。でも、どうしても作りたかったんです。ブレスレット・・・といいますか、色違いのおそろいなんです」
言った。言い切った。そのまま私は殿下の反応を待った。が、何の反応を感じない。恐る恐る顔を上げると・・・。
殿下は目を見開いたまま立っていた。瞬きもせず、微動だにしない。完全にフリーズしている。
どういうこと?
一瞬、女神様とかクロが何かしたのかと思った。時間を止めることくらい、彼らには朝飯前のはずだ。でも違うとすぐに気づいた。風はそよそよと気持ちよく吹いているし、鳥がピィピィと鳴きながら飛んで行ったからである。
時間は止まっていない。では何故・・・?何で動かないんだ?
「で、殿下?」
もう一度声をかけた。すると。
「お、おそろい・・・」
ようやくだが殿下の声が聞こえた。そしてすぐに
「手作り・・・」
という声も聞こえてきた。
「リィとおそろい・・・」
「は、はい」
圧倒されてとりあえず返事をした。途端ににぱぁ、と殿下が笑顔になった。その後何度も「おそろい、おそろい」と呟いている。その度に殿下の顔はニマニマしている。
やや怖くなったが、ここで怯んではいけないと気を引き締めた。中途半端なまま終わらせてはいけない。そうだ、腕につけてあげよう。
「腕にこうやって・・・」
私がつけてあげようと腕に触ると、殿下がビクッとした。
「ご、ごめんなさい」
そうだ、高貴な方にみだりに触れてはいけないのである。
「い、いや、大丈・・・夫」
殿下が顔を逸らした。気まずい。不敬罪にはならないと思うが、とにかくさっさと済ませてしまおう。
つけてみた。思った以上の出来栄えに見える。素人がシャッシャッと作ったものには見えない、と思う。私もつけてみる。殿下のものより少し細め。それが余計におそろい感を醸し出している気がする。
「ど、どうでしょうか?邪魔になるようなら外してください」
殿下の反応が不安だったが、スルーして言いたいことを言っておく。
「すごい!」
殿下は何度も自分の腕を上げ下げしたりして、ブレスレットを見ている。その仕草はまるで腕時計を見ているようだ。
「これは宝物だ。外すなんてできない。いつ何時でもつけていよう」
「剣を振る時当たったりしませんか?」
「いや、大丈夫だ」
殿下の目がキラキラしている。
「リィ、なんて素晴らしいものをプレゼントしてくれたんだ。2人がこれをつけている限り、未来永劫我々の仲も壊れることはない!」
大袈裟だな、と思ったが殿下の喜びようはすごかった。悩まずにさっさと渡せばよかったかなと思った。
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