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しおりを挟む「今日はもう帰ってゆっくりしなさい」
お兄様に言われ、私はクロと一緒に帰ることになった。お兄様はまだ仕事が残っているらしい。クロを先も返すのは嫌そうだったが、クロも疲れていること考慮に入れて泣く泣く判断したようだ。
「クロニャンは疲れてるからね。白いクッションで昼寝させて。あれは特上の羽毛で作ったクロニャン専用のクッションだから。あれで寝るとクロニャンはいい寝顔で寝るんだよ」
兄様の発言にドミニク様、殿下はギョッとした顔で兄様を見ていた。
「特上の羽毛のクッション・・・」
「いい寝顔って・・・。他のクッションの時と比べてるのか?」
2人の呟きは明らかに聞こえているはずだが、兄様は何も聞こえていないかのようになおも続けた。
「寝る前にクロニャンには温めたミルクを飲ませてあげてね。お気に入りのブルーのカップでね。白い花の絵が書いてあるやつだから」
いつの間にそんなカップを用意したのだろう。どこに置いてあるのか知らないのだが、誰かに聞けばわかるのかな。
「カップのこともクッションのこともセバスに聞けばわかるから。クロニャン専用グッズはセバスがクロニャンボックスに入れて管理してくれてるからね」
セバスチャンにそんな仕事まで頼んでいるのか。知らなかった。いくら雇い主の命令とはいえ、セバスチャンも気の毒だな。
「カップを間違えないようにね。白い花の絵だよ。同じようなカップでヒマワリの絵のやつはダメだからね。あれは病気の時用だから」
もう何も言えない。
【カップなんてどれでも同じだろ?どれがいい?なんて聞かれてメンドくさくなって適当に鳴いたら、大喜びになってたな。これが好きなんだねなんて言って頬擦りされて参ったよ】
クロはどこか遠くを見るような目をしていた。
【あのハゲおやじもひどいが、お前の兄貴も大概だぞ】
ごもっともな意見であるが、大臣をハゲおやじと呼ぶのはよくないと思う。私にしか聞こえていないけど。
とにかく、クロと私は先に帰ることになった。
「馬車まで送るよ」
殿下にエスコートされる。こういうことが自然にできるってすごい。前の世界ではエスコートなんて無縁だった。男性に大切にされるなんて経験はなかった。それが今は違う。
心臓がドキドキしてきた。心臓は常に動いているのはわかっている。だが、どうしてこういう時、体中が脈打っていることを自覚してしまうのだろう。殿下の顔をまともに見られない。平常心だ。これは当たり前のマナーである。気にしない気にしない。
そして、歩き出そうとしたら兄様がガシッと私の肩を掴んだ。
「リリン、くれぐれも・・・」
殿下のエスコートは過度な接触はしていないと思う。だが、過保護な兄様のことだから余計な一言を言うつもりかもしれない。やめてくれ。余計に意識してしまうではないか。
「くれぐれもクロをよろしく頼むよ」
クロ?別にほっといても大丈夫のはずだけど。腕の中であくびをしているクロを見た。
「クロニャン、にいにゃんはお仕事だけど、すぐに帰るからね。泣かないでにいにゃんの帰りを待っててね」
兄様は泣きそうな顔でクロの頭を何度も撫でている。
【はー、この茶番が終われば昼寝ができるな。我慢我慢】
クロの独り言を聞けるのが私だけなんて残念だと思う。逆に何故私だけなんだと思った。
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