美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

文字の大きさ
上 下
188 / 220

188

しおりを挟む

 キッチンに逃げ込んだ私は、何度か深呼吸して息を整えていた。殿下の手が置かれていた頭がまだ熱い。思い出すとドキドキしてしまう。

 両方のほっぺたを手でパチンと叩く。しっかりしろ、私。殿下が好きなのははっきりした。ゆっくり付き合っていこう。

 少し落ち着いた。そこで私は麻婆茄子を作る。少し濃いめに味付けし、ご飯の上に乗せる。炒り卵も乗せて麻婆茄子丼の完成である。とにかく無心で作った。

「出来ました!」

 ワゴンに乗せて外に出る。殿下の笑顔が見えた。さっきよりは落ち着いてその笑顔を見返す。

「さぁ、毒味させてもらいますよ」

 殿下の後ろからアレンが現れた。あれ?今までいた?気づかなかっただけ?

「私は!常に!殿下と共に!いるのです!」

 演説みたいな言い方でアレンはスプーンを持っている。その目は麻婆茄子丼を見ている。

「うまっ!」

 アレンが食べる直前、先に声を上げたのはレオポール兄様だった。

「リリン、これはうまいよ」

 ガツガツと言う感じで兄様が食べている。

「では俺も頂こうかな」

 殿下もニコニコ笑ってスプーンを持っている。

「殿下!まだです!まだ口にしてはなりません!私!私が食べて安全を確認してからで!」
「リィ、美味しい」

 アレンが演説している間に殿下はすでに口にしていた。

「リィが毒を混入するわけないだろう」
「そうだ、リリンがマズいものを出すわけないだろう」

 殿下と兄様に責められて、アレンはスプーンを持ったまま呆然としている。

「殿下、私は殿下の忠実な部下です。しかし昨日は私に無断でサーキス家にお邪魔されたそうではありませんかっ!」
「お前の了承を得る必要はない」

 アレンは泣きそうな顔で殿下に訴えるが、殿下は涼しい顔で麻婆茄子を食べている。

「この味はクセになるな」
「そうでしょう、この卵もいいですね」

 殿下と兄様は感想を言い合いながら食べてくれている。作ってよかった。私も食べようかな。

【俺様もこの味は気に入ったぞ】

 レオポール兄様の横でクロも食べている。

「ひどいっ、殿下、私を無視するなんて・・・」
「もういいから、早く食べろ。美味しいから」
「は~い」

 殿下のめんどくさそうな言葉にアレンは嬉しそうに答えた。そして麻婆茄子をパクリと口に入れる。

「う、うまぁい」

 アレンは一言叫ぶと、すぐにガツガツと食べ出した。

「うまい、うまい、うまい、うまい」

 食べながら何度も呟いている。うるさい。

【こいつ、変だぞ。大丈夫なのか】

 クロも呆れて食べるのをやめてアレンを見ている。

「クロニャン。この人は特別な人なんだよ。気にしなくていいからね」

 兄様は本当はクロの言葉を理解できているのかもしれない。的確な返答をしている。

「魔獣を征伐している以上、魔獣の言葉を理解できなくてはならないと思うんだ」

 キリッとした表情で兄様は言った。

「クロニャンの言葉なら大体わかるようになったよ」

 え?本当?

【お前の兄貴も変わってるな。扱いやすいからいいけど】
「ほら、にいにゃんはすごいなぁって感心している」
【うまくやれば、兄貴のおやつも横取りできるな】
「にいにゃんと一緒だと嬉しいなぁって言ってる」

 正解を知っているのは私だけだ。兄様は上機嫌だからいいか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...