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しおりを挟む部屋に戻ると、そこにはお母様たちとお兄様たちもいた。倒れていた陛下やバーンヒル様、エイアール様も椅子に座っているが、目は虚ろである。お兄様たちもお父様同様グッタリしている。顔色も青く明らかに二日酔い。一体どれだけ飲んだのだろうか。
聞けば、あの後お母様たち女性陣とお兄様たち若手組は場所を変えて二次会に突入したそうである。そして全グループ朝までコースになったようだ。
今日は全員使い物にならないだろうな、という男性陣であるが、女性陣はいつも以上にパワフルだ。
「マリアンヌちゃん、昨日は楽しかったわぁ。あんなに美味しいお料理は初めてよ」
「あのお水のようなお酒も最高でしたわね」
「また今度集まりましょうよ」
「そうね、うちの天使ちゃんの新作ができたら是非」
私の新作ができたらって何?と思ったが、何も言えない。お母様たちのはしゃぎっぷりは尋常ではない。全員が無駄に大声で話している。このテンションの高さ、おそらくお母様たちもまだお酒が残っている状態だろう。明らかに頭に響くのか男性陣の表情が固くなっていく。
「で、では次回の女子会は新作発表会ということで・・・」
簡単に全員集合できるほどお暇ではないだろう。元の世界の感覚で女子会と言ったつもりだった。
「んまぁ、女子会ですって。嫌ですわぁ、オホホホホ」
明らかにバーンヒル夫人が過剰に反応した。誰が女子だよ、と男性陣は心の中で突っ込んでいるのだろうが、静観している。多分それどころではないのだろう。男性陣全員がゾンビだ。
そんな中、メアリとマーサはいつも以上にキビキビと動いている。セバスチャンも動いているが、いつもより確実に動作が鈍い。
「使用人が働けなくなるまで飲むなんて」
「意識が低い証拠です」
小声で呟いている。2人の顔が怖い。メアリとマーサは飲まなかったのかと思いきや、二次会のお母様たちの給仕をした時に『ご相伴に預かった』そうである。最終的には『主人と使用人の垣根を超え』全員で楽しく飲んだそうである。もはや何も聞かないことにする。
とにかく全員揃ったので朝食である。二日酔いの時の朝食なんて拷問だと思う。断ってくれて構わないのだが、男性陣は全員苦悶の表情を浮かべつつも席についている。
【うほほ、酒も過ぎれば毒となる。死にたそうなこの感情、久々に味わうぞ】
クロの歓喜の声が聞こえた。クロは人間のマイナス感情が大好きなのだ。興奮したような声が聞こえた。
【良いぞ、良いぞ。グフフフフ】
声とともにクロの体が光った。その瞬間。
「あの気持ちの悪さがなくなった・・・」
「お腹が減った」
「頭痛がなくなったぞ」
ざわつく男性陣。
「クロニャン、にいにゃんの具合を心配してくれたんだね」
「魔獣にこんな作用があるとは」
「まさか聖魔術?」
目を見張りクロを見つめる男性陣。
「これは研究すべき案件です」
「そうだな、すぐに魔法省に連絡だ」
【久々にうまいもんをいただいたぞ。昨日のアイスも美味かったが、これはよかった。おい、アイスを出せ。祝杯を上げるぞ】
人間と魔獣の会話は微妙に噛み合っていないのだが、全員が喜んでいるのだけは共通している。しかし二日酔いにも効果的なのか。かなり便利だ。
「魔獣が二日酔いを解消してくれるなら、いくら飲んでもいいということですわね」
「それは頼もしいですわ。二日酔いしないのですから」
「でも二日酔いってどのくらい飲めばいいのですの?」
「私ども女子会ではあまり頂きませんからねぇ」
バーンヒル夫人はそう言ってニンマリと微笑んだ。ちなみに男性陣よりも女子会の方がボトルが多く空いているのだが、それを知っているメアリもマーサも何も言わない。
体調が復活したので全員朝食を食べ進める。お父様、エイアール様、バーンヒル様は雑炊を食べ、「染みる~」と呟いている。陛下とドミニク様はスクランブルエッグを食べているが、食べ方や食べた後の表情がそっくりだった。さすが兄弟。
兄弟といえば我が家の兄様方。レオポール兄様はパンをほぼ2口くらいで食べ終えるが、フランツ兄様は5口くらいでゆっくり丁寧に噛んでいる。
【辛かったことを忘れるとまた同じことをするはず。また二日酔いにさせて俺様がいただいてやろう。人間とは馬鹿な生き物なのだ】
クロはそう言って高笑いしていた。
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