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「何だこれは!」
「美味しいわぁ」
日本酒の魔力にハマった人がまた増えた。陛下と皇后はぐびぐびと飲み干している。一方ドミニク様は日本酒ではなくビールにハマってしまった。未成年である殿下は私の横で料理を一つ一つ口にしている。
「マリ、こっちにおいで」
「うん、殿下はこちらへ」
フランツ兄様とレオポール兄様に言われ、席が入れ替わった。
「隣に座るのはまだ早い」
何故だかダニエル様の目つきも険しくなっている。殿下に向かってそれはないんじゃないかと思ったが、他の人が何も言わないので私も黙っていた。
「これ美味しいね、リィ、何かな、これは」
そんな状況を気にしていない様子で殿下は肉団子を興味深げに見ている。
「肉団子です」
よく考えたらそのままの名前だな、肉団子。
「これは毎日でも食べたいな」
「ではお城に送り・・・」
「マリアンヌ様、このお料理は何というのですか?」
私の言葉を遮るようにダニエル様がドリアを指差した。
「それはドリアですよ」
「グラタンとは違うのですか?」
以前グラタンを出したことがあったな、と思いながら説明しようとしたら
「グラタン?」
殿下が不思議そうな顔をして言った。
「殿下はグラタンをご存じないのですね。私はマリアンヌ様のお料理をよく頂いておりますので」
得意そうな顔をしてダニエル様が言った。殿下が一瞬真顔になったが、すぐに笑顔になる。
「そうか、でもこれからはリィの料理は久しくなるかもしれないな」
「え?それはどういう・・・?」
ダニエル様より先に私が反応してしまった。
「私、料理を作ってはいけないのですか?」
私が料理を作らなかったらどうなるのだろう。他の料理人に任せていいのか?その前に作らせてもらえないというのはあり得ない。
「いや、そういうわけでは・・・」
「では、一体・・・」
私の様子に殿下は驚いたように目を見張り、フルフルと震え出した。
「りょ、料理はまずは私に作ってほしい・・・」
殿下が小さくつぶやく。顔は真っ赤になっている。
「え?でも殿下は毒味が必要なお立場ですよ。殿下にお出しする前に毒味の人に・・・」
「リィの料理に毒味の必要はない!」
「そういう問題では・・・」
私と殿下がそんな言い合いをしていると、
「あの、まさかではありますが・・・殿下とマリアンヌ様は・・・」
バーンヒル様が恐る恐るという感じで口にした。
「あれ?聞いてないの?婚約決定したんだけど」
あっけらかんとした陛下の言い方にお父様の眉間に皺が寄った。
「陛下、まだ正式発表はされていません」
バーンヒル夫人が口に手を当て震えている。
「お国の正式発表前に耳にしてしまうとは・・・。なんて恐れ多い」
震えながら日本酒の入ったグラスを一気に飲み干す。ハァァっと息を吐く。
「生きていてよかったですわ」
その様子を見た皇后様が首を傾げて言う。
「てっきりバーンヒル夫妻にマリアンヌちゃんの世話役を任せたんだと思ってたんだけど」
「何という・・・!」
バーンヒル様が勢いよく立ち上がった。椅子が反動でガターンと大きな音を立てて倒れた。
「あなた・・・、こんなことって・・・」
バーンヒル夫人は小刻みに震えている。が、日本酒のグラスはしっかりと握りしめている。
「こんな名誉なこと・・・」
「マリアンヌ様を立派な花嫁にさせていただきますわ!」
バーンヒルご夫婦は目をギラギラさせている。何だか嫌な予感がする。しかし
「ははは、決まってよかったなぁ」
「おほほ、良い選択ですね」
陛下と皇后はにこやかに笑っている。お父様の眉間の皺が深く刻まれているのを私はハッキリと見たのであった。
「美味しいわぁ」
日本酒の魔力にハマった人がまた増えた。陛下と皇后はぐびぐびと飲み干している。一方ドミニク様は日本酒ではなくビールにハマってしまった。未成年である殿下は私の横で料理を一つ一つ口にしている。
「マリ、こっちにおいで」
「うん、殿下はこちらへ」
フランツ兄様とレオポール兄様に言われ、席が入れ替わった。
「隣に座るのはまだ早い」
何故だかダニエル様の目つきも険しくなっている。殿下に向かってそれはないんじゃないかと思ったが、他の人が何も言わないので私も黙っていた。
「これ美味しいね、リィ、何かな、これは」
そんな状況を気にしていない様子で殿下は肉団子を興味深げに見ている。
「肉団子です」
よく考えたらそのままの名前だな、肉団子。
「これは毎日でも食べたいな」
「ではお城に送り・・・」
「マリアンヌ様、このお料理は何というのですか?」
私の言葉を遮るようにダニエル様がドリアを指差した。
「それはドリアですよ」
「グラタンとは違うのですか?」
以前グラタンを出したことがあったな、と思いながら説明しようとしたら
「グラタン?」
殿下が不思議そうな顔をして言った。
「殿下はグラタンをご存じないのですね。私はマリアンヌ様のお料理をよく頂いておりますので」
得意そうな顔をしてダニエル様が言った。殿下が一瞬真顔になったが、すぐに笑顔になる。
「そうか、でもこれからはリィの料理は久しくなるかもしれないな」
「え?それはどういう・・・?」
ダニエル様より先に私が反応してしまった。
「私、料理を作ってはいけないのですか?」
私が料理を作らなかったらどうなるのだろう。他の料理人に任せていいのか?その前に作らせてもらえないというのはあり得ない。
「いや、そういうわけでは・・・」
「では、一体・・・」
私の様子に殿下は驚いたように目を見張り、フルフルと震え出した。
「りょ、料理はまずは私に作ってほしい・・・」
殿下が小さくつぶやく。顔は真っ赤になっている。
「え?でも殿下は毒味が必要なお立場ですよ。殿下にお出しする前に毒味の人に・・・」
「リィの料理に毒味の必要はない!」
「そういう問題では・・・」
私と殿下がそんな言い合いをしていると、
「あの、まさかではありますが・・・殿下とマリアンヌ様は・・・」
バーンヒル様が恐る恐るという感じで口にした。
「あれ?聞いてないの?婚約決定したんだけど」
あっけらかんとした陛下の言い方にお父様の眉間に皺が寄った。
「陛下、まだ正式発表はされていません」
バーンヒル夫人が口に手を当て震えている。
「お国の正式発表前に耳にしてしまうとは・・・。なんて恐れ多い」
震えながら日本酒の入ったグラスを一気に飲み干す。ハァァっと息を吐く。
「生きていてよかったですわ」
その様子を見た皇后様が首を傾げて言う。
「てっきりバーンヒル夫妻にマリアンヌちゃんの世話役を任せたんだと思ってたんだけど」
「何という・・・!」
バーンヒル様が勢いよく立ち上がった。椅子が反動でガターンと大きな音を立てて倒れた。
「あなた・・・、こんなことって・・・」
バーンヒル夫人は小刻みに震えている。が、日本酒のグラスはしっかりと握りしめている。
「こんな名誉なこと・・・」
「マリアンヌ様を立派な花嫁にさせていただきますわ!」
バーンヒルご夫婦は目をギラギラさせている。何だか嫌な予感がする。しかし
「ははは、決まってよかったなぁ」
「おほほ、良い選択ですね」
陛下と皇后はにこやかに笑っている。お父様の眉間の皺が深く刻まれているのを私はハッキリと見たのであった。
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