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「クロニャン、にいにゃんはね」
「クロの足の裏を見ましたか?まるでビロードですよ」
【いい加減にしろ。お前ら!】
「このビール美味しいですよね。お酒が美味しいなんて思いませんでしたよ」
うるさい。酔っ払いの集団にクロの野獣の鳴き声。どうにかしなければ。そう思っていた時。
「昼日向から何故昼寝などなさるのですか!」
「そうですわ。そんなヒマがあれば他にできることがあるでしょう?」
「人様のお屋敷でお昼寝など、いつからそんなにだらしないお姿を晒すようになったのです?」
お母様たちの声が聞こえてきた。その声は近づいている。しかし男性らしき声は聞こえるのだが、何を言っているのかはっきりしない。
「レオポール!フランツ!何をしているのですか?」
やがてドアが開き、お母様の声が高らかに響いた。
「まー!何を召し上がったの?私が頂いたものではないですよね?」
お母様の目がつりあがっている。
「マリアンヌ!何をお出ししたの?私の食事とは違いますね」
いつもの雰囲気ではない。鬼のような形相で私のことも名前で呼んでいる。いつもは天使ちゃん、と穏やかに言ってくれるのに。
「男性の方は軽くお酒をお出しいただくよう私がお願い申し上げました」
セバスチャンがお母様の前に出て庇ってくれる。
「それで昼寝をなさったというの?」
お風呂に入ってお酒を飲んだらそりゃ眠たくなるでしょ。飲んだら寝ようよ。昼寝くらいいいじゃないの。
「マリアンヌ!お答えなさい!」
セバスチャンが庇ってくれはしたが、無駄だった。
「はい、お父様方はお仕事で大変な思いをされてましたので、せめてお昼寝くらいは・・・」
お母様の向こうでお父様方男性陣の満面の笑みが見えた。しかし・・・。
「黙らっしゃい!」
お母様にピシャリと言われる。本当にこんな言葉言うんだと感心したが、あまりの迫力に何も言えなかった。
「働くのは当たり前のことです。いつも忙しく働いているのだから、休みの日は家族と過ごすべきです。昼寝などもってのほか」
「そうですわ。マリアンヌ様、少し考えを改めていただかなくては」
「マリアンヌ様はまだお若くてお優しいから。でもいずれ嫁がれた時にそのお考えですと、お相手が図に乗る可能性がございますわね」
お母様だけではなくステファニー様やバーンヒル夫人までが恐ろしい形相になっている。
「それで、何をお出ししたのですか?」
「ビ、ビールというお酒です」
私は正直に答える。
「わかりました、ここにお出しなさい」
「は、はい」
私はビールをジョッキで3人に出した。驚いたような顔を3人ともしていたが、声には出さなかった。何も言わずに受け取るとゴクゴクと躊躇うことなく飲む。何故だか3人ともジョッキを持たないもう片方の手が腰に添えられていた。
「なんて美味しいのでしょうか」
「これを男だけで飲んだと」
「敵は早々に潰して後は楽しむだけですわね」
バーンヒル夫人が物騒なことを言った。お父様もエイアール様もバーンヒル様も俯いて小さくなっている。
「マリアンヌ、男性陣には他に何をお出ししたの?さっさと持ってきなさい」
お母様の人格がすっかり変わってしまった。慌てて私はキッチンに向かう。
【お前の母ちゃん、最強だなー】
悪魔のはずのクロの声が聞こえてきた。
「マリ、母上にお酒を出してなかったのか」
「そりゃ、失策だな。こりゃセバスチャンの落ち度だな」
「はい、重々承知しております」
兄様たちとセバスチャンの声も聞こえる。
「そこっ!何言ってるの?男ならはっきり言いなさい!大体ね、隠れて酒を飲むなんて家族としてあり得ないことなのよ。わかってるの」
「そうですわ、自分達だけ楽しもうなんて考えが間違ってますわね」
「しかしこれは美味しいですわね。もう少しいただきたいですわ」
この状態ではアイスはますます遠のくな。このまま夕飯に突入だなと私は思いながら、料理をどうしようか考えていたのだった。
「クロの足の裏を見ましたか?まるでビロードですよ」
【いい加減にしろ。お前ら!】
「このビール美味しいですよね。お酒が美味しいなんて思いませんでしたよ」
うるさい。酔っ払いの集団にクロの野獣の鳴き声。どうにかしなければ。そう思っていた時。
「昼日向から何故昼寝などなさるのですか!」
「そうですわ。そんなヒマがあれば他にできることがあるでしょう?」
「人様のお屋敷でお昼寝など、いつからそんなにだらしないお姿を晒すようになったのです?」
お母様たちの声が聞こえてきた。その声は近づいている。しかし男性らしき声は聞こえるのだが、何を言っているのかはっきりしない。
「レオポール!フランツ!何をしているのですか?」
やがてドアが開き、お母様の声が高らかに響いた。
「まー!何を召し上がったの?私が頂いたものではないですよね?」
お母様の目がつりあがっている。
「マリアンヌ!何をお出ししたの?私の食事とは違いますね」
いつもの雰囲気ではない。鬼のような形相で私のことも名前で呼んでいる。いつもは天使ちゃん、と穏やかに言ってくれるのに。
「男性の方は軽くお酒をお出しいただくよう私がお願い申し上げました」
セバスチャンがお母様の前に出て庇ってくれる。
「それで昼寝をなさったというの?」
お風呂に入ってお酒を飲んだらそりゃ眠たくなるでしょ。飲んだら寝ようよ。昼寝くらいいいじゃないの。
「マリアンヌ!お答えなさい!」
セバスチャンが庇ってくれはしたが、無駄だった。
「はい、お父様方はお仕事で大変な思いをされてましたので、せめてお昼寝くらいは・・・」
お母様の向こうでお父様方男性陣の満面の笑みが見えた。しかし・・・。
「黙らっしゃい!」
お母様にピシャリと言われる。本当にこんな言葉言うんだと感心したが、あまりの迫力に何も言えなかった。
「働くのは当たり前のことです。いつも忙しく働いているのだから、休みの日は家族と過ごすべきです。昼寝などもってのほか」
「そうですわ。マリアンヌ様、少し考えを改めていただかなくては」
「マリアンヌ様はまだお若くてお優しいから。でもいずれ嫁がれた時にそのお考えですと、お相手が図に乗る可能性がございますわね」
お母様だけではなくステファニー様やバーンヒル夫人までが恐ろしい形相になっている。
「それで、何をお出ししたのですか?」
「ビ、ビールというお酒です」
私は正直に答える。
「わかりました、ここにお出しなさい」
「は、はい」
私はビールをジョッキで3人に出した。驚いたような顔を3人ともしていたが、声には出さなかった。何も言わずに受け取るとゴクゴクと躊躇うことなく飲む。何故だか3人ともジョッキを持たないもう片方の手が腰に添えられていた。
「なんて美味しいのでしょうか」
「これを男だけで飲んだと」
「敵は早々に潰して後は楽しむだけですわね」
バーンヒル夫人が物騒なことを言った。お父様もエイアール様もバーンヒル様も俯いて小さくなっている。
「マリアンヌ、男性陣には他に何をお出ししたの?さっさと持ってきなさい」
お母様の人格がすっかり変わってしまった。慌てて私はキッチンに向かう。
【お前の母ちゃん、最強だなー】
悪魔のはずのクロの声が聞こえてきた。
「マリ、母上にお酒を出してなかったのか」
「そりゃ、失策だな。こりゃセバスチャンの落ち度だな」
「はい、重々承知しております」
兄様たちとセバスチャンの声も聞こえる。
「そこっ!何言ってるの?男ならはっきり言いなさい!大体ね、隠れて酒を飲むなんて家族としてあり得ないことなのよ。わかってるの」
「そうですわ、自分達だけ楽しもうなんて考えが間違ってますわね」
「しかしこれは美味しいですわね。もう少しいただきたいですわ」
この状態ではアイスはますます遠のくな。このまま夕飯に突入だなと私は思いながら、料理をどうしようか考えていたのだった。
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○○○
旧版を基に再編集しています。
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