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しおりを挟む「せっかくご招待いただいたから、つまらないものだけど」
そう言ってバーンヒル様が取り出したもの。それを見たお父様やお母様、お兄様たちやエイアール様たちも顔を引き攣らせた。よくわかっていないのは私と8歳のダニエル様だけである。
「我が領地で取れるビタ茶です」
バーンヒル様が合図を送るとバーンヒル様の使用人の方がスッと動いた。しばらくして人数分のお茶が差し出された。
「マリアンヌ様とダニエル様には早いかもしれませんね」
お茶は濃い茶色でなんとなく濁ったようなドロッとした感じ。正直飲み物と思えないのだが、そんなことは言えない。
「早い?」
思わず口にするとバーンヒル様はにっこりと笑った。
「昔はこれを飲めば一人前の大人と言われたのですよ」
何それ、アルコールじゃないよね。とりあえずカップを持ち香りを確かめる。泥のような土のような香り。正直に言う。うえっと思った。見るとお父様もお母様も引き攣った顔でお茶を見つめたまま動こうとしない。失礼な態度だ。客人がせっかく持ってきてくれたんだ。ここは私が代表して味わおう。
私はゴクッと一口飲んだ。
「あっ、マリアンヌ!」
「大丈夫か、そんな・・・」
レオポール兄様が何かを言いかけてやめた。何を言いたかったかわかる。そんな不味いもの、と言いたかったのだろう。あるいは苦いもの。
口の中が気持ち悪い。苦い。ものすごく苦い。苦すぎて体が震えた。ビタ茶とはものすごい苦いお茶だった。
「ほほほ、まだお早かったようですね」
「でも胃腸にいいとされているのですよ」
バーンヒル夫妻は優雅に笑っていた。
「こちらもどうぞ、私の実家の領地で取れるスウィです。スウィと呼ばれる木の実をすりつぶしております」
バーンヒル夫人の差し出す瓶の中にはジャムのようなものが入っていた。それを見た我が家とエイアール様の顔がまたも引き攣る。今度は何?
「スプーンで直接召し上がってください」
言われるがまま、私はスプーンで少し掬うと口に入れた。甘い。それも強烈な気持ち悪いくらいの甘さ。甘すぎて頭が痛くなる。
「昔は甘いものなど口に入る機会がなくて。お利口にしてたらスウィをあげるよ、と言われると大人しくなったものです」
えっ、これはご褒美なのか。私の様子を見たダニエル様は、そっとビタ茶のカップとスプーンをテーブルに置いている。お父様もお母様もお兄様たちもだ。
しばらくは口の中が苦くて甘くて変だったけど、ふと思った。混ぜたらいいじゃん。それでスウィをビタ茶に入れた。スプーンで1杯だ。
「あっ、マリアンヌ」
スウィを入れたカップを見ると、濃い茶色だったビタ茶の色が薄くなっていく。しかも香りもフルーティな柑橘系の香りになった。
「み、見てください。こんな色になりました!」
私はそう言って一口飲んだ。
「美味しい!」
苦すぎと甘すぎを足すと程よい甘さになるのか。しかも柑橘系の爽やかなお茶になっている。
「えっ」
「本当?」
そう言いながらみんな試してみる。
「なんと」
「これはいい」
「お代わりをもらおうか」
さっきまで引き攣った顔をしていたのに今は全員笑顔である。
「マリアンヌ嬢、ありがとう」
バーンヒル様にお礼を言われる。
「今まで試したことがなかった。ビタ茶もスウィも丈夫で育ちやすく大量に取れるのだが、味がイマイチで消費できなかった。でもこれなら売れる。我が領地と妻の実家の領地の未来が変わる」
「結婚して40年。知らずに過ごしていたのがもったいなかったわ」
「お二人の絆をより強固にされた、ということですね」
何気なく言った私の言葉にバーンヒルご夫妻が目を見開く。
「そうだ!これからの未来をより強く太いものにしていこう」
「あなた、素晴らしいですわ」
お二人がガシッと抱き合った。仲良きことは美しきかな。と、私は思ったのだった。
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