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バーンヒル公爵ご夫妻は年齢60歳くらい。お二人とも小柄でややふくよかな体型。ニコニコと常に笑顔である。
ここは屋敷の中の一室。応接室というのかよくわからないが、とにかくソファがたくさんある部屋である。私の感覚の応接室とは違いすぎてよくわからない。とにかくゴージャスな一室なのだ。さすがは公爵家である。
そしてそこにはバーンヒルご夫妻、我がサーキス家の全員、そしてエイアール家の皆様が集合している。その他にも使用人たちが数人いるのだが、部屋は広いので圧迫感はない。
まずはお茶ということでマーサの淹れたお茶が出される。それと一緒に出されるのが私が作ったお菓子である。
「どうぞ、マリアンヌが用意したお菓子です」
お父様はそう言ってバーンヒル様にパウンドケーキを勧める。和菓子系は馴染みがないかと思い、まずはパウンドケーキを出してみた。気に入ってもらえるといいけど。
「これはこれは」
「まぁ、なんて珍しいものを」
そう言ってお二人は目を合わせにっこりと微笑んだ。通じ合っている感じで微笑ましい。実はこのお二人、ずっとどちらかに触れている。さりげなく公爵様の手が夫人の膝に乗せられてたり、夫人の手が公爵様の背中をさすられたり。
こういうのっていいな、と思う。いやらしさとかなくて、本当にお互いを支え合ってる感じ。元の世界では祖父母は古い感覚の持ち主で、女は男の3歩後ろを歩けと真顔で言う人たちだった。祖父母だけで実行するならいいが、両親や私にまでそれを強要していた。
そういうことがあったせいか、逆に私は恋人とは手を繋いで歩きたいと思っていた。人前でキスしようとまでは思っていないが、ハグをしたり手を繋ぐことは悪いことではないと思える。この世界ではそれが自然にできるのだ。でもまだ殿下と手を繋ぐのは恥ずかしいけど。
そんなことをぼんやり考えていたら、パウンドケーキを口にしたらしい。
「これは・・・」
「美味しいわ」
お二人は目を合わせ、微笑み合う。作ってよかった。私もそう思ってケーキを口にする。
「昔はこういうものはなかなか口に入らなかったからね」
「陛下のおかげで豊かな生活になって本当によかった」
バーンヒル夫人はハンカチで目を押さえている。
「甘いものが食べられるのは、年に一度。それも料理人がうまく作ってくれればだったからね」
「うまく作れなかったり、料理人が作らないこともあったし」
「一時、料理人がいなくなったこともあったわ。あまりに辛い仕事だからだって、加護を返上したいって言い出すものもいたくらいよ」
バーンヒル様たちの昔話に私は耳を傾ける。お年寄りの話は面白いが、苦労話が多い。
「まあ、それでどうなさったのですか?」
「森に行ってブチブチスタインと呼ばれる魔獣を狩ったんだ。あれの肉があれば料理人が料理するって言うからね」
「お一人でですか?」
「そうなのよ、無謀でしょ。無事に帰れるか心配したわ。でも半日で帰ってきたの。それで料理人は料理を作ってくれて」
今やバーンヒル様の接待は私だけになっていた。私が熱心に話を聞いている間、お母様は生クリームを持って来させてステファニー様と食べているし、お父様は何杯目かのお茶を飲んでお腹をさすっている。レオポール兄様とフランツ兄様はパウンドケーキを何回もお代わりしていた。
お昼が食べられなくなっても知らないからね。心の中でそう思いながら、バーンヒル様のお話に相槌を打つのだった。
ここは屋敷の中の一室。応接室というのかよくわからないが、とにかくソファがたくさんある部屋である。私の感覚の応接室とは違いすぎてよくわからない。とにかくゴージャスな一室なのだ。さすがは公爵家である。
そしてそこにはバーンヒルご夫妻、我がサーキス家の全員、そしてエイアール家の皆様が集合している。その他にも使用人たちが数人いるのだが、部屋は広いので圧迫感はない。
まずはお茶ということでマーサの淹れたお茶が出される。それと一緒に出されるのが私が作ったお菓子である。
「どうぞ、マリアンヌが用意したお菓子です」
お父様はそう言ってバーンヒル様にパウンドケーキを勧める。和菓子系は馴染みがないかと思い、まずはパウンドケーキを出してみた。気に入ってもらえるといいけど。
「これはこれは」
「まぁ、なんて珍しいものを」
そう言ってお二人は目を合わせにっこりと微笑んだ。通じ合っている感じで微笑ましい。実はこのお二人、ずっとどちらかに触れている。さりげなく公爵様の手が夫人の膝に乗せられてたり、夫人の手が公爵様の背中をさすられたり。
こういうのっていいな、と思う。いやらしさとかなくて、本当にお互いを支え合ってる感じ。元の世界では祖父母は古い感覚の持ち主で、女は男の3歩後ろを歩けと真顔で言う人たちだった。祖父母だけで実行するならいいが、両親や私にまでそれを強要していた。
そういうことがあったせいか、逆に私は恋人とは手を繋いで歩きたいと思っていた。人前でキスしようとまでは思っていないが、ハグをしたり手を繋ぐことは悪いことではないと思える。この世界ではそれが自然にできるのだ。でもまだ殿下と手を繋ぐのは恥ずかしいけど。
そんなことをぼんやり考えていたら、パウンドケーキを口にしたらしい。
「これは・・・」
「美味しいわ」
お二人は目を合わせ、微笑み合う。作ってよかった。私もそう思ってケーキを口にする。
「昔はこういうものはなかなか口に入らなかったからね」
「陛下のおかげで豊かな生活になって本当によかった」
バーンヒル夫人はハンカチで目を押さえている。
「甘いものが食べられるのは、年に一度。それも料理人がうまく作ってくれればだったからね」
「うまく作れなかったり、料理人が作らないこともあったし」
「一時、料理人がいなくなったこともあったわ。あまりに辛い仕事だからだって、加護を返上したいって言い出すものもいたくらいよ」
バーンヒル様たちの昔話に私は耳を傾ける。お年寄りの話は面白いが、苦労話が多い。
「まあ、それでどうなさったのですか?」
「森に行ってブチブチスタインと呼ばれる魔獣を狩ったんだ。あれの肉があれば料理人が料理するって言うからね」
「お一人でですか?」
「そうなのよ、無謀でしょ。無事に帰れるか心配したわ。でも半日で帰ってきたの。それで料理人は料理を作ってくれて」
今やバーンヒル様の接待は私だけになっていた。私が熱心に話を聞いている間、お母様は生クリームを持って来させてステファニー様と食べているし、お父様は何杯目かのお茶を飲んでお腹をさすっている。レオポール兄様とフランツ兄様はパウンドケーキを何回もお代わりしていた。
お昼が食べられなくなっても知らないからね。心の中でそう思いながら、バーンヒル様のお話に相槌を打つのだった。
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