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しおりを挟む結局、和食や中華を中心に30食作って終了した。夕飯の時間になったからである。味見なのでちょっとずつではあるが、結構な量を食べてもらった。胃の方は大丈夫だろうかと心配になる。
「美味しかったですね」
「お嬢様のお料理ですよ、美味しくないわけないでしょう」
「本当に、ところでお夕食は何でしょうか」
「中途半端に頂いたのでお腹が空きましたねぇ」
2人はそんなことを言い合っていた。は?夕食食べられるの?お腹、どうなっているの?
「昔はねぇ、食べられればいいと思っていましたからねぇ」
「美味しいとか思うことは少なかったですね」
「お嬢様のお料理をいただいてから、美味しいとは何か分かりましたわ」
「本当に」
しみじみと言い合っている。美味しいは贅沢なのだ、と私もしみじみと思ってしまった。よし、美味しいものを作るぞ。
【腹減ったぞ、何か食わせろ】
クロが喚いている。ずっと寝ていて動いていないはずだが、それでもお腹が減るらしい。
「もうすぐご飯だよ」
【お腹は待ってはくれないのだ】
あまりにうるさいので仕方なくキッチンに戻る。さっき作ったものから適当に用意する。
キッチンから出るとフランツ兄様がクロを抱いてソファに座っていた。
「マリ、クロがうるさいのは兄上がいないせいだろうか」
【違うと言え】
「兄上が撫でると静かになるのに、僕だとダメみたいだね」
【俺様は撫でられて喜ぶアホウではないぞ。あいつは面倒臭いから大人しくしてやるだけだ】
フランツ兄様はやや寂しそうだ。クロの言葉がわかることがバレると面倒なのでここは知らんぷりする。
「兄様、明日の料理と思って試作したものの残りなんですが」
皿の上には肉団子、シュウマイ、回鍋肉が乗っている。
【食い物か!よこせ】
クロの鳴き声が激しくなった。
「だめだよ、クロにおやつをあげたら兄上が怒るからね」
フランツ兄様が優しく言う。
「マリ、食べさせて」
あーんとフランツ兄様が口を開ける。
【俺様にも!俺様にもよこせ!人間のくせに生意気だぞ!】
クロが騒いでいるが、フランツ兄様がしっかりとクロを押さえつけている。私はフランツ兄様の口にシュウマイを入れた。
「ん、これ美味しいね」
【よこせー、食わせろー、悪魔を無視するなー】
クロが騒いで暴れているが、フランツ兄様は押さえつけたまま。モグモグと優雅に口を動かしている。
「ずいぶん騒がしいな、あっ、クロ!」
レオポール兄様が帰ってきた。クロはそれを見ると余計にジタバタと暴れ出した。
【おいっ、お前の弟は横暴極まりない野蛮人だぞ!食べ物を独り占めしている。いずれお前の財産も横取りするはずだぞ!】
「クロニャン、にいにゃんが帰ってきたからご機嫌なんだね」
【さっさと弟に命令しろ、俺様に食べ物を寄越すのだ!】
「よしよし、ナデナデしてあげるからね」
【そんなことは後でいい、あー、毛並みが乱れるではないか!早く、早く弟を止めるのだ!あー、肉団子ぉ・・・】
レオポール兄様がクロと遊んでいるうちに、フランツ兄様は食べ終わってしまった。
「リリン、俺の分もあるよね?」
フランツ兄様が笑顔でモグモグしているのを見て、レオポール兄様は皿をじっとりと見つめている。
「明日のバーンヒル様へのお食事用に作ってみたんです。お夕食の時に少し出します」
「そうか、ふふっ、クロニャン、もうじきご飯だよ。にいにゃんのお膝の上でモグモグしようか?」
【うるさい!さっさと食わせろ、このろくでなしめ】
「にいにゃんがいないから寂しかったんでちゅね、今日は一緒にネンネしようね」
【気安く触るな、このノータリン。変な言葉を使うな!】
レオポール兄様はクロの言葉がわからなくてよかったなぁと思う。クロはどんどん口が悪くなっている。
「クロニャンはかわいいでちゅねぇ」
そんなことは知らないレオポール兄様はご機嫌にクロを撫で回しているのだった。
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