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しおりを挟む家に戻ると、玄関にはお母様とフランツ兄様が待っていてくれた。
「マリ!」
フランツ兄様が走ってきて抱き上げてくれる。
「あいつ、ちゃんと謝った?ぶん殴ってやった?」
「リリンが人を殴るわけないだろう」
後から来たレオポール兄様が呆れたように言う。
「こんなことになるなら教えておくべきだったけど」
「そうですよ、でも遅くはないですね。殿下1人殴るくらいできるようにしておかないと」
何やら物騒なことを言い合っている。
「リリンは優しいからな。いざとなったらできるかどうか」
「そうですね、でもできるようにならないと」
「まずは俺を殴ることができればだが」
「兄上や僕を殴ることができても、殿下を殴れるかどうかですね」
「そうだな、相手は腐っても王族。実際は躊躇する可能性があるしな」
「くっ、王族ということをかざして卑怯な奴め」
仮定の話なのにフランツ兄様は悔しそうに顔を歪ませ、レオポール兄様は眉間に皺を寄せている。
「あなたたち、よく考えて話しなさい」
静かに横で聞いていたお母様が口を開いた。その神妙な様子に兄様たちも反省したようだ。フランツ兄様からの抱っこから解放される。3人で横に並び、お母様からのお説教を受ける。
「殿下はいずれ国王になられるお方。簡単に殴れるお相手ではありません」
そうだ、相手は王族。不敬罪が適用されたら大変だ。
「いい?殴るなら顔はダメよ。見える部分はすぐバレるし、避けられたらアウトよ。お腹も無駄に鍛えてるだろうからこっちが痛い目を見るわ。正装している時なんかは布地も硬いし余計な装飾品をつけてるからダメよ」
お母様はスラスラと話した。何か経験があるのか?
「狙うのは股間。股間よ。特にハイヒールの踵でうまくやればいいわ。でも下手すると子どもができなくなるわね。結婚してから子どもができないとなると、不利になるのは女の方よ。そこを考えるとやはり言葉で責めるのが一番いいわね」
レオポール兄様とフランツ兄様の顔が引き攣っている。お母様、なかなか怖い。今の話をうっすら微笑みながら話している。
「母上、さすがです!」
「我々では浅慮でした。反省いたします」
「あなたたちもまだまだね、いい?天使ちゃん。これから学べばいいわ」
と、笑顔のお母様に言われコクコクとうなづく。やはりお母様、怖い存在であるが尊敬できる。元の世界でアドバイスをもらいたかった。
【おい、おやつをよこせ。甘いもんを頼むぞ】
クロがおやつをねだってきた。悪魔っておやつを食べるのか。しかも甘いもの。兄様たちの話をまともに聞いているのも馬鹿馬鹿しいので、おやつの準備をしようか。それより昼ごはんの準備。ついでに明日のバーンヒル様への料理も考えておこう。
私はキッチンに入った。とりあえずクロのおやつは作り置きのものを適当に出す。昼ごはんは久しぶりにパスタにする。今日はカルボナーラ、トマトのサラダもつけよう。
とりあえずはクロにドーナツを出す。
【うまいな。もっと甘くても構わんが、これでもいいことにする】
「クロニャン、おやつをもらったの?」
レオポール兄様が極甘の声を出している。クロにメロメロだが、まさかこんなにクロを可愛がると思わなかった。
【やらんぞ、これは俺様のものだ】
「ん~、にいにゃんにくれるの?」
【違う!勝手に取るな!おい、お前の兄貴は俺様のおやつを横取りする極悪人だぞ。殺してやろうか】
怖いことを言うがそんなことは考えていないのはわかっている。クロの言葉がわかるのは私だけだ。
「若様、魔獣の食べ物を取ろうとされるとは」
「自分のことをにいにゃんって・・・」
見ていたセバスチャンとフランツ兄様は顔を見合わせている。見られているレオポール兄様はご機嫌にクロと戯れていた。
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