美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

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「マリアンヌ様に誠心誠意謝れば・・・」
「謝って許してもらえるだろうか」

 アレンの意見は参考になるかわからないが、アレンの意見しか今は聞くことができない。

「本で読んだんですが、土下座という方法が効果的らしいですよ」

 アレンが本を読むのだろうか、という疑問があったが話を聞いた。

「浮気をした男が土下座をして許してもらうって話です」
「浮気?」
「はい、別の女と仲良くなることです」

 浮気の意味は知っているが、浮気と自分の罪とどちらがひどいであろうか。

「どちらも女性を侮辱していますよ」

 アレンの言葉に彼はなるほどとうなづいた。

「マリアンヌ様からしたら、浮気と同レベルでしょう。自分を侮辱したんです。殿下はその罪を認め謝罪すべきでしょう」

 アレンに教わると思わなかったが、土下座をして許してもらえるならやるべきであろう。

「で、どうするんだ?」
「ひれ伏して、地面に頭をつけるんです」
「ひれ伏す?」
「はい、本には砂利を敷いた地面の上に直に座って、とありました」
「砂利とは?」
「小さく砕いた石のことです。その上に直に座ると痛いので効果的らしいです」
「なるほど」
「本では、女性が男の頭を踏んづけていました。砂利が額に当たり男は血が出たとあります」
「何?」
「血が出れば女も許すそうですよ」
「血が出れば?」
「はい、きっと謝罪の重さと血の出る量は比例するのでしょう。血が出れば出るほど、謝意が伝わるのです」

 アレンの読んだ本が何なのか、本当にそんなことが書いてあったのか、そもそもアレンの言う事を信用していいのか。もはやアルバートには判断できなくなっていた。今はアレンの話を聞くべきなのだ。

「では練習してみよう」
「そうですね」

 そうして、彼らは土下座の練習を始めた。しかしアレンもアルバートも土下座を知らない。本で書いてあったことを再現するしかないのだが、手元に本はなくアレンのうろ覚えの知識だけで練習を開始している。まずは正座すべきなのだが、それがわからない。

「まずはどうするんだ?床に座る、こうか?」

 と、アルバートは足を投げ出し座った。

「額を地面につける、こうか?」

 それは長座体前屈である。額を足につけることができたが地面にはつかない。

「座る、ではなくひれ伏すんですよ」
「ひれ伏すとは?」

 される側のためやり方がよくわからない。

「座った時の足の位置が違うのでしょう。前に出さずに後ろに出す?」
「足を後ろにして座る?」

 彼はうつ伏せの体制になった。

「これは最初から額をつけているが」
「これで頭を踏んづけるんですかねぇ?」

 さすがに実際踏んづけたりはしないが、アレンは自分の足を軽く上げて踏む真似をしてみた。これで謝意が伝わるのか、女性は溜飲が下がるのかわからない。こんなことをする男女は嫌だなということは理解できたので、将来自分はアルバートのようなヘマはしないぞと誓った。

「これはひれ伏すというより寝そべるだと思う」

 自分もそう思います、とアレンは思った。ひれ伏すとはどんな体制だろうか。アルバートは見たことがないのだろうか。

「陛下に対して違う礼の仕方をされた方はいらっしゃらないのですか?」

 アレンは騎士なのであまりそういう場面に出ることはない。出たとしても人の礼の仕方をまじまじと見ることはできない。できるのは王族だ。彼にひれ伏した人間も過去にいたのではないか?言われてアルバートは思い出そうとした。立ったまま膝を曲げたり頭を下げたりする礼がほとんどだ。額を地面につけるような礼などあるだろうか。

 彼は額を地面につけるためにはどんな体制になるのか考えた。

「これはどうだろう?」

 四つん這いになって両手で体を支えて額を床につけた。

「頭を踏んづけやすそうですが・・・」

 四つん這いという体勢は屈辱的な気もするが、しかし何かが違うような気がする。

「それではこれは・・・」

 四つん這いでお尻を高く上げた。そうするとより一層額を床につけやすくなる。両腕も頭の左右に置いて伸ばした。

「ひれ伏す感じが出ていると思うが」
「そうですねぇ」
「だがこれは・・・」

 アルバートの声がくぐもって聞こえてきた。

「ぐぐぅ。肩や背中が気持ちがいい。これでは謝意が伝わらない」
「でも実際は砂利の上ですよ。額に砂利が押しつけられるんですよ」

 そうか、とアルバートは起き上がる。

「砂利の上はいいのだが、そこまでマリアンヌを付き合わせないといけない。自分が謝るためにマリアンヌを外に連れ出すのは申し訳ないではないか?」

 庭園に行けば砂利道がある。わざわざマリアンヌにそこまで行ってもらわなければならない。もしかしたら自分とは会いたくない、顔も見たくないなどと言われたら・・・。

 そんなことを考えたら涙がブワッと湧いて出た。

「マリアンヌ・・・」
「殿下、泣かないでください。マリアンヌ様はお優しいお方ですし、許してくれるんじゃないかと思います」
「そうか・・・、本当にそうだろうか・・・」
「とにかく、今日のところはもう練習はやめましょう。それより何と言って謝るか言葉を選んで・・・」
「言葉を・・・選ぶ・・・」

 そうだ、ただごめんと謝るだけではダメなのだ。きちんとした言葉を選び、誠心誠意謝らなくては。マリアンヌに許してもらうために、どれだけの誠意を出したらいいのだろう。自分が空っぽになるくらいに誠意を示してもマリアンヌにどれだけ伝わるのだろうか。

 アルバートは湧き出る涙を拭うと机に座り、謝意の言葉を思う限り書き綴るのだった。

 
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