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「何で、何で、何で・・・!」
アルバートは頭を抱えたまま、自分のした大きな失態について考えていた。後悔しても仕切れない。
確かに睡眠不足が続いていた。しかし、マリアンヌのことを考えるだけで気分が高揚して眠れなくなるのだ。マリアンヌと会う時間を作るため、仕事を一気に片付けた。問題はないはずだった。
昼食もいつも通り、いやいつも以上に美味しかった。それは彼女の横で食べたせいかもしれない。彼女の笑顔を見ながら、同じものを食べて喜び合う。結婚したらこれが日常になる。ドキドキして何もかもが新鮮。世界が自分たちだけのためにあり、自分たちだけが存在している。アルバートは自分の幸福を噛み締めていた。
昼食後、彼女と魔獣の話をした。魔獣との共存生活についてである。彼女の意見は非常に参考になった。彼女は自分たちが想像もできないような意見を出した。実現すれば人々の生活も豊かになるだろう。それがマリアンヌと自分との未来。自分たちの将来について思うと、彼は心の底から幸福が滲み出てくる。彼女のために自分のために、彼は未来を実現しようと強く決意したのだ。
そして叔父のドミニクが席を外した。気を利かせてくれたのだ。彼は新居の話をした。家の内装や家具については女性に決めさせるほうがいいというのが彼の周りの意見だった。周りといっても父親だったり大臣だったりで同年代の意見ではない。彼の同年代で現実に結婚しているものはいないし、一番歳が近く結婚をしている者でも身分のことや女性の年齢を考えるとマリアンヌと違いすぎてあまり参考にならない。しかし「女性はみんな同じですよ」という意見は共通していたので、彼はマリアンヌに提案したのだ。
しかしマリアンヌの返答は違った。彼女は「2人のことなのだから2人で決めたい」と答えたのだ。「お互いの意見を尊重し合いたい」とも言った。「2人で決める」その当たり前の言葉を聞き、彼は混乱しつつも嬉しさを隠せなかった。
生まれた時から未来が決まっていた。彼に選択権はない。彼が選ぶように仕向けられるだけで、実際彼が自分で決めることはなかった。彼は初めて自分に選択肢を与えられたことに気がついた。マリアンヌとならどんな選択をしても後悔はしない。
そんなことを考えていたはずだった。何故眠ってしまったのか覚えていない。ただ静かで幸せで幸福とはこのようなものだと感じていたような気がする。貴重で豊かな時間だった。
「どうして起こさなかった!」
彼は真っ先にアレンを責めた。彼は起こすべきだった。それが彼の職務だ。
「マリアンヌ様に止められたんですよっ。俺は驚いて起こそうと近づいたけど、手で制されて」
「なっ・・・」
言葉にならなかった。彼女が起こさせなかった。起こす価値はないということだ。
「どうなるだろうか・・・」
彼は項垂れ、何とか声を絞り出した。
「マリアンヌは失望しただろう。俺なんかよりふさわしい男はいくらでもいる・・・」
自分が誇れるのは王子であるということだけだ。それは生まれついてのことなので自分ではどうもできない。誇れるものがないということ、つまりは生まれてこのかた何の努力もせずに過ごしたということではないか。そう思うと自分がやるせなかった。誇れるものもなく、目の前で居眠りをして女性を侮辱した男。最低である。
「婚約は、解消されるかも」
最悪の状況を口に出すと、彼は強烈な絶望感を感じ思わすしゃがみこんだ。マリアンヌの隣には自分ではない男性が立ち笑顔を見せるマリアンヌ。そんなことを想像すると、苦しくて息もできない。
「殿下」
アレンが目の前で同じようにしゃがみこんでいる。
「悩んでも仕方ないですよ、やれることをやりましょう」
アレンの目が輝いて見えた。
「何かあるのか?」
藁にもすがるとはこのことだな、と彼は思った。
アルバートは頭を抱えたまま、自分のした大きな失態について考えていた。後悔しても仕切れない。
確かに睡眠不足が続いていた。しかし、マリアンヌのことを考えるだけで気分が高揚して眠れなくなるのだ。マリアンヌと会う時間を作るため、仕事を一気に片付けた。問題はないはずだった。
昼食もいつも通り、いやいつも以上に美味しかった。それは彼女の横で食べたせいかもしれない。彼女の笑顔を見ながら、同じものを食べて喜び合う。結婚したらこれが日常になる。ドキドキして何もかもが新鮮。世界が自分たちだけのためにあり、自分たちだけが存在している。アルバートは自分の幸福を噛み締めていた。
昼食後、彼女と魔獣の話をした。魔獣との共存生活についてである。彼女の意見は非常に参考になった。彼女は自分たちが想像もできないような意見を出した。実現すれば人々の生活も豊かになるだろう。それがマリアンヌと自分との未来。自分たちの将来について思うと、彼は心の底から幸福が滲み出てくる。彼女のために自分のために、彼は未来を実現しようと強く決意したのだ。
そして叔父のドミニクが席を外した。気を利かせてくれたのだ。彼は新居の話をした。家の内装や家具については女性に決めさせるほうがいいというのが彼の周りの意見だった。周りといっても父親だったり大臣だったりで同年代の意見ではない。彼の同年代で現実に結婚しているものはいないし、一番歳が近く結婚をしている者でも身分のことや女性の年齢を考えるとマリアンヌと違いすぎてあまり参考にならない。しかし「女性はみんな同じですよ」という意見は共通していたので、彼はマリアンヌに提案したのだ。
しかしマリアンヌの返答は違った。彼女は「2人のことなのだから2人で決めたい」と答えたのだ。「お互いの意見を尊重し合いたい」とも言った。「2人で決める」その当たり前の言葉を聞き、彼は混乱しつつも嬉しさを隠せなかった。
生まれた時から未来が決まっていた。彼に選択権はない。彼が選ぶように仕向けられるだけで、実際彼が自分で決めることはなかった。彼は初めて自分に選択肢を与えられたことに気がついた。マリアンヌとならどんな選択をしても後悔はしない。
そんなことを考えていたはずだった。何故眠ってしまったのか覚えていない。ただ静かで幸せで幸福とはこのようなものだと感じていたような気がする。貴重で豊かな時間だった。
「どうして起こさなかった!」
彼は真っ先にアレンを責めた。彼は起こすべきだった。それが彼の職務だ。
「マリアンヌ様に止められたんですよっ。俺は驚いて起こそうと近づいたけど、手で制されて」
「なっ・・・」
言葉にならなかった。彼女が起こさせなかった。起こす価値はないということだ。
「どうなるだろうか・・・」
彼は項垂れ、何とか声を絞り出した。
「マリアンヌは失望しただろう。俺なんかよりふさわしい男はいくらでもいる・・・」
自分が誇れるのは王子であるということだけだ。それは生まれついてのことなので自分ではどうもできない。誇れるものがないということ、つまりは生まれてこのかた何の努力もせずに過ごしたということではないか。そう思うと自分がやるせなかった。誇れるものもなく、目の前で居眠りをして女性を侮辱した男。最低である。
「婚約は、解消されるかも」
最悪の状況を口に出すと、彼は強烈な絶望感を感じ思わすしゃがみこんだ。マリアンヌの隣には自分ではない男性が立ち笑顔を見せるマリアンヌ。そんなことを想像すると、苦しくて息もできない。
「殿下」
アレンが目の前で同じようにしゃがみこんでいる。
「悩んでも仕方ないですよ、やれることをやりましょう」
アレンの目が輝いて見えた。
「何かあるのか?」
藁にもすがるとはこのことだな、と彼は思った。
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