美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

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 お父様とレオポール兄様が帰宅したのは、いつもよりも少し遅かった。帰ってきてすぐレオポール兄様はクロを制服の胸元から取り出した。クロはプハッと呼吸をして辺りを見渡している。

「俺から離れないからさ、困っちゃったよ」

 兄様はそう言っているが、クロは

【違う!こんな男にくっつきたくはなかった!】

と、叫んでいた。まだ子猫なのに疲労困憊といった表情になっている。

【それに!もっとお前の兄貴は人から恨まれたり妬まれたりしてると思ったが、そんなことはなかった。誰からも好かれる好青年ってやつだった。大変な誤算だ】

 私には言葉が聞こえるが、他の人にはニャーニャーと聞こえる。

「ほら、クロも俺がいいって」

 と、兄様はクロが何を言っているかわからないので好きに解釈している。

「マリアンヌ、殿下が今日来たそうだな」
「はい」

 そんな兄様とクロの愉快な会話の後でお父様は眉間に深い深い皺を寄せていた。

「殿下はあろうことか、マリアンヌの膝を枕に寝たとか?」

 何だかその言い方は非常に恥ずかしい。今さらながら膝枕はやりすぎか。

「ひどい話だわ。うちの天使ちゃんを何だと思ってるのかしら」
「向こうが頼みこんできたからやむなく婚約に応じたんです。マリも国のためにと決心してくれたというのに」
「リリン、無理することないからね。そうだ、訓練のついでに殿下の腕でも切り付けてやる」

 何言ってるんですか?皆、落ち着こう。

【人間は面倒臭いな。俺様ならあの殿下と呼ばれている男を綺麗さっぱり消し去ることができるぞ】

 クロまで口出ししてきた。いや、クロは黙ってくれていいから。

「お父様、殿下は疲れていたんです。それなのに私に会いに来て下さった。そのお気持ちは汲みたいと思います」
「優しすぎるわ、天使ちゃん」
「そうだよ、マリ。相手が王族だろうが関係ない。マリの価値がわかってくれる相手と結婚すべきだ」
「リリン、そもそも結婚する必要はないんだぞ」

 お母様やお兄様が騒ぐ中、お父様はじっと私を見ている。お父様はどうすべきと思っているのだろうか。宰相だから結婚すべきと思っているだろう。でも父としたら?やはり殿下は誠意のない相手と思っているのだろうか。

「マリアンヌ、マリアンヌはまだ子どもだ。だからこういうことはまだわかっていないと思う。貴族の男性は女性と向き合う場合、どんな相手であろうとも誠意を持って付き合うのが礼儀だ。あくびをしただけでも女性を見下したと判断される。その場合、たとえ男性の方が高位貴族であったとしても男性は批判される。あくびだけでもだ」

 あくびだけでも。では寝てしまった場合は?寝させてしまった私に魅力がないせいではないのか。

「天使ちゃん、あなたのせいではないし、あなたが批判されることはないのよ。女性を尊重できない男性は、評価されないの。何も気にすることはないのよ」

 殿下が私を安心できる存在と思って寝たのだと思ったのだが、現実は違うのだろうか。尊重されていないのだろうか。殿下は優しく誠意のある人と思うのだ。しかし・・・。

 殿下がマリアンヌをどう思っているかはわからない。好意はあるのはわかるが、尊重しているかはわからない。私は膝枕で寝た殿下を好意的に捉えている。しかし、他の人の考えではそれは違う。彼はマリアンヌを侮辱したことになるのだ。侮辱された以上は結婚は白紙にすべきなのだろうか。

「とにかく、殿下には反省してもらおう」

 お父様の言葉に全員がうなづいた。とりあえず明日お父様とお城にいくことになった。

 気分を改めて夕食だ。今日は和食だ。昨日はパーティ料理でコッテリメニューだったので、今日はあっさりしたものにする。

「美味しいわぁ」
「優しい味って感じですね」
「マリアンヌ、これは素晴らしい味だ」
「リリンは天才だな」
【ウニャウニャ。これは俺様の舌にもピッタリ合う】

 みんなに褒められ少し気持ちも落ち着いてきた。明日はお城で陛下に会う。どんな結果になるのだろう。そもそも私はどう思っているのだろう。結婚したいのだろうか。どうしたいのかよくわからず私はモヤモヤしていた。
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