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しおりを挟むうなづいている殿下を見ながら、気がついたことがある。殿下の目つきだ。これ、どこかで見たことがあるよ。どこだっけ?と、思っていたら・・・。
殿下がスーと倒れ込んできた。あっという間に殿下の頭は私の膝の上。つまりは膝枕している状態になった。殿下の目つき、それは眠気を我慢していた目であった。スースーという規則正しい寝息も聞こえてきた。
振り向くとアレンが状況に気がつき近づこうとしていた。殿下が倒れたのだから驚いたのだろう。日頃見ているアレンはおちゃらけたところもあるが、今は緊張した様子だった。護衛だから当たり前だ。
アレンを手で制して、メアリを見る。メアリはすぐに気がついたのか膝掛けを持ってきてくれた。受け取るとすぐに殿下の肩にかけてあげた。
疲れているんだろうな。ここに来るための時間を作るのも大変だったのかもしれない。時間まで寝かせておいてあげよう。
静かな時間が流れていた。こんなふうに時間を使うのも悪くないなと思う。やっぱり睡眠と食事は大事だ。
ガチャ、という音がした。誰かが入ってきた。
「ふー、ようやく終わった」
ドミニク様の声だ。
「う・・・、あ・・・、え?」
殿下が起きてしまった。状況を把握したのか、ガバッと勢いよく起き上がる。
「ど、どう・・・し・・・え? リ・・・リィ?」
明らかに狼狽している。
「マリアンヌ様の膝枕で寝てましたよ」
よせばいいのにアレンが報告した。
「な・・・、何?寝てた?う・・・嘘だろ?」
起き上がった殿下は両手で口を押さえている。目は大きく見開かれ、耳は真っ赤だ。
「な・・・なんてことを!」
ドミニク様までもが狼狽している。
「お前!それでも男か!相手はマリアンヌ嬢だぞ!」
え?なんかまずいの?
「女性の前で居眠りするということは、その女性に興味がないということにつながりますから」
メアリがこっそりと教えてくれた。
「マリアンヌ嬢、申し訳ない。正式に陛下からお詫びさせていただくので、何卒婚約破棄など申し出ないでほしい」
え?そんな大ごとなの?ならメアリも言ってくれたらいいのに。
「寝てしまわれた以上、女性から起こすというのは淑女としてあるまじきことですから」
こういう場合、淑女たるもの黙って寝かしとくのだそうだ。そして二度と会わない。それが淑女のプライドらしい。
「今日のところはお暇させていただく。改めてお詫びに伺う。それでいいな、アル」
「リィ、本当に申し訳ない。気を悪くしないでほしい。どうか、どうかもう一度チャンスを」
殿下は頭を深く下げている。
「いえいえ、待ってください。私は何とも思っていません」
正直いえば、膝枕で寝た殿下を可愛いと思った。それだけ自分を信頼してくれていると思ったのだ。しかし、まだ付き合い始めなのに居眠りするのはどうかと言われればそれもそうかと思う。
何度も頭を下げ泣きそうな顔をしている殿下を引きずって、ドミニク様とアレンは帰ってしまった。私もどうしようと思う。
「メアリ、どうしよう」
「お嬢様は気にしなくていいですよ。悪いのは殿下です」
メアリの口調は冷たかった。
「わざわざ会いに来られて寝るってどういうことですか。だからわざと毛布を渡したんです。本当に愛している相手なら寝たりしませんよ。お嬢様のことを軽く見ているんです」
片付けをしながらメアリの口調は激しさを増していく。
「旦那様にも奥様にもきちんと報告しますわ。あんな失礼な方、いくら殿下でも許せません」
「全くです」
セバスチャンまで参戦してきた。
「お話を聞きました。お嬢様、お気にされなくて結構でございます。今後面会を申し出られてもお断りしますから」
え?王族だぞ、いいの?
「マリ、大丈夫か?」
落ち着いてお茶でも飲もうとリビングに戻ったら、フランツ兄様とお母様もいて全員もれなくご立腹だった。
「どういうこと?居眠りするなんてふざけてるわ」
「まだ正式な婚約はしていないから断りましょう。マリを幸せにはできませんよ」
「あんなに自分勝手な方とは存じませんでした。お嬢様がどれだけ傷ついたことか」
「あんな仕打ちをされたのにお嬢様は笑顔でお見送りされたのです。なんと気高いことでしょう。それを思うと、私は涙が出る思いです」
お母様、フランツ兄様、メアリにセバスチャンは怒りのあまり、ものすごい形相になっている。お父様とレオポール兄様が帰ってきたらどうなるだろう、考えたら不安になってきたのだった。
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