144 / 220
144
しおりを挟む朝食の後、レオポール兄様はクロを連れて騎士団へ向かった。お父様もお城へ向かう。私はステファニー様、お母様にお茶会のマナー教習という名目で大量のお菓子を用意させられた。
「お茶会なんてね、ようは慣れよ」
「そうですわ、今のうち練習を積んでおきましょう」
お二人はそう言って笑顔で出したお菓子を食べている。さっき朝食が終わったよね。たくさん食べたよね。と、確認したい気分だったがやめた。そういう野暮なことは言うものではない。
「この生クリーム?美味しいわね、天使ちゃん、たっぷり乗せてもいい?」
お母様はにっこりと微笑んだ。ボールごと生クリームを渡すと目を輝かせて、カレースプーンでモリモリと食べている。
「マリアンヌ様、殿下が後程お越しになります」
セバスチャンがこっそり教えてくれた。例の小部屋にやってくるらしい。それまでに昼食の準備をしておこう。私はキッチンに移動した。お母様たちのマナー教習は強制的に終了である。実際のところ、2人はお菓子を食べお茶を飲みおしゃべりに花を咲かしている。口は忙しく動いているのだが、不思議なことに大変優雅に見える。あれこそが淑女というものだ。と、私は感心した。あれができるようになれば、きっとお茶会をマスターしたことになるのだろう。できる気がしないが。
昼は昨日のローストビーフを利用したサンドイッチ。その他にも照り焼きチキンのサンドイッチも作る。生クリームが好評だったのでフルーツサンドも作っておく。後は野菜サンドやたまごサンド。スープも用意して、お父様や魔法省、レオポール兄様にも送っておく。
しばらくすると、馬の鳴き声や馬車の音が聞こえてきた。ご到着のようである。
「マリアンヌ嬢?」
ドミニク様の声だ。私は外に出てご挨拶をする。白馬から降り立ったドミニク様は爽やかな笑顔で私を見ると、いきなり私を抱き上げた。
「え?」
驚いてドミニク様を見た。ドミニク様は笑顔で私を見返して下さる。
「叔父上、何をしてるのですか」
殿下の声がした。見ると、殿下は怒った顔をしている。
「リィは私のものです。すぐに離してください」
「いいじゃないか、結婚までは私が抱き上げてもいいだろう」
「よくありません」
私は物ではないし、そもそも抱き上げるという行為がわからない。何故そんなことをするのか?力自慢?渋々、ドミニク様は私を下ろしてくれた。
「会いたかったよ、プリンセス」
は?何言ってるの?
「叔父上」
「結婚するまではどう振る舞っても問題はないだろう」
プリンセスって・・・。何を言ってるんだか。だんだん意味不明になってきた。
「魔獣の利用についていろいろ案を聞いたんだ。その件でも話したくて」
「ダメですよ、仕事の話は。今日はリィと新居について相談し合うんですから」
新居って、お城以外に住むのだろうか。場所とか選べるのかな?そんなわけないだろうけど。
「とりあえず、お入りください。昼食を用意しております」
イラついたら負けだ、と思い私は小部屋に招き入れた。テーブルの上にはすでにサンドイッチを用意してある。さっさと座ってもらい、さっさと食べてもらい、そしてさっさと帰ってもらおう。
「叔父上も座るのですか?」
殿下はあろうことかドミニク様にそんなことを言う。
「ご相伴に預からせてもらうよ」
殿下の嫌味な発言にもにっこりと微笑み、ドミニク様は笑顔を向けた。
「護衛で来られたと思っていましたから」
「護衛ならアレンがいるだろうし、そもそも自分で襲撃に備えておかないとね。護衛に任せたままなんて困るよ」
「だから騎士団試験も受ける予定でいます」
「アルは15だっけ?その時私はすでに騎士団に入っていたけどね」
笑顔のまま見つめ合ってるけど、心情的には睨み合ってるってことかな。なんだか訳がわからない。それよりさっさと座ってほしい。
私の心を読んでくれたのか、ドミニク様がソファに座った。
「さ、お膝においで」
当たり前のように私を見ると自分の膝の上をポンポンと叩いた。ドミニク様、なぜ私が膝の上に座るのですか?
「リィは私の隣に座ります」
殿下に手を握られた。手を繋いだ、というよりも強制連行状態である。そのまま殿下の隣に座る。
「見つめ合って食事できるなんて光栄だな」
目の前でドミニク様がウインクしながら言うので、私は心の中でため息をついた。もういいから、さっさと食べてくれ。めんどくさいと思いつつ、私は愛想笑いで頬が引き攣るのだった。
117
お気に入りに追加
1,074
あなたにおすすめの小説

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる