美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

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「魔獣にできることはないだろうか」

 お父様は考え込んでいる。その横ではお母様がワインを飲みながらニコニコしていた。

「仕事のことは忘れて飲みましょうよー」

 と、お母様がお父様のグラスにワインを注いだ。お父様の端正なお顔が歪む。お酒を飲みたくなくて仕事のことを考えていたのだろう。断ればいいのに。

「人や荷物を運んだりできませんか?」

 深刻なお父様を見ていると、真面目だなと感心してしまう。真理子の時にいた、働きすぎの同僚を思い出した。休みの日でもワンコールで携帯に出るし、毎日終電で帰っていたらしい。今思えばブラック企業であったのだ。

 そんな思い出を忘れてしまおうと思った。一瞬懐かしいと思ったが、参考にできることでもないし。今はお父様に美味しい食事をしてもらいたい。だから何か提案すれば、お父様も笑ってくれると思った。

「それに災害の時とか。魔獣が力仕事ができるなら働いてくれそうですよね」

 思いついたことを言ってみたが、この世界には魔法がある。災害が起きても魔法省の人たちがチャチャッとやってくれるのだろう。現にあれだけ壊れた街もあっという間に修復してしまったのだ。

「でも別に魔獣にやってもらうことではないですね。・・・では、警備に参加してもらうというのは?弱い魔獣が出てこないのでは?」

 しかしこれは魔獣が人間に懐いてくれることが前提である。そんなに容易いことではないだろう。クロは中身が悪魔だからうまく行っているようなもの。そのことは私以外知られていない。魔法省が魔力を無力化したと言ってるが、本当かどうか。

【この体の魔力はないぞ】

 悪魔の声が聞こえた。私の心が読めるのだ。油断できない。心を引き締めないと。クロはレオポール兄様の膝の上で丸まっている。

【悪魔の俺様には体の魔力なんぞ必要ないのだ。その気になればどうにでもできる】

 どうにでもってどうする気なの?まさか余計なことするつもりじゃないよね。

【大丈夫じゃ。こいつは弱っちい最下層の悪魔なのじゃから】

 女神様の声まで聞こえてきた。

【そもそも人間と契約しようなんて悪魔は最下層の悪魔に決まっておる。せいぜい子どもの体でマリアンヌの料理でも貪り食えばいいのじゃ】
【なんだと、今の俺様は単なる魔獣ではないぞ。センス溢れる可愛い魔獣になってるんだ。僻むんじゃない】
【誰が可愛い魔獣じゃ】

 うーん、認めたくないけど可愛い魔獣ではあるよね。しかし女神様と悪魔は、口喧嘩がうるさい。息もぴったりだし本当は仲良しなんじゃないかな。

【誰が仲良しだ!】
【そうじゃ!こんなヤツ】

 はいはい、そういうところが仲良しなんだよ。私は無視して料理を堪能することにした。真理子時代からの念願だったホームパーティ料理である。自分で作ったが、なかなかの出来。

「マリアンヌ、その意見はすごいぞ」

 気がつけばお父様の目がキラキラと光って私を見ていた。お父様だけではない。その場にいる全ての人が目を見開いていた。

「確かに魔法省がやればできることでもあるが、魔力を消費するし人力でできるならそれに越したことはない」
「警備に魔獣を連れて行けば安全だし、人員も減らすことができるかも」
「見た目の怖くない魔獣もいますし、馬車の代わりに魔獣を使えばよりたくさんの人を安全に運ぶことができます」

 お父様たちは仕事モードになって意見を出し合っている。

「天使ちゃんはいつでもすごいわねー」

 お母様が何本目かのワインを開けている。

「さすがマリアンヌ様、素晴らしいですわ」

 ステファニー様もニコニコしながら赤ワインを飲んでいた。

「でもやっぱり、今日のご飯は最高だわ。天使ちゃん、いい子ねー」

 お母様に頭を撫でくりまわされた。グリグリと髪の毛が乱れていくけど、私の心は穏やかになっていく。

「クロちゃんは、天使ちゃんのお部屋で一緒に寝る?」

 いつの間にかクロがお母様の膝の上にいた。ニャーと可愛い声で鳴いている。しかし私の耳には

【一緒に寝てお前へ向けられる妬みや恨みを食べてやろう】

と、悪魔の声が聞こえた。恨み?妬み?

「ダメダメ、魔獣なんかと寝てマリが傷付けられたらどうするのですか」
「そうですよ、母上。クロは俺と寝ます。明日から騎士団にクロも連れて行って魔獣が警備に参加できるかテストするんですから」

 兄様たちが騒ぎ出した。

【この程度でもオヤツくらいにはなるからな】

 これも妬みになるの?悪魔の発言に私は呆れてしまったのだった。

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