142 / 220
142
しおりを挟む
「魔獣にできることはないだろうか」
お父様は考え込んでいる。その横ではお母様がワインを飲みながらニコニコしていた。
「仕事のことは忘れて飲みましょうよー」
と、お母様がお父様のグラスにワインを注いだ。お父様の端正なお顔が歪む。お酒を飲みたくなくて仕事のことを考えていたのだろう。断ればいいのに。
「人や荷物を運んだりできませんか?」
深刻なお父様を見ていると、真面目だなと感心してしまう。真理子の時にいた、働きすぎの同僚を思い出した。休みの日でもワンコールで携帯に出るし、毎日終電で帰っていたらしい。今思えばブラック企業であったのだ。
そんな思い出を忘れてしまおうと思った。一瞬懐かしいと思ったが、参考にできることでもないし。今はお父様に美味しい食事をしてもらいたい。だから何か提案すれば、お父様も笑ってくれると思った。
「それに災害の時とか。魔獣が力仕事ができるなら働いてくれそうですよね」
思いついたことを言ってみたが、この世界には魔法がある。災害が起きても魔法省の人たちがチャチャッとやってくれるのだろう。現にあれだけ壊れた街もあっという間に修復してしまったのだ。
「でも別に魔獣にやってもらうことではないですね。・・・では、警備に参加してもらうというのは?弱い魔獣が出てこないのでは?」
しかしこれは魔獣が人間に懐いてくれることが前提である。そんなに容易いことではないだろう。クロは中身が悪魔だからうまく行っているようなもの。そのことは私以外知られていない。魔法省が魔力を無力化したと言ってるが、本当かどうか。
【この体の魔力はないぞ】
悪魔の声が聞こえた。私の心が読めるのだ。油断できない。心を引き締めないと。クロはレオポール兄様の膝の上で丸まっている。
【悪魔の俺様には体の魔力なんぞ必要ないのだ。その気になればどうにでもできる】
どうにでもってどうする気なの?まさか余計なことするつもりじゃないよね。
【大丈夫じゃ。こいつは弱っちい最下層の悪魔なのじゃから】
女神様の声まで聞こえてきた。
【そもそも人間と契約しようなんて悪魔は最下層の悪魔に決まっておる。せいぜい子どもの体でマリアンヌの料理でも貪り食えばいいのじゃ】
【なんだと、今の俺様は単なる魔獣ではないぞ。センス溢れる可愛い魔獣になってるんだ。僻むんじゃない】
【誰が可愛い魔獣じゃ】
うーん、認めたくないけど可愛い魔獣ではあるよね。しかし女神様と悪魔は、口喧嘩がうるさい。息もぴったりだし本当は仲良しなんじゃないかな。
【誰が仲良しだ!】
【そうじゃ!こんなヤツ】
はいはい、そういうところが仲良しなんだよ。私は無視して料理を堪能することにした。真理子時代からの念願だったホームパーティ料理である。自分で作ったが、なかなかの出来。
「マリアンヌ、その意見はすごいぞ」
気がつけばお父様の目がキラキラと光って私を見ていた。お父様だけではない。その場にいる全ての人が目を見開いていた。
「確かに魔法省がやればできることでもあるが、魔力を消費するし人力でできるならそれに越したことはない」
「警備に魔獣を連れて行けば安全だし、人員も減らすことができるかも」
「見た目の怖くない魔獣もいますし、馬車の代わりに魔獣を使えばよりたくさんの人を安全に運ぶことができます」
お父様たちは仕事モードになって意見を出し合っている。
「天使ちゃんはいつでもすごいわねー」
お母様が何本目かのワインを開けている。
「さすがマリアンヌ様、素晴らしいですわ」
ステファニー様もニコニコしながら赤ワインを飲んでいた。
「でもやっぱり、今日のご飯は最高だわ。天使ちゃん、いい子ねー」
お母様に頭を撫でくりまわされた。グリグリと髪の毛が乱れていくけど、私の心は穏やかになっていく。
「クロちゃんは、天使ちゃんのお部屋で一緒に寝る?」
いつの間にかクロがお母様の膝の上にいた。ニャーと可愛い声で鳴いている。しかし私の耳には
【一緒に寝てお前へ向けられる妬みや恨みを食べてやろう】
と、悪魔の声が聞こえた。恨み?妬み?
「ダメダメ、魔獣なんかと寝てマリが傷付けられたらどうするのですか」
「そうですよ、母上。クロは俺と寝ます。明日から騎士団にクロも連れて行って魔獣が警備に参加できるかテストするんですから」
兄様たちが騒ぎ出した。
【この程度でもオヤツくらいにはなるからな】
これも妬みになるの?悪魔の発言に私は呆れてしまったのだった。
お父様は考え込んでいる。その横ではお母様がワインを飲みながらニコニコしていた。
「仕事のことは忘れて飲みましょうよー」
と、お母様がお父様のグラスにワインを注いだ。お父様の端正なお顔が歪む。お酒を飲みたくなくて仕事のことを考えていたのだろう。断ればいいのに。
「人や荷物を運んだりできませんか?」
深刻なお父様を見ていると、真面目だなと感心してしまう。真理子の時にいた、働きすぎの同僚を思い出した。休みの日でもワンコールで携帯に出るし、毎日終電で帰っていたらしい。今思えばブラック企業であったのだ。
そんな思い出を忘れてしまおうと思った。一瞬懐かしいと思ったが、参考にできることでもないし。今はお父様に美味しい食事をしてもらいたい。だから何か提案すれば、お父様も笑ってくれると思った。
「それに災害の時とか。魔獣が力仕事ができるなら働いてくれそうですよね」
思いついたことを言ってみたが、この世界には魔法がある。災害が起きても魔法省の人たちがチャチャッとやってくれるのだろう。現にあれだけ壊れた街もあっという間に修復してしまったのだ。
「でも別に魔獣にやってもらうことではないですね。・・・では、警備に参加してもらうというのは?弱い魔獣が出てこないのでは?」
しかしこれは魔獣が人間に懐いてくれることが前提である。そんなに容易いことではないだろう。クロは中身が悪魔だからうまく行っているようなもの。そのことは私以外知られていない。魔法省が魔力を無力化したと言ってるが、本当かどうか。
【この体の魔力はないぞ】
悪魔の声が聞こえた。私の心が読めるのだ。油断できない。心を引き締めないと。クロはレオポール兄様の膝の上で丸まっている。
【悪魔の俺様には体の魔力なんぞ必要ないのだ。その気になればどうにでもできる】
どうにでもってどうする気なの?まさか余計なことするつもりじゃないよね。
【大丈夫じゃ。こいつは弱っちい最下層の悪魔なのじゃから】
女神様の声まで聞こえてきた。
【そもそも人間と契約しようなんて悪魔は最下層の悪魔に決まっておる。せいぜい子どもの体でマリアンヌの料理でも貪り食えばいいのじゃ】
【なんだと、今の俺様は単なる魔獣ではないぞ。センス溢れる可愛い魔獣になってるんだ。僻むんじゃない】
【誰が可愛い魔獣じゃ】
うーん、認めたくないけど可愛い魔獣ではあるよね。しかし女神様と悪魔は、口喧嘩がうるさい。息もぴったりだし本当は仲良しなんじゃないかな。
【誰が仲良しだ!】
【そうじゃ!こんなヤツ】
はいはい、そういうところが仲良しなんだよ。私は無視して料理を堪能することにした。真理子時代からの念願だったホームパーティ料理である。自分で作ったが、なかなかの出来。
「マリアンヌ、その意見はすごいぞ」
気がつけばお父様の目がキラキラと光って私を見ていた。お父様だけではない。その場にいる全ての人が目を見開いていた。
「確かに魔法省がやればできることでもあるが、魔力を消費するし人力でできるならそれに越したことはない」
「警備に魔獣を連れて行けば安全だし、人員も減らすことができるかも」
「見た目の怖くない魔獣もいますし、馬車の代わりに魔獣を使えばよりたくさんの人を安全に運ぶことができます」
お父様たちは仕事モードになって意見を出し合っている。
「天使ちゃんはいつでもすごいわねー」
お母様が何本目かのワインを開けている。
「さすがマリアンヌ様、素晴らしいですわ」
ステファニー様もニコニコしながら赤ワインを飲んでいた。
「でもやっぱり、今日のご飯は最高だわ。天使ちゃん、いい子ねー」
お母様に頭を撫でくりまわされた。グリグリと髪の毛が乱れていくけど、私の心は穏やかになっていく。
「クロちゃんは、天使ちゃんのお部屋で一緒に寝る?」
いつの間にかクロがお母様の膝の上にいた。ニャーと可愛い声で鳴いている。しかし私の耳には
【一緒に寝てお前へ向けられる妬みや恨みを食べてやろう】
と、悪魔の声が聞こえた。恨み?妬み?
「ダメダメ、魔獣なんかと寝てマリが傷付けられたらどうするのですか」
「そうですよ、母上。クロは俺と寝ます。明日から騎士団にクロも連れて行って魔獣が警備に参加できるかテストするんですから」
兄様たちが騒ぎ出した。
【この程度でもオヤツくらいにはなるからな】
これも妬みになるの?悪魔の発言に私は呆れてしまったのだった。
144
お気に入りに追加
1,074
あなたにおすすめの小説

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる