141 / 220
141
しおりを挟む
今日の夕食は我が家だけではなく、エイアール家の方やお父様の秘書のライアンやお兄様の部下のノートルも一緒に大広間で取ることになった。そんなわけでつい張り切ってしまって、パーティ料理を作った。といっても元の世界の簡素化したホームパーティのメニューである。
真理子だった頃、実は私はホームパーティに憧れていた。だから見栄えのいい料理や盛り付け方を研究した。スクラップブックを何冊も作って、暇さえあれば眺めていた。そんな過去が今花開くときである。
「なんですか、これは。お肉がバラの花のようだ」
「色鮮やかで、素晴らしいわ」
「絵画を見ているようですね」
「食べていいのですか、もったいない」
絶賛の嵐である。あのスクラップブックも役立った。覚えておいて損はなかった。
「そういえば、魔獣はどうしていますか?」
ノートルに聞かれ、私はクロと名付けたことを話した。
「魔獣もうまく制御できれば人間と共存できると思うのです」
ノートルは相変わらず美しい。女性のような繊細で独特な色気がある。何度も思うが着物が似合う。着物を着て窓辺にでも佇んでもらえたら、私は悶え死ぬかもしれない。そうだ、中学の時に夢中になったアイドルにノートルは似ているんだ。そう思ったらかなり恥ずかしくなった。
「まずは公爵家でクロを育ててもらって、安全と分かれば他の貴族にも同じように家で育ててもらうとか」
「しかし、うまくいくだろうか」
「今のところは魔法省や魔獣研究家たちに協力してもらいますが」
お父様たちは早速仕事の話になった。ぼんやり聞いていたのだが。
「魔獣を集めて展示したらどうですか?」
目指すは動物園ならぬ魔獣園だ。
「檻に入れることになりますが、人間からは触れないようにするのです。そこで魔獣たちが遊んだり餌を食べたりする様子を見る。お金を払ってもらうことにして、そのお金を魔獣の餌代や管理費代にします」
動物園は子どもも好きだし、大人になってもデートで行ったりできる。魔獣といえども人間に無害なものだっているだろうから、成立すると思うのだ。魔獣の生態が理解できれば、むやみに怯えることもないし対策も立てられる。
「うわあ、いろんな魔獣を安全に見ることができるなら行ってみたいです」
ダニエル様が私の横でキラキラした瞳になっている。ダニエル様は8歳だ。元の世界なら動物に興味を持っていただろうし、動物園に行きたいと言うだろう。もし元の世界にダニエル様がいたら、真理子として私は動物園に引率して一番大きなぬいぐるみをお土産にプレゼントしたかもしれない。
「そうだ、魔獣の形をしたお人形を作ってそこで売るんです」
「お人形ですか?」
「そうです。可愛らしい姿形にしたら、きっと売れます」
私とダニエル様の話をお父様たちは目を見開いて聞いていた。
「いいアイデアですね」
「魔獣を展示して見せる。その考えはなかったですな」
「いままで魔獣は隠すもの、見てはならないものでしたからね」
なんだ、そうだったのか。でもクロみたいに魔獣の正体が小さな動物と分かれば、興味を持たれるんじゃないか。ペット化できたら評判になるだろう。
「責任重大だな、お前」
見るとレオポール兄様がクロを膝に乗せていた。
「あっ、兄様。何か食べさせたのですか」
「食べるかと思って、これをあげたら食べたよ」
【これは肉だろう。うまいぞ】
ローストビーフである。猫に人間の食べ物は大丈夫だろうかと思ったが、相手は猫ではなく魔獣だ。中身は悪魔だが。しかし食べて大丈夫だろうか。
【大丈夫だ。お前の料理を食べたら、すなわち女神を食うことになる。愉快愉快】
クロは舌をぺろりと出している。問題ないようなのでスルーすることにした。
「魔獣が何を食べるかわからないのですが、食べたのなら観察しましょう。でもマリアンヌ様の料理はかなり贅沢ではないですか」
「確かに」
「味を占めたら問題ですな」
複数からジーと見られるが、クロは気にすることもない。ご機嫌な様子でニャーと鳴いて兄様の手に頭を擦り付けている。悪魔のくせにあざとい真似をする。
「マリアンヌの料理は魔獣も喜ぶというわけだな」
「当たり前でしょう、リリンの料理は最高傑作ですから」
「世界一幸せな魔獣だな」
そういってみんなは笑っている。悪魔を中心にしているのにな。クロは兄様の膝の上で小さく伸びをすると丸まって寝の体制に入ったのだった。
真理子だった頃、実は私はホームパーティに憧れていた。だから見栄えのいい料理や盛り付け方を研究した。スクラップブックを何冊も作って、暇さえあれば眺めていた。そんな過去が今花開くときである。
「なんですか、これは。お肉がバラの花のようだ」
「色鮮やかで、素晴らしいわ」
「絵画を見ているようですね」
「食べていいのですか、もったいない」
絶賛の嵐である。あのスクラップブックも役立った。覚えておいて損はなかった。
「そういえば、魔獣はどうしていますか?」
ノートルに聞かれ、私はクロと名付けたことを話した。
「魔獣もうまく制御できれば人間と共存できると思うのです」
ノートルは相変わらず美しい。女性のような繊細で独特な色気がある。何度も思うが着物が似合う。着物を着て窓辺にでも佇んでもらえたら、私は悶え死ぬかもしれない。そうだ、中学の時に夢中になったアイドルにノートルは似ているんだ。そう思ったらかなり恥ずかしくなった。
「まずは公爵家でクロを育ててもらって、安全と分かれば他の貴族にも同じように家で育ててもらうとか」
「しかし、うまくいくだろうか」
「今のところは魔法省や魔獣研究家たちに協力してもらいますが」
お父様たちは早速仕事の話になった。ぼんやり聞いていたのだが。
「魔獣を集めて展示したらどうですか?」
目指すは動物園ならぬ魔獣園だ。
「檻に入れることになりますが、人間からは触れないようにするのです。そこで魔獣たちが遊んだり餌を食べたりする様子を見る。お金を払ってもらうことにして、そのお金を魔獣の餌代や管理費代にします」
動物園は子どもも好きだし、大人になってもデートで行ったりできる。魔獣といえども人間に無害なものだっているだろうから、成立すると思うのだ。魔獣の生態が理解できれば、むやみに怯えることもないし対策も立てられる。
「うわあ、いろんな魔獣を安全に見ることができるなら行ってみたいです」
ダニエル様が私の横でキラキラした瞳になっている。ダニエル様は8歳だ。元の世界なら動物に興味を持っていただろうし、動物園に行きたいと言うだろう。もし元の世界にダニエル様がいたら、真理子として私は動物園に引率して一番大きなぬいぐるみをお土産にプレゼントしたかもしれない。
「そうだ、魔獣の形をしたお人形を作ってそこで売るんです」
「お人形ですか?」
「そうです。可愛らしい姿形にしたら、きっと売れます」
私とダニエル様の話をお父様たちは目を見開いて聞いていた。
「いいアイデアですね」
「魔獣を展示して見せる。その考えはなかったですな」
「いままで魔獣は隠すもの、見てはならないものでしたからね」
なんだ、そうだったのか。でもクロみたいに魔獣の正体が小さな動物と分かれば、興味を持たれるんじゃないか。ペット化できたら評判になるだろう。
「責任重大だな、お前」
見るとレオポール兄様がクロを膝に乗せていた。
「あっ、兄様。何か食べさせたのですか」
「食べるかと思って、これをあげたら食べたよ」
【これは肉だろう。うまいぞ】
ローストビーフである。猫に人間の食べ物は大丈夫だろうかと思ったが、相手は猫ではなく魔獣だ。中身は悪魔だが。しかし食べて大丈夫だろうか。
【大丈夫だ。お前の料理を食べたら、すなわち女神を食うことになる。愉快愉快】
クロは舌をぺろりと出している。問題ないようなのでスルーすることにした。
「魔獣が何を食べるかわからないのですが、食べたのなら観察しましょう。でもマリアンヌ様の料理はかなり贅沢ではないですか」
「確かに」
「味を占めたら問題ですな」
複数からジーと見られるが、クロは気にすることもない。ご機嫌な様子でニャーと鳴いて兄様の手に頭を擦り付けている。悪魔のくせにあざとい真似をする。
「マリアンヌの料理は魔獣も喜ぶというわけだな」
「当たり前でしょう、リリンの料理は最高傑作ですから」
「世界一幸せな魔獣だな」
そういってみんなは笑っている。悪魔を中心にしているのにな。クロは兄様の膝の上で小さく伸びをすると丸まって寝の体制に入ったのだった。
147
お気に入りに追加
1,074
あなたにおすすめの小説

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる